54章 クリスタル・バインド
ジークヴァルとダジーラクはお互いに実力を測るための剣の鍔迫り合いを続けていた。お互いに急所を狙っては防ぎを繰り返して相手の得手不得手を見極める。お互いに見つめ合って剣をぶつけた後、二人同時に後ろに下がった。
「…よし!行くよ、ジークヴァル!」
道人は必要なヘッドを頭に思い浮かべ、デバイスからカードを実体化させる。
「あぁ、我らの力を奴に見せつけてやるぞ!」
「うん!ヘッドチェンジ!クリスタルブレード!」
左手に持ったカードをデバイスに読み込ませる。
『あなたの心は現在、透き通った透明な水晶だとします。あなたは今、どんな感情で相手と闘おうとしていますか?』
「大事な人たちを早く助け出すために!守るために!僕とジークヴァルはダジーラクを早期に打倒する!」
『クリスタル判定:青。承認しました。』
ジークヴァルの前に水晶の角がついたヘッドが出現し、右手で掴んで力強く頭着する。追加装甲の胸・肩・膝当てにはクリスタルがついており、ジークヴァルはクリスタルナイトの姿になる。ジークヴァルが右手を前に出すと引き金付きの剣の柄が出現。掴むとクリスタルでできた刀身が出現し、青い水晶の大剣となった。剣を両手に持ち直し、右足で強く大地を踏んで前に跳び、すぐさまダジーラクに斬り掛かる。
「ふむ。その剣、何かあるな?いいだろう!」
Cブレードジークヴァルが振り下ろした水晶剣をダジーラクは剣を横にして受け止める。ジークヴァルはその後、四回続けて剣を叩きつける。
「ふん、どけぃっ!」
ダジーラクは両目から赤いビームを発射する。
「何っ!?ぐっ…!」
Cブレードジークヴァルはダジーラクの予想外な攻撃に面食らうが、何とか上半身を後ろに倒して避けられた。
「ほう、避けたか。だが、隙がある避け方では意味がない!」
体勢を崩したCブレードジークヴァルに対してダジーラクは剣を素早く横一閃する。
「隙などない!」
Cブレードジークヴァルは右手に持った水晶剣の刀身を下に向け、ダジーラクの横一閃を防いで後ろに跳んだ。
「ならば!もう一度、二度、三度!」
ダジーラクは両目から三回赤いビームを放つ。
「無駄だ!防いでみせる!」
Cブレードジークヴァルは引き金を引き、水晶剣をへし折り、宙に浮かせて盾代わりにし、三つのビームを防いだ。水晶が砕け散り、地面に落ちる。
「あん?にゃろう、せっかく出現させた剣を自分から折りやがったぜ。」
柱の上に座って見物しているライガがCブレードジークヴァルの行動を不審に思った。
「甘い!ここからがクリスタルブレードの真骨頂!見せてやろう、ジークヴァル!」
「おう!」
柄だけになってしまったクリスタルブレードに新たな刀身がついて元通りになった。
「何っ!?ブレードが元に戻った!?」
ライガが驚いた後、Cブレードジークヴァルは引き金を引いてわざと左拳でクリスタルブレードの刀身を砕き、破片を宙に浮かせる。
「行けっ!」
Cブレードジークヴァルの左手が青く光り、左手を横に勢いよく振ると破片がダジーラクに向かって飛ぶ。
「ほう、なるほど。面白い攻撃だ。」
ダジーラクは赤いマントを伸ばし、自分の身を隠してクリスタルの破片から自分を守った。防ぎ終わった後、マントを勢いよくたなびかせる。ダジーラクがマントで視界を隠していた隙を見て、Cブレードジークヴァルは水晶剣を構えて接近していた。
「くっ、接近を許したか!」
Cブレードジークヴァルは左手を青く光らせ、横に振ると最初に砕かれて地面に落ちたクリスタルが飛び、ダジーラクに襲い掛かる。
「ぐっ!?そうか、最初にクリスタルを砕いたのはこのため…!だがっ!」
ダジーラクは両目からビームを撃ち、自分に当たりそうなクリスタルだけ撃ち落とした後、そのままビームを照射し続け、Cブレードジークヴァルに視線を向けてビームを当てるが、水晶剣を横に倒して刀身で防がれた。
「くっ!照射ビームにもなるのか、その目は!厄介だな…!」
「せっかくの奇策も無駄に終わったな。」
「いや、そうでもないさ?」
「何…?」
ダジーラクの背後に道人が姿を現す。ダジーラクがマントで視界を隠している隙を見て走っていたのだ。
「博士、使わせてもらうよ!行っけぇっ!」
道人は腰のホルダーから鋼鉄製ブーメランを取り出し、右腕のガントレットの怪力でダジーラクに向かって投げた。ダジーラクの背中に直撃し、両目のビームが途切れる。
