198章Side:大樹⑤ 凍てつく氷を溶かす大道芸
大樹は改めてエイプリルとSEグレリースと闘う事になる路地裏の確認をした。パイプや室外機が多くある場所で路地裏と言ってもそこまで狭くはない場所で闘い辛い事はなさそうだった。
「さっさと大樹さんたちを退けて用を済ますよ、グレリース。」
「はい、エイプリル。全てあなたの思うままに…。」
SEグレリースは両手からレーザーを放つ。
それと同時に宙に浮かんでいる貝殻が開いて鏡面を見せると、レーザーを反射して軌道が予測できないレーザーと変化させて『皆』=狸夢操士カサエルの元へと向かわせる。
「さぁっ!」
『皆』=狸夢操士カサエルも対抗して三つの三度笠を操作し、何とかレーザーを弾いていく。その間に夢瓶を振る。
「ふーん、やるね。じゃあ、数を増やすとどうかな?」
エイプリルも両手にレーザー銃を持ち、鏡面の貝殻に向かって発射。SEグレリースのレーザーと合わせて四つのレーザーが『皆』=狸夢操士カサエルを襲う。
「無駄無駄さぁっ!」
『皆』=狸夢操士カサエルは三度笠で弾けるレーザーは弾いて、自身はジャンプして路地裏である事を活かし、壁蹴りをしてレーザーを避けていく。傘付きの杖も開いてそれでもレーザーを防ぐ。
「カサエル、フォーメーション虎城さんの夢じゃ!」
「出でませ、富士山!阿蘇山!高尾山さぁっ!」
『皆』=狸夢操士カサエルは夢瓶のコルクを開けると本物よりは小さいが富士山と高尾山、阿蘇山がタワーとなって出現し、エイプリルとSEグレリースの視界を塞いだ。
「な、何これ?」
「人の見た夢の数だけ強くなる!これがカサエルと狸、俺の戦い方じゃぁっ!」
タワーとなった山の頂上にミニキャラの虎城が登って行き、万歳をする。その瞬間に山は粉々になり、小石がエイプリルとSEグレリースに向かって飛んだ。
「…!? エイプリル!」
SEグレリースは浮遊している貝殻をエイプリルの前に集め、飛んで来る小石を弾いた。
「レーザーと同じく、俺らの戦い方も予測不能じゃぁっ!」
大樹は土煙の中から姿を現し、アスリート走りでエイプリルの元まで走る。
「君は狙わない!デバイスを取り上げるぞい!」
「死にたいんですかっ!?」
エイプリルは両手のレーザー銃を大樹に向けて発射した。
「君みたいな良い子がぁっ、俺に当てられるはずがないぞぉぉぉぉぉーっ!」
大樹は向かって来るレーザーを恐れずに前進し続けた。
「エイプリル、下がって!」
SEグレリースは両手からレーザーを伸ばし固定。冷気を帯びたレーザーソードにして大樹に斬り掛かった。
「おっとっと!?」
大樹は横一閃を何とか制服バリアで防いだ後、後ろに一歩下がった。
「喰らえぃっ、『大樹のドキドキ!子瓶』じゃぁっ!」
大樹は両手に六本の小瓶を持ち、SEグレリースに向かって投げた。
「グレリース!」
「わかってます!」
SEグレリースはレーザーソードを罰の字に斬り、飛んで来た小瓶を全て凍らせて地面に落とした。
「カサエル、夢瓶は!?」
「万全フリフリさぁっ!」
「よっし!フォーメーション愛歌ちゃんの夢じゃぁっ!」
『皆』=狸夢操士カサエルが夢瓶のコルクを開けると絵本を持ったミニキャラの愛歌がたくさん出て来て宙に浮いた。
「こ、今度は何っ!?」
エイプリルとSEグレリースは周りに浮かぶミニ愛歌を困惑した様子で何度も見る。
「あたしはだぁれ?」
「愛歌さんでしょ!」
「悪戯好きのお狸さん?それとも狐さん?」
「だから、愛歌さんでしょ!」
律儀に返事をするエイプリル。ミニキャラの愛歌たちは狐耳や狸耳を生やしていく。
「こんな事ができるのはこの世であたし、ただ一人!」
ミニ愛歌たちはエイプリルとSEグレリースの周りを高速回転し、爆発した。
「げほっ、げほっ…!な、何で爆発…?あなたたち、真面目に闘う気あるの!?」
「あっしらは大真面目さぁっ!」
『皆』=狸夢操士カサエルは夢瓶を振りながら大樹の隣に着地した。
