53章 最悪な鬼ごっこ
道人たちは会社エリアの駐車場から出て、戦島が見える広場まで移動した。
「あれが戦島…。近くで見るとさすがに大きいな…。」
「どうやってあそこまで行くの?空飛んでいくしかないのかな?」
道人と愛歌が話していると戦島から赤い光の板が幾つも出現し、階段みたいになった。
「…どうやら奴さん、これを渡って来いって言ってるみたいだぜ。」
深也は足で光の板を何度か踏んで安全を確認する。
「よし、行こう!みんな、結構高いから足元に気をつけるんだ!」
道人たちは海に真っ逆さまにならないように自分の相棒のディサイド・デュラハンと共に階段を上がった。
階段を登り切るとそこにはいくつか柱があるくらいで他には何もないだだっ広い平らな床が広がっていた。
「…来たか。待ち侘びたぞ、チキュウのディサイド・デュラハンたちよ。」
剣の刃部分を地面に向け、柄の部分に両手を乗せてダジーラクが風にマントを棚引かせて待っていた。シチゴウセンたちとマーシャルもダジーラクの後ろに控えているが、何か様子がおかしかった。
「ダジーラク、なんでちゃくちのさい、びーむをかいめんにうったの!?あれでさかな、いっぱいしんだんだよ!?」
「オチツケ、スラン。オチツクンダ。」
「何だ、仲間割れか?」
深也が敵の状況を見て口にする。どうやら道人たちが会った事がないシチゴウセンの一人がダジーラクに物申しているようだ。ラクベスが宥めている。
「何を気にする必要がある、スラン?チキュウの生き物の生死などどうでも良かろう。」
「そうよ。あんた、おかしいわよ?」
「おかしい?わたしが…?さかなのしんぱいをするわたしが…?だって、こんなこうけいをみたら、きっとみおんはかなしむ…。そうおもうと…。」
スランはレイドルクとダーバラに責められ、身体を震わせて下を向く。
「ねぇ、潤奈。あのシチゴウセン…。」
「…うん、恐らくシチゴウセンに入ったばかりのスランって子だと思うけど…。他のメンバーとは何か違うね。彼女には敵意を感じないというか…。」
道人と潤奈はシチゴウセンにも話が通じる人がいるのかもしれないと思った。今回ダジーラクが攻めてくる事を司令に教えてくれたディアスの方も見る。
「スランよ、お前はまだシチゴウセンになって日が浅い。これが戦という物だ。じきに慣れるがよい。」
「…そっか、あらためるきはないんだね…。…わかったよ。」
スランは空を飛び、この場を去ろうとする。
「スラン、どこに行くつもりです!?敵前逃亡と見做しますよ!?」
シユーザーが去ろうとするスランに叫ぶ。
「やるきなくなった!わたし、かえる!じゃあね!」
「マツンダ、スラン!スラン!」
「放っておけ、ラクベス。まだ奴は若輩者。その内わかるだろう。」
「シカシ…。スラン…。」
ダジーラクの言葉を聞いてスランを追いかけるのをやめたラクベスは去っていくスランをどこか悲しそうに眺めていた。
「我が部下が失礼した。お初にお目に掛かる。わしの名はジェネラル・ダジーラク。此度はそなたたち、ディサイド・デュラハンの実力をわし自らがこの目で確かめに参った。」
「確かめに来るだけでこんな大惨事起こしたってのかよ?とんでもなく迷惑な奴だな。」
深也は両手を横に出してやれやれ、という呆れポーズをダジーラクに見せつけた。
「ふむ、お気に召さなかったか?あの祝砲は人死にも出さぬように撃ったのだが…。」
「ふざけないで!あの砲撃で一体何人の市民の日常が崩されたと思ってんのよ!?」
