44章A 愛歌のパートナーになる!
ジャンケンに勝ったのは愛歌だった。潤奈は稲穂と組む事になり、制限時間もあるので出来上がった二組は急いで二階の洋服売り場に向かった。
「よし、どういうコンセプトで行くんだ、愛歌?」
周りを見るともう潤奈や虎城たちは服選びを始めている。
「そうねー…。あたしのルブランは白を基調にしたフランス騎士がモチーフだから、あたしも合わせて白いドレスとかどうかな?」
愛歌は人差し指を立てて道人に提案する。
「うん、どっちも白だと統一感があっていいと思うけど…そうだな、赤にして紅白ペアにするのもいいんじゃないかな?」
「赤ね…。普段着だと白より赤の方が着慣れてるけど…。慣れてる方が手堅くいった方がいいのかな?」
「いヤ、ここは攻めに入るのも手ヨ、愛歌!」
「そう?うーん、攻めてみるか…。」
「愛歌、髪色がピンク色だし、白でも赤でもどっちも似合うと思うよ。」
「そ、そうかな?み、道人がそう言うんだったら、どうしたものか…。」
道人と愛歌、トワマリーは共に色々考えたが、なかなかコンセプトがまとまらず、とにかく実物のドレスを見ないと始まらないという事でドレスコーナーまで走り、着いた。
やはり、グルーナに気に入られたら着た服を貰えるという事に目が眩んで、高めのドレスをそのまま買おうとしている人や、考えるのを放棄し、マネキンに着せてある服をそのまま着る人などが見受けられた。
時間は限られているので道人は次々とドレスを手に取っては元の場所に戻し、愛歌がビビッと来るドレスを見つけるまで見せ続ける。
「これなんてどう?赤単色じゃなくて、黒の差し色が赤みを引き立てるというか。」
「うーん、あたしにはちょっと大人っぽ過ぎるかな?…そうだな、ルブランに守られるお転婆なお姫様みたいな感じが良いかも。」
「OK!良い着想を得たじゃないか!その調子!」
愛歌は右手を口に当て、何かを思い出したのか静かに笑った。
「…? どうしたの、愛歌?」
「いや、懐かしい事思い出しちゃって…。覚えてる、道人?あたしのお父さんがフランスから買ってきた服がもう着れなくなったからってお母さんが捨てようとしてさ。」
「あぁ、覚えてる!愛歌、勿体ないからってこっそり回収してさ!うちの母さんに愛歌が着れるように裾を調整してって頼んでみたら母さんノリノリでやってくれて!」
道人たちは手は止めていないが、ドレス探しを少し疎かにし、楽しく思い出話で盛り上がった。
「僕も母さんを手伝ってさ、大変だったなぁ〜っ!」
「そうそう!道人、針に穴を通す段階で苦戦しててさ!それでも今みたいに道人、あたしのために一生懸命してくれて、嬉しかったなぁ〜っ…!」
「その後、仕立てが終わった服を愛歌が次々と来ていって、うちでファッションショーが始まったんだよな。あの時の愛歌、とびっきり可愛くてさ。特に青と黒の…。」
道人はその時の記憶の中で、一番愛歌が輝いていたように見えたドレスを思い出した。
「…そうだ、あの時のドレス…。そうだよ、愛歌!」
道人が隣の愛歌を見た時、愛歌は顔を真っ赤にし、目が点になって頭から煙を出していた。
「と、とび…かわわ…。あ…あの頃、一言…も、そ…ん、ななな、事…!?」
「ど、どうしたんだ、愛歌!?」
「ごめン、道人!『とびっきり』の辺りから不意打ち食らったみたイ!しっかりしテ、愛歌!」
道人は愛歌がこんな状態になるような事言っただろうか?と記憶を手繰ったが心当たりがなかった。過去話の楽しさが勝って勢いで話していたので変な事言ってたかな、と道人は気にした。
しばらくして愛歌が正気を取り戻し、道人は過去に印象に残ったあの時のドレスを再現したらどうかと提案したら愛歌はまた赤面状態になったが賛成してくれた。
