29章 不機嫌な大樹
「…なぁ、最近道人と愛歌、付き合い悪くない?」
学校の放課後の廊下でまたデュエル・デュラハンの遊びを断られた大樹は思わず不満を言った。
「そ、そんな事ないよ、大樹!」
「そうだよ、気のせい気のせい!」
道人と愛歌は笑顔で両手を左右に振った。
「本当かぁっ?怪しいのう…。何か俺に隠し事してるんじゃないかぁ〜っ?」
「違うって!ねぇ、愛歌?」
「うんうん!用事が続いてるだけで!」
「他に変わった事と言えばのぉ〜っ…。」
「おい。何してんだ、道人、愛歌。」
大樹の後ろから深也が声を掛けた。
「今日は俺に大事な話があるんだろ?とっとと行くぜ?」
深也は道人たちを通り過ぎ、歩いた。
「あ、うん!待ってよ、深也!」
「待て待てぇい!お前ら、いつから不良王と仲良くなった!?休み時間もわざわざニ人でA組の教室に行って話しとったろう?」
「は、話すと意外と気があってさ!ねぇ、愛歌?」
「そうそう!なかなか良い人なんだよ?」
「おーい!早く来いよ!」
深也が呼んだので道人と愛歌は下駄箱で靴を履き替え、深也の元まで歩いた。
「じ、じゃあ、またな!大樹!」
「待て待てぇい!」
納得のいかない大樹は靴を履き替えて道人と愛歌について行く。
「まだ話は終わっとらんぞ!」
「…道人、愛歌、深也。迎えに来たよ。」
校門の前に潤奈が立っていた。後ろに大神が乗った車も待っていた。
「あっ、潤奈!大神さん!わざわざ迎えに来てくれたの?」
「…うん、来たよ。早く乗ろ。」
「何、この美少女!?」
大樹は知らない女の子に楽しそうに会話している道人に突っ込んだ。
「誰なんじゃ、この子?いつの間にこんな子と友達に?」
「…どうも。真野潤奈です。よろしく。」
潤奈は軽くお辞儀をした。
「お、おぉ、これはご丁寧に…。俺は千葉大樹じゃ。」
「…よろしく、大樹。」
「道人君たちの友達?私は大神天音よ。よろしくね。」
車の中から大神はウインクして手を振る。
「こんな美人なお姉さんとも知り合いに…。」
「そ、そういう事なんだ、大樹。今日は深也と潤奈と付き合わないといけなくて…!」
「ご、ごめんね!ホントにごめん!用事が落ち着いたら、また一緒にデュエル・デュラハンしようね!」
そう言って道人たちは大神の車に乗り、この場を去った。道人たちは一人立ち尽くす大樹を車の中で見ていた。
「…ごめんな、大樹。何か、除け者にしてるみたいで申し訳ないな…。」
「うん、何時か落ち着いたらまた大樹君の家で遊ぼうね。」
道人と愛歌は共に車の中で大樹へ罪悪感を感じていた。
大神の車がデュラハン・パーク会社エリアの駐車場に着き、降りた後、何時も通りに通路を歩いて司令室に辿り着いた。司令室には司令、博士、虎城が待っていた。
「やぁ、待っていたよ!道人君たち!」
司令は道人たちの前まで歩いた後、深也を見た。
「君が深也君だね?無事に見つかって良かったよ。道人君たちも君が行方不明になって心配していた。」
「ども。」
深也は軽く頭を上下に振った。司令は深也に博士、虎城、大神の紹介をした。
「さて、深也君。君も道人君たちと同じ、ディサイド・デュラハンに選ばれた者となった。君の意思を聞きたい。これからどうするかね?」
「考えるまでもねぇさ。俺も道人たちと一緒に戦ってやる。ランドレイクの整備もここでやった方がいいだろうしな。」
「そうか!ようこそ、デュラハン・ガードナーへ!」
司令は右手で深也と握手をした。
「やったね!改めてよろしく、深也!」
「デュエル・デュラハン大会準優勝の実力、頼らせてもらうから!」
「…よろしく。」
道人たちは正式に仲間になった深也を歓迎し、深也の周りを囲んだ。
「深也君、君が我々に協力してくれるお礼に妹さんの入院・治療費用は我々が受け持とう。」