「ぬかった…!?ぐぅっ…!」
ダジーラクは仰け反って宙に浮くが、何とか着地する。安心する間もなく、Cブレードジークヴァルが水晶剣を構えて振り下ろそうとしていた。
「一刀ぉっ、両断!!」
「させんわぁっ!」
ダジーラクは左手に剣を出現させ、両手の剣を交差してCブレードジークヴァルの真っ向唐竹割りを阻止。すぐさま両目からビームを出す。Cブレードジークヴァルの右角が折れるが、すぐに青く光った左手を振って折れた右角をダジーラクに向かって飛ばす。容易く両目ビームで焼かれたが、ダジーラクの意識が自分に襲ってくる角に向かってくれたので後ろに下がる事ができた。
「そろそろ時間切れか…!よし!」
Cブレードジークヴァルはクリスタルの刀身を地面に刺して折っては移動を何度も繰り返す。
「…? 何のつもりかはわからんが、何かを企んでいる事はわかる!」
ダジーラクはCブレードジークヴァルが地面に刺したクリスタルの一つを剣で壊す。
「ジークヴァルの邪魔はさせない!」
道人はガントレットの力で鋼鉄ブーメランを投げた後、すぐにダッシュする。
「無駄な足掻きだ!」
向かってくる鋼鉄ブーメランを剣で弾いた。
「何のぉっ!まだまだぁぁぁーっ…!」
ダジーラクが砕いたクリスタルをガントレットの怪力で拾っては投げを繰り返す。地面に落ちた鋼鉄ブーメランも回収し、再び投げる。
「こやつ…!豪の息子なだけの事はある、奴に似て予想外にしぶとい…!」
ダジーラクから父の名前が出たが、道人はそれどころじゃないため、スルーしてクリスタルを投げ続ける。ダジーラクは両手の剣でブーメランもクリスタルも弾き続ける。
「小賢しい!跳ねろっ!!」
ダジーラクは両手の剣を力強く地面に叩きつけ、剣風の衝撃で道人を宙に浮かせた。
「道人、大丈夫かっ!?」
「何のこれしきぃっ!」
道人は無事に着地し、もう元の姿に戻っていたジークヴァルの元へ駆ける。
「…ふん、一回目のヘッドではわしを仕留められなかったな。 …む?」
ダジーラクは自分の周りを見るとたくさんの水晶が地面に刺さっていた。その数十六。
「…おかしい。クリスタルブレードは時間切れになったはず。なのにクリスタルが場に残り続けているだと?」
「…気づいた?このクリスタルブレードヘッドはレアヘッドでね…!ヘッドが時間切れになった後でも、クリスタルが場に残り続けるんだ!」
通常、ヘッドパーツが消える際、そのヘッドパーツが生み出した物も時間切れになると共に消える仕様になっている。
「あいつら、柱くらいしかない殺風景な戦島に無理矢理、障害物を作りやがった…!面しれぇっ、この後どうダジーラクの旦那を攻める?」
ライガはジークヴァルと道人の次の行動を待ち遠しくて前屈みになって見る。
「行くぞ、これでケリを付けてやる!ジークヴァル!ヘッドチェンジ!バインドブーメラン!」
道人はデバイスからバインドブーメランのカードを出現させ、デバイスに読み込ませる。
『あなたは避けられない運命が幾つも襲って来ても何度も跳ね返して前に進めますか?』
「当然だぁっ!」
『承認。』
ジークヴァルにバネを模した頭と両肩が装着され、グリップのついた追加装甲も両腕につく。強力スプリングがついたブーメランを右手に持つ。大樹の家に現れたシャクヤスに対してハーライムに使ったヘッドだ。
「ジークヴァル!思いっきりぃっ!ぶん投げるんだぁぁぁぁぁーっ!!」
「心得、たぁっ!」
BBジークヴァルは右手に持ったバインドブーメランをこれでダジーラクを倒す気持ちを込めて力強く投げた。ブーメランはクリスタルに当たりまくって跳ねまくる。ブーメランのバインドに耐えられるのもあれば、砕けるクリスタルもあった。
「くっ…!」
ダジーラクは向かってきたバインドブーメランを避ける。
「だが、甘い!この戦略は穴が多い!クリスタルの耐久性が弱く、わしを滅多打ちにする前にクリスタルの方がなくなるわ!」
「そのための私の両腕のグリップである!」
BBジークヴァルは動き回り、クリスタルに当たらずに外に出ようとするバインドブーメランを自分の両腕のグリップで方向修正する。
「何っ!?」
「それにバインドブーメランだけじゃない!僕も動き回ってぇーっ!」
