4章 運命の邂逅
「ふぅっ、終わったか。なかなか楽しめたが、お嬢さんじゃ俺の好敵手には足り得ないな。」
道人は呆然としていた。一瞬だった。一瞬で愛歌とトワマリーの優勢は覆され、気がついたら負けていた。
「さて、お嬢さんを始末してからお目当ての回収といこうかね。」
ライガは愛歌の元へ歩き出した。道人はライガが次にやろうとしている事に勘づき、全身に悪寒が走った。
(あいつ、愛歌を…殺す気だ…!)
道人は愛歌が死ぬ姿をしたくもないのに想像してしまい、首を必死に左右に振って自分が思い浮かべた最悪なイメージを振り払った。急ぎでこの部屋の外を覗いてみたが、この先は行き止まりで下に行く階段はなかった。
「愛歌のいる場所に行くにはあの窓ガラスを割るしかないか…!」
右手の甲で軽く叩いたが、かなり頑丈なガラスで割れそうにない。
「くそぉーっ…!」
駄目元でリュックからブーメランを取り出し、ガラスを何度も叩いたがヒビも入りもしない。階段を上がって自動ドアの所に戻っても同じガラスでできているだろうから戻っても無駄だろう。何よりもう別の通路を探す猶予はない。
「早く、壊れろ、壊れろ…!」
『道、人…。』
道人の脳内に夢で何度も聞いた声がまた響いてきたが、聞こえていなかった。
「嫌だ…!僕は、愛歌を、助けるんだ…!」
もうライガは愛歌の前に立って鉤爪を構えている。
「駄目だ…!?間に合え、間に合え…!」
諦めずに何度もブーメランでガラスを叩いていると道人の右手が徐々に光り出した。
『道人、道人…!』
「僕は、絶対…愛歌を…!」
『決心しろ、道人!』
「愛歌を助けたいたいんだぁあぁぁあーっ!!」
『その決心に応えよう、道人!』
その時、道人の首にペンダントが出現し、右腕に謎の携帯機が付いたガントレットが装着された。
「ガラスじゃ駄目なら、壁だあぁぁぁぁーっ!!」
道人がガラスの横の壁に勢いよくブーメランを持った右拳をぶつけた瞬間、壁が粉砕された。その後、下に降りて着地する。
「あ?何だ?」
「えっ…!?道人!?何で…!?」
愛歌とライガはほぼ同タイミングで道人の方を向いた。道人は全力で二人の元へ走る。
「愛歌から離れろ!この、犬野郎!!」
道人は右手に持ったブーメランを思い切り投げた。人間業とは思えない程の力で投げられたブーメランは風を切り裂いて進み、ライガの胸に直撃し、仰反った。
「何だ、この小僧はっ!?」
「小僧ではない!」
道人の目の前の壁が粉砕し、中から剣を構えた青と白の二色で彩られた首無し騎士が現れた。
「彼は…道人だっ!!」
突然現れたデュラハンは思いっきり剣を振り回し、ライガに縦一文字斬りを決めた。
「な…にぃっ!?道、人…!?」
ライガは地面に大の字で倒れた。その間、道人は新たに現れたデュラハンを気にしながらも愛歌の元へ駆け寄った。
「大丈夫か、愛歌!?」
「う、うん。大丈夫だけど…。道人の方こそ、大丈夫なの?壁を壊して現れてたけど…。」
道人はそう言われて自分が来た方角を見た。愛歌を救おうと必死だったので自分が壁を粉砕してここまで来た事はあまり記憶になかった。首のペンダントと右手についた携帯機付きガントレットにも今気づく。
「何だ、これ…?」
「『ディサイドデバイス』と『ディサイドネックレス』…?道人、ディサイドしたの!?」
愛歌が色んな横文字を多用してきた。
「ディサイド…何?」
「道人、君は私と共鳴し、ディサイドしたのだ。」
さっき突然現れたデュラハンが歩み寄ってきた。身長は180cmくらいはあり、道人は自分の前に立ったデュラハンを見上げた。
