211章 残酷な真実と一糸の希望
道人たちは全員無事でデュラハン・パークの会社エリアへと戻って来て合流した。
もう避難民の受け入れ作業は終えており、御頭街は人気が全くなく、多数の人魂が浮遊する不気味な街と化していた。
夜の闇が混ざった赤い空が余計不気味さを際立てている。
キャルベンの兵士たちがモノレール乗り場や各建物の入り口の門番をやってくれていた。
会社エリアの入り口には整備班が輸送ヘリと共に待機していた。
「D・D FORCEの皆さん、お疲れ様です!ディサイド・デュラハンたちのボディの点検作業を行うため、回収しに参りました!」
道人と愛歌、大樹は自分のディサイド・デュラハンを輸送ヘリに戻した後、意思データをデバイスに戻した。
御頭デパートの戦いから三時間経ったため、ジークヴァルは元に戻っていた。
「ちょい待った!これを博士に渡してくれませんかい?」
「えぇ、構いませんよ。」
真輝はエッジヴァハムートが回収したDRP タイガーダガーのパーツを渡した。
「真輝君も回収していたのか。」
「えっ?じゃあ、司令さんも?」
「あぁ、二つも部品があれば博士なら十分に何かを掴めるかもしれんな。」
「…ねぇ、ダーバラ、ディアス…。」
スランが十糸姫の横に立っているキャプテン・雷牙を見て小声でダーバラとディアスに話し掛ける。
「…あれって、やっぱり…。」
「ライガだねぇ。」
「あぁ、間違いない。」
「…おい、お前ら。俺はキャプテン・雷牙だ。人違いすんなよ?」
「ね?さいかいしてから、ずっとあんなちょうしなんだよ?」
「ふーん…。そうかい…。」「ほう…。」
三人はしばらくキャプテン・雷牙に疑いの眼差しを向けていたが、ディアスとダーバラは輸送ヘリに乗り込んだ。
ルレンデスとランドレイクも乗り込み、ヘリは飛び立ち、道人たちは飛んでいく輸送ヘリが見えなくなるまで見送った。
この場に残ったデュラハンはキャプテン・雷牙とスラン、フォンフェル、ソルワデスとなった。
「みんな、司令室に向かうぞ。現状の把握と十糸姫から話を聞かないといけないからな。各々、家族の無事を確認したいだろうが我慢してくれ。」
道人たちは司令の意見に賛成し、頷いた。急いで司令室へと向かう。
「虎城君、すまない。今、戻った。司令代理ご苦労だった。」
「………。」
虎城はうつむいて涙を流していた。その姿を見た瞬間、道人たちの胸は急に苦しくなり、嫌な予感が走ってまるで全身の動きを支配されたかのようになった。
大神と流咲も険しい顔でキーボードを叩いていた。
スクリーンに映っていたイジャネラも静かにしていた。
「虎城君?」
「…あっ、お帰りなさい。司令、道人君たちも…。」
虎城は溢れる涙を何とか拭って道人たちを見る。
「ほ、報告しないといけないのですが…。皆さん…聞いても、大丈夫ですか…?」
道人たちは苦悶の表情を浮かべ、下を向いた。ユーラが気遣って道人の右腕にしがみつく。
「…構わない。話してくれ。みんなも覚悟はいいな?」
道人たちは司令に対して静かに頷き返した。
「…はい。市民たちの実験エリア及び、遊園地エリアへの避難は完了致しました…。避難民の救助人数も計測は完了して…。」
虎城は目を瞑って下を向くが、目を開いて前を見た。
「救助できた人数は…986名です。」
それを聞いて真っ先に驚きの声を上げたのは潤奈だった。潤奈は自分の故郷を採掘星に変えられているため、こういう事態には繊細だった。
潤奈は口を両手に当て、涙を流した。
愛歌も涙を流し、潤奈を抱きしめた。
御頭街の総人口は約六万人。道人たちが助けられた人は四桁にも満たなかった。
「虎城さん、稲穂は!?稲穂は無事だったのかっ!?」
深也が真っ先に虎城に避難民について問うてくれた。こういう時、深也の物怖じしないところは頼りになる。
