56章 断罪のヴァルムンク
「…こ、これは…?い、一体何が…?」
マーシャルが損傷したシユーザーとラクベスを宇宙要塞へ運び終え、戻ってきた。
「おっ、お帰り!いやぁっ、良い所で戻って来たな!こっちはとんでもねぇ事になってるぜ…!」
ライガは戻ってきたマーシャルの近くの柱まで飛び、座った。
「さぁて、これ以上どう楽しませてくれるんだ?道人、ジークヴァル…!」
ライガは食い入るように遠くのハイドラグーン・ジークヴァルクと道人を見る。
「えっと、ですね!道人が…その、姿が変わってですね?ジークヴァルとハーライムが合体して…!」
「お、落ち着いて、愛歌ちゃん!今、博士がドローン飛ばしたから!こちらでも確認するから!ね?」
愛歌が困惑しながら、慌てて大神に現状報告の通信をしている。
「…道人…。」
「見守ってあげようじゃん?偉大なる勇者たちをさ!」
グルーナは心配そうに道人とジークヴァルを見守る潤奈を背後から両肩に手を置いた。
「貴様たちがどのような姿になろうとも、わしが叩きのめせば関係はない!行くぞ、見掛け倒しの小童共!」
「果たしてこの姿が見掛け倒しかどうか、その身で確かめてみろ、ダジーラク!」
ハイドラグーン・ジークヴァルクとダジーラクは互いに同時に前に跳び、大剣と通常装備の剣をぶつけ合わせた後、激しい斬り合いをしながら横へ移動する。
「ふん、やはり見掛け倒しか!剣には何も変化がないように見える!」
「…そう、今までこの剣には名前がなかった…!名無しの剣…!私は今、ここに!この剣に名を授けよう…!」
『ジークヴァル様、あなた様にならこの剣を…。名は…。』
ハイドラグーン・ジークヴァルクと道人の脳内に洋風の部屋で白いドレスを着た少女が剣を授ける場面が一瞬思い浮かぶ。
「この剣の名は!『ヴァルムンク』!かつて私が使っていた剣と同じ名を今、ここに与えよう!!」
ハイドラグーン・ジークヴァルクが名無し剣を上に上げると、剣が白と青の風に包まれ、形を変える。細身の名無しの剣は今、白い剣に青の差し色が加えられた立派な剣、ヴァルムンクとなる。そのまま両手で掴み、ヴァルムンクを振り下ろす。ダジーラクは後ろに跳んで避けるが、地面が砕け、砕けた岩が宙を舞う。
「見事なり!わしは今、名もなき剣が主に名を与えられ、喜ぶ瞬間を見た!だが、その剣に活躍の機会はない!何故ならば…!」
ダジーラクはマントで顔を覆った後、すぐに翻して破砕光線を両目から連射する。
「名を与えられた同じ日に、使い物にならなくなるからだぁっ!」
「我が愛剣に劣化なし!」
ハイドラグーン・ジークヴァルクはヴァルムンクで破砕光線を次々と真っ二つに斬る。
「なっ…!?おのれぇっ…!」
ダジーラクは意地になって破砕光線を連射する。
「展開せよ、ビームリーフ!」
ハイドラグーン・ジークヴァルクの羽についた小型プロペラからビームでできた葉っぱが撒き散らされ、破砕光線が消滅する。
「馬鹿なっ!?破砕光線が無力化されるだとっ!?ならば、これを使わせてもらおう!」
ダジーラクは新たな頭を装着する。禍々しい悪魔のような笑い顔のヘッド。マントがなくなり、巨大な翼が装着され、両手に黒い刀身の剣を持つ。
「ふっはっはっ…!これは惑せ…。」
「もういい。行け、ブレードフェザー。」
道人は光の羽を羽ばたかせてダジーラクに向かって光刃の羽根を放つ。ダジーラクは多量の光刃の羽根をその身で受けた。
「ぐおぉっ!?貴様…!?」
