51章 覚悟を決めて
時刻は八時三十分。道人たちを乗せたヘリはデュラハン・パークの会社エリアの屋上ヘリポートに降りた。大樹と大神が既に着いていて道人たちを迎える。
「おぉ、道人!愛歌ちゃん!潤奈ちゃん!虎城さんも大丈夫じゃったか!?」
「うん、僕たちは大丈夫だよ。大樹の方は?」
「俺も大丈夫じゃ。爺ちゃんは叔母さんと一緒に御頭街の外に出る事になっとるんじゃが…。」
「…どうしたの?」
潤奈が困った表情の大樹を気にかけ、道人と愛歌も大樹を見る。
「…まぁ、積もる話は中に入ってからじゃ!行くぞい!」
「わかった。深也はまだ来てないの?」
「深也は家にはいなかったんじゃ。スマホで連絡したが、ちゃんと返事があって用が済んだらこっちへ向かうそうじゃ。」
道人たちは中に入り、司令室に急ぎ足で向かい、司令室の近くの待機室まで来た。
「じゃあ、私たちは今からやる事があるから!行くわよ、虎城さん!」
「えぇ、私たちが道人君たちが戦いやすいように全力でサポートしますからね!」
大神と虎城はそう言うと司令室に入っていった。すれ違いで司令が道人たちの前に走ってやって来る。
「道人君、愛歌君、潤奈君、大樹君、よく来てくれた!すまない!今世界各国のお偉いさんたちや御頭防衛隊から次々と今回の件の説明を求められていてな。御頭街の市民たちもパニックに陥っていて、避難誘導も滞ってしまっている状態だ。私もすぐに司令室に戻らないといけない…!」
「博士はどうしているんですか?」
道人は博士はどうしているのか気になって聞いてみた。
「博士は今、時間ギリギリまでディサイド・デュラハンの調整をしてくれている。限られた時間で少しでも道人君たちの役に立てるような武器も用意してくれている。」
「そうですか…!」
「さっすが!頼もしいよ、博士!」
愛歌が笑顔で右手の指を鳴らした。
「それとダジーラクが演説後にあのような行動をしてきたのは予想外だったが、我々は昨日の夜の段階でダジーラクがシチゴウセン全員で襲来する事は知っていたんだ。おかげで我々は徹夜である程度は準備できている。」
「え?どこでそんな情報を?」
「実は昨日、私はシチゴウセンの一人、ディアスと会ったんだ…。」
「えっ!?大丈夫だったんですかっ!?」
道人たちは司令のまさかの発言に驚愕した。水縹星海岸で会った胸にドクロをつけた奴の事かと道人たちは思い出す。
「あぁ、彼はこちらの実力を見るだけなら無駄に犠牲者を出す必要はないと言ってきたんだ。敵からの情報だったから、にわかには信じられない部分もあったのだが…月の近くに出現した物体を夜中の時点で観測した事によって信じる事にした。今朝の出来事でもう確定もできたしね。」
「そうだったんですか…。ディアス…。」
「シチゴウセンも一枚岩じゃない、って事なのかな?」
道人たちはディアスは一体何が目的なのかを考え込んだ。
「いかん、戻らねば…!道人君たちは十一時になるまで待機室で待っていてくれ。時間になったら、司令室まで来て欲しい。かなりの激戦が予想される…!少しでも身体を休ませておくんだ!」
「はい、司令!」
司令はそう言い終わった後、走って司令室まで戻った。道人たちも待機室に入り、椅子に座って時を待つ。
「…休め、って言われてもね…。」
「うん、全然落ち着かないや…。」
「…なぁ、みんな。さっきの話なんじゃが、うちの爺ちゃん。実は御頭街から一歩も出ないって言っておるんじゃ…。」
「えっ…!?」
道人たちは大樹に驚きの視線を浴びせる。
「爺ちゃん、家にある陶芸品を…特に俺の作った陶芸品を置いていく訳にはいかん、って聞かなくての…。家にも愛着があって、亡くなった両親の仏壇を置いて家から出ないと言い出しておるんじゃ…。」
「そっか、お爺さんが…。」
「あの後、連絡がつかなくての。」
「そっか、今街中パニックで電波障害が起きて、携帯が繋がりにくいもんね…。」
