176章 例え今後、どんな巨悪が来ようとも
フィフスドラグーン・ジークヴァルグの必殺の一撃が決まり、アトランティスのデュラハンは上半身が抉れ、両手両足を失って致命傷を受けた。
頭と身体だけとなったアトランティスのデュラハンは地面へと落下していく。
「くっ、消滅には至らなかったか…!」
「うん、みんな!まだ気を抜かないように!」
相手もオリハルコンでできたデュラハン。かなりの大ダメージは与えられたが、まだ油断はできない。またアトランティスのデュラハンが感情を強めたら奇跡を利用して復活しかねない。
フィフスドラグーン・ジークヴァルグと道人は急いで落下するアトランティスのデュラハンを追う。
その時だった。アトランティスのデュラハンの抉れた身体の部分から黒い球体、まるでブラックホールのようなものが出現し、周りの背景を吸収し始めた。
「な、何だっ!?何をする気だっ!?」
フィフスドラグーン・ジークヴァルグと道人は周りを急いで確認する。地面もものすごい勢いでアトランティスのデュラハンへと吸い込まれいく。
『…!? いけない!アトランティスのデュラハンは自分の体内にこのアトランティス全てを内包するつもりです!』
「…!? な、何だってぇっ!?」
ユーラからの念話を聞いて道人は動揺した。
遠くから地面に着陸しているはずのデュラハン・シップが地面ごと向かって来ているのが確認できた。
それどころか、空を飛んでいるスランたちも引き寄せられそうになっている。
「まずい…!くっ、ここまで来て…!?」
近づいて斬り掛かったらこちらがあっという間に吸い込まれてしまう。
その時だった。紫の水の竜が二匹飛んできてアトランティスのデュラハンは紫の水に全身包まれた。
「…!? この水は…!?」
「イジャネラ様!?」
マーシャルがイジャネラに肩を貸して宙に浮いており、水鏡を四つ宙に展開していた。
「マーシャルも!?」
「ご機嫌よう、義兄さん。いきなりデュラハン・シップが引き摺り込まれそうになってて何事かと思いましたよ…。」
「何をしておる!?早くとどめを刺せ!長くは保たぬぞ…!」
イジャネラの言う通り、紫の水をアトランティスのデュラハンは物凄い勢いで吸い込んでいく。
「イジャネラ様…?」
「お母様、あなたは…?」
「ソルワデス、海音、話は後じゃ!今はこいつを何とかせぬと…!」
イジャネラがせっかくくれた好機、無駄にはできない。道人はカードを実体化し、デバイスに読み込んだ。
「これで本当にとどめだ!ヴァルクブレード!斬撃強化ヘッド!ダブルヘッドエボリューション!」
フィフスドラグーン・ジークヴァルグは斬撃強化が掛かったヴァルクブレードを両手で持ち、光の刀身を再び天に向かって伸ばした。
「研磨、完了!」
新たに手に持ったヴァルクブレードをオリハルコンに変えた。
「これで今度こそとどめだ、アトランティスのデュラハンよっ!!」
フィフスドラグーン・ジークヴァルグはヴァルクブレードを一気に振り下ろした。
その時、道人の視界は急に暗転した。
「…えっ? …何…?」
道人は周りを見るがどこも真っ暗だった。自分の姿も鎧がなくなって、生身の姿になっている。
「…まさか、アトランティスのデュラハンがもうアトランティスを全て飲み込んじまったのか…!?」
道人は焦って周りを改めて確認すると目の前にはアトランティスのデュラハンが浮いていた。
「ア、アトランティスのデュラハン…!?」
道人の目の前のアトランティスのデュラハンは五体満足で、竜の鎧を纏った姿だった。この場にいるのは自分とアトランティスのデュラハンだけ。道人は警戒態勢を取った。
「⊥ `λ θ η」
「な、何…?」
アトランティスのデュラハンが言葉のようなものを発した。道人には何故だかその内容がわかった。
「素晴らしい…?何で急に褒める?」
