36章 天邪鬼なカサエル
ランドレイクとレイドルクは周りに炎と雷を撒き散らしながら高速で殴り合っている。拳がぶつかり合う重音が辺りに鳴り響いていた。
「…なぁ、カサエル。その…初めましてじゃ。まだ自己紹介してなかったの。俺は千葉大樹。よろしくな。」
「あ…あぁ、あっしはカサエル。お前さんの名前は意思を持った時から知っておったさぁ。お前さんがあっしのパートナーだって事も…。」
道人たちは大樹とカサエルの会話が気に掛かった。ランドレイクとレイドルクの闘いを見ながら、大樹とカサエルの会話も聞くようにする。
「どうしテ、あたしたちにパートナーを知らないって言ったノ?何か訳があったのなラ、聞かせテ。」
トワマリーがカサエルに問いかける。
「それは…あっしは大樹を戦いに巻き込みたくなかったんさぁ。あっしは博士に多少は武装をつけてもらってはいるが、昔からあまり戦闘が好きじゃない…。もし、こんなデュラハンと関わって大樹に何かあったら…そう考えるとあっしは…。」
「そうじゃったのか…。」
大樹はカサエルの右肩に手を置いて下を向いた。
道人は今のカサエルの発言で気になる点があった。カサエルが起動したのは昨日の事だ。なのにカサエルは昔から戦闘が得意じゃないと言っている。今まで気にしなかったが、今思えばジークヴァルたちは生まれて間もないのに人格が整い過ぎている気がする。道人はその事を引っ掛かりつつもカサエルの言葉の続きを聞く事にする。
「それでもあっしは大樹の事が気になってしまったさぁ…。戦いには巻き込みたくないが、友達にはなりたい!あっしながら、我儘な奴でさぁっ…。」
「何言っとるんじゃ!俺は喜んでお前と友達になってやるぞい!遠慮なんているもんかい!」
「大樹、ありがとうさぁ…。あっしは起動する前からお前さんの記憶が頭に流れ込んできていた…。両親の事も、デュエル・デュラハンの事も、陶芸の事も…。」
「そ、そうなんか?」
「私もヨ。私も起動する前に愛歌の記憶が見えていたワ。」
「そ…それ、何か恥ずかしいんだけど…。」
愛歌は頬を染めてトワマリーから視線を逸らして両手でスカートを掴んだ。トワマリーはごめんごめんと謝る。
「私も起動する前に道人の見ていた夢を共有していた。目覚める前から遠くから弱くはあったが、道人に言葉を飛ばす事もできた。」
「…? 私は起動する前に愛歌ニ言葉を飛ばす事なんてできなかったけド?」
「あっしもそれはできんな…。」
「何…?個人差でもあるのだろうか…?」
確かにジークヴァルは起動する前から自分の名を何度か呼んでいた。それどころか、潤奈にまで声が聞こえていた。潤奈から聞いた話だとフォンフェルも起動する前から潤奈に言葉を送れていたという。この差異は何だ?と道人は疑問に思ったが、今はここで考える事じゃない、と気にしない事にした。
「…大樹はすごいさぁ。両親が亡くなった悲しみにも折り合いをつけ、立ち直った。デュエル・デュラハンも、陶芸にも全力で挑んで妥協は許さない。その姿勢にあっしは憧れを抱いたさぁ。」
「い、いくら何でも持ち上げ過ぎじゃ、カサエル…。」
大樹は少し照れて右頬を掻いた。
「そして、今日あっしはパークから抜け出して大樹に会いに行こうとした。だが、会って話す勇気がなく、遠くから見ているだけだったさぁ…。そして、あのピエロが現れ…。軽率な行動だったさぁ。あっしは辛うじて大樹たちを守る事はできたが、フォンフェルを傷つける事になってしまった…。だから、あっしは己の無力さを思い知り、あの場を立ち去ったのさぁ…。」
「そうだったのか…。」
道人たちはカサエルの取った行動を理解し、下を向いた。
「あっしは戦うのが嫌いというより、戦って大樹を、みんなを守れなかった時が怖いのさぁっ…!だから、あっしは戦えない…!戦えないのさぁっ…!」
カサエルは両手で地面を殴り、下を向いた。
「チッ!ライトニングフィストが消えやがったか…!」
「ふん、今のはなかなか良い殴り合いじゃった!さて、最後のヘッドチェンジはどうするんじゃ?」
カサエルの話を聞いている間、ランドレイクとレイドルクは殴り合いを続けていたが、ライトニングフィストヘッドが時間切れになってしまったようだ。
「あの爺さんの炎の翼のせいで濡れた地面も乾いてやがる…!しゃあねぇっ、ディサイドヘッドでケリをつける!行くぜ、ランドレイク!」
「オーライ、船長!三分以内に倒してやるぜ!」
「その意気や良し!来い!」
深也はパイレーツのカードを実体化し、デバイスに読み込ませる。
『ディサイドヘッド、承認。この承認に問いかけは必要ありません。』
「行くぜ、おらぁっ!」
パイレーツランドレイクに姿を変え、レイドルクに右手のクローと左手に持った三日月刀で襲い掛かる。
「…わかった!決めた!お前の気持ちはわかったぞ、カサエル!お前は戦わんでいい!」
「…えっ?」