愛歌は自分のスマホを取り出して見る。
「叔母は無理にでも連れ出すと言っておったが、無事連れ出せたんじゃろうか…?」
「大樹、大丈夫さぁっ!爺ちゃんが仮に逃げてなかったとしても、あっしが奴らを大樹の家には一歩も近づけさせないさぁっ!」
「カサエル…。」
大樹は自分を励ましてくれるカサエルが映ったデバイスを見つめた。
「カサエルの言う通りだ。俺たちがバドスン・アータスをぶっ潰せばいい。」
自動ドアが開き、深也が姿を見せた。
「深也、無事だったんだね!それと…?」
深也が車椅子に乗った少女とデュラハン・ガードナーの医者と共に入室する。
「もう、お兄ちゃん!口悪いよ?」
「わ…悪ぃっ、芽依…!」
深也は右手で後頭部を摩った。
「初めまして、海原芽依です!兄が何時もお世話になってます!」
芽依は軽くお辞儀をした。青髪でツインテールのパジャマ姿の女の子だった。
「わぁ〜っ…!深也の妹さん?まさかこんな所で会えるなんてねぇっ!」
道人たちは深也の妹の登場でさっきまでの暗いムードが消え、明るく笑顔になった。
「兄から何時も聞いています。道人さん、愛歌さん、潤奈さん、大樹さんですよね?お兄ちゃん、最近何時も皆さんの事を話に出すんですよ?」
「お、おい、芽依!余計な事言うんじゃねぇよ。…悪ぃな、みんな。デュラハン・パークの医者の人と一緒にいた方が安全なんじゃないかと思ってな。連れて来たんだ。」
そうだったのか、と道人たちは深也が遅れてきた事に合点がいった。
「芽依ちゃん、そろそろ…。」
「あ、はい。すみません。もっと色々話したい事があるんですけど、皆さん忙しいんでしょう?お話は今度させて下さい。」
「…うん、今度みんなでお見舞いに行くね。」
「本当ですかっ!?」
「うん、あたぼうよ!とびっきりの見舞い品持って遊びに行ってみせるからねぇっ!」
愛歌は右目でウインクして芽依にピースサインをする。
「楽しみに待ってます、皆さん!」
「あ、待ってくれ、芽依!」
医者が芽依を連れ出す前に深也は鞄から天使のぬいぐるみを取り出した。
「昨日、稲穂って子と知り合ってな。その子にお前の事話したら、このぬいぐるみをくれたんだ。健康祈願のぬいぐるみだってよ。」
「わぁっ、嬉しい…!今度その子とも会ってみたいな!」
「あぁ、その子もお前と友達になりたがってた。何時でも会えるさ、何時でもな…。」
深也は窓から外の景色を見た。その姿を見て芽依は何かに気づき、優しく微笑んだ。
「…でも、今はこのぬいぐるみ、受け取れないかな。」
「は?何でだよ?」
「お兄ちゃん、また何か危ない事に首突っ込もうとしてるでしょ?お兄ちゃん、何か思い詰めてる時とか、恥ずかしい時とかには必ず窓の外見るんだもん。お見通しだよ。」
深也は道人たちを見てそうなのか?と無言で見つめるが、道人たちは全員うんうん、と頷く。
「今、この人形を必要としているのはお兄ちゃんの方…。だから、まだお兄ちゃんが持ってて。問題が解決したら、その時に受け取るから。」
深也は芽依の気持ちを理解し、人形をまた手に取った。
「芽依…。はっ、しゃあねぇな。わかった、わかりましたよ。事が済んだらその時にお前に改めて渡すよ。」
「うん、それでよし!約束だよ?」
「あぁ。大人しく医者の言う事聞くんだぞ?」
「もぉっ、子供扱いしてぇ〜っ…!覚えておれよ、兄上殿ぉ〜っ!ふふっ…!」
芽依は医者に車椅子を押してもらい、退室した。
「お前だって、自分の言った冗談に真っ先に自分が笑う癖があんの、兄はお見通しだぜ。ったく…。」
深也は目を瞑って道人たちの方を向いた。
「良い妹さんだね…。」
「あぁ、俺の自慢の妹だぜ。 …なぁ、大樹、カサエル。」
「何じゃ?」「何さ?」
「俺も妹がいるこの場所を絶てぇ守るし、そもそも一片たりとも近寄らせねぇつもりだ。いや、俺だけじゃねぇ。俺たちみんなでだ。お前の爺さんも同じだ。俺たちみんなでそれぞれの大事な人を守るんだ。決して一人で先走るんじゃねぇぞ?」