稲穂とは前に御頭デパートにみんなで買い物に行った際について来ていた虎城の妹だ。
虎城はまた涙を流して首をゆっくりと横に振った。
「…嘘だろ…?」
「…稲穂だけじゃありません。父と母も…。」
「私も華凛は無事だったんだけどさ…。お父さん、お母さんがね…。」
「私も、母が…。」
大神と流咲も悔し涙を流しながらキーボードを叩いていた。
「…クソォッ!」
深也は振り返って壁をぶん殴った。
「こらこら、物に当たるのはいけないよ?」
「…!?」
合成音声が聞こえ、道人たちは一斉にスクリーンを見た。
「Dレボリューション…!」
道人は顔を歪めてスクリーンに映るDレボリューションを睨んだ。
「嘘でしょ、勝手に通線回線が…!?」
思わぬ事態に大神は涙が止まり、キーボードを叩くスピードを上げた。
「何だかお通夜ムードだねぇっ…。ま、無理もないか。一部例外は除いて、もうパークにいる人たち以外はほとんどこちらに連れ去っちゃったからねぇっ。」
「…は?」
道人たちは聞き捨てならない事を耳にした。
「途中、傀魔怪堕の兵たちがいなくなっただろう?それは御頭街以外の世界に足を運んでいたからなんだ。抵抗力を持たない人たちを傀魔怪堕送りにするのは簡単だったよ。」
「馬鹿なっ!?いくら何でも早過ぎる…!?」
司令が思わず机を右拳で叩いた。
「全く、世界も守れず、自分たちが住む街しか守れないとはとんだご当地ヒーローたちだ。」
「くっ…!」
それを聞いてソルワデスが一歩前に出て憤りを見せた。
『さっき言っただろう?君たちは言わば、最後の鳥籠だってさ。』
「…!? ガイアヘッド…!?」
Dレボリューションの横にガイアヘッドが姿を現した。
「くくっ、『玉』を解放すればこんなものよ…!」
「極亞まで…!?」
傀魔怪堕の三大将軍の一人、極亞も姿を見せた。
『さぁて、君たちに面白い話をしてあげよう…。君たちがいる世界と傀魔怪堕は…後二日もすれば完全なる融合を果たす。そうしたら、傀魔怪堕による優良人種完全管理世界は成立する…。そして、君たちがいるデュラハン・パークにはガイアフレームが施した結界がある訳なんだけどさ。もし、同じく地球の意思である僕がそれに干渉できるとしたら…どうなるかな?』
「なっ…!?」
ガイアヘッドも地球の意思の一部。結界に干渉できてもおかしくはないため、嘘をついているようには道人には見えなかった。
「やはり、そう来たか…!くっ、博士と話した通りだった…!」
司令も結界に関しては予め予想していたようだった。
「ちょっと待ちなさいよ!そんな事ができるんなら、何でさっさとしないのよ!」
『察しが良いね、愛歌。そう、その結界はあくまでガイアフレームの力で作られたもの…。君たち風に言うと幾重ものロックが掛かっている訳さ。でも、所詮は悪あがき。時間を掛ければ…。』
ガイアヘッドは人差し指と中指を立てて見せた。
『僕がパークに辿り着く事ができたら…大体二日。世界が融合し終わるのに近いタイミングで結界も解除してみせるよ。』
「ほほう、それは面白い余興ですな、地球の意思。道人たちはたった一箇所の安息の地を守りつつ、世界の融合も阻止しなければならない訳ですな。」
『そう、結界がなくなったら君たちはジ・エンド!世界が融合し終わってもジ・エンド!全員、傀魔怪堕送りのデスゲームの開幕という訳さ!あっはっはっはっはっ…!』
道人たちは困惑して苦悶の表情を浮かべ、ただ笑っているガイアヘッドを眺めていた。
「それは其方たちも同じであろうよ、ガイアヘッドとやら!」
「…姫?」
周りが混乱状態で気落ちする中、十糸姫だけはスクリーンに映るガイアヘッドを指差してみせた。
「これはこれは十糸姫ではありませんか。そんな所で一体何を?」