「他の惑星を滅す証がそんなに誇らしいか?」
「貴様、ヴァエンペラの賜りを侮辱するかっ!?」
「するね。多くの惑星を滅ぼしてきた頭などに何の価値がある?悲しみしか産まない力など、俺たちは認めない!お前の敗北と共にそれを否定してみせる!」
「言ったな、小童!良かろう!わしを否定できるのなら、してみるがいい!わしの命が奪えるのならなぁっ!」
ダジーラクは黒の剣の刀身に竜巻を発生させ、完成した竜巻を道人に向かって放つ。道人は光の羽根で竜巻の進行を遅らせ、空高く飛んだ。飛ぶと同時に二枚のカードを実体化させる。
「ダブルブーメラン!プロペラブーメラン!ダブルヘッドエボリューション!」
「えっ!?二枚同時に!?」
愛歌の驚きの後、道人は二枚のカードを一回光の粒に分解させた後に再構成、新たなカードを創造する。
「ヘッドチェンジ!フォースジャイロブーメラン!」
道人はデバイスにカードをスラッシュする。
『CROSS APPROVAL』
ハイドラグーン・ジークヴァルクに両耳が尖った新たな頭が装着され、自分の周りにビーム刃の十字の巨大ブーメランが四つ展開される。
「切り裂け、ジャイロブーメラン!」
ハイドラグーン・ジークヴァルクが右手を前に出すと四つの十字ブーメランがダジーラクに向かって飛んでいく。
「むぅっ…!四つとも、叩き落としてくれるわ!」
十字ブーメランは一つずつダジーラクに向かっては通り過ぎを繰り返し、翻弄。その後、四方向からダジーラクを襲い、斬り刻む。
「甘いわぁっ!」
ダジーラク自身が駒のように猛回転し、大剣で四つのジャイロブーメランを地面に叩き落とした。
「見掛け倒しが!ただでかいだけではないか!ふん!」
ダジーラクは両目から極太の破壊光線を発射し、空を飛ぶハイドラグーン・ジークヴァルクを狙うが、軽々と避けられる。
「両目からビームが好きなんだな、ヴァエンペラとやらは!」
「黙れ!大人しく落ちよ!」
「ジャイロブーメランよ、回転再開!」
地面に落ちた四つのジャイロブーメランは猛回転を開始。四つの緑の竜巻を発生させる。
「しまっ…!?」
四つの竜巻は合体し、巨大な一つの竜巻となってダジーラクを宙に浮かせた。
「弾幕の嵐、受けてみよ!」
ハイドラグーン・ジークヴァルクは左手に龍の頭を装着し、右手にライムブラスター連射モードを持つ。その後、竜巻の中のダジーラクに対し、左手の龍から緑の炎、ライムブラスターからエネルギー弾を連射。両腰のバルカン砲を発射してダジーラクを蜂の巣にする。
「ぐおぉぉぉぉぉーっ!?ふざ…けるでなぁぃっ!!」
ダジーラクは抵抗し、自分も駒のように回転し、両目から極太の破壊光線を放って両手に持った大剣を思いっきり横に伸ばして竜巻を消し去った。ハイドラグーン・ジークヴァルクの頭が元に戻り、ジャイロブーメランが消滅する。ダブルヘッドエボリューションは一分しかもたないのだ。
「はぁっ、はぁっ…!今のは、効いたぞ…!ぐっ…!?」
ダジーラクの身体が傷だらけになり、肩で息をしている。地面に着地する。
「そんな…!?あのダジーラク様が、あんなに傷だらけに…!?」
「あぁ、あいつら…まさかな…!やりやがるか…!?」
目の前の光景が信じられないマーシャルと自分のジェネラルが傷だらけな事よりも道人とジークヴァルの急成長に胸を高まらせるライガ。
「もう長期戦はせん!畳み掛けようぞっ!!」
