31章 陶芸とピエロ
道人たちは学校で何時も通りの日常を過ごしていたが、一つだけ何時もと違う所があった。大樹が学校を欠席したのだ。欠席理由は祖父が体調を崩したので看病に専念するためだと担任の吉野先生が教えてくれた。道人たちは最近大樹と遊べてなかった事もあって、今日はデュラハン・パークに行く前に大樹の家に寄る事になった。放課後、虎城が車で迎えに来た際に大樹の家を教えて向かってもらった。
「…な、なぁ、真野。」
「…何?」
「その、何だ…。まぁ、大変だったんだな…。」
「…? まぁ、うん…。」
車に乗って潤奈と顔を合わせてから深也の様子が変だった。どうやら昨日司令たちからバドスン・アータスの情報を聞く際に潤奈の過去の話も知ったようだ。
「あーっ…ほら、ガムやるよ。」
「…あ、ありがと。」
深也と潤奈のぎこちないコミュニケーションを愛歌と一緒に眺めている内に大樹の家に到着した。ちょうど大樹は玄関で段ボールを運んでいた。道人たちは車から出て大樹に話しかけた。
「大樹!」
「…! 道人…。」
大樹は段ボールを一旦地面に置いた。
「あっ、ごめん。邪魔だった…?」
「いや、もうこれで終わりだから気にせんでいいぞ。」
「お爺さん、体調悪いって先生から聞いてさ。放課後にみんなで大樹の家に寄ろうって話になったんだ。」
「大変だったね…。具合はどうなの?」
道人と愛歌は心配して大樹に尋ねた。
「お前ら…。心配してくれてありがとうな!大した事はないんじゃ。少し熱が出ただけでもう今は薬で下がったんじゃ。明日からは問題なく学校に行けるぞ。」
それは良かった、と道人と愛歌はほっとしてお互いを見た。
「最近付き合い悪かったけど、俺も疑いすぎてたな。道人も愛歌も良い奴のままじゃ。昨日はすまんな、疑って。」
大樹は軽く頭を下げた。道人と愛歌も気にしなくていいんだよ、と大樹の頭を上げさせた。
「せっかく来てくれたんじゃ。茶でも出さんとな。遠慮せず、上がってくれ。そこの…昨日とはまた違う運転手のお姉さんじゃのぅ。あなたもどうぞ。」
「ありがとうございます。私は虎城白子と申します。以後お見知りおきを。」
「おぉ、これはご丁寧に、どうも…。」
大樹と虎城はお互いにお辞儀をした。虎城は駐車場に車を置きに行く。大樹は道人たちをちゃぶ台のある居間に案内した。
「待っとれ、今緑茶を持ってくる。」
大樹は台所に行き、人数分の茶碗を食器棚から取り出す。道人たちはその間、居間に置いてあるたくさんのお椀や湯呑みを見た。虎城が駐車場から戻ってきた。
「何かたくさんあんな、茶碗とか。」
深也が気になって道人に聞いた。
「うん、大樹はお爺さんに陶芸を教わっていて、ここにあるのは全部大樹が作ったものなんだ。」
「ここにあんの、全部か?すげぇな!」
「へへっ、お褒めに預かり光栄じゃ。」
大樹はおぼんの上に置いた六つの緑茶の入った茶碗と煎餅をちゃぶ台に置いた後、座った。
「ここに置いてある陶芸品は俺の成長の歴史じゃ。最初は爺ちゃんの真似して作ってたんじゃが、なかなかうまくいかなくてのぅ。悔しい、うまくなりたい!って思い続けて今でも続けておる。」
「…ここに置いてあるもの、見ただけでもわかる。すごく愛情が伝わってくるね。」
「な、何だかそう言われると照れ臭いのぅ…。そうだ、潤奈ちゃん、だっけ?手に持って見てみるか?」
大樹は立ち上がり、茶碗を一つ潤奈に渡した。潤奈は色んな角度から茶碗を見る。
