209章Side:卒間 前編 コウモリと黄龍
道人たちが人命救助のために出撃してからの間、卒間は司令役を虎城に任せ、ディアスと共に全てのエリアの入口でもあるモノレール乗り場の守りに付いていた。
キャルベンの兵士たちが続々と市民たちを連れてやって来る。
ディアスが広い視野で周りを警戒してくれているので卒間も避難誘導を手伝っていた。
「皆さん、落ち着いてスタッフの指示に従って下さい!モノレールに乗れなくとも、ヘリや船による移動も実施しております!」
「あの、祖父が実験エリアが避難場所で私は遊園地エリアで離れ離れになってしまったのですが…。」
「エリア間の移動に関しては後に対応させて頂きますから、今は避難を優先して下さい。」
デュラハン・パークのスタッフや警備員が大忙しで市民たちの避難誘導をしてくれている。
キャルベンも小型船を提供してくれたので移動手段には余裕がある。
「車で避難して来る人が少ないのは…無理もないか…。くっ…!」
首無し鎧武者たちは道路上にも現れている。
車は通れないどころか、止まっている間に首無し鎧武者に捕まって傀魔怪堕に連れて行かれてしまうだろう。
道路上には無人の車が多く溜まってしまい、実質車に乗っての避難は無力化されたに等しい。
卒間がそう考えている内に耳に付けている片耳通話イヤホンから着信があった。
「私だ。」
「司令、わしじゃ。」
連絡して来たのは博士だった。
「博士か。」
「うむ。オペレーターの子たちは避難指示や道人君たちのサポートで大忙しじゃから、わしが代わりに連絡したんじゃ。」
「こちらは情報不足にも程があるからな…。助かった。避難状況はどうなっている?」
「…あまり良いとは言えんな…。とてもではないが、市民たち全員を救助できているとは…。」
「そうか…。」
卒間が寂しそうな顔をするとディアスが右肩に手を置いてくれた。
司令という立場上、『仕方なかった』という甘えは口が裂けても言えない。
心のどこかで御頭防衛隊の存在を軽んじていたところがあった事を卒間は悔いていた。
ディアスはそんな卒間を気遣って、言葉は掛けずに励ましてくれたのがわかった。
「しかし、パークの護衛役を我らがしているのはいいのだが…傀魔怪堕は不気味なくらい姿を見せないな…。」
「あぁ、私もずっと警戒しているが、奴らはこちらに近寄る気配がない。」
ディアスがそう言うのなら、間違いないと卒間も確信に至った。
「恐らくなんじゃが…以前、潤奈君が言っておった。このパークという空間は何かしらの結界のようなもので守られておると。わしは知らず知らずの内にガイアフレームにこの場所に研究島を作らせるように仕向けられたかもしれない…とな。」
「なるほど…。だが、それが事実だとしても、以前バドスン・アータスは我らが誘い込んだとは言え、実験エリアに入っている。」
「あぁ、私と塔馬がディサイドした時も会社エリアの外でならシユーザーたちは戦闘をする事ができていた。」
「その通りだ。確かに何かしらの結界はあるのかもしれないが、不確かなものにはあまり頼れないな。」
卒間とディアスは互いに考えを博士に話す。
「そうじゃな、道人君たちの報告にもあったガイアヘッドと呼ばれる者の存在もある…。そいつも地球の意思なら、この結界に干渉できる可能性もあるしの。」
「我らはディサイド・デュラハンの知恵を与えられた人物の誘拐も許してしまっている…。これらの失態を良い方向に活かし、我らは全力で市民たちを守らなければな。」
卒間は今自分で言った言葉を必ず貫くという意思表示を込めて、右手で強く握り拳を作った。
博士との通信は一旦終えた。
「うぇ〜ん、怖いよぉ〜っ…!?」
「こ、困った…。どうしたら…。」
子供の泣き声が聞こえたので卒間はその声の主を捜し、見つけた。
しゃがんでいるキャルベンの兵士があたふたしていた。
アナウンスでご当地ヒーローと伝えているとはいえ、それは気休めに過ぎず、キャルベンの兵士を怖がる子供がいても無理はない、と卒間は思った。
「大丈夫!この人たちは良い人たちだからっ!安心して。ほら。」
別の子供の女の子が泣いてる子に近寄って励ましてくれていた。
女の子は鞄から絵を取り出して見せていた。
「何、これ…?」
「ご当地ヒーロー、ソルワデス!前にデパートで迷子になった私を助けてくれたの!ほら、この人とソルワデスはデザインが似てるでしょ?ね?お姉さんもソルワデスのお友達なんでしょ?」
「は、はい!ソルワデス様は私たちの尊敬する将であります!」
キャルベンの兵士は敬礼し、それを見た泣いていた子供は笑みを浮かべる。
「ね?怖くないでしょ?」
「…うん!」
子供はキャルベンの兵士と握手した。
「あの、僕もお母さんとはぐれちゃって…。」
「それは大変だ!よぉし、私もソルワデス様のように君のお母さんを探してあげよう!」
「本当?」
「あぁ、本当さ!」
キャルベンの兵士は子供を肩車し、歩いて行った。
「…本人がこの場にいないのが惜しまれる光景を見たな…。」
卒間は楽しそうに去っていく子供とキャルベンの兵士を見て笑みを浮かべていた。慌ただしい救助作業の中で唯一の癒しのように思えた。
「あぁ、全くだ。帰って来たら本人に伝えてあげねばな。」
「きっと喜ぶだろう…。」
卒間は胸ポケットに入れている家族の写真に手を当てた。
本当は父親として、妻と息子の元に駆けつけて一緒に避難したかったが、司令の立場としては個人の感情を優先する事は許されない。
妻と息子が無事に避難してくれている事を今は願うしかなかった。
「…! 塔馬、何かがこちらに向かって来るぞ…!」
「何だって?」
「私の目に間違いはないさ。数は六機、飛んでいるのが一機、他はローラーで移動している。」
「よし、市民たちを巻き込む訳にはいかない!待ち伏せするぞ!」
「あぁ!」
卒間は司令室に連絡を取りながらディアスと共に走る。
ビルとビルの間の、車が多く放置されている道路に立ち止まった。
「…もう我らの前に来るぞ!」
ディアスが鎌を構えると一機は飛んで来て着地した。
五機のダガー・デュラハンもローラーで走って来て立ち止まる。
「飛んでいる奴と言っていたが…なるほど、確かに一機だけ形が違う…。」
一機だけ、大きな羽をつけた黄色いドラゴンのようなダガー・デュラハンがいた。
ディアスは先手必勝でビームコウモリを射出したが、空を飛び回りながら頭と胸から火炎放射を発し、ビームコウモリを焼いていく。
ダガー・デュラハンたちはローラーで移動し、卒間とディアスの周りを回り始める。
「パークが手薄な所を狙ったのかもしれないが…生憎、ディアスは一対多を得意とするデュラハンでな!」
「あぁ、我らが力、存分に思い知るがいい…!」
ダガー・デュラハンたちはバズーカを発射するが、ディアスは卒間を抱えて空を飛ぶ。
ビームコウモリで向かって来る弾を誘爆させ、鎌を振り回して斬り落とした。




