215章 十糸姫とユーラ
「…休めって言われても、やっぱ無理だよなぁ〜っ…。こんな状況じゃあ…。」
道人たちは夕食後、各々に会社エリアのビルに個室を用意され、いつ襲って来るかわからない傀魔怪堕やデュラハン・シップの出航準備に備えて束の間の休みを取る事になったが、道人はうまく寝付けなかった。
「どうした、道人?眠れないのか?」
ミニテーブルの上に置いてあるデバイスからジークヴァルの声が聞こえて来たので道人は右手で取ってベッドから起き上がる。
「うん、眠るのは難しそうだ…。」
「この状況では無理もないさ。」
「寝慣れない場所だ、ってのもあるしさ。それに…。」
「それに?」
道人は愛歌とのやり取りを思い出し、頬を染めた。
「しかし、休まないのもそれはそれで問題がある。いざ、戦いの場面で倒れてしまったら元も子もないからな。」
「それは、そうなんだけど…。何とか頑張ってみるかぁ〜っ…。」
道人はデバイスをまたミニテーブルに置き、目を瞑ってベッドに横になる。
が、やはり色々と考えてしまい、全然寝付けなかった。
ポケットからみんなにお守りとして渡した希望戦士隊エスポワールズのミニフィギュアキーホルダーを取り出し、何となく眺めた。
「…あ、そう言えば九人目の仲間にもお守り渡さないといけないんだけど…九人どころじゃなくなったなぁ…。」
アトランティスに突入する際、道人はみんなにお守りとして希望戦士隊エスポワールズのキーホルダーを配った。
その際、大神に九人目の仲間に最後の一体を渡してあげて、という話になったのだが、あれからユーラ、十糸姫、真輝と増えて仲間は十一人になってしまった。
現在は緑と水色のエスポワールズが残っている。
「忙し過ぎて海音さんにも渡しそびれてるし…。ちょっと考とかないとな…。」
道人は暗闇を見つめながら考えていたが、特に案も思い付かず、眠気も全くなかった。
「…駄目だ。ちょっと散歩しようか、ジークヴァル。」
道人は寝るのを諦めて、デバイスとスマホを手に部屋から外に出る。夜空に赤が混じっているせいで会社内の廊下は不気味な通路となってしまっている。
少し歩き、自販機スペースのベンチに座った。
「何か飲もうかな…。と言ってもカフェインは避けた方がいいよな。余計眠れなくなる…。」
「我は茶が飲みたいの。」
「OK。じゃあ、俺も…。」
道人が慌てて右隣を見るといつの間にか十糸姫が座っていて驚いた。
「ひ、姫!?何で!?」
「廊下を歩いていたら、ちょうど道人を見かけたのだ。気が合うな、道人よ。」
姫はジト目になり道人の右腕にしがみついて来た。
「ふふん♪我は嬉しく思うぞ?こうして愛する道人と二人っきりに…。」
「残念、そうは行きません!」
ユーラが現れ、道人の左に座ると同時に左腕にしがみついて来た。
「ユ、ユーラ!?」
「お主、いつの間に…!?我に気を感じさせぬとは何者じゃっ!?」
「私は道人の現地妻です!」
「な、何と破廉恥なっ!?」
「ユーラ、もう愛歌の悪ふざけは忘れてくれ…。」
道人を挟んでバチバチしている姫とユーラを何とかするため、道人は何とか話題を振ろうとする。
「ひ、姫。この子はユーラって言って、アトランティスで出会った子なんだ。」
「ほう、アトランティス。道人たちはアトランティスに行けたのか。」
そう言えば、以前海音から過去の話を聞いた際、姫はアトランティスの事を知っていた事を思い出した。
道人はユーラと出会った経緯を姫に話す。
「ユーラ、この子は十糸姫って言って…。」
今度はユーラに十糸姫との出会いを話した。
「何と…!?そなたも本人とは別存在の生命だったのか…!?」
「あなたも式神だなんて…!?それじゃあ、私たち、似た者同士なんですね…!」
「私、姫さんと!」「我はユーラと!」
「気が合いそうですぅ〜っ…!」
「良き友になれそうじゃぁ〜っ…!」
道人が姫とユーラに互いの人柄を説明したおかげで二人は仲良くなれたようで安心した。
が、道人は抱き合う二人に挟まれてる形になっているので頬を染める。
「そ、そう言えば、姫。慌ただしくて聞けてなかったけど、何で姫はこの世界に存在できてるの?ほら、前に言ってたよね?こっちの世界に来たら無理矢理、傀魔怪堕に連れ戻される、って。」
