214章Side:ウェント 二つのブーメラン
「しかし、驚いたよなぁ〜っ…。街に人が全然いないんだもんなぁ〜っ。」
時刻は夜九時。ウェントとアレウリアスはバドスン・アータスの小型飛行機で地球までやって来て、御頭街を上から見下ろせる広場に立っていた。
「夜空も赤が混ざって何だか不気味で…。まさにこの世の終わりって感じだ。」
「宇宙から見てもそうだっただろう?何故、今その感想を言う?」
アレウリアスは近くの木に寄っ掛かってウェントを見ていた。
「宇宙で見るのと地上で見るのは違うのさ。バドスン・アータスが地球を採掘星に変えたらこんな感じなんだろうなぁ〜ってさ。何だか未来の風景を先取りして見ているみたいだよ。得した気分さ。」
「…まぁ、バドスン・アータス的には手間が省けただろうがな。そろそろシユーザーに連絡しなくていいのか?」
「おっと、そうだったそうだった。俺たちは地球の様子を見に来たのだった。」
ウェントはデバイスを取り出し、バドスン・アータスの宇宙要塞に連絡を取った。
「私だ。」
「あ、もしもし、シユーザー先輩。地球は今、面白い事になってますよ。人っこ一人いないですよ。下手したら道人たちがいるパークにしかもう人はろくに残ってないかも。」
ウェントはシユーザーと通話しながら、近くの柵に座った。
「ほう、それは大したものだ。なかなかやりますね、傀魔怪堕とかいう連中も。」
「どうします?今、バドスン・アータスも傀魔怪堕と共に攻め込んだら一網打尽にできて、道人たちは一巻の終わりですよ。」
「ふむ…。」
シユーザーは通信機から離れたようだった。
耳を澄ますと、シユーザーの小声が聞こえてくる。
ウェントにはシユーザーが誰かと話をしているように感じ取れた。
「確かにバドスン・アータスが地球を採掘星に変えるのと、傀魔怪堕とやらが人間を地表から消したのは互いに目的が噛み合っています…。ですが、ここは様子見するとしましょう。」
「あれ?攻めないんですか?せっかくのチャンスなのに。」
ウェントは流れに乗って来ないシユーザーに意外性を感じた。
恐らく話し相手であるシャクヤスこと、ヴァエンペラの指示だとウェントは推測した。
「何、別に攻めないと言っている訳じゃない。最後の最後、力尽きた所を一撃…チキュウの言葉で言う所の漁夫の利、ってものを彼らに送ってやりますよ。」
「ふぅん…。」
ウェントはそれだと面白くないのでシユーザーにある提案をする事にした。
「ねぇ、シユーザー先輩。俺とアレウリアスはちょうど地球にいますし、何だったら俺たちだけでもアタックを仕掛けでもいいですよ?」
「…何ですって?」
シユーザーはウェントの提案を聞いて意外そうな声を上げた。ウェントはつい、口元を緩める。
「別にジェネラル・シユーザーの命令を聞かないって訳じゃないですよ?俺とアレウリアスだけでデュラハン・ガードナーを倒せたら、わざわざジェネラル・シユーザーが地球まで足を運ばなくて済む、って言う話です。」
「しかしですねぇっ、昨日お前の部下が勝手に出撃して返り討ちにあってる訳なんですが。」
昨日、エイプリルはグレリースと共に地球に向かい、帰って来たら二人共メンタルにダメージを負って帰って来て、今はカプセルで眠っている。
元となった人間を人質にはできるものの、逆に元となった人間の人格に引きずられてメンタルが弱いのがヒューマン・デュラハンの難点だ。
「シユーザー先輩、俺はエイプリルとは違うんですよ。わかるでしょう?俺とアレウリアスの優秀さは。このブーメランに誓いますよ、戻って来るってね。」
ウェントは本来の持ち主が豪である水晶のついたブーメランを取り出して見た。
「しかし…。………。」