「…うん、綺麗な形だね。特にこの鳥の模様が良いね。今にも茶碗から剥がれて飛んでいきそう。」
「はっはっはっ!そうか?この鳥の模様は確かに塗るのに苦労した…。特にこの陶芸品を作ってる時期は両親の葬式の後に作ったものじゃったから大変じゃったな…。」
「…! お前、両親を…。」
「あぁ、俺が八歳の時に交通事故での。」
「…ごめんなさい、思い出させて…。」
潤奈は自分の父の事を思い出したのか、寂しそうに下を向いた。慌てて励まそうとする道人と愛歌。
「あぁ、いや、先に暗い話をしたのは俺の方じゃ。それにこの茶碗を選んで見せたのは俺だしの。悪かった、ごめんの、潤奈ちゃん。」
「…ううん、平気。ありがとう、心配してくれて。」
潤奈と大樹はお互いに笑い合った。
「何、寂しくなんかないぞ?そりゃ、両親が亡くなった直後は俺も塞ぎ込んでしまって何もやる気が起きなかった。でも、爺ちゃんが陶芸を教えてくれてな。そっちに段々夢中になっていって気にしなくなったんじゃ。」
「今はお祖父様と二人暮らしを?」
虎城が大樹に聞いた。
「知り合いの叔母が手伝いに来るんじゃけど、基本的には爺ちゃんと二人暮らしじゃな。」
「そうか、大変なんだな、お前も…。」
深也は昨日潤奈の事を聞いたばかりだからか、それと重なって寂しそうな顔をした。
「大樹君、努力家だよね。デュエル・デュラハンも陶芸も家事も手を一切抜かないもんね。」
「サンキューな、愛歌。当然じゃ。陶芸もデュエル・デュラハンもどっちも想いを、愛情を込める事ができる。俺はそこが好きなんじゃ。だから、夢中になれる。頑張れる。この愛情という温かみがわしに生きる活力を与えてくれるんじゃ。」
『良い生き甲斐を見つけたんだな、大樹。だが、あっしはお前さんを…。』
「ん…?」
大樹は周りを見渡した。
「どうしたの、大樹君?」
「いや、聞いた事のない声がしたんじゃが…。気のせいじゃな。」
道人たちは緑茶と煎餅を食べ終わり、そろそろパークへ向かう事にした。玄関から外に出て虎城の車を待った。
「じゃあ、大樹。そろそろ行くよ。」
「いやぁっ、ありがとうな。わざわざ来てくれて。潤奈ちゃんや虎城さんともゆっくり話せたし、不良王も案外良い奴だってわかったしのぅ。」
「はっ、言ってろ。」
深也は大樹に背を向けた。
「はっはっはっ!今日は楽しかった。また明日の。」
「うん、また明日学っ…。」
「きゃあぁぁぁぁぁーっ…!?」
突然女性の悲鳴が聞こえた。道人たちは悲鳴の聞こえた方を見る。
「何だ…?向こうから聞こえたけど…?」
「今の悲鳴、只事じゃねぇっ…!行くぞ!」
道人たちは悲鳴が聞こえた方へ走った。
「お、おい!何があるか…、危ないかもしれんのだぞ!?」
大樹も道人たちを追いかけた。道人たちが大樹の家から離れ、右の道に行った後、そいつは立っていた。まるでピエロのような格好をしたデュラハンで自分の首を左手に持ち、右手で気絶した女性を引きずっていた。
「おい!何だ、お前!?その人をどうする気だっ!?」
道人は血相を変えて必死でピエロに問いかける。
「てめぇっ、バドスン・アータスかっ!?」
「バドスン…?何じゃ…?」
大樹は深也の口から出た言葉を気にした。
「…見つけた。ラックシルベ、デバイス、ジュンナ…。」
「…私…!?」
潤奈は自分の名前を呼ばれてぞっとし、愛歌が潤奈の前に立ち、抱きしめてピエロを睨んだ。
「見つけたぁっ、見つけたァァァァァーッ!!」
ピエロのデュラハンは女性を横に投げ、潤奈目掛けて前に飛んだ。