道人が姫に質問すると姫もユーラも道人から離れた。
前に道人の家に現れた際もすぐに帰ってしまったのに今回の姫はそんな様子が見られない。
「それはじゃな、この世界と傀魔怪堕が融合し始めている影響じゃ。おかげでこうやって、道人や海音と再会できた訳じゃ。」
「そっか、そこは良い方に作用したんだね。」
「うむ、不幸中の幸いというやつじゃ。」
姫は腕を組み、得意げに頷いた。今は少しでも人手が欲しいところなのでその作用は嬉しく思えた。
「でも、良かったよ。姫が無事で。あの別れからずっと心配してたんだよ?」
「すまぬな、連絡もできずに。そうじゃ、ハーライムは元気か?」
「あ、うん。元気だよ、ほら。」
道人はスマホを取り出し、ハーライムのスタータス画面を姫に見せた。
「おぉ、ハーライム!久しぶりじゃの。お主にも心配掛けたな…。」
「おい、俺も心配したんだぞ?」
ヤジリウスが勝手に実体化し、道人の後ろに立った。
「おぉっ、そうじゃったな。お主も元気そうで何よりじゃ、ヤジリウス。」
「おう。」
ヤジリウスはそう言うと歯車付きのハンカチに戻り、道人のポケットに戻った。
「道人が幽体離脱した際はお世話になったようで…。私はジークヴァル。その節はどうもありがとう、十糸姫。」
「おぉ、これはご丁寧に…。よろしくの、ジークヴァル。」
道人は右手に持ったジークヴァルが映るデバイスを姫とユーラと共に見た。
「あ、そうだ!見て下さい、道人!じゃぁ〜ん!さっき、博士から送られて来ました!」
ユーラはエメラルドのスマホを取り出し、道人と姫に見せて来た。
「へぇっ、良かったね。そっか、博士がプレゼントしてくれたんだ。」
「はい!これで私もデュエル・デュラハンを作って、道人たちと遊べますよね?」
「うん、もちろん!今度作り方を教えてあげるよ。あ、そうだ。姫のスマホもさ、俺から博士に頼んでみるよ。」
「何?我にか?」
姫は右手の人差し指で自分を指差した。
「うん、姫にも持っていてもらいたいな。」
「はい!姫もみんなと一緒に遊びましょう!」
「それは楽しみじゃな。期待しておるぞ。」
道人たちはこんな危機的状況だからこそ、こう言った話題で和む事ができた。
「私にも姫の糸があれば、私が作ったデュエル・デュラハンが実体化して一緒に戦ってくれますかね?」
「うむ、十二本目の糸という訳か。じゃが、あの糸は作るのに時間が掛かるのじゃ。すぐには難しいじゃろうな。」
「そうなんですか、残念…。」
ユーラは残念そうな顔をし、下を向いた。
「落ち込まないで、ユーラ。ユーラはジークヴァルと合体して大活躍してくれてるじゃないか。いつもありがとうね。」
道人はユーラの頭を優しく撫でた。
「…! はい、道人!私、これからも全力であなたも、みんなも守って見せます!」
「あ、そうじゃ。道人、良いものをやろう。」
姫はそう言うと懐から二つの巾着袋を出した。
「これは?」
「道人と別れた後に我が霊力を込めて編んだものでの。その中に我の糸を入れると十本ある糸を一度ずつだけ、糸の力の回復を早めてくれるのじゃ。」
「えっ!?じゃあ、ハーライムたちを実体化させた後、うまく活用できればみんな追加で三分増えるって事?」
「そういう事じゃ。次の日になれば袋に霊力が溜まって、また十本の糸を回復する事ができる。便利であろう?」
「うん、助かるよ…!デュエル・デュラハンは実体化時間が短いから、つい出し惜しみしちゃうからさ。これがあれば鬼に金棒だ!」
道人はかなり頼りになる巾着袋を貰えて心が弾んだ。
「二つあるから、一つは防衛組に持たせた方がいいかもしれんの。」
「そうだね。出発前に忘れずに渡しておこう。」
「良かったですね、道人。」
「うん!」
道人は二つの巾着袋を大事にポケットに入れた。
「あっ、そう言えばまだ聞いてない事があったな…。」
「何じゃ?何でも聞くが良いぞ?」
「ライガの事だよ。びっくりしたよ、ライガが姫のディサイド・デュラハンになっててさ。一体何があったの?」
「ふむ…。そう言えば、きゃぷてんとの出会いの話はできておらんかったな。良かろう。我ときゃぷてんとの出会いを語ってあげようではないか!あれは道人と別れてから…。」
姫は道人とユーラにライガとの出会いの話を語り始めた。




