34章 武人レイドルク
「…来たか。」
公園の入り口にデュラハン輸送トラックが止まり、道人たちはすぐに降りて竜人を見る。既にボディにインストール済みのジークヴァル、トワマリー、ランドレイクもトラックのコンテナから出てきて道人たちの近くに立った。
「待っておったぞ、チキュウの戦士たちよ。わしはシチゴウセンが一人、レイドルク。」
「てめぇっ、何が目的だ?こんな公園で何で何もせずに待っていた?」
深也が先にレイドルクへの疑問をぶつけた。
「何、お前たちがライガ、ダーバラ、ラクベスと次々と倒している強者と見てな。武人として相見えたくなったのよ。年は取ってもこの衝動だけは止められん。」
「闘いにきただけって事?」
愛歌がそう発言した後、道人たちはどういう事だ?と仲間内で見つめ合った。次は道人がレイドルクに問う。
「お前たちの目的はこの地球をデュラハン・ハートの採掘星に変える事なんだろう?」
「確かにバドスン・アータスの目的はそうじゃが、わしにとってはそれはあまり興味がない。わしは戦う事が好きなだけじゃ。闘って、闘って、闘い尽くした結果、バドスン・アータスの目的へと繋がる…。それだけよ。わしはこの拳で相手を完膚なきまでに倒したい。それだけが我が人生よ。」
「バドスン・アータスの命令とかじゃなくて、お前個人の目的で来たって言うのか?」
「無論。現にわし一人で来た。わしは一対一の闘いを好む。あくまでこれはわし個人の拘りじゃ。お前たちが束で掛かって来ても構わん。ただし、わしの目当て以外の攻撃は相手にせん。わしが拳を当てるのはわしが闘いたい相手ただ一人よ。」
レイドルクは指を曲げた右手を力で震わせた後、握り拳を作る。握り拳を作った際の風圧が道人たちにも届く。
「…敵ながらあっぱれ、ってか?」
深也がそう発言し、また道人たちは仲間内で見つめ合う。
「さて、そこの木の上におる奴。こ奴らが来る前からわしをずっと見ておったが、何か話があるのではないか?」
レイドルクが言い終わると木の上にいたカサエルがジャンプし、道人たちの前に着地した。
「カ…カサエル、あのな…!」
「おっと、待っててな、大樹。あっしは先にこいつと話があるでさぁ。」
カサエルは大樹を見た後、視線をレイドルクに向けた。
「…お前さんの戦う理由、確かに聞かせてもらったさぁ。あっしは雷が気になって、ここに来たらお前さんを見つけた。ずっと様子を見ておったが、確かにお前さんはジークヴァルたちを待っている間、何もせんかった。だが、一つ問いたい。さっきの話、お前さんは言っていない事がある。」
「ほう、何じゃ?」
「お前さん、闘いで巻き込まれる人たちの事はどう思っているのさぁ?」
「ふん、知れた事を。闘いに巻き込まれ、逃げ惑っている時点で既に弱者。わしには興味はない。」
道人たちはレイドルクのさっきまでの武人肌な一面と打って変わり、非情な言葉を聞いて騒ついた。
「やはりか…。お前さんが現れてからこの公園に近づく人をあっしは三度傘を操作し、こんな形で驚かす事になって申し訳ないが、ここから遠ざけた。それは正解だったさぁ。ここが人気の少ない公園で良かったさぁ。」
カサエルは右手で握り拳を作るが、すぐ力を抜いて下ろした。
「お前さん個人で闘いを好むのはお前さんの勝手だが、残念ながらお前さんが所属しているのは大勢の民を苦しめる組織さぁ。お前さんが闘いを楽しんでいる最中、周りで巻き込まれて散っていく人を見て何とも思わんのか?」
「わしが興味があるのは強者のみ。弱者などどうなっても構わん。」
「あっしの信条は『お客様は神様なり』。例え今はまだ面識のない人でも何時かはあっしの芸を楽しんでくれるお客様になってくれるかもしれないさぁ。だから、どんな人でも助けたいさぁ。」
「ほぉ、良い志じゃ。」
「お前さんは違うのか?お前さんが闘いたいという強者はお前さんが興味がないと見捨てた人たちの中にも現れるのではないのさぁ?」
「詭弁を。確かに故郷を滅ぼされ、その時の怒りや復讐心で強者になる者は現れるのかもしれん。じゃが、わしにとっては滅ぼされている時点で既に弱者!わしはそのような輩には決して負けん!」
「あいつ…!」
道人は今の発言を聞いて潤奈がこの場にいなくて良かったと思ったと同時に怒りが込み上げ、両手で握り拳を作って震わせる。
「わしが好む強者とは死にたくない、滅ぼされたくないと必死で足掻く想いから出でる強さ!生への執着!それをわしが正面から叩き潰す事で得られる勝利こそが我が誉れなのだ!もう既に守る事を諦め、逃げる事しかできなかった者など、眼中にないわぁっ!」
「…随分と歪んだ爺さんだな…!」
深也も歯軋りをし、怒りに満ちていた。
「どうした?わしが憎いか?掛かって来たらどうだ、カサエルとやら。」
「…あ、あっしは戦いは…嫌いさぁ…。」
カサエルはレイドルクから目を逸らし、下を向いた。
「…ふん、何じゃ。つまらん。お前、さっきは今は面識がない人でも何時かは自分の芸を楽しんでくれるお客様になってくれるかもしれないからどんな人でも助けたいと言っておったではないか!なのに戦いが嫌いじゃと?戦わずしてどう守るというのじゃ?余りにも…。」
「黙れぇっ!黙るんじゃ!」
大樹が我慢できず、レイドルクを睨んだ。
「カサエルは俺のパートナーじゃ!これ以上の侮辱は俺が許さんぞ!!」
「大樹…。」
カサエルは後ろを向いて大樹を見る。
「…ふん、麗しい友…。」
レイドルクが何かを言う前にジークヴァルと道人がレイドルクに近づき、拳を向けて黙らせた。
「…もういいよ。」
「さっさと始めるぞ。」
「…ふん、良い闘気じゃ…!」
レイドルクは後ろに飛び跳ね、滑り台の上に着地した。
「いいじゃろう。話が長くなった。さぁ、死合おうか…!」
レイドルクは腕を組み、ジークヴァルたちを観察した。
「ふむ、ジークヴァルはわしが倒したらライガの奴がうるさい。トワマリーはダーバラの獲物…。カサエルは…ふん、さて。となると、ランドレイクか。デストロイ・デュラハンからディサイド・デュラハンになった漢、興味はある。」
「…おい、ご指名だぜ?ランドレイク。」
「嬉しいねぇっ!あのいけ好かねぇ爺さんを真っ先にぶっ叩きにいけるとは!」
「受けた喧嘩は買ってやる…!行くぜ!」
深也とランドレイクは前に進み、レイドルクと対峙する。
「…あっしは、あっしは…。」
「カサエル、待ってな…!すぐ思いついちゃる…!」
膝を地面につけ、悲しむカサエルに大樹は寄り添い、励ます言葉を必死で探していた。




