216章 最後の糸、そして…
「そっか、俺と別れた後にそんな事があったんだ…。」
十糸姫とキャプテン・雷牙の出会いの話を聞いた道人とユーラ、デバイス越しのジークヴァルは経緯を聞いて納得した。
雷牙本人は今はこの場にはおらず、恐らく外にいるものと思われる。
「あれ?でも、姫が着物を変えた経緯が話に出て来なかったけど…?」
前に道人の家で再会した際、十糸姫はポニーテールでミニスカートの現代風の着物に変わっていて、その経緯が今の話になかったので道人は気になった。
「うむ、これは素早いきゃぷてんに合わせてな。思い切って身軽な着物に変えてみたのじゃ。…変か?」
姫は両手の袖をひらひらさせて見せた。
「う、ううん。そんな事ない。元気な姫によく似合ってると思うよ。」
「誠かっ!?さすが、道人じゃ!良い目利きじゃ!褒めて遣わす!」
姫は嬉しそうに道人の右腕にしがみ付いた。
「姫、私の服装も道人たちが選んでくれたんですよ?」
ユーラはベンチから立ち上がり、両手を広げて白の上着と黒のロングスカートをひらひらさせて姫に見せた。
「ほうほう、それも誠か。我もそのような服をいつか着てみたいものじゃな。」
「はい!今度みんなで一緒に服屋に参りましょう!」
姫とユーラが楽しそうに明るい未来に思いを馳せていたので道人はそんな二人を見て笑みを浮かべた。
「そう言えば、姫。よく傀魔怪堕から情報を得られたね。三大将軍以外の鎧武者たちは基本無口なのにさ。」
「傀魔怪堕の在り方をよく思っていない村人たちに聞いたのじゃ。一人お喋りな将軍がおって、それをたまたま聞いておったらしい。」
「…あーっ、烈鴉か。なら、納得。守秘義務もあったもんじゃないな、あの爺さん…。」
トワマリーとフォンフェルのビーストヘッドの試練の際に現れた烈鴉は道人が煽てたら、傀魔怪堕の目的をべらべら喋ってくれた事があった。
どうやら烈鴉は普段から口が軽いようだ。
「まぁ、とにかく。姫がライガとディサイドして増援に来てくれるとは思わなかったよ。改めて、ありがとうね。そして、これからもよろしく。」
「うむ!」
道人が右手を差し出して握手を求めると姫は喜んで両手で握手してくれた。
「こら、誰かね?司令の命令を無視して寝ずに女の子二人と楽しく会話しているのは?」
「…何だ、愛歌か。」
道人は後ろを振り向かなくても愛歌だとわかった。
後、夕食前のやり取りで何だか恥ずかしく、愛歌と目を合わせづらいのもあった。
「もう、何だとは何よ?何だとは。」
「…仕方ないよ、こんな状況だとね…。」
「…! 潤奈、グルーナさん?」
道人が右を向くと潤奈とグルーナが立っていた。
「何なら開き直って何かして遊ぼっか?トランプとかさ。あ、それとも道とんを交えてまた告白大会でもしちゃう?」
「告白大会?何じゃ、それは?」
「ひ、姫は知らなくていいです…!」
道人と愛歌、潤奈、ユーラは頬を染めて姫をその話題から逸らそうとする。
「ったく、修学旅行じゃないんだぜ?お前ら。」
「告白大会って何じゃい…?」
「気になるさぁ。」
「…! 深也、大樹、真輝さんまで…!?」
道人が左を向くと腕を組んで背を壁につけている深也。その横に大樹と真輝が立っていた。
「いいじゃねぇか、賑やかでよ。な、海音ちゃん?」
「はい、楽しいのが一番ですから。」
「はろー!」
階段から海音が上がって来て、スランがその隣で浮遊していた。
「ははっ、結局みんな眠れてないのね…。」
「あらあら、みんな揃って悪い子さんたちね。」
道人と一緒にグルーナも意見を同じくした。
「ったく、お前ら。いざって時に倒れんなよ?」
「ここにおる時点で人の事言えんぞい、深也…。」
大樹が深也に突っ込みを入れた瞬間、みんなは互いに笑い合った。
「…いつ傀魔怪堕が攻めて来るかわからないけど…明日には間違いなく、私たちはまた二部隊に別れて行動するんだよね…。」
「潤奈…。」
潤奈が不安を口にし、愛歌が優しく潤奈の右肩に手を置いた。
「大丈夫じゃぞい、潤奈ちゃん!突入部隊も防衛部隊も今まで生き残って来れたエキスパートたちじゃ!道人とジークヴァルたちは突入のプロ!俺とカサエルは防衛の守護神じゃぁっ!」
