37章 奇跡自在の唐傘法師
「それでは死合うか、カサエルとやら!」
「あっしの実力でどこまでやれるのか…!これは自分との戦いでもあるさぁっ!」
レイドルクは拳に炎を纏わせ、前進。カサエルは三度傘を空中で並べてレイドルクの前進を妨害する。レイドルクは三度傘の一つを殴った後、後ろに下がる。
「こざかしい傘よ!」
三つの三度傘がレイドルクの周りを素早く動き回り、肘や膝に当てては離れるヒット&アウェイを繰り返す。三度傘はレイドルクの炎の拳を物ともしない。大樹はその間に道人たちにデバイスの使い方を聞いていた。
「この画面でカサエルのヘッドチェンジができるんじゃな?」
「そう、後は現れたカードをデバイスに読み込ませればいいんだよ。」
「道人のその右腕みたいなのは…。」
「このガントレットは僕だけだから気にしないで。」
大樹は画面を操作し、今あるヘッドを確認した。
「シールド、キャノン、バスターキャノン、ザンバー…。これは俺がルートタスに使っているヘッドじゃな…。後は見た事のないのが三つあるのう。錫杖、【奇跡自在】、【唐傘法師】…。名前だけじゃわからんな…。」
大樹は右手で逆立った髪をくしゃくしゃした。
「多分、【唐傘法師】ってのがディサイドヘッド?」
「いや、【奇跡自在】…?どっちだろう?」
道人と愛歌はとりあえず大樹にディサイドヘッドの事を教える。
「…わかった。二回目以降に使える切り札がディサイドヘッドなんじゃな。よし!行くぞ、カサエル!」
「頼むさぁっ、大樹!」
「【奇跡自在】も【唐傘法師】もまだ使えんみたいじゃ。なら!」
大樹は錫杖のヘッドのカードを実体化させ、デバイスに読み込ませた。
『錫杖は決して左手で持ってはなりません。わかりましたか?』
「…? は、はい…。」
『よろしい。』
カサエルに虚無層傘の頭がつき、両肩に青いマントがついた姿に変わった。右手に錫杖を持つ。
「これは…どう使うんさぁ?」
「と、とにかく振ってみるんじゃ!」
「こうか?」
カサエルが右手に持った錫杖を横に振ると近くの四つの小石に手足が生え、レイドルクに向かって飛んでいった。
「何か飛んでったさぁ、大樹。」
「よ…よし、そのまま行けぇっ!」
「む?何じゃ?このちっこいのは?」
未だに三度傘の相手をしていたレイドルクに四つの小石はレイドルクの身体にしがみつき、ポコポコ殴っていた。
「…ふん!」
レイドルクが全身から炎を発し、四つの小石を吹っ飛ばした。
「大樹、いとも簡単にやられたさぁ!」
「…もしかして…。わかった!わかったぞ、カサエル!次はあれの近くで錫杖を振るんじゃ!」
大樹は公園にある動物のスプリング遊具を指差す。
「わかったさぁっ!」
錫杖カサエルはスプリング遊具までジャンプする。
「それ、それ、それぇっ!」
スプリング遊具の近くで錫杖を振ると馬、パンダ、タスマニアデビルが意思を持って跳ねながらレイドルクに向かう。
「やっぱりじゃ!その杖は近くの物に一時的に意思を与えて仲間にできるんじゃ!」
「陰陽術みたいな感じ?」
「そう、それじゃ!」
愛歌の発言に大樹は人差し指を立てた。
「また変なのが来おった…。」
レイドルクはまた全身から炎を発したが、スプリング遊具はびくともしなかった。
「何じゃとっ!?」
レイドルクは三度傘を相手にしながら、スプリング遊具にも構う事になった。スプリング遊具のバネキックは強烈で三度傘にもぶつけてレイドルクを何度も跳ねまくる。
「奇妙な攻撃を…!?くっ…!」
「おぉっ、馬さんもパンダさんもタスマニアデビルさんも強いさぁっ!よぉし、乗ってきたさぁっ…!今度はこれさぁっ!」
