2章 謎の少女
「さっきの停電、結局何だったのかわからなかったな…。」
道人と愛歌は大樹の家から出て一緒に帰っていた。親から無事かどうかの連絡、停電の情報を調べるのに時間が掛かり、時刻は五時を過ぎてしまった。結局大樹との再戦はならずに今日はお開きとなった。
「御頭街だけの停電だったみたいだけど、あれからは何も起こってないみたいだね。」
愛歌はスマホを取り出し、立ち止まって確認した。
「うん。何だったんだろう?あの雷が原因だと思うけど…。」
「そ、そんな事よりさ!惜しかったね、さっきの戦い!ハーライムもルートタスも頑張ってたし!」
愛歌は強引に話を変えた。道人は雷の事も、愛歌の様子がさっきから変なのも気になっているが、いつまでも気にしてもしょうがないと割り切り、愛歌の話に乗っかる事にした。
「うん、ハーライムはよく頑張ってくれたよ。大樹もルートタスも強かった。大樹の最後のヘッドチェンジは何だったのか、気になるなぁ〜。」
「あたしとルブランの今日のコンビネーションも抜群だったのよ?道人、寝てたけどさ。」
「ははっ、それはごめん、って…。」
家に着くまでの道中、河川敷を歩きながら愛歌と楽しく語り歩いた。
「そういえば道人、寝てた時、どんな夢見てたの?」
「うん、父さんと一緒にブーメランで遊んでた時の夢を見てた。」
「あっ、お父さんの…。」
愛歌は下を向いて寂しそうな顔になった。
「あ、ほら。気にしないでよ!な?」
道人の父・豪は三年前、宇宙飛行中に行方不明となっていた。今でも豪たちを慕っていた宇宙飛行士仲間たちが捜索を続けてくれているが、豪たちのチームが乗っていたシャトルは今も見つかっていない。
「父さんは生きているよ。僕も母さんも今でもそう思ってる。」
道人はリュックサックから自分が作ったブーメランを取り出した。
「父さんと約束したんだ。無事に帰ってくるって。帰ってきたら、僕の上達したブーメランを見てくれるって。」
「道人…。」
「デュエル・デュラハンの事も教えたいな。ハーライムの事も、僕がブーメラン戦法を好んで使ってる事も…。」
道人は立ち止まり、ブーメランを投げる構えを取った。
「帰ってきたら話したい事がたくさんあるんだ。だから…早く帰ってこいよ、父さん!」
思いっきり力を入れ、夕日を目掛けてブーメランを投げた。
「見つかるよ、お父さん、きっと…。」
「うん。ありがとう。」
手元に戻ってきたブーメランを道人はもう一度力強く投げた。
「愛歌、大変ヨ!司令たちから連絡!すぐにパークに来てほしいっテ…!虎城さんがヘリで迎えに来てくれてル!」
道人は自分と愛歌以外の声が急に聞こえだしたので驚いた。
「…!? ごめん、道人!急用ができた!先に帰るね!」
「え?急用って…。」
話す間もなく、愛歌は見た事のない携帯機を取り出して自分の家の反対方向へと走っていった。
「愛歌、あんな機械持ってたっけ…?あと、気のせいかな?ヘリって聞こえたような…?」
道人は色々と疑問に思いながらも一人で家に帰る事にした。
時刻は六時二十分。日が暮れてもう辺りはすっかり暗くなってしまった。人気のない商店街を道人は一人歩いていた。
「母さんの晩ごはんの手伝いしなくちゃいけないのに…。早く帰ろう。」
しばらく歩き、商店街の出口まで着いた所に一人の少女が立っていた。銀髪のロングヘア、黒い服を着ている深い青色の瞳の少女。半目状態でじっとりと道人を見ている。
(何だ、この子…?)
道人は急ぎ足で少女の横を通り過ぎようとした。
「…ねぇ。」
急に話しかけられて驚き、思わず「はい!」と答えて立ち止まった。
「…君は行かないの?デュラハン・パーク。」
「えっ?デュラハン・パーク…?」
デュラハン・パークとはここ御頭街にあるデュエル・デュラハンの大型テーマパークだ。
「別に用はないけど?もう夜遅いし…。」
「…何度も君の事呼んでるのに?」
何なんだ、この子は?と疑問に思いながらも、この子には申し訳ないが、と道人はその場を去ろうとした。
「…夢の中でも呼んでたでしょ?あなたの事。」
「…!? 何で?夢の、事を…?」
道人は立ち止まって振り返り、何故この子が自分の見た夢の事を知っているのかと困惑した。
「道、人…。早く…私を…。私の、名は…。」
道人は反射的に両耳を塞いだ。この声は夢の中で何度も聞いた声だ。
「…何で?何で豪の事も迎えにいってあげないの?
「…!? 今、なんて…? …父さん、父さんの事を知ってるの!?」
道人は意外な人物から父の行方に関する事を聞いて更に動揺した。
「父さんたちは…父さんたちのチームは今、どこにいるの!?無事なの!?」
「…『バドスン・アータス』。彼らの元に…。」
「バド、ス…?」
謎の少女はこの短い間に色んな情報を話してきて道人の思考はもう滅茶苦茶になってきた。
「…さっきの子、このままじゃ身が危ないよ?」
「え…?何?愛歌の事?危ない…?」
「…ついてきて。案内してあげる。君の運命が集う場所、デュラハン・パークに…。」
謎の少女は後ろを振り向き、歩き出した。
「あっ、待ってよ!まだ聞きたい事が!」
道人は未だに混乱しているが、とりあえず今現在危ない目に遭おうとしているのは愛歌だという事を認識し、謎の少女を追いかける事にした。
「母さん、ごめん!帰りが遅くなる!待ってろよ、愛歌!」
決意を胸に勢いよく前進した道人だったが、謎の少女が急に立ち止まった。
「わぁっ!?何っ!?急に立ち止まって!?」
「…跳んでった方が早いね。フォンフェル、まだ本調子じゃないだろうけど、大丈夫?」
「何?フォンフ」
道人が言葉を発しようとした瞬間、何かに抱えられ、目の前の背景が歪んだ。
「な…にっ?」