不自然な沈黙。シユーザーはまたヴァエンペラと会話をしているようだ。
「…わかりました、あなたの好きになさい。ただし、無茶はしないように。」
「やりぃっ♪ありがとうございます、シユーザー先輩!」
「ありがとうなんて、心にもないくせに。お礼なんていりませんよ。それじゃ、良い知らせを待っていますよ?」
シユーザーは通信を切り、ウェントはデバイスをポケットに入れる。
「やったぞ、アレウリアス。明日は久しぶりの祭りだ。」
「ご機嫌だな、ウェント。」
「そう言うアレウリアスこそ。考えてる事はお互い同じかな?」
アレウリアスは寄っかかっていた木から離れ、ウェントと共に並び立つ。
「道人の奴、アトランティスとやらに行って、ジークヴァルと共に随分力をつけたようだ…。」
「確か、お前の調べではジークヴァルのデュラハン・ハートは砕け散ったという話だったが…奴は蘇ったようだな。」
「楽しみだよ、短期間で強くなったあいつらと戦えるのがさ。」
ウェントとアレウリアスは共に道人とジークヴァルがいるデュラハン・パークを見た。
「しかし、あれか。元となった人間的に親馬鹿とやらも入っているのか?」
「…否定はしない。道人との戦いの時、俺の元となった豪は俺の口を使って道人を勇気付けて見せた…。」
ウェントはその時の不快感と屈辱を思い出して自分の口の前に右手を配置した。
「ヒューマン・デュラハンってのも難儀なものさ。それはカウンター・ディサイド・デュラハンのお前も同じなんじゃないか?」
「…確かに私はジークヴァルと知り合いではあるようだが…記憶がないからな。何とも言えん。」
「そっか。じゃあ、俺はアレウリアスが羨ましいよ。元の人格に囚われないお前がさ。」
「…いや、逆だ。私は強くなるために奴との記憶を、戦う理由をもっと欲しているのかもしれない…。」
「でも、カウンター・ディサイド・デュラハンにそれは望まれていない…。なぁ、アレウリアス。俺たちは操り人形だと思うか?」
ウェントは赤と黒の夜空に向かって右手を伸ばす。
「…ヴァエンペラのか?」
「あぁ、さっきの通信もそうだ。ヴァエンペラはシユーザーを利用している…。シユーザーだけじゃない、俺たち…いや、下手したら、この宇宙全てを…。俺たちが道人たちと戦っていいと今許可したのもヴァエンペラだ。俺たちは何かの企みに使われているのは間違いない…。」
ウェントはアレウリアスの方を向き、互いに見つめ合った。
「今回の戦いは道人とジークヴァルとの戦いも大事だが、ヴァエンペラの企みから脱する事…。それも俺たちの戦う理由だ。」
「あぁ、ジークヴァルと道人を倒した上でヴァエンペラの企みの、その想像の上を行き遥かに凌駕する…!それこそが俺たちの絶対勝利だ…!」
アレウリアスは右手を震わせた後、必ず自分たちが目指す勝利をこの手に掴み取って見せる、というかのように右手で強く握り拳を作った。
「…その意気だ。さて、朝は早い。今から俺は眠るとするぜ。明日はお互い楽しもうな、アレウリアス。」
「あぁ、万全の状態にしておけ。」
ウェントはアレウリアスの言葉を聞いた後、去ろうとする。
「…なぁ、ウェント。」
「うん?」
ウェントはアレウリアスに呼ばれたので振り向いた。
「お前はよくブーメランは必ず返って来る縁起が良い物だと口にするが、それは豪の息子である道人も同じ考えを持っているはずだ。敵対する間柄の二人がブーメランに対する同じ考えを持っている場合、果たしてどちらが優先されるのだろうな?」
「…決まってるじゃないか。強い生存本能の持ち主、心の強い奴の方に願いは、ブーメランは戻って来る。じゃあ、お休み、アレウリアス。」
ウェントは改めて振り返り、バドスン・アータスの小型飛行機まで歩いた。