「道人、ようやく会えたな。私の名は『ジークヴァル』。君が近くまで来てくれたおかげでようやく目を覚ます事ができた。」
「ジークヴァル…?君の声…そうだ、何度か夢で聞いた声…!」
「あぁ、そうだ。君とこうして会える日を楽しみにしていた。私はもう君のディサイド・デュラハンだ。」
「ディサイド・デュラハン…?それって…?」
「…すまない、道人。詳しい話は後にしよう。あいつが起き上がる。」
ジークヴァルが道人と愛歌に背を向けた後、横に少し跳んで道人と愛歌から離れた。ライガは寝転んだまま両足を上げた後、両手をバネにして高く飛び、着地する。
「いててっ…!やってくれるじゃねぇか!まさかまだ紛い物がいたとはな。お前は俺を楽しませてくれるのか?なぁっ!?」
ライガは前のめりにジークヴァル目掛けて突進する。ジークヴァルは襲い掛かる両手の鉤爪を何とか剣で受け止め、弾いた。
「ほう、やるな!だが、これならどうかな!?」
ライガは目にも止まらぬ速さで連続切り裂き攻撃を繰り出し、ジークヴァルは剣で何度も受け止めて弾きながら後ろに下がる。
「道人、私に君の力を貸してくれ!一緒にこいつを倒すぞ!」
「ジークヴァル…!わかった!愛歌!」
「言わなくてもわかってる!ヘッドチェンジのやり方でしょ?そのデバイス、ガントレットから外せそう?」
道人はデバイスを左手で掴み、軽く引っ張ると着脱する事ができた。
「私のデバイスと形状が違うから勝手が違うのかもしれないって思ったけど、外せたんなら私のと同じ運用できそうだね。スマホ持ってる?」
道人はあるよ、っとポケットからスマホを取り出した。
「デバイスをケースモードに変形させてからスマホと合体させるの。画面のボタン操作でできるはずだよ。」
道人は少し手こずりながらも愛歌の言う通りにデバイスを変形させ、スマホと合体させた。
「次は頭の中に今欲しているデュラハンの頭を思い浮かべるの。そうするとこのペンダントがイメージをキャッチしてデバイスがスマホ内のデータからカードを作ってくれるからそれを選択した後、読み込めばいいの。」
さっきの戦いで見たトワマリーのヘッドチェンジはそんなプロセスだったのかと道人は感心し、早速試してみる事にした。
「ライガは見たところ、近距離攻撃が得意な奴みたいだ。なら、これだ!」
道人のペンダントが光り、左手にカードが出現。それをすぐさま手に取ってデバイスに読み込ませた。
「ヘッドチェンジ!ブーメランジークヴァル!」
『あなたは父に上達したブーメランを見せたいですか?』
「当たり前だ!」
『承認。』
ジークヴァルの身体から波動が発せられ、ライガは吹っ飛んだ。道人はガントレットに再びデバイスを装着し、走り出した。
「ちぃっ!」
ジークヴァルに頭と胸パーツが追加され、刃付きブーメランが装着された。すぐさまライガに向けてブーメランを投げる。
「しゃらくせぇっ!」
ブーメランを右手の鉤爪で弾き飛ばした。弾き返したのも束の間、別の小さいブーメランもライガに向かって飛んできた。
「何っ!?」
道人がガントレットのパワーで自分のブーメランも投げていた。
「おっと!」
ライガは右に少し跳躍して避けた。
「小癪な真似を!」
ブーメランが戻ってきてライガの背中に当たって前に倒れそうになる。
「何だとっ!?」
既に自分のブーメランを回収したジークヴァルが待ち構え、ブーメランの刃でライガに袈裟斬りを御見舞した。
「貴様…ら!?」
ジークヴァルはすぐにライガから離れ、道人の側まで跳躍した。
「うまくいったね、ジークヴァル!」
「あぁ!このまま一気に攻めるぞ!」