「マジでかっ!?恩に着るぜ!」
深也は笑みを浮かべ、右手でガッツポーズをした。
「良かったね、深也!」
「おう、ありがとうよ!」
深也は道人に向かってサムズアップした。
「ねぇ、今度みんなで妹さんのお見舞いに行っていい?深也君の妹さん、会ってみたい!」
「あぁ、今度な!」
愛歌の提案に深也はすんなり了承した。今の深也は妹の治療費が何とかなるのがわかってテンションが高いようだ。
「よし、これでバドスン・アータスに立ち向かえるディサイド・デュラハンが四人、実体化できるハーライムを入れたら五人だ!」
「ふふっ、道人君。六人じゃよ。」
道人たちは博士の発言に驚き、博士の方を向いた。
「遂に完成したんじゃよ。ディサイド・デュラハン三号機、カサエルがな!」
道人は前に博士と愛歌と一緒に格納庫に行った際、ジークヴァルとトワマリーと一緒にいたデュラハンを思い出した。
「えっ!?本当ですか、博士!」
「うむ!今から君たちを格納庫へ連れていき、稼働させるつもりじゃ!じゃあ、早速行こうか!」
道人たちは喜びながら博士についていき、司令室を後にした。司令も一緒に格納庫に向かう事になった。道中、博士は潤奈と深也にデュラハンパーク内を自由に歩けるフリーパスを渡した。
「…これ、カード?」
潤奈は道人にフリーパスを見せて尋ねた。
「うん、そうだよ。これがあれば遊園地エリアも遊び放題だし、レストランもただで利用できるんだ。」
「マジかよ、すげぇな…。」
潤奈はフリーパスを不思議そうに色んな角度から見て、深也は何度もフリーパスの表裏を見ながら歩いた。道人たちはモノレールで会社エリアから開発エリアに移動し、ビルの中に入って格納庫に辿り着いた。格納庫にはジークヴァル、トワマリーのボディ、ランドレイクが座ってオイルを飲んでいた。
「おっ、船長!昨日ぶり!」
「何かもう寛いでんな、お前…。」
深也はランドレイクの順応性の高さに呆れつつも元気そうな姿も見られて嬉しそうだった。
「よし、みんな。早速カサエルを起動するぞい。いいか?」
道人たちはカサエルが立っている所まで歩き、真剣な眼差しで見た。博士はキーボードを操作し始めた。
「カサエル、起動じゃ!」
博士がスイッチを押した後、カサエルから起動音が鳴り始め、胸の顔に瞳が宿った。目覚めたカサエルは周りを確認し始めた。
「よし、成功じゃ!ようこそ、カサエル!わしたちの世界へ!」
「…あっしはカサエル…。はい、あっしはカサエル、そうでさぁ。」
カサエルが喋り出し、起動の成功に喜ぶ道人たち。道人と愛歌はデバイスをカサエルに向けた。
「初めまして、私はジークヴァル。」
「私、トワマリー。よろしくネ。」
「俺はランドレイク。しくよろ。」
「ジークヴァル、トワマリー、ランドレイク…。へぇ、よろしく…。」
カサエルはデバイスを見た後、隣りのランドレイクも見た。
「私はフォンフェル。よろしく頼む。」
潤奈のとなりにいきなり出現して挨拶するフォンフェル。
「よ、よろしく、フォンフェル…。」
カサエルもいきなり現れたフォンフェルに驚いていた。
「さて、カサエル。早速ですまないが、君のパートナーの名前は何だい?」
司令がカサエルに質問をした。ジークヴァルもトワマリーもパートナーの名前を最初から知っていた。カサエルもわかるはずだ。
「あっしの…あっしのパートナーは…。」
道人たちはカサエルに視線を集める。
「…はて?誰だろう?」
道人たちはその場で軽くずっこけた。
「わ、わからないのか?」
司令は改めてカサエルに聞き直す。
「えぇ、全く…。誰なんでしょうね、あっしのパートナーは?」
カサエルは首を傾げ、?マークを浮かべた。