道人は何とかブルー&ブラックに金のラインがあしらわれた高級感のあるドレスを見つけ出し、愛歌に試着してもらった。
「どう、かな…?」
試着室から出てきた愛歌は恥ずかしそうに道人の前に立った。
「よし、これだ!このイメージだ!これが良いよ!」
「そ、そう?」
愛歌は長いスカートを手に持ってひらひらする。
「あたしには大人っぽ過ぎないかな?」
「大丈夫、大丈夫!ここから愛歌が最初に言ってたお転婆な姫様っぽくしてみせるから!」
「ふふっ…!」
愛歌ははしゃいでいる道人を見てつい笑いだしてしまった。
「どうしたノ、愛歌?」
「何ね、道人のテンションがさっき話した過去の姿と変わらなくてさ…。あの時もあたしのために一生懸命で…頼もしくて、かっこよくてさ…。変わんないよね、全くさ…。」
「ふふッ、そう言っても嬉しそうネ、愛歌!」
道人の意欲は止まらず、愛歌に黒いハイヒールを履かせ、愛歌と同じピンクの長髪のウィッグをつけ、白いリボンで結んでポニーテールにする。
「できた!これだ!これで行こう、愛歌!これなら絶対イケる!次はルブランのコーディネートだ!行こう!」
道人はハイテンションのまま愛歌の右手を掴み、履き慣れないハイヒールを気遣って歩いた。
「も、もぉ〜っ…!はしゃぎ過ぎだって、道人ぉっ!」
愛歌は口ではそう言いながらも、笑顔で歩いていた。
道人と愛歌はドレスアップコーナーに着き、ルブランを二人で一緒にコーディネートする。レイピアヘッドを装着し、白いボディは変えずに赤いアマリリスの花の装飾をつけ、白いマントを装着して何とか王子様らしさを出す事ができた。
道人と愛歌は残り時間十五分のところで無事に大広間のランウェイのステージ裏まで辿り着いた。道人と愛歌は呼ばれるまで横並びで立っていた。
「…大丈夫かな、道人?あたしたちの思い出を元にしたドレス、みんなに伝わるかな…?」
愛歌は急に不安になったのか、道人の右手を握った。道人は愛歌の方を向いて話す。
「こういうのってさ、みんなの事を考えてやるよりも、一人の大事な人の事を思いながらやった方がみんなに自然と伝わるんじゃないかな?」
「…! 大事な…。」
「大丈夫、愛歌は何時も通りに振る舞ってくればいいんだよ!小芝居の大好きな、明るい愛歌をさ!僕たちの繋がりが生み出したその姿は無敵さ!」
「…! わかった!わかったよ、道人!見てて!あたしの全力!グルーナさんに魅せてやるから!」
「それではエントリーNo.16番!城之園愛歌さん、カモーン!」
愛歌は自信満々で等身大のルブランと共にランウェイを歩く。ルブランにリードされ、大人しく、慎ましく歩く一面も見せつつ、ルブランの言う事に逆らう強気でお転婆な一面も演技する。一見クールに見える青と黒のドレスからは見る事ができなかったギャップもグルーナやお客さんに好印象を与えてようだ。
「おい、あれ本当に愛歌なのか?見違えたぜ…。」
観客席で暇してた深也が道人の元まで歩いてきた。
「うん、僕と愛歌の思い出をイメージしてコーディネートしてみたんだけど…うまく表現できたみたいで良かった。」
「お前ら、すげぇな…。大したもんだ。」
道人と深也はランウェイから戻ってきた愛歌を迎えた。道人は右手でウインクしてサムズアップし、愛歌も満面の笑顔でピースした。
そして、制限時間が過ぎて参加者は皆、ランウェイを歩き終えた。参加者は普段着に着替えた後、ステージに横並びに立つ。観客席で見守る道人たち。
「さぁっ、これにて審査は終了!今から私のお気に入り作品を発表するぞぉっ!この私、グルーナに気に入られたのはぁ〜っ…!」
辺りが暗転し、ドラムロールが鳴り響く。多くのスポットライトがぐるぐると当てる参加者を探し回る。
「この人たちだぁっ!」




