3章 トワマリーVS謎のデュラハン
「…着いたよ。」
「う、ん…?」
意識を取り戻した道人は自分が冷たい地面に横たわっている事に気づき、ゆっくりと上半身を起こした。
「ここは…?」
「…デュラハン・パークの実験エリア…の室内。」
「実験、エリア…?」
「デュラハン・パーク」は御頭街の海岸にある四つの人口島で作られた大型施設。それぞれ遊園地エリア、開発エリア、実験エリア、会社エリアの四エリアで形成されている。デュエル・デュラハンが流行る前は遊園地エリアと会社エリアはなく、「式地悟」というデュエル・デュラハンの生みの親である博士の研究所がある島だった。デュエル・デュラハンが流行った後に短期間で二つの人口島を追加で作ってしまう凄まじい科学力の持ち主だ。
「って、実験エリア…えぇっ!?」
道人は急いでポケットからスマホを取り出して時刻を確認したが、まだ六時二十七分だった。商店街から徒歩十五分でやっとパーク行きモノレールの駅まで辿り着けるというのに信じられない事に一瞬で実験エリアの島まで来てしまった。
「ははっ、そんなはず…。」
道人は何度も首を左右に動かして周りを確認した。人気は全くなく、机と本棚があるくらいで他には何もない真っ白な部屋にニ人はいた。
「ん…?」
少女は道人の右頬に突然手を当ててじっと見つめてきた。
「えっ!?な、何…か?」
「…身体に違和感、ない?」
少女は道人の全身を隈なく見た。
「だ、大丈夫!?何とも、ないよ…。」
「…ううん、右手。構成が乱れてる。このままじゃ駄目だよ。」
少女は道人の右手を両手で挟んだ。一瞬手が光ったのだが、道人は少女に見惚れていて気づかなかった。
「…これでよし。もう大丈夫だよ。」
少女はほんの少し笑みを浮かべた。道人は急に女子に身体を触れられたり、手を握られたりで恥ずかしさを感じ、体温が急上昇した。
「…このすぐ下の階が目的地だね。行こ。」
「…はっ!?ま、待ってよ!」
道人は急いで立ち上がり、彼女の後ろを着いていった。今いる部屋を出てすぐ曲がった所に自動ドアがあった。その先に階段があるのがガラス越しに見えるが、関係者以外は入る事ができない場所みたいだ。
「あぁ、駄目だよ。カードキーがないと入れない。パスワードも必要みたいだし。」
「…大丈夫。フォンフェル、お願い。」
少女が携帯機のようなものを取り出して操作したらすぐに自動ドアが開いた。
「…君って怪盗か何か?」
「…怪盗?何?」
「いや、何でもない…。先に進もう。」
道人はもう理解するのは諦めて自動ドアの先へと進み、階段を降り始めた。
(彼女の今持ってた携帯機、愛歌も似たようなものを今日持ってたような…?)
道人は帰り道に愛歌が急用があると言って去っていた時の事を思い出していた。今流行りの機械なんだろうか?と気になりながら階段を降りていたら、何か激しい音が聞こえてきた。金属が何度もぶつかり合うような重い音が。
「何の音だ…?」
階段を降りきり、音がする方の部屋に入った。大きい窓ガラスと何かの機械しかない真っ白な部屋だ。
「目的地、ここで合ってるの?」
少女に聞こうと後ろを振り向いたら、何故か少女の姿はなかった。
「あ、あれ?どこ行ったの?」
階段を降りる際、二人分の足音が聞こえていたので間違いなく一緒に降りたはずなのだが、少女の姿は見当たらない。捜しに戻ろうかと思ったその時、窓ガラスの向こうから知っている声が聞こえてきた。
「いいよ!そこ、トワマリー!」
「…! 愛歌?」
間違いない、愛歌の声だと道人は確信し、走って窓ガラスの向こうを見た。
「…え?」
その光景を見た瞬間、道人は理解ができず、固まった。
「何だ、あれは…?」
道人は動揺したが、何とか状況を理解しようと落ち着いて観察する事にした。道人の眼前に広がっているのは広大な空間の中で闘っている二体の等身大のデュエル・デュラハン。
一体は両手にリングのような武器を持ったピンク色の首無し騎士。鎧には蝶や花弁の装飾が刻まれている。後ろには険しい顔をした愛歌が立っていた。右手に例の謎の携帯機を持っている。
もう一体は両手にでかい鉤爪をつけた、青色の獣みたいな奴でこいつには首がついている。胸に獣の顔がついているので多分デュラハンだろう。
「…えっ、と。ここは実験エリアだし、デュエル・デュラハンの新しいゲーム、なのかな…?それで愛歌はそのテストプレイヤー…とか?」