愛歌はダジーラクの言葉を薙ぎ払うように右手を勢いよく横に振った。
「ふむ、そういうものか…。」
「ダジーラク様、我らとニンゲンは所詮、別の生き物。価値観が違うのですよ。」
「なるほどな。解説感謝する、シユーザー。ならば、安心せよ、ニンゲンたち。他の催しも用意してある。きっと気に入るであろう。これから説明させて頂く。マーシャル。」
ダジーラクが指を鳴らすとマーシャルがお辞儀をし、空中にスクリーンを表示する。
「この街ではデュエル・デュラハンというゲームが流行していると聞く。お前たちニンゲンはゲームが好きなようだから、我らも此度はお前たちとゲームをしに来たのだ。」
「何だって…?」
道人たちはダジーラクが何をやってくるか予測ができないため、身構えた。
「街中に我が兵士を放った。その数五十。市民たちはほとんど逃げてしまったようなのが残念だが何、問題あるまい。あれを見よ。」
「…えっ…?」
道人たちは自分の目を疑うような物がスクリーンに映し出された。
「このチキュウには『鬼ごっこ』、という遊びがあるそうだな。あれは我らが用意した鬼だ。三機用意してある。会話させてやろう。」
道人たちが目の当たりにしたのは縦長のカプセルに手足が生えたロボット。カプセルの中には手足を拘束されたやつれた人が入っていた。中に入っていた人は道人と潤奈がよく知る人たちだった。
「…? も、もしかして、道人君…なのか?お、大きくなったなぁっ…。」
「な、中島さん、なの…?」
「道人…?どうした?彼らは一体…?」
ジークヴァルは道人の様子の変化を気にする。
「…ま、ますますご、豪さんに似てきたんじゃないか…?」
「真道さんまで…。何で…?」
「…隆?隆…なの?私だよ、潤奈だよ!」
「えっ?潤奈の知ってる人なの?」
愛歌は潤奈と隆を交互に何度も見て関係性を探った。
「…ジュンナ…?ジュンナなのか?日本語うまくなったなぁっ…!美人さんになっちゃって…。」
潤奈は両手を口に当てて両目に涙を溜めた。道人は歯を強く噛み、両手で握り拳を作って震わせる。
「…どういう事だ、ダジーラク…!?何で…!?何で父さんの宇宙飛行士仲間の人たちをこんな目に…!?」
道人の言葉を聞いて驚愕した愛歌たちは一斉にダジーラクを見た。
「ハッハッハッハッハッ…!その顔ぉっ!その顔が見たかったぁっ…!特にジュンナに気に入られてるミチトォッ!貴様の絶望顔がなぁっ!お前が絶望したら、一緒にジュンナの絶望にも繋がる!まさに絶望連鎖反応!」
シユーザーが道人と潤奈を指差して嘲笑する。道人はシユーザーを睨む。
「この催しは私の発案でしてねぇっ…!なぁに、昨日のちょっとした仕返しですよぉっ?」
映像が切り替わり、街の地図が映る。
「ルールは簡単!あの三機のロボットはあの街をこれから逃げ回ります!あのニンゲン三人を助けられる方法は二つ!一つは単純にカプセルロボットを捕まえた後、カプセルを破壊して中の人を助け出す!ただし、我らシチゴウセンや兵士が全力で阻止しますがね!何だったら、カプセルロボごと葬ってもいいんですがねぇ?」
「…姑息な手を…!」
「…は?何か言いましたか、ディアス?」
「カサエル!!」
「わかってるさぁっ、大樹ぅっ!!」
大樹が大声でカサエルの名を呼んだ後、カサエルは大樹を抱えて高くジャンプし、柱の一つに着地した。
「大樹!?」
「道人ぉっ、安心せい!俺らが一番乗りであのカプセルロボットを全部捕まえてみせるわぁっ!」
「あっしは防御力に長けたディサイド・デュラハンさぁっ!例えシチゴウセンや兵士に襲われたとしても、助け出した人を守り抜く事ができるさぁっ!」