大樹は潤奈に向かって自信満々に腕を組んで励ましてくれた。
「自分で言うかぁっ、普通?」
「だって、そうじゃろう、深也?今回は潤奈ちゃんやグルーナさんは突入組になったからのう!防衛組を常に任されて皆勤と化しておるのは俺とカサエルだけじゃぁっ!」
「その通りさぁっ!守りに絶対の自信があるあっしと大樹がいるんなら、パークの守りは安泰さぁっ!」
「ー僕もいる事忘れないでよね!」
大樹の右肩に狸がドロンと姿を現した。
「俺らがいる限り、パークは絶対に守ってみせる!じゃから、安心して傀魔怪堕を押して押して、押しまくって来るんじゃぁっ!」
「…おっ!?何だっ!?」
大樹の言葉に反応し、真輝のポケットから茶色の糸が飛び出した。
大樹の周りを糸が浮遊する。
「な、何じゃ?」
大樹が浮遊する糸に困惑していると、大樹の頭上から何か落ちて来た。
「あいてっ!?何じゃい…!?」
大樹が両手で頭を抱えてしゃがんだ後、落ちてきた物を拾った。
「この綺麗な石は…?」
「間違いないよ、大樹!デュラハン・ハートだ!」
道人がそう言うと、大樹の目の前に幻影の十糸姫が出現した。
「な、何か我が出てきたっ!?」
「ははっ、本人ここにいるのにね…。」
前の着物を着た十糸姫が大樹に対して微笑むと消滅し、大樹のスマホに石付きのストラップが付いた。
「こ、これは…!?」
「大樹のパークを絶対に守ってみせる、って強い決心がデュラハン・ハートと糸を引き寄せたのかな?」
「マ、マジか…!ルートタス、お前も俺とカサエル、狸と一緒にみんなを守ってくれるんじゃな…!」
大樹は感激しながら両手でスマホを持ってデュエル・デュラハンのルートタスのステータス画面を見た。
「良いねぇっ、大戦の前に起きる奇跡なんて縁起が良いじゃんか!」
「はい、本当に…。」
真輝の発言に道人も同意した。
「道人、ちょうど良い。さっき渡した…。」
「あ、うん。そうだね。」
道人はさっき姫からもらった二つの巾着袋の一つを手に持った。
いつ傀魔怪堕が攻めて来るかわからない状況なので今、防衛組に手渡した方が良い、と道人は思う。
「みんな、さっき姫がさ。デュエル・デュラハンの実体化時間を増やしてくれる袋をくれたんだ。」
「マジかよ、すげぇな。」
深也がそう言うと、みんなが道人が右手に持っている袋に視線を集めた。
「二つあるからさ。片方は…大樹に預けようかな。」
「お、俺に?」
道人は大樹の前まで歩き、巾着袋を手渡した。
「自分で言っただろ?このパークの守護神だって。この袋をどう活かすかは大樹の判断に任せる。頼んだよ、大樹。」
「…! おう、任せとけぇっ!」
大樹は巾着袋をポケットに入れて道人と共に頷き合った。
その時、デバイスから緊急通信が入った。
「皆さん、聞こえますか?キャルベンの兵士たちからの報告です!奴らが街に姿を見せました!次々と地面から出て来てます!」
虎城の叫びが道人たちのデバイスから一斉に聞こえ出した。
「明日じゃなくて、今日来たわね…。」
「やれやれ、結局眠れなかった訳だ。ま、自業自得だがよ。」
「まずは俺らの出番のようじゃな!」
愛歌、深也、大樹が気合十分に覚悟を決めた。
「みんな…。」
「デュラハン・シップの発進準備は後少しで完了します!道人君たちは実験エリアに向かって下さい!」
虎城の指示が引き続きデバイスから聞こえて来る。
「おっしゃぁっ!早速、俺らの決心を即実行じゃぁっ!安心せい、道人たち!みんなを絶対に無事に出発させてみせるからの!」
大樹、愛歌、深也、海音とスランは頷き合い、この場から走り出す。
「…みんな、気をつけてね!」
「大丈夫よ、潤奈!あたしたちはぜぇーっ対に負けないんだからっ!」
「おう!だからよ、お前らは大船に乗ったつもりでシップで待機してな!」
「私たちが絶対にパークを死守してみせますからね!」
「みおんのいうとーり!」
「わかった!頼んだよ、みんな!」
愛歌たちはみんなサムズアップしながら走り、階段を駆け降りて行った。