道人も走り回り、ガントレットで砕けたクリスタルや回収した鋼鉄ブーメランをダジーラクに投げる。ダジーラクは向かってくるクリスタルも鋼鉄ブーメランも剣で防ぐ。
「なるほどな…!あいつら、クリスタルだけじゃねぇ。戦島にある柱の位置も考えてクリスタルを配置してやがる…。しかも、不規則な動きをするバインドブーメランが次にどこへ行くかも予め考えて…いや、考えてねぇ。あいつら、ダジーラクの旦那に必ずバインドブーメランを当て続けるという執念だけで行動してやがんだ…!へへっ…!面しれぇっ…!」
ライガは目を輝かせてジークヴァルと道人の戦いぶりを食い入るように見る。
「わしがここから抜け出すか、バインドブーメラン自体を叩き落とせば終わる戦法に変わりなし!やはり脆し!」
「もっとだぁっ…!もっと速く…!僕の足がどうなってもいい…!あいつをあの場に定着できる脚力があればあぁぁぁぁぁーっ!!」
その時、道人の両足の靴に銀色の装甲が追加され、道人は人並み外れた速度でダジーラクの周りを駆ける。
「何だと…!?」
「あいつ、闘いの中で覚醒しやがったかぁーっ!」
ライガは立ち上がって道人を見る。
「うおぉぉぉぉぉーーーっ!!」
道人は高い跳躍力も身につけ、BBジークヴァルと共に自分もガントレットや足でバインドブーメランの方向修正を手伝う。
「道人!?無茶をするな!」
「今無茶しないでどうするんだ、ジークヴァル!僕の事は気にしないでいいからぁーっ!」
「道人…!」
道人の人並み外れた高速移動攻撃で鋼鉄ブーメランがダジーラクの背中に当たる。
「何…とぉっ!?ぬかったわぁっ…!?ぐうぅっ…!?」
体勢を崩したダジーラクに投げられたクリスタルやバインドブーメランが何度も当たり始める。
「嘘だろ、あいつら…!ダジーラクの旦那を宙に浮かせて仰け反らせるとはよぉっ…!」
ライガは道人とジークヴァルの覚醒に驚きを隠せなかった。
クリスタルの数が減ってきて、もうバインドブーメランが跳ねなくなるのも時間の問題になる。
「これで決める…!終わりだぁっ!ダジーラクゥーッ!!」
「私も一緒に行くぞ、道人ぉっ!」
BBジークヴァルは道人と共に高く飛び、右手に通常装備の剣を持つ。道人がガントレットでダジーラクを殴りに行くのと共に剣を構えてダジーラクを刺しに共に落下した。
「…くっくっくっ、なるほど。シチゴウセンたちが手を焼く訳だ…!わしにヘッドチェンジを使わせるとはな!」
ダジーラクは新たな巨大な角が生えた頭を装着し、邪悪なオーラを発生させる。新たに現れたハルバートを持った両手を上に上げ、豪速回転。自分の周りのクリスタルを全て破壊し、バインドブーメランも粉砕した。
「何っ!?」「何だっ!?」
道人とBBジークヴァルはハルバートの起こす豪風に吹き飛ばされ、地面に着地した。豪風が収まり、ダジーラクはハルバートを地面につける。
「ぐ…あっ…!?」
「道人!?」
道人に高速移動の反動が襲い掛かり、全身が軋んだ。その場でしゃがみ込む。
「大丈夫、ジークヴァル…。大丈夫、だから…。」
「わしにヘッドチェンジを使わせた者は久々だ。褒めて遣わそう。」
「化け物め…!」
BBジークヴァルクはダジーラクを睨んで言い放つ。
「さて、バインドブーメランはもう壊して使い物にならない。後一回のヘッドチェンジでわしを跪かせられるか?」
「くっ…!」
その時、道人の懐に入れていた箱が外に出て、十糸姫の赤い糸が飛んでいった。道人は糸が飛んでいった方を見る。
「あれは…。」
潤奈の近くにグルーナとルレンデスが立っていて、グルーナの近くに十糸姫が出現しているのを確認した。
「…は、ははっ、はっはっはっ…!」
「む…?」
「道人…?どうした?」
ジークヴァルも道人が向いている方を見る。
「…どうやら、潤奈も闘いの最中に奇跡を起こしてるみたいだ…。そうさ、そうだよ…!みんな、がんばってるんだ…!今、地面に膝をつくのは僕じゃない、ダジーラクの方なんだ…!」
道人は身体の痛みを我慢し、ゆっくりと立ち上がった。
「まだ終わりじゃない…!僕だって、諦めない…!諦めずに何度だって、何度だって奇跡を起こしてみせるさ…!」
「道人…。あぁ、そうだな!まだ諦めの時ではない…!」
「ふん、性懲りも無く来るか!いいだろう、来い…!」
「僕は、僕たちは絶対に負けられないんだぁぁぁぁぁーっ…!」
道人とジークヴァルは強い眼差しでダジーラクを睨んだ。




