214章 再会を誓う愛の歌を
遊園地エリアの避難民の様子を見に行く事になった道人と愛歌。
二人は会社エリアの外にあるキャルベンの小型船に乗って遊園地エリアへと向かう。
「…やっぱさ、傀魔怪堕の連中がいつ襲って来るかわからない状況だし、落ち着かないな…。」
道人の隣に座っている愛歌が不安を口にした。
「確かにあいつら的にはいつ攻めて来てもいいはずなのに…。そうして来ないのは何だか不気味だな…。」
「何か企んでるよね、きっと…。」
傀魔怪堕がパークの結界をすぐに破るような策を弄して来る可能性は十分にあり得る。
愛歌はそれで元気がないようだった。
「…大丈夫。俺たちは今まで戦島やアトランティスでの激戦を乗り越えて来られたじゃないか。自信を持って。愛歌なら、絶対にみんなを守れるよ。」
「…うん。ありがとう、道人…。」
道人が愛歌を励ました後、小型船は遊園地エリアに着いたので二人で降りた。
「仕方ないけど…何だか、異質な光景だな…。」
赤と黒の空の下で明かりだけが灯り、何も乗り物が動いていない遊園地。
キャルベンの兵士たちが周りを徘徊している。
幸いな事に避難民たちは全員何かしらの建物内に入っていて、野宿を強要するような事になる人はいないようだった。
「愛歌、母さんたちはどこにいるの?」
「あ、うん。デュラハンキャッスルの建物内だって。」
道人と愛歌はもう視界にあるデュラハンキャッスルを目指した。
辿り着くと見張りのキャルベンの兵士にボディチェックをしてもらった。面会時間は十五分と言われ、中に入った。
「…! 道人、愛歌ちゃん!こっちよ!」
「母さん!」
秋子と信子はちょうど晩御飯を食べていた。決して豪勢とは言えないが、ロケ弁のようなものを食べていた。
周りにも避難民はいるのであまり不安にさせるような話はできなかった。なので、家族らしい何気ない会話をした。
「良かったわ、道人が無事で…。」
「母さんこそ。真輝さんと海音さんには感謝しないとね。」
お互いに無事だった事や何か困った事はないか?などの話をしていたらあっという間に十五分は過ぎてしまった。
「じゃあ、もう時間だから帰ろっか、愛歌。」
「うん。また来るからね、お母さん。」
道人と愛歌は二人の母に背を向けて歩き出す。
「…道人!」
秋子に声を掛けられ、道人と愛歌は立ち止まって振り向いた。
「…気をつけて行って来るのよ?」
「…! 母さん…。」
道人は今の会話で一言も自分が傀魔怪堕に行くという話をしていない。それでも秋子は察していたようだった。
道人は博士からもらったメタルブーメランを取り出し、秋子に見せた。
「…! ブーメラン…。」
ブーメランは投げたら必ず戻って来る。旅人や宇宙飛行士には縁起がいいものである。それが豪の口癖であり、道人も大好きな言葉だった。
「…本当、あの人そっくりなんだから…。…いってらっしゃい。」
「うん!行って来ます!」
道人と愛歌は笑みを浮かべ、互いの母が姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
「…すごいね、親子ってさ。何も言わなくてもわかるんだね。」
「…昔さ、俺と母さんは仕事で宇宙に行く事になった父さんの背中をいつも玄関で見てたんだ…。ひょっとしたら、母さんには俺の背中が父さんと同じに見えたのかも…。」
道人はまたメタルブーメランを取り出して眺めた。
「…わかるな、その気持ち…。あたしとお母さんもお父さんが海外に行く時の背中を見てたから…。」
「家族の前じゃ隠し事なんてできないな…。よし!じゃあ、ご飯食べに行こっか!」
「うん!」
道人と愛歌は遊園地エリアで配給されている弁当を取りに行こうとしたが、道人は途中で立ち止まった。
「お爺さん?」
道人がパークに戻って来る際に助けたお爺さんが椅子に座って空を寂しそうに眺めていた。
「愛歌、ごめん。ちょっと待ってて。」
「あ、道人!あたしも行く!」
道人と愛歌はお爺さんの元まで走った。
「あの、こんばんは。お爺さん。」
「ん?おぉ、君か。」
「どうしたんですか、お一人で?何か困り事でも?」
「いや、このたった一日で変わってしまった夜空を眺めていたんじゃ…。」
道人と愛歌もお爺さんと一緒に空を眺めた。
赤と黒が入り混じった不気味な空。少し見ただけでも気分を害しそうだった。
「街も真っ暗じゃ…。人気もない…。こんな状態でもし、空を飛んだら良い気分はせんじゃろうな…。」
「空を…?」
「飛ぶ…?」
道人と愛歌はお爺さんの話し方が気になったが、そのまま話を聞いた。
「わしにもっと力があれば、子供たちを守れたのかもしれんな…。情けない限りじゃよ…。」
お爺さんの普段の生活はわからないが、どうやら傀魔怪堕に子供を連れ去られてしまったようだ、と道人は察した。
「…大丈夫ですよ、お爺さん!きっと、この街にいる頼もしいデュラハンたちが…俺たちが大勢の人たちを救って見せますから!絶対にこの街を元の賑やかな街に戻して見せます!ですから、そんなに落ち込まないで下さい!」