アトランティスのデュラハンは右手を前に出すと道人の目の前に虹色のデバイスを出現させた。
「☆η {」λ」
アトランティスのデュラハンの話す短い言葉には物凄い情報量が詰め込まれていて、聞いた途端に道人の脳内に日本語に切り替わって理解できる。
「…力、欲しい…?力に繋がる全て、ヘッドや人、愛、気持ち、全部…?」
アトランティスのデュラハンは自分の頭だけじゃない。自分の力となるかもしれないものを手当たり次第集めようとしていた。
最初にアトランティスのデュラハンと遭遇した時も、深也とランドレイクのヘッドを強奪した事も、イルーダをパートナーにしたのも全部その一環だった。
「何でだ…?何でそんなに力を求める!?今度は俺ごと、ジークヴァルたちを配下にしたいと言うのかっ!?」
アトランティスのデュラハンは周りに文字を浮かべ、道人に向かって飛ばしてきた。
「…!?」
道人は目を瞑り、両腕を交差して飛んでくる文字を防御した。その時、たくさんの映像が頭に流れ込んできた。
かなり巨大な影に挑んでいくアトランティスのデュラハンと見た事のない姿の極烈災将軍。
廃墟に倒れている愛歌、潤奈、大樹、海音、司令。
ボロボロになって壊れているソルワデスとヤジリウス、トワマリー、フォンフェル、カサエル、スラン、ディアス。
そして、死にかけの道人。その前には見覚えのないボロボロのデュラハンが立っていた。
(ボクのヘマのせいだ…。ボクなんて…いなければよかったのにね、道人…。)
「…!? な、何だ…!?」
道人は思わず右手を前に出すと目の前にはアトランティスのデュラハンがいた。場所も真っ暗な空間に戻っている。
「…今のは、まさか…。地球の意思が時を戻す前の…?」
以前ガイアフレームとリムルトから聞いた地球の逆回転による時戻し。その時の映像ではないか、と道人は推測した。
「l,η #・・・・・・」
「…やだね!誰が理解なんかするもんか!お前に手を貸してバドスン・アータスと傀魔怪堕を倒せたとしても、結局お前が世界を内包するだけじゃないか!そんな理由じゃお前のパートナーになんかなってやるか!」
道人は右手を横に振り、虹のデバイスを払い除けた。
「マ≡ ζ ≡ボu」
「待っているのは絶望だって?そんな事ない!いや、そんな事には絶対にさせない!確かに前の未来じゃ俺たちは負けたかもしれない…!でも、ディサイドにはそんな未来を変えられる、回避できる力があるって俺は信じてる!」
アトランティスのデュラハンは静かに道人の言い分を聞き始めた。
「今回のアトランティスでの出来事だって、その要因の一つのはずだ!そうやって、未来は大きく変わり始めているんだ…!俺たちはお前という障害を乗り越えて、必ずみんなで新たな未来を掴んでみせる!」
道人はアトランティスのデュラハンを右手で指差した。
アトランティスのデュラハンは上を見上げた後、道人の方を向き直した。
「…お前、名は?」
アトランティスのデュラハンが初めて日本語を話したので道人は少し驚いた。自分の胸に右手を当てて答える事にした。
「道人!空野道人だ!」
アトランティスのデュラハンはそれを聞いた後、後ろを振り向き、去ろうとする。
「待っ…!?」
「一刀ぉっ、両断!!」
道人は元の世界に戻ってきた。フィフスドラグーン・ジークヴァルグがヴァルクブレードを振り下ろし、アトランティスのデュラハンは粉々になり、消滅した。
アトランティスのデュラハンが消滅した途端、元の多くの他世界が映るモニターが浮かんでいるアトランティスの風景に戻った。
「…やった、のか…?」
『…見せてみろ、お前たちの未来を…。』
「な、に…!?」
道人はアトランティスのデュラハンの声がしたので周りを確認した。
アトランティスのデュラハンはいないが、道人の左手には虹色のデバイスが握られていた。