「こんな下らない遊びに付き合う必要はないんじゃ!俺らがすぐにあの人たちを助け出してみせる!だから、安心して戦ってくれ、道人!潤奈ちゃん!」
「大樹…。うん、わかった!」
「…気をつけてね、大樹…。」
大樹は笑顔を取り戻した二人を見て笑みを浮かべる。カサエルは飛び去る前にダジーラクたちを見る。
「何も関係ない人たちを巻き込んだお前さんたちを、あっしらは絶対に許さないさぁっ!」
そう言うとカサエルは高くジャンプし、姿を消した。
「…ダジーラク、私は街に先に行って兵たちの指揮をしようと思うが、いいか?」
ディアスがダジーラクにこの場を去る許可を得ようとする。
「あぁ、構わない。頼んだぞ、ディアス。」
「あぁ、任された。…ダジーラク。」
ディアスは右手で作った握り拳を前に出してダジーラクに向けた。
「…? 何だ?どうした?」
「…そうか、これも忘れてしまったか…。」
ディアスは思っていた反応が返って来なかったので寂しそうに自分の右拳を見る。
「何を言っている?」
「…何でもない。では、また…。」
ディアスも高く飛び、この場を去った。
「ちっ、最後までルールを聞かずに飛び出しやがって…。ったく、しゃあねぇな!道人、俺も街の方に行くぜ!大樹とカサエルだけじゃ、五十もの兵士の相手は難しいだろうからな!」
「深也?でも…。」
「何、安心しな。シチゴウセンの一人はこの場から連れてってやる。なぁ、ランドレイク?」
「へへっ!そうだな、船長…!」
深也とランドレイクは二人でレイドルクを睨んだ。
「…ふむ、いいだろう。」
レイドルクは炎龍の頭に付け替え、羽を開いて街中の方へ高く飛んでいった。
「血の気の多い爺さんで助かるぜ…!道人!愛歌!潤奈!後は任せた!負けんじゃねぇぞ!」
「あんたも気をつけなさいよ、深也!」
深也は道人たちに背を向けて右手を横に振って「わかってるよ」っと走り出す。深也とランドレイクは光の板を下り、戦島から去った。道人は目を瞑り、両頬を両手で二回叩いた後、ダジーラクたちを見る。
「ダジーラク、シユーザー!二つ聞きたい事がある!」
「何だ?申してみよ。」
「一つは僕の父、豪の事だ!何で父さんをカプセルロボットに使わなかった?」
「わかってませんねぇ〜っ…!豪はとっておきの切り札!まだこの場で使うカードではありませんよ!」
道人はシユーザーの今の発言を聞いて父はまだ未だ健在な事を確認できた。潤奈と目を合わせてお互いに頷いた。
「次にカプセルロボットを救出できるもう一つの方法だ!」
「二つ目の勝利条件…。それはわしと闘い、わしの膝を一度でも地面につけさせる事だ。そうしたら、あの三機のカプセルロボットは機能停止させよう。」
「…? そんなんでいいの?だったら、楽勝じゃない!」
「おいおい、俺らがいる事を忘れてねぇか?お嬢さん?」
道人たちはライガに視線を向ける。
「よ!久しぶりだな、ジークヴァル!道人!なかなか会話に混ざる隙がなくってな、やっと話しかけられたぜ。」
ライガは暇していたようで地面に寝転がっていた。飛び上がって立ち上がる。
「…あぁーっ、もう待ち切れない!あたいの相手をしてもらうよ、愛歌!トワマリィーッ!」
ダーバラが宙に浮かんだ後、高速でトワマリーと愛歌目掛けて飛んできた。
「…!? 愛歌、下がっテ!」
トワマリーは急いで愛歌を右にどける。ダーバラがトワマリーを殴ろうと右ストレートを繰り出して来るが、トワマリーは両手を交差して防御する。