ダジーラクは高く飛翔し、ハイドラグーン・ジークヴァルクと激しい剣のぶつかり合いを繰り広げながら宙を舞う。お互い一歩も譲らず、金属音が何時までも鳴り響く。お互い、あらゆる武装を使って存在を否定し合う。
「もう時間切れが近い!終わらせるぞ、ジークヴァル!ヘッドチェンジ、リバイバル!」
道人はもう使い終えたディサイドヘッドのカードを再び構成する。
「クロスヘッドエボリューション状態の時、使い終えたヘッドを一度だけ復元させ、再利用できる!」
「道人、もうやりたい放題じゃん…!もうとことん行ってまえぇーぃっ!」
「…やっちゃえ、道人ぉーっ!」
愛歌と潤奈の声援を聞き、道人は仮面の下で笑みを浮かべた。さっきまでの暗い感じが嘘みたいに二人が明るさを取り戻していたからだ。
「うん!ヴァルクブレードヘッド!ドリル!ダブルヘッドエボリューション!」
道人はまた二枚のカードを一枚の新たなカードに創造する。
「ヘッドチェンジ!スパイラルヴァルクブレード!!」
道人はデバイスにカードをスラッシュする。
『CROSS APPROVAL』
ハイドラグーン・ジークヴァルクに強化されたヴァルクブレードヘッドが装着され、刀身に常に風の渦を纏ったヴァルクブレードを右手に持つ。右腕に赤い布が巻かれる。
「喰らえぇっ、ダジーラク!!」
スパイラルヴァルクブレードの風の渦と両羽についた小型プロペラから緑の竜巻を発生させ、一つの竜巻にしてダジーラクを中に閉じ込めた。
「無駄だ!わしは何度でも竜巻を無力化し、抜け出すぞ!」
「抜け出す隙など与えん!その前に私が貴様をぉっ、叩き斬ってみせる!!再び我が手に現れよ、ヴァルムンク!!」
ハイドラグーン・ジークヴァルクは左手にヴァルムンクを出現させる。
「白の竜よ!黒き竜よ!我らに強靭なる刃を与えたまえぇっ!」
ハイドラグーン・ジークヴァルクは両手に持った剣を上に上げる。
『ジークヴァル様に竜のご加護を…。』
白いドレスを着た女性と黒き竜の幻影がハイドラグーン・ジークヴァルクの背後に出現。ハイドラグーン・ジークヴァルクを抱きしめると二つの剣に巨大な竜の形をした白き光と黒の闇が刃に纏う。光と闇のオーラが長き刀身となる。
「…今の女性と竜は…?」
「誰なの…?」
「勝利の女神様、なのかな…?」
潤奈、愛歌、グルーナは謎の女性を見て呟いた。
「…! そうだ…!リムルト、君の祝福に最大の敬意を!」
「ジークヴァル、君は…?」
ハイドラグーン・ジークヴァルクに纏われたリムルトの加護の余波で道人とダジーラクにビジョンが流れ込む。
「貴様は…。」
草原で楽しく食事をするジークヴァルとリムルト。
「我が刃に今!」
竜退治に成功し、帰ってきたジークヴァルを出迎えるリムルト。
「貴様は…。」
竜に襲われ、逃げ惑う民たちを守るジークヴァル。
「竜は宿りて!」
炎の中、眠りにつくリムルトを抱えて慟哭するジークヴァル。
「何者なんだ…?」
「これを断罪する!はあぁぁぁぁぁーーーーーっ!!」
ハイドラグーン・ジークヴァルクは高速で二本の竜の力が宿った刃を振り下ろす。
「二竜!双撃斬!!」
「ぐぅっ…!?避け…!?」
ダジーラクは咄嗟に身体を動かすが、両腕を切断され、地面に落下する。
「…見事、なり…。」
ダジーラクは意地でも倒れずにいたが、両膝を地面につけた。ハイドラグーン・ジークヴァルクはダジーラクの背後で着地し、両手の剣を交差して地面に刺す。
「我らの…勝利だ!!」




