26章 決心する海賊
「ケケッ!さぁっ、人質をどうしてやろうかぁっ…!」
ディフィカルトクラーケンの触手に両手両足、腹を拘束された愛歌とトワマリー。ジークヴァルもトワマリーも時間切れでドリルヘッドとヌンチャクヘッドは解除されていた。
「まずはお前のデバイスとスマホを地面に捨てろぉっ!その腕の装甲も外せ!そこのデュラハンも機能停止してもらおうか!」
「道人、駄目!こいつらの言う事なんて聞かないで!」
「黙ってろ、お嬢さん!」
ディフィカルトクラーケンの触手の締めが強くなり、愛歌の腹を強く圧迫する。
「い…あっ!?」
「や、やめろ! …わかった!言う通りに…。」
「待って下さい。」
博士たちと一緒にいた海音が何時の間にか道人の前に立っていた。
「海音!?何を!?」
深也が叫ぶと海音は振り向いて深也を見て、顔を横に振った。また視線を木倉下に戻した。
「愛歌さんたちを離しなさい!代わりに私が人質になります!」
海音は自分の胸に右手を当てた。
「は?何企んでやがる?その手には乗らねぇ。」
「何も企んではいません。私はただ、大事な人を助けたいだけです。」
「大事な人だとぉっ?」
「あなたと道人たちは今日知り合ったばかりでは?」
マーシャルが口を挟んだ。
「私はこの水縹星海岸が好きです。魚さんたちも商店街の人たちもみんな大好きです。この場所に訪れてくれた道人さんたちももう私にとっては大事な人なんです。今は敵対関係になっているあなたたちも大事な人ですよ?」
「は?俺たちmon?」
「はい。…私はかつて後悔し、学びました…。人は出会い方でその後の関係が決まってしまう…。良い方にも、悪い方にも…。私は悪い出会い方をしたからと言って何人…。」
海音は下を向いて自分の右掌を見た後、ディフィカルトクラーケンを強い眼差しで見た。ディフィカルトクラーケンの身体が震え出す。
「あ?おい、どうした?クラーケン?」
「私はもう片方だけを守るんじゃない…!敵対した方も倒すのではなく、救いたい…!そう、かつて人魚騎士と敵対する事になったクラーケン、あなたも…!」
「ご高説どうも、聖女様ぁっ!」
ディフィカルトクラーケンは震えの元を断つため、触手の一つを海音に勢いよく伸ばした。
「海音、危ねぇっ!」
深也が駆けて海音の前に立ち、右腕に触手が巻き付いた。
「深也!?」
「綺麗事を宣う聖女様の次は死にたがりのナイト様かぁっ?」
「ぐっ…!」
深也は引っ張られないように足に力を入れる。
「海音…!あんたの過去に何があったかは知らねぇが、随分難しい道を選んだんだな…!」
「…両方救うというのは傲慢なのでしょうか…?」
「いや、いいじゃねぇか…!俺は難しい難易度に挑む方が燃えるんでねぇっ…!あんたのその心意気は大好きさ!」
「深也…。」
深也のポケットの中が青く光り出す。
「その心意気、大事にしな!例え叶わなくても、綺麗事だって言われても、決して諦めんな!二兎追ったからには二兎とも取れってなぁっ!」
その時だった。地面の中からボロボロのデトネイトランドレイクが現れ、深也に巻き付いているディフィカルトクラーケンの触手を手刀で引きちぎった。
「何だぁっ!?」
驚く木倉下にすかさずデトネイトランドレイクはディフィカルトクラーケンの胴体を殴り、地面に倒した。
「きゃあぁぁぁぁぁーっ!?」
愛歌とトワマリーの巻き付いていた触手が緩み、落下する。
「…!? 危ない、愛歌!」
道人はスマホを前に出し、ハーライムを実体化させて落下してきた愛歌をお姫様抱っこでキャッチした。ジークヴァルもトワマリーを受け止める。道人はハーライムと愛歌の元へ走った。
「大丈夫、愛歌?」
「うん、大丈夫…。」
ハーライムは愛歌を下ろして立たせた。
「大丈夫か、トワマリー?」
「うン、ありがト、ジークヴァル。」
「デトネイトランドレイク…?どうして、ここに…?」
マーシャルはもう動くはずのないデトネイトランドレイクを見て困惑する。デトネイトランドレイクは後ろを振り返り、深也の元へと歩いて前に立った。
「お前…?」
デトネイトランドレイクは自分の胸パネルを右手でこじ開けた後、左手で深也のポケットを指差した。深也は今朝ポケットに入れたデュラハン・ハートを取り出す。青く光り輝いている。
「これを、お前の胸の中に入れろって言うのか…?」
「何かやばそう!邪魔決定!」
バンペイはディフェンスダイヤトウを深也の元へ向かわせる。
「寝てろ!!」
突然現れたシャドーフォンフェルが右膝小僧でディフェンスダイヤトウの頭を上から押し潰した。少しふらつくディフェンスダイヤトウ。
「…道人、愛歌、遅れた。大丈夫?」
フォンフェルが着地し、両脇に抱えていた潤奈と虎城を下ろす。
「潤奈、フォンフェル、虎城さん、来てくれたんだ!」
深也はデトネイトランドレイクにデュラハン・ハートを取り付けた後、後ろに下がった。深也の頭上にディサイドデバイスが出現し、深也は両手で持った。首にもネックレスが出現する。
「博士、あれは…!?」
虎城が博士のいる神殿まで走ってきた。
「うむ!面白い事になってきたわい…!」
デトネイトランドレイクは一瞬光った後、新たな青い海賊衣装を纏い、見た目が変化した。
「な、何なんだよ、一体…!?早く起きろ、クラーケン!」
ディフィカルトクラーケンは立ち上がるのに手こずり、ディフェンスダイヤトウはもう片方だけになってしまった盾で防御体制を取る。
「馬鹿な…!?デストロイ・デュラハンがディサイド・デュラハンになるなんて…!?」
マーシャルは今目の前で起こっている事に動揺し、姉の潤奈がここに来た事には気がついていなかった。
「…深也、お前さんとこうやって会話できるとはな。」
デトネイトランドレイクが胸の顔で会話をしてきた。
「デトネイトランドレイク!?お前…。」
「いいね、その驚きよう!ディサイドした甲斐があったぜ!」
「ディサイドって…俺とお前はそんな関係じゃ…。愛着もねぇのに…。」
「愛着?そんなの今から持てばいいじゃねぇか!お前さんの言った「二兎追ったからには二兎とも取れ」、って言葉。いいねぇ、海賊魂に響いたぜ!」
「デトネイトランドレイク…。」
「もうデトネイトじゃないぜ、船長?」
「…ははっ、そうか。そうだな!俺と一緒にあいつらと戦ってくれるか、ランドレイク!」
「おう、あたぼうよ!奴らに海賊魂、見せてやる!」
「離れてな、海音!」
「はい!」
海音は走り、神殿にいる博士と虎城の元へ走った。
「ヘッドチェンジ!ダブルトライデント!」
『あなたの向かう先に二つの選択肢があります。あなたはどっちを選びますか?』
「どっちも選ぶに決まってんだろ!」
『欲張り』
「「欲張りで結構!」」
深也とランドレイクが同時に答え、ランドレイクに両耳が尖った新たな頭パーツが装着され、両手にトライデントを持った姿、ダブルトライデントランドレイクとなった。
「行くぜ、出港だ!覚悟しやがれ、キクラゲ野郎!」