「あの時の借りを返させてもらうよぉ?勝負でも美しさでもどっちもお前たちに勝ってみせる!」
「そんな張り合イ、私は興味ないけど…ネ!」
トワマリーは交差した両腕を勢いよく下ろしてダーバラを払い除ける。トワマリーは後ろに下がって両手にリングを持つ。ダーバラは両手に鉄扇を持ってトワマリーと激しくリングと鉄扇を何度もぶつけ合う。
「道人、潤奈!あたしはトワマリーのサポートに行くよ!後はお願い!」
「気をつけて、愛歌!」
愛歌は笑顔でサムズアップした後、右手にデバイスを持ってトワマリーの元まで走る。
「イガイトヤル、ニンジャ!オマエノアイテハオレダ!サッサトタオシテ、スランヲサガシニイク!」
「そうですか。それなら私も手伝いましょう、ラクベス。ふふっ…!」
「ニ対一、ですか…。いいでしょう、主!」
フォンフェルは日本刀を構え、潤奈は右手にデバイスを持って戦闘準備をする。
「…うん!やるよ、フォンフェル! …道人、ダージラクの相手は…。」
「わかってる。大丈夫だよ、潤奈。ダジーラクとライガは僕とジークヴァルが相手をする…!ハーライムもいるし、この中じゃ僕が一番長く闘えるからね…!潤奈は自分の闘いに集中して!」
「…道人、気をつけてね?」
「さぁ、来い!ラクベス!シユーザー!主には指一本触れさせん!」
「途中で発作を起こさなきゃいいなぁっ、ニンジャァッ!」
フォンフェルと潤奈は道人たちから離れ、ラクベスはフォンフェルに向かって突進。シユーザーは両手のロケットパンチを飛ばした。
「ダジーラク!ライガ!僕とジークヴァルが相手だ!十五分以内にダジーラク、お前の膝を…いや、お前を倒してこの戦いを終わらせてやる!」
「よくぞ、言った!道人!私もお前の想いに応えてみせる!」
「…クックッ、ハァーッハッハッハッハッハッ…!」
ライガが右手で顔を覆って上を向き、大笑いした。
「ライガ、何がおかしいんだ!?」
「いや、悪い悪い!ダジーラクの旦那を十五分以内に倒すとは大きく出たな、ジークヴァル!道人!今まで色んな惑星の戦士を見てきたが、そんな事を言い出したのはお前らが初めてだぜ!…よし、決めた!」
ライガはジャンプし、マーシャルが浮いている近くの柱の一つに腕を組んで座った。
「俺は今回戦わねぇ、ここで見物させてもらうぜ?ジークヴァルと道人の相手はダジーラクの旦那に譲るぜ。」
「ライガ?」
ダジーラクは移動したライガに視線を向ける。
「道人!ジークヴァル!ダジーラクの旦那相手に生き残ってみせろ!そうすればお前たちは更に強くなり、価値が上がる…!そうやって極限まで強くなったお前たちを俺が叩き潰す…!お前たちの戦士としての成長を楽しみにしているぞ!」
「勝手な事言ってくれちゃって…。全く…。」
道人は気を引き締め直し、ジークヴァルと共にダジーラクを見る。
「ジークヴァル、僕らがすぐに勝てばこの戦いは終わる…!あいつらが約束を守れば、の話だけどさ!責任重大だけど、大丈夫?」
「無論だ、道人!リーダーであるあいつをここで倒せれば、今後の戦いが大分有利になるはずだ…!この場でバドスン・アータスとの戦いに決着をつける勢いで行くぞ、道人!」
「うん!」
「わし相手にそこまで強く言えるとは大したものよ。…では、死合うぞ!来い、チキュウの戦士よ!」
「「行くぞ!勝負だ、ダジーラク!!」」
ジークヴァルとダジーラクは共に剣を構えて前に飛び、激しい剣のぶつかり合いが始まった。
「貴様たちの執念、見せてみよ!」