「決まっておろう、極亞!其方らの野望を打ち砕いてやるためじゃ!其方ら、『亡き主』に背いて『禁忌』を犯しよったな?」
「…! 貴様…。」
姫の言葉を聞いた途端、極亞は明らかに様子が変わった。どうやら、姫は切り札を切ったようだった。
「この夥しいまでの傀魔怪堕の兵の数を見れば、すぐにわかるわ!ついにそこまで堕ちたか、極亞!」
「ぐっ…!」
「ならば、こちらも同条件じゃ!其方らがこちらの結界を破る前に我らは逆に其方らの『混沌巨玉』を封印し直せばいいだけの事じゃ!」
「姫…。」
道人たちが気落ちする中、十糸姫はたった一人で果敢に傀魔怪堕に立ち向かってみせた。
その姿は道人が正気を取り戻すには十分な光景だった。
「姫の言う通りだ!俺たちにはまだやれる事があって、攫われた人たちをもう助けられない訳じゃないってのに、何やる前からびびってんだって話だよ!」
道人は両手で両頬を軽く叩いてデバイスに映るジークヴァルを見て互いに頷き合い、姫の横に立った。
「俺たちは生き残った人たちを守るためにこのパークを死守する!そして、お前たちが攫った人たちも助け出して、お前たちが起こした禁忌とやらも止めてみせる!」
「道人…。」
「ごめん、姫…!一人であいつら相手に論争させる形になっちゃってさ…!でも、もう大丈夫!君が希望への道を示してくれたおかげで、俺たちの意思は固まったから…!だろ、みんな!?」
道人の言葉を聞くとみんな、力強い決意に満ちた顔になった。
「当たり前じゃぁっ!」
「十分勇気を貰えたさぁっ!」
大樹とデバイス内のカサエルが真っ先に道人に返答してくれた。
「安心しな、虎城さんたち!稲穂たちは絶ってぇ俺たちが取り戻してみせるからよ…!」
「深也君…。 …はい…!」
虎城は涙を拭いてガイアヘッドたちを見た。
「潤奈、あたしたちもさ!やったろうじゃん!」
「…これ以上、地球の人たちを連れ去るのは私たちが許さない…!」
愛歌と潤奈も涙を拭き、スクリーンの方を向く。
「お姉ちゃン、私たちモ…!」
「えぇ、トワマリー!奴らには絶対屈しません!」
デバイスからトワマリーの声が聞こえ、フォンフェルが答えた。
「私は道人さんたちには大きな借りがあります…!その恩を返すためにも!」
「えぇ、海音!私たちキャルベンは…!」
「同盟として…いや、同じ世界に生きるものとして、全力でパークを護衛する事を約束しよう!」
スクリーンに映るイジャネラも海音とソルワデスに同調してくれた。
「お前らは俺の両親と春香に手を出したって訳だ!覚悟しとけよ!」
「私も同じ気持ちよ、真輝!前から私はあんたら傀魔怪堕の求める永遠が気に入らなかったのよ!」
「我らの想いは一つだ!誰にも汚せたりはしない!」
真輝、グルーナ、司令も強く意思表示をした。
『何だ、こいつら?急に元気に…?』
ガイアヘッドは不快そうに道人たちを見た。
「面白いではありませんか、ガイアヘッド!楽しい楽しい命懸けの、地球の命運を賭けた旗取り合戦が開幕する訳なのですから!」
Dレボリューションは合成音声でもわかる程、興奮しているように見えた。
「良かろう…!我らが先にそちらの結界を消すか、お前たちが先に混沌巨玉を再封印してみせるか…!これは互いに死力を尽くした…そう、『「現」「冥」融合大戦』である!!」
そう言うと極亞は鞘から抜いた刀の切っ先をこちらに向けて来た。
「私たち、デュラハン・ガードナーは絶対にお前たちの思い通りにはならない…!」
「そうだ、もうこれ以上何も奪わせないし、絶対に人も街も全て取り返してみせる…!勝負だ、傀魔怪堕!!」
ジークヴァルは画面の中で、道人とほぼ同時にDレボリューションたちを指差してみせた。
ガイアヘッドが不快なものを見るような顔が最後に映り、通信は途絶えた。