大樹の発言にカサエルだけでなく、道人たちも驚く。大樹はカサエルの右肩に手を置き、見つめた。
「お前は戦うには優し過ぎるんじゃ…。そんな穏やかな心で無理に戦えば、お前の心は何時か砕けてしまう…。俺も決めた!お前の気持ちを汲んで俺も戦わずに日常を過ごす!それでいいんじゃろう?我が友!」
「…大樹、それは…。」
「カサエル、私たちは昨日君の芸を見て感銘を受けた。今後バドスン・アータスとの生存を賭けた戦いは激しくなるだろう…。そんな時、落ち込んで悲しい思いをしている人たちに温かな光を与えられるのはお前みたいな存在だ、カサエル。」
「ジークヴァル…。」
「私モこんな争いさっさと終わらせテ、愛歌たちと思いっきり遊びたイ!その時が来たラ、カサエルも一緒ニ遊ぼうネ。」
「トワマリー…。あっしは、あっしは…。」
「ぐあっ!?」
レイドルクはパイレーツランドレイクの右足に炎を纏った足で何度も蹴りを入れ、地面に倒した。ランドレイクはすぐに立ち上がろうとするが、右足に電流が走って立ち上がれない。
「しまった!?右足が…!?」
「もう終わりじゃな、海賊。さて、覚悟!」
レイドルクは宙に浮かび、炎の翼を広げて空高く飛翔した。
「なかなか楽しませてもらった!これは礼じゃ!」
「ランドレイク!!」
レイドルクは足に炎を纏わせて急降下し、ランドレイク目掛けて飛び蹴りを喰らわせようと落下する。
「う…うわあぁぁぁぁぁーっ!!」
その時だった。カサエルは立ち上がり、ランドレイクの元まで駆ける。三つの三度傘をランドレイクの前に飛ばし、レイドルクの飛び蹴りを三度傘で防いだ。
「何じゃっ!?この頑丈な傘は!?」
レイドルクは空中で一回転した後、地面に着地する。カサエルは宙に三度傘を浮かせたまま、ランドレイクの前に立つ。
「カ、カサエル…?」
大樹たちは急にレイドルクの元へ走っていったカサエルを見る。
「…あっしは、あっしながら変な奴でさぁっ!戦わなくていい…。その言葉は逆にあっしの心に勇気を与えてくれる…!あっしながら、呆れるくらいの天邪鬼っぷりでさぁっ!」
「ほぉっ…。」
レイドルクは腕を組み、カサエルの言葉に耳を傾ける。
「あっしの悩んでいる事はあっしだけの悩みじゃないさぁっ!ジークヴァルたちも戦いたくて戦ってる訳じゃない!ジークヴァルたちも、もしパートナーを守れなかったらと考えるのは戦っている以上当然の事さぁっ!なのにあっしは…!」
「カサエル…。」
大樹は無意識に右手で握り拳を作る。
「あっしは今、ランドレイクのピンチに足を動かさずにはいられんかったさぁ…!戦いが苦手でも、目の前でピンチに陥っている友達を見捨てる訳にはいかないさぁ…!」
カサエルは右手で作った握り拳を見つめる。
「あっしが戦わない間にも、悩んでいる間にも、結局犠牲者は出る…!あっしは決めた!例え悩んでいても、戦いが苦手でも…大事な友達も、未来の神様であるお客様も守りたい!守らねばならない!苦手な戦いに身を投じる事になってもあっしはその戦いの中であっしなりの答えを見つけてみせる!!」
その時、大樹の右手が輝き出し、デバイスが出現した。ネックレスも現れ、首に巻かれる。
「これは、道人たちと同じ…?」
「…大樹、すまん。あっしは結局お前さんを危険に巻き込む事になってしまったさぁ…。」
「…何を言っておるんじゃ!戦わなくていいと言った矢先に急にやる気になりおって…全くのぉっ!」
「す、すまん、大樹…。」
カサエルはしょんぼりし、下を向く。
「…でも、かっこいい決心じゃったぞ、カサエル!安心せい!俺は不死身じゃからのぅ!そう簡単にはくたばらんぞい!だから、一緒に戦いの中で探そう!お前の、俺たちの答えを!」
「…! あぁ!頼むさぁっ、相棒!」
「…かっかっかっ!」
急にレイドルクが笑い出し、カサエルたちは一斉にレイドルクを見る。
「なるほどな!これがヴァエンペラやダジーラクが恐れるディサイドか!面白い!お主、さっきまでとは別人のようじゃぞ?その強さならさっきのわしとお前の問答は意味を持つ!興味が湧いてきたぞ…!滾ってきたわ…!」
「お、おい!待て!お前は俺らと戦ってる最中だろ?一対一はどうなる!?」
深也はレイドルクに対して突っ込んだ。レイドルクがランドレイクを見ると、ランドレイクのディサイドヘッドが時間切れで解除される。
「…もうお前さんらはヘッドチェンジを使い切ったろう?それではつまらん。今度また相手をしてやろう。その時はまた生への執着をわしにぶつけて来るがいい!」
「お、おい!」
レイドルクはカサエルと対面し、睨み合って右手をポキポキ鳴らした。
「…大樹、あっしは戦闘力があまりない…。あっしがどこまであいつとやれるかわからないが、サポートを頼めるか?」
「もちろんじゃ!どこまでも付き合うぞ、相棒!」
カサエルは右手に傘を持ち、開いて右肩に乗せる。三度傘を自分の周りに回転させて宙を舞わせる。
「さぁ、魅せてやる!あっしの大道芸!」