いや、違う。道人は何とか自分で捻り出した考えをすぐに否定した。それにしてはあの部屋は荒れすぎている。地面や壁にはたくさんの爪痕があり、愛歌は闘いで起こった土煙で服が汚れているし、少し怪我をしているみたいだ。ゲームにしては命懸けすぎる。
「…ふん、紛い物にしては結構粘るじゃねぇか、お嬢さんたち?」
獣の騎士が急に喋り出したので道人はびくっと身を震わせた。
「…!? あなた、喋れるの!?」
愛歌も獣の騎士が喋った事に驚いた。後、この部屋はガラス向こうの部屋の会話をマイクで拾って聞こえるようになっている事に道人は気づいた。
「うちの軍には優秀な科学者がいてね。この星の翻訳もお手の物さ。日本語って言うんだろ、これ?」
狼の騎士は自分の喉を親指で指差した。
「自己紹介がまだだったな。俺の名はライガ。バドスン・アータスの特攻役よ。」
(バドスン・アータス…?それって…。)
あの謎の少女と出会った時も言っていた言葉だと道人は思い出した。行方不明の父の手掛かりになるかもしれない言葉。道人はライガの発言を注意深く聞く。
「話ができるんだったら、聞きたい事が山ほどあるわ!あなたたちの目的は一体何なの!?」
「聞きたいなら、教えてやってもいい。だが…。」
ライガは突進する構えを取り、鉤爪に青い電流を発し始めた。
「俺に勝って生き残れたらなぁっ!」
勢いよく前に飛び、物凄いスピードで愛歌の元へ跳んだ。
「愛歌!!」
道人は窓ガラスを両拳で叩いた。
「トワマリー!」
「愛歌には近づけさせなイ!」
トワマリーが五つのリングを前に飛ばし、リングを不規則にライガの周りを飛び回らせ、突進を阻止した。
「ちっ!小賢しい!」
ライガは姿勢を崩し、着地した。
「愛歌、今の内にヘッドチェンジヲ!」
「わかった。行くよ、トワマリー!」
愛歌が首から下げているネックレスが発光し、携帯機を操作すると左手にカードが出現した。そのカードを右手に持った携帯機にカードスラッシュして読み込ませた。
「ヘッドチェンジ!ストリングスヘッド!」
『あなたは決して切れない繋がりを求めますか?』
携帯機から女性の声が流れた。
「当っ然!」
『承認。』
承認の音声を得て、トワマリーの胸の顔がエンブレムに変形し、頭パーツを新たに装着。背中に巨大なリングが二つ装着され、長い紐を持った形態に変化した。
「もうお嬢さんは俺との闘いで既に二回頭を変えた。マーシャルから聞いた話だとお前たち紛いものは三回しかヘッドチェンジができない。しかも一つにつき、三分しかもたないときた。三分以内にこの俺を倒せないともう頭なしで戦うしかなくなり、不利になる…。俺たちは時間制限なしだってのに不便なもんだねぇ。」
「あなたを倒すのに三分もいらないよ!行って、ストリングストワマリー!」
「愛歌の意思に必ず応えてみせル!」
「その意気や良し、ってなぁっ!」
トワマリーは背中の二つの大きいリングを着脱、ストリングスとリングが繋がり、ヨーヨーみたいに振り回した。それを物ともせず、ライガはトワマリーの攻撃を避けて間合いを詰める。
「そらぁっ!」
ライガは右手の鉤爪を勢いよく前に出す。トワマリーに攻撃が届く前にライガの左足に小さいリングがぶつかり、姿勢を崩した。
「何っ!?」
トワマリーは姿勢を崩したライガにすかさず蹴りを入れ、吹っ飛ばした。壁に激突し、煙が舞う。
「今よ、トワマリー!」
小さなリングを前に飛ばして空中に固定。それを足場にして、ストリングリングが届く距離まで飛び跳ねた。
「これデ、終わリ!」
トワマリーは二つの巨大なリングを前に投げ、ライガの首と胴体にチェーンソーのように激しく回転したリングを削り当てた。
「いいぞ、愛歌!デュラハンの頭と胴体を同時に攻撃できた!このまま押し切れ!」
道人も愛歌の勝利を確信し、右手でガッツポーズをした。そう思ったのも束の間、ライガが全身から青い電流を発生させ、トワマリーを吹き飛ばした。
「きゃアっ!?」
「トワマリー!」
「なかなかの攻撃だった!だが、まだ詰めが甘かったなぁっ、お嬢さん!」
ライガは全身に纏っていた電流を鉤爪に移動させ、目にも止まらぬ動きで前進。まだ立ち上がっていないトワマリーに急接近し、勢いよくバツの字にトワマリーの胴体を引っ掻いた。
「きゃぁぁぁァーっ!?」
壁に激突したトワマリーの頭は消滅し、機能停止した。愛歌は言葉を発する事もできず、その場に膝をついた。