5章 ジークヴァルVSライガ
「クックックッ…!よくぞやったぁっ、紛い物ぉっ!」
ライガは袈裟斬りを喰らった胴体を左手で押さえながら笑った。
「もっと俺を楽しませろ!」
右手を勢いよく前に出すと雷撃がジークヴァルに目掛けて飛んでいく。ジークヴァルは自分の目の前でブーメランを扇風機の様に回転させ、雷撃を防ぐ。その後、ブーメランをキャッチしてライガに投げた。
「そう何度も当たるかよ!」
ライガは戻ってくるブーメランも見越して左に高速移動し、ブーメランがジークヴァルの手元に戻ってくる前に仕掛けた。
「そろそろブーメランヘッドも時間切れじゃねぇか!?さっさと次の頭に代わりやがれ!」
ライガとジークヴァルはまた鉤爪と剣を何度も激しくぶつかり合わせ始めた。道人はデバイスの画面を確認したら今のヘッドが残り一分三十秒と表示されている事に気づいた。
「愛歌ちゃん、聞こえる!?返事をして!」
道人の後ろにいた愛歌のデバイスから急に声が聞こえた。
「大神さん!?あたしは無事だよ!トワマリーは機能停止してるけど…。」
「そう、わかったわ。こっちもあの謎の獣人に基地内を傷つけられたけど、何とか通信は復旧できたわ。今はどんな状況?」
「今はあの謎の…名はライガと言っていました。そいつと目を覚ましたジークヴァルが実験エリアの大地フィールドで交戦中!」
「ジークヴァルが目を覚ました!?」
今度は老人の声が聞こえた。
「はい。どうやってここに来られたのかわからないけど、あたしの幼馴染の道人がジークヴァルとディサイドして闘ってくれています!」
「ジークヴァルが、何と…。」
「博士、リアクションは後!愛歌ちゃん、すぐに応援を寄越すから気をつけるのよ?その幼馴染君もね!」
「はい!お願いします!」
通信が終わり、愛歌はトワマリーが倒れている方を見た。
「道人、あたしトワマリーの様子を見てくる。目を覚まして戦えるようだったら加勢するから!」
道人の頷きを確認した後、愛歌はトワマリーの元へと走っていった。
(そろそろ次のヘッドチェンジを考えないと…!ランスか、ダブルブーメランか、それとも別の…。ん…?)
道人はデバイスでヘッドのデータを確認していると見た事のないヘッドを一つ見つけた。
「ヴァルクブレードヘッド…。何だ、これ?こんなヘッド、持ってなかったと思うけど…。」
デバイスを操作し、このヘッドの詳しい情報を調べ、自分のガントレットを確認した後、道人はライガを倒す一つの方法を思いついた。
「一か八か、やってみるか…!」
『道人、何か思いついたみたいだな。』
戦ってる最中のジークヴァルが道人の脳内に声を送った。目覚めた後もこういう会話できるのか、と少し驚いた。
『うん、いい?今から…。』
道人は自分の考えた戦略をジークヴァルに思念として伝えた。
『心得た!いざ!』
ブーメランヘッドが消滅する二十秒前にブーメランをライガに投げる。ライガは余裕で避けてみせた。
「今だ!ダブルブーメランにチェンジ!」
道人は走り出し、実体化したカードをデバイスに読み込んだ。
『あなたは過去と未来、例えどんなにつらくてもどちらにも立ち向かえますか?』
「あぁ!」
『承認。』
ジークヴァルにV字マークがついた顔がつき、ダブルブーメランを両手に持つ。両腕を交差した後、両方のブーメランを二つ同時に左右に投げる。ブーメランは二つともライガに向かっていく。
「懲りもせずまたブーメランか!もう見飽きてきたぜ!」
ライガは高くジャンプし、二つのブーメランは当たる事なく、ジークヴァルの元へ戻っていく。
「手ぶらの貴様に我が爪をお見舞いしてやろう!」
「その…前、に!」
道人は息を切らしながらガントレットを構え、ライガの後ろに立っていた。
「僕の拳を先に喰らえぇーっ!」
道人はライガの背中を思いっきりぶん殴り、両手を地面につかせた。
「小僧、貴様…!」
「小僧じゃないと言ったろう!」
走ってきたジークヴァルが飛び蹴りをライガに喰らわせ、壁に激突させる。
「そうだった…道人、だった…!」
ジークヴァルはすかさずダブルブーメランを壁にめり込ませ、ライガの両肩を拘束した。
「貴様…!?これでは身動きが…!?」
「今だ!ヴァルクブレードヘッドォッ!!」
実体化したカードをデバイスに読み込ませた。
『ディサイドヘッド、承認。この承認に問いかけは必要ありません。』
ジークヴァルの前の頭が消えかけ、右手を前に伸ばすと新たな頭が出現。その頭を掴み、力強く自分の身体に装着する。赤いマントと新たな肩パーツが装着される。空から大剣が落下し、大地に刺さる。その大剣を手に取って構えた後、高く跳躍した。
「ダブルブーメランが消える前に、行けぇぅぇぇぇーっ!!」
「ジークヴァルクブレード!今、頭着!!」
ライガは身体を少し左にずらしたが、縦一文字斬りは喰らってしまい、右腕が切断された。大剣が地面に叩きつけられ、土煙が舞った。
「がぁっ…!?くっ…!?」
ライガは咄嗟に左へ側転し、ジークヴァルから離れた。土煙が消え、ジークヴァルとライガは睨み合っていた。道人はジークヴァルの横に駆け寄る。
「…クッ、クックックッ…!ハーッハッハッハッハッ!」
ライガが下を向き笑い出す。
「気に入った!気に入ったぞ!俺にここまでの傷を負わせるとは…!もう貴様を紛い物呼ばわりはできまい!戦士ジークヴァルよ!貴様の名、確かに覚えたぞ!」
「そう、それは良かったわね!」
道人は愛歌の声が聞こえたので後ろを振り向くと目が覚めたトワマリーと一緒に立っていた。
「随分遅い加勢だったな、お嬢さん。俺もうやられちまったぜ?」
「うるさいな!あなたには色んな事を聞かないといけないの!覚悟なさい!」
「そうはいきません。」
ライガのとなりにいきなり女性が出現した。不思議な白い服を身に纏った長髪の緑髪の女性。
「マーシャル、何の用だ?」
「用も何も、あなたが捕まったら困るから回収に参ったのですよ。」
マーシャルはライガの左肩に手を置いた。
「人間の子らよ。私たちバドスン・アータスはあなた達人間を滅ぼします。今はただその時を待つがいい…。」
「またな、ジークヴァル。それと豪の息子…だよな?道人もな。」
「…!? 父さんを知ってるの!?」
聞こうとしたが、ライガとマーシャルは一瞬でその場からいなくなった。
「あぁっ!?消えちゃった!?もぉーっ!」
愛歌は落ち込み、その場に座り込んだ。トワマリーも一緒に座る。ジークヴァルは頭がなくなって首無し状態に戻っていた。
「バドスン・アータス…。その名前、あの子も言っていた…。そこに父さんが…?一体何が起きてるんだ…?」
しばらくすると救助隊が遅れて到着した。道人はまだやる事、知りたい事が多くて家には帰れないなと母への申し訳なさを感じながら、救助隊に身を任せた。