「少年…。」
「何の根拠もない強がりかもしれないけど…。それでも、絶対に諦めない心が大事なんです!諦めなければ、きっと地球だって手を貸してくれます!」
道人は自分でも何だかよくわからない励まし方をしてしまったのを自覚し、言い終わった後、恥ずかしくなって来た。
「…はっはっはっ!そうか、地球か!それはとてつもない程、頼もしいな!」
変な励まし方をしてしまったが、お爺さんは喜んでくれて道人は安心した。
「良かった、元気になって…。さ、ここは冷えますから室内に…。」
「本来、子供に希望を与えるはずのわしが、逆に子供に励ましてもらえるとはな…。どれ、わしも諦めないとするか!」
お爺さんは元気に椅子から立ち上がって見せた。
「ありがとう。君たちは本当にこの街が好きなのだな。」
またお爺さんは不思議な言い回しをして来た。
「は、はい、もちろん!俺たちの生まれ故郷ですから!ね、愛歌?」
「もち!」
「…そうか。励ましてもらえた礼じゃ。持って行くがよい。」
お爺さんは小さい包装された箱を二人分渡して来た。
「そんな、お礼なんて…!」
「いいんじゃ。それは君たちが窮地に陥った時に開けると良い。きっと、役に立つはずじゃ。君たちは今年一番にラッキーな子供たちだな。良い旅路を、道人君、愛歌ちゃん。」
「…? お爺…?」
その瞬間、強い風が吹いた。道人と愛歌は目を腕で守る。
風が吹き止み、腕を下ろすとお爺さんは居なくなっていた。
「お爺さん…?」
周りを見渡したが、お爺さんの姿は見当たらなかった。
「ねぇ、道人。あたしたち、名乗ってないよね?なのに、あのお爺さん…。」
「うん、俺たちの名前を知ってた…。」
道人と愛歌は不思議に思いながらも、お爺さんからもらった箱を鞄に入れて愛歌と共に弁当の配給場所を目指す。
「…ねぇ、道人。ちょっとそこのベンチに座らない?ご飯食べる前にさ、少し話そうよ。」
「えっ?うん…。」
道人は愛歌の言う通りにし、二人でベンチに座った。
「…何か決してロマンチックとは言えない光景だな…。」
「そこは仕方ないよ。傀魔怪堕、許すまじってね!」
道人はこんな不気味な空の下でも愛歌節が聞けて嬉しく思い、互いに笑い合った。
「…ねぇ、道人。あたしたちさ、もう大分長い付き合いじゃない?」
「うん、それは幼馴染だしね。」
「ちっちゃな頃からずっと道人と一緒で…。離れ離れになった事はあんまりなかった…。だからさ、今回はちょっと不安…。道人が遠くに行っちゃいそうで…。」
「愛歌…。」
愛歌は下を向き、寂しそうにしていたので、その姿を見た道人は胸を締め付けられた。
「道人、帰って来るよね?みんなで一緒にあたしたちのところに帰って来るよね?」
「もちろん!当たり前じゃないか!必ず愛歌たちの所に帰って来るよ!」
道人は愛歌の肩に手を置き、互いに向かい合った。
「帰って来たらさ、またみんなで一緒に面白おかしい、楽しい事しようね!」
「うん、約束だ!」
その後、道人と愛歌は互いに見つめ合った。
愛歌の両目には道人の姿が鏡のように映っていて不思議としばらく見ていた。
「…あたし、道人とは幼馴染で終わりたくないな…。あなたとは違った関係で長くいたいもの…。」
「えっ?愛歌…?」
愛歌は目を瞑り、ゆっくりと道人に唇を重ねて来た。道人も愛歌の両肩を強く握る。
しばらくすると唇を離し、二人で頬を染めて恥ずかしがった。
「…帰って来たら、もっと良い事しようね?」
「いぃっ!?」
愛歌のまさかの発言に道人は驚き、更に顔を真っ赤にした。
「…ぷっ、あっはっはっはっはっはっ!冗談よ、冗談!道人ってば、本気にしちゃって!おもろー!」
愛歌は道人に背を向けて腹を両手で抱えて笑った。
「あ、あのなぁ〜っ!」
「…嘘。それも冗談…だったりして!その前に潤奈やユーラ、十糸姫に勝たないとね!あたし、負けないんだからっ!だから…無事に帰って来てね、道人!」
愛歌の振り返った際の満面の笑みを見て道人はオーバーヒートし、口から霊魂を出してベンチに横たわった。
「み、道人!?いかん、道人が幽体離脱して先に傀魔怪堕に行ってしまう!」
「あっ、しま…ジークヴァル…。」
道人は今更気がついた。愛歌とのやり取りでヒートアップしてしまい、デバイスの中にいるジークヴァルに丸聞こえだった事に気にしてなかった。
愛歌も気がついたようで慌ててトワマリーのデバイスを見る。
「ふふ〜ン♪決めましたねェッ、愛歌さぁ〜ン?『あたシ、道人と幼馴染で終わりたくなイ』…!いやァッ、ご馳走様でしタッ!」
「さらば、トワマリー!!」
愛歌は大きく振りかぶってトワマリーのデバイスを海に投げようとする。
「ぎゃあァーッ!?決戦を前ニ戦力減らしてどうすんノーッ!?愛歌ァッ、落ち着いてェーッ!?ごめんったラ、謝りますからァーッ!!」
こうして道人と愛歌は顔を真っ赤にしたまま弁当を受け取りに行き、気まずく一緒に食べた。