「深也…。おう、頼りにしてるぞい、友よ!」
深也は大樹を見て口元を緩めた。
「そう言ってる深也の方が一番先走りそうじゃなぁ〜い?」
「…うん、そうそう。」
「あ?どういう事だ、愛歌?潤奈、お前もか!」
道人たちは深也とのやり取りでその場で大笑いした。
「よぉし、みんな!俺の小遣い全部使って買ってきたもんがあるんじゃ…!」
大樹は鞄からデュエル・デュラハンの拡張ヘッドパック3BOXを取り出した。
「これじゃ!これを今からみんなで開けて決戦に備えるんじゃ!」
「大樹君、嬉しいんだけどさ…。買おうと思えばさ、フリーパス使ってパーク内の売店で無料で買えるんじゃない?」
愛歌の発言に沈黙する一同。
「…があぁぁぁぁぁ〜っ…!?しまったぁっ、俺の小遣いがぁぁぁぁぁ〜っ…!?」
「だ、大丈夫だよ!大樹!大樹のみんなを思う気持ちは伝わったさ!ありがたく使わせてもらうよ!」
「おぉっ、道人…!さすが心の友よ…!」
「どうだかな?事故箱引いてんじゃねぇだろうな?」
「何をぉっ!?どういう意味じゃ、深也ぁっ!?」
道人たちはみんなで笑い合った後、椅子に座ってみんなでパックの開封作業をした。開封作業中、潤奈は司令室に何度か呼ばれては戻ってきてを繰り返していた。バドスン・アータスの戦島などに関して司令たちは聞きたい事があるのだろう。
「あっ!?ダンゾウヘッドだって!忍者のレアヘッド!フォンフェルに合うんじゃない?」
「…あ、うん。ありがとう。じゃあ、愛歌にはこっちのローズを…。」
その時、道人と大樹のお腹が鳴り響く。
「そ、そうだった…。朝ご飯まだだったぁ〜っ…。」
「忘れとったのぉ〜っ…。」
道人と大樹は両手で腹を押さえた。
「そっか、今日潤奈のためにみんなでミスパトの再現料理を作る予定だったよね…。今日は無理だよね、こんな状況じゃ…。」
愛歌はスマホで時間を確認したら十時十五分だった。もうみんなで楽しい時間を過ごせるのも終わりかと考えてしまい、下を向いた。
「…大丈夫。安心して、愛歌!ミスパト作りなら何時でもできるから…!私も楽しみにしてる!私もみんなに私の故郷の味を知ってもらいたいから!だから、今日はみんなで生き残ろう!」
「潤奈の言う通りだよ!元気出して、愛歌!」
道人と愛歌の励ましに愛歌は笑みを浮かべる。
「道人、潤奈…。うん、そうだね!よぉし、何か食べ物がないか、あたし探してくるね!」
「俺も探すぞい、愛歌ちゃん!」
「しゃあねぇっ、俺も付き合うか…。」
愛歌、大樹、深也は席を立ち上がり、待機室の冷蔵庫から食べ物を探した。
地面に座っているフォンフェルは机の上に置いてあるジークヴァルたちに話し掛けた。
「ジークヴァル、トワマリー、カサエル。私は何時発作が起こるかわからない身体だ…。もし、私に何かあったら主を…。」
「待っタ!お姉ちゃン!その先ハ言いっこなシ!」
「そうさぁっ、物事は悪い方へ考えたらいけないさぁっ!」
「そうだ、フォンフェル。安心しろ。君が発作を起こしたとしても、我々は潤奈も守るし、かと言って発作を起こした君を見捨てる事もしない。今、この場にいないランドレイクやハーライムも同じ気持ちのはずだ。」
「だかラ、安心しテ、お姉ちゃン!絶対誰も犠牲になったりしないんだかラ!」
「みんな…。ありがとう、頼りにしていますよ。」
ジークヴァルたちのやり取りを見て道人と潤奈も笑い合い、共に黙々とパックを開けていった。
そして、みんなで食事をし終え…遂に司令との約束の時間になった。もう道人たちは十分休息は取れた。みんなのコンディションは抜群だった。
「みんな、行こう。司令室に。」
道人の声を聞いた後、五人は決意を秘めた顔付きで、横並びになって廊下を歩き、司令室へと向かった。