象の滑り台の近くに移動し、錫杖を降るが何も起こらなかった。
「あれ?動かないさ。」
錫杖を何度も振るが象の滑り台はびくともせず、錫杖ヘッドは時間切れになった。スプリング遊具は元の場所に戻る。
「どうやら動かせる物には制限があるようじゃ…。初めてなんじゃ、仕方ない!次行くぞ、カサエル!」
「あぁ、大樹!」
レイドルクは三度傘を潜り抜けてカサエルに拳を当てに行くが、カサエルは右手に傘を持ち、開いて拳をガードする。その後、また三つの三度傘をレイドルクの周りを素早く動いて身動きを封じる。
「どうした?殴り合いせんのか?」
「あっしの腕力じゃ、お前さんの固い身体には通用せんさぁっ!距離を置かせてもらうさぁっ!」
「ならば、これを使わせてもらう!」
レイドルクは炎の竜の顔を取り、氷の竜の頭を新しくつける。背中に氷の翼が装着され、全身から冷気を発生させる。三度傘が少しずつ凍り始める。
「うわっ!?何て事を!?このままじゃまずいさ!」
大樹は三度傘が凍りついて地面に落ちる前にデバイスを操作し、この状況を打開できるヘッドを探す。
「【奇跡自在】と【唐傘法師】…。どっちも使えるようになっとる…。どうやら二つともディサイドヘッドのようじゃ。」
「えっ?ディサイドヘッドが二つ?」
「そんな事あるんだ…。」
道人と愛歌は今までなかったケースに驚く。
「えぇい、【奇跡自在】で行く!何か強そうじゃし!行くぞ、カサエル!」
「合点さぁっ!」
『ディサイドヘッド、承認。この承認に問いかけは必要ありません。』
カサエルに顔全体に白い布が巻かれたヘッドが装着される。
「な…何じゃ、このヘッド!?」
道人たちは驚く大樹に視線を集める。
「このヘッド、制限時間が十五秒しかない!?」
「えっ!?は、早くしないと!」
道人たちは大樹にアドバイスしようとするが、【奇跡自在】の能力がわからないのでどうしようもなかった。三度傘が完全に凍りつき、地面に落ちたタイミングでレイドルクは両手の拳に冷気を纏い、カサエル目掛けて飛んだ。
「わっ、わっ!?どうするさぁっ!?このままじゃ殴られる!」
「カサエル!危ない!どうすれば…!?」
「「と、止まれぇっ!」」
『奇跡実行。』
大樹とカサエルが同じ言葉を発した時、カサエルの頭が虹色に輝き出し、レイドルクが空中で動きを止めた。
「な、何じゃと!?う…動けん…!?」
レイドルクは身体に力を入れるがびくともしない。
「お前たち、一体何を…!?」
カサエルの【奇跡自在】が解除され、頭がなくなった。何が起こったのか大樹たちは状況を飲み込めず、唖然とする。
「何やってやがる!?今がチャンスだろ!」
傷ついたランドレイクの側にいた深也が叫び、大樹とカサエルは我に返る。
「そ、そうじゃ!あいつが何時動き出すかわからん!今があいつに勝つチャンスじゃ!最後のヘッドチェンジ…!これに全てを懸ける!」
大樹は【唐傘法師】のカードを実体化し、デバイスに読み込ませる。
『ディサイドヘッド、承認。この承認に問いかけは必要ありません。』
カサエルに藁の三度傘がついた頭が装着され、緑色のマントと黒い装束も新たに装備される。白い唐傘が一本カサエルの前に出現する。
「一本の唐傘を…ニ、三、四いさぁっ!」
カサエルが両手を左右に振ると一本だった唐傘が四本に増える。カサエルが人差し指で傘にちょんちょんと触れていくとそれぞれ赤、青、緑、黄と色づいていく。凍っていた三度傘も復活し、カサエルの元へ飛んでいった。
「【唐傘法師】カサエル!あ、推参!」
右手に出現させた傘を右肩に置いた後、唐傘が一斉に開き、カラフルな花びらがカサエルの周りに舞い散る。
