32章 戯れるピエロ
「主、危ない!」
潤奈目掛けて突進してきたピエロデュラハンの前にフォンフェルが一瞬で現れ、日本刀でピエロの鉤爪を防いだ。日本刀を勢いよく横に振ってピエロデュラハンを下がらせる。
「な、何じゃ?忍者?」
大樹は突然現れたフォンフェルに驚き、動揺する。車を大樹の家に止めていた虎城も異常を察知して駆けつけた。
「虎城さん、博士に連絡してジークヴァルたちの輸送をお願いします!」
「わかりました、道人君!」
虎城はスマホを取り出して司令室に連絡を取る。
「出てきて、ハーライム!」
道人はスマホをかざし、スマホの中からハーライムを実体化させる。
「道人、どうした?」
「はぁっ!?ハーライム!?何で?現実に?」
「驚かせてごめん、大樹君!後で説明するから!」
愛歌は両平手を合わせて大樹に謝った。
ハーライムはフォンフェルの横まで飛び、共に並んだ。
「くっ、こういう遭遇戦となるとあの二人に頼り切りになってしまうな…!」
「そうだネ…。お願イ!頑張っテ、お姉ちゃンたち!」
デバイスの中で己の無力さを嘆くジークヴァルとトワマリー。道人と愛歌の持つデバイスを不思議そうに見る大樹。
「何じゃ…?何なんじゃ、一体…?道人、愛歌、お前たちは…?」
大樹はもう理解不能状態に陥っていた。ピエロデュラハンは身体をゆらゆらと動かしてその場で立っていた。
「…あのピエロ、何も仕掛けてきませんね。」
「こちらも時間がない。仕掛けるぞ、フォンフェル殿!道人、ヘッドチェンジを頼む!」
「わかった!ヘッドチェンジ!バインドブーメラン!」
ハーライムにバネを模した頭と両肩が装着され、グリップのついた両腕も新たにつく。スプリングがついたブーメランを右手に持つ。
「潤奈、これ使って!今から道人がやろうとしている事に役立つと思うから!」
愛歌はデバイスを操作し、ストリングスのヘッドデータを潤奈のデバイスに送った。潤奈はストリングスのカードを実体化させる。
「…ありがとう、愛歌!ヘッドチェンジ!ストリングスヘッド!」
『あなたは決して切れない繋がりを求めますか?』
「…もう、何も失いたくない!」
『承認。』
フォンフェルに頭パーツが新たに装着。背中に巨大なリングが二つ装着され、長い紐を持った形態に変化する。
「まずは私からだ!」
ハーライムはバインドブーメランを投げるが、ピエロデュラハンは身体を捻って避けた。
「避けても無駄だ!そのブーメランは狭い場所でこそ、真価を発揮する!」
今いる場所は車が何とか二台は通れそうな狭い道路。周りはコンクリートの壁がずっと続いている道だ。バインドブーメランは壁を強力スプリングで何度も激しく跳ねながらピエロデュラハンに連続攻撃を仕掛ける。仕組みを理解したピエロデュラハンはバインドブーメランを何とか避け続け、隙を見て高くジャンプをするつもりのようだ。
「逃がしませんよ?さぁっ!」
フォンフェルは二本のストリングスを前に投げ、ピエロデュラハンをストリングスで巻き付けた。
「これであなたは滅多打ちです!」
身動きが取れなくなったピエロデュラハンはバインドブーメランに何度もぶつかり続け、傷だらけになっていく。バインドブーメランが壁から外れそうになった時はハーライムの両腕についたグリップでガードして跳ね返し直し、自らが壁の代用となって方向を修正する。
「うわあぁぁぁぁぁーっ!? …なんて、ねぇ?」
ピエロデュラハンはピンクの煙を発生させ、その場から消えてストリングスから脱出した。
「何っ…!?どこに行った!?」
ハーライムはバインドブーメランをキャッチし、ピエロデュラハンの行方を目で追った。フォンフェルもストリングスを巻いて手元に戻す。