「そう、俺たちは大真面目にこの闘いが無意味な事を君に伝えておるんじゃぁっ!」
「あっしは例えどんな闘いであっても大道芸をし続ける!戦意を喪失させて事を治める!それがあっしらの戦い方さぁっ!」
「くっ、馬鹿にして…!」
エイプリルは両手に持ったレーザー銃を連射した。
大樹と『皆』=狸夢操士カサエルはエイプリルに真剣な眼差しを向けたまま、向かって来るレーザーを三度笠で防いでいく。
「…カサエル、とっておき行くぞい。フォーメーション深也の夢じゃ。」
「合点さぁっ!」
「お兄ちゃんの…!?くっ、グレリース!」
SEグレリースは鏡面の貝殻を自分の周りに集めて円を描き、レーザーを連射。
複数のレーザーは円状に反射を繰り返し、輪っかのレーザーになっていく。
「放って、グレ…!」
『ははっ、芽依!』
『お兄ちゃん!』
「…!?」
『皆』=狸夢操士カサエルが夢瓶のコルクを開けると楽しそうに手を繋いで歩いている深也と芽依が現れた。
「…っ!? 待って、グレリィィィィィース!!」
SEグレリースはエイプリルの言葉を聞き、輪っかになったレーザーを天に向け、放った。
「…ずるい…。…ずるい…!思い出を盾にするなんて、ずるい!」
エイプリルは涙を流し、その場に座った。
「…君なら攻撃しないって、信じておったぞい。」
「…小さな頃の深也と、芽依…。」
「…あっ、深也のお父さん、まだ出ちゃ…!」
潤奈の止めも聞かず、深也の父親は隠れるのをやめて姿を見せた。
「…懐かしいな…。いや、育児放棄した俺が懐かしく思う資格はないのかもしれんが…。この深也と芽依は俺と…一緒に買い物に行った時の頃のだな…。」
「…!? 覚えて…!?」
「この日は芽依の体調が良かった日だからな…。忘れるはずがない…。二人共、スーパーの食玩コーナーではしゃいでな…。俺もその光景がつい嬉しくて、奮発して…。」
深也の父親は自分の右手を見た。まるで手放してしまった過去を後悔するようだった。
「お前たちの好みもわかったし、家族らしい事ができて嬉しかったなぁっ…。…なぁ、芽依。俺はもういいんだ…。でもな、せめて深也の所へは帰ってやってくれないか?俺はもう手の届かないところにいるかもしれないが、お前たちだけはずっと仲の良い兄妹であって欲しいんだ…。」
「…お父さん…。私…。」
「そこまでです。エイプリルの…この子の心をこれ以上揺るがすのは私が許さない。」
SEグレリースはエイプリルの前に立ち、深也の父親からエイプリルが見えないようにした。
「親子水入らずのところを邪魔するんじゃないぞい!」
「エイプリルに余計な影響を与えてはなりません。」
「余計なんかじゃないさぁっ!家族は…家族は宝物さぁっ!」
『皆』=狸夢操士カサエルは辛そうに叫んだ。前世のカサエルは両親を放置して旅に出てしまい、その半ばに死んでしまったので悔しい思いもあるのだろう、と大樹は察した。
「…宝?人間関係が、宝…?」
SEグレリースは『皆』=狸夢操士カサエルの言葉を聞いた途端、苦しみ出した。
「グ、グレリース…?」
「い、妹が…宝…?何だ?何なんだ、このざわついた感覚は…!?」
その時だった。赤いレーザーがエイプリルとSEグレリースを横切り、深也の父親に向かって来る。
「…いけない!」
潤奈が深也の父親を押し倒し、制服バリアで赤いレーザーを弾いてみせた。
「…グレリース、邪魔が入ったね…。今日はもう帰ろう?」
「はい、エイプリル…。」
SEグレリースは何とか立ち上がり、エイプリルを抱えて高くジャンプした。
「…!? 待つんじゃ、芽依ちゃん!」
「芽依!」
大樹と深也の父親の叫びは届かず、エイプリルとSEグレリースは去って行った。
「一体誰じゃっ!?邪魔したのは!?」
大樹が赤いレーザーが飛んで来た方を見ると見た事のない黒いロボットが銃を構えて二体立っていた。
「な、何じゃ、こいつらは…?」
黒い二体のロボットは電子棒を手に取り、『皆』=狸夢操士カサエルに襲い掛かって来た。