「綺麗…。」
愛歌はカサエルの芸を見て思わず感想が出てしまっていた。
「さぁ、あっしの大道芸!しかと見よ!大樹、三度傘の操作は任せるさぁっ!」
「任せろ!」
大樹はデバイスで三度傘を操作し、カサエルの唐傘と共にレイドルクの元へ飛ばした。レイドルクはノコギリのように高速回転する唐傘と三度傘に全身を刻み込まれる。レイドルクからたくさんの火花が散る。
「ぐあぁっ!?小癪…!」
「まだまださぁっ!追加でゴムボール、タライ、風呂桶も持ってけさぁっ!」
三個のゴムボールが三度傘や唐傘にバインドし、タライと風呂桶も高速回転して新たにレイドルクを刻みつける。
「お前、よくぞ…!」
レイドルクはカサエルを見るが、さっきまでカサエルがいた場所にもうカサエルはいなかった。
「何っ!?どこへ行った!?」
「ここさぁっ!」
カサエルは高くジャンプし、何かを出現させてレイドルク目掛けて落下する。
「何じゃ、あれは!?」
「あっしのとっておきの、シャンデリアさぁっ!」
カサエルはシャンデリアをド派手にレイドルクに落とした。周りにガラスの破砕音が鳴り響き、ガラスの破片が周りに飛び散る。
「ぐわぁっ…!?ぐっ、よし…!」
レイドルクは自分の身体が動けるようになった事に気づき、冷気を纏って高く飛翔し、空中に静止した。カサエルを上空から見下ろす。
「…くっくっくっ、かっかっかっかっかっ…!」
「な、何がおかしいさ?」
突然笑い出したレイドルクを不気味に思うカサエル。
「いやぁっ、見事!わしの身体にここまで傷を負わせたの者はなかなかおらん!誇るがよいぞ、カサエルとやら!いやぁっ、殴り合いとはまた違った珍しい闘いであった!お前は何をしでかすかわからんかったから、先読みもできん!実に愉快よ!」
レイドルクは腕を組んで機嫌良く何度も頷いた。
「…あっしの芸は本来、戦で披露するものじゃないさぁ。お前さんにはこんな形ではなく、何時か客として芸を見せたいさぁ。」
「わしさえも客と扱うか。面白い奴よ。だが、わしにその気はない。わしは戦の中でしか生きられぬ。今更生き方は変えられん。」
「それでもあっしは…あっしを曲げたくない。」
「ふん、いいじゃろう。お前の信念か、わしの信念か、最後まで貫けるのはどちらか、いずれ決着をつけよう。」
「あぁ、ありがとうさ。」
「…? 何故礼を言う?」
「さぁ?あっしにもわからん…。だか、何となく言いたかったさぁ。」
「…ふん、わしも今日は楽しかった。そこのランドレイクとやら、お主もの。」
深也とランドレイクは言ってろ、っとレイドルクを睨んだ。
「お前たちの生への執着、まだ高まると見た。ここで刈り取るのはまだ惜しい。今日は引こう。さらばじゃ、チキュウの戦…いや、強者たちよ。」
レイドルクは高く飛翔し、この場を去った。カサエルはディサイドヘッドが解除され、その場に座る。カサエルの元へ走る大樹たち。
「大丈夫か、カサエル!?」
「つ、疲れたさぁっ、大樹〜っ…!戦いはやっぱり疲れるさぁっ!」
カサエルは力を抜き、夕焼け空を見上げた。
「でも、カサエル、強かったよ!」
「うん!かっこよかったよ、カサエル!」
道人と愛歌はカサエルに賞賛の声を与えた。
「褒められるのは良いけど、褒められるんだったら戦いよりも大道芸の方がいいさぁっ。」
カサエルはゴムボールでお手玉をやり出す。カサエルらしさに思わず笑い出す道人たち。
「カサエル、これからもよろしくな!」
「大樹…。あぁ、こちらこそよろしくさぁっ!」
大樹とカサエルは夕日をバックにし、強く握手をした。