「こっちですよぉ〜っ、こっち。」
声が聞こえる方をフォンフェルとハーライムが向くと縦長い箱が二つ並んでいた。
「さぁ、私はどちらに入っているでしょう?」
「…? 何だ、この敵…?」
道人たちは戦っているというより、遊ばれている感じがして不快だった。潤奈を狙っているはずなのに、似つかわしくない行動をしてくるよくわからない敵だ。
「構う事はない、フォンフェル殿!」
「えぇ、どっちも壊せばいいでしょう!」
ハーライムは右の箱をバインドブーメランで、フォンフェルは左の箱を巨大リングで破壊した。右の箱にピエロデュラハンが入っていた。
「ぐわぁっ!?正解は右!ハーライムさんが正解でした…。痛いなぁっ…。」
ピエロデュラハンは尻餅をつき、頭がないのに両手で頭を抱えるポーズを取った。
「フォンフェルさんは不正解ですね…。罰ゲームです。」
ピエロデュラハンがそう言うと今まで左手に持っていた四角い頭パーツを装着し、フォンフェルの身体に爆弾の頭をつけた小さいピエロ六体が急に出現し、笑いながらしがみつく。
「何だっ…!?えぇい、離れろ!」
「さぁ、罰ゲーム、大花火の決行だぁっ!3、2…!」
カウントを取る毎に指を鳴らすピエロデュラハン。
「…!? いかん!道人、できるだけ離れろ!」
ハーライムが叫ぶが、道人たちは走る体勢を取るがもう遅い。
「1、ダイナミック!」
「大樹、危ねぇっ!!」
フォンフェルは大爆発を起こし、道人たちは何かに守られて爆風が襲って来なかった。
「…フォンフェル…?フォンフェルゥーッ!?」
潤奈の悲痛な叫びが道人たちの耳に響く。土煙が消え、フォンフェルの姿が見えてきた。
「…あ、主、大丈夫です…。爆発の割には大した事は…ぐっ…!?」
フォンフェルの身体は確かにあまり傷ついていないが、胸に右手を当てて苦しみだした。今の爆発がきっかけで発作が起こったようだ。
「やりますねぇ。咄嗟にストリングスを電柱に巻きつけ、自分から壁にぶつかってピエロを何体か地面に落とすとは。…今の爆発で人が集まってきました。馬鹿したなぁっ、私…。」
ピエロデュラハンは自分の頭パーツらしきもの三つでお手玉をしだした。
「このヘッドパーツ三つのお披露目はまた今度という事で。それでは今回はこれにて閉幕…。」
ピエロデュラハンは頭三つを鳩に変えて羽ばたかせた後、右手を右肩に当ててお辞儀をした。
「ジュンナさん、またお会いしましょう…。チャオ!」
青い煙を発生させ、ピエロデュラハンは消えた。ハーライムは時間切れで消える。道人たちを守ったビームシールドを発生させた三度傘がビームを止め、消える。潤奈たちはフォンフェルの元へ駆け寄った。
「…フォンフェル!大丈夫なの、フォンフェル!」
「もうすぐ博士たちが到着します!トラック内の設備でフォンフェルを急いで応急修理しましょう!」
虎城は潤奈たちにそう言った後、集まってきた野次馬の対処に向かう。
「…た、大樹。大丈夫だったか?怪我は?」
カサエルは大樹の両肩に両手を置いた。
「な、何じゃ、お前…?デュラハン…?」
「カ、カサエル?何でここに…?」
「な、何で大樹君の名前を…?」
大樹の元に駆け寄った道人と愛歌はここにいるはずもないカサエルを不思議に思った。
「あっしはその…。すまん、大樹!自分で会っといて何だが、あっしの事は忘れてくれ!じゃあ!」
カサエルは高くジャンプしてこの場を去った。
「カサエル、君のパートナーってもしかして…。」
「うん、そうだよね、きっと…。」
「道人、愛歌、何なんじゃ、一体…?」
突然の出来事についていけない大樹たち。混乱の中、博士たちのトラックがやっと到着した。




