172章 永遠に続く奇跡、それが滅び
完全体だったはずのアトランティスのデュラハンは突然姿を変えた。すっきりとした見た目から一転。とんがった肩や膝など全体的にギザギザした形の見た目となった。
「何だ、あいつのあの姿は…!?」
驚くガイアグレート・ジークヴァルを目の前にし、アトランティスのデュラハンは自分の変わった姿を確認するように両手でグーパーを繰り返した後、ゆっくりと頭上にあるスクリーンに向けて右手を上げる。
アトランティスのデュラハンは背後から巨大な筒のような物体が出現した。
「…!? あれは…!?」
アトランティスのデュラハンはジャンプし、腕を組んで筒の上に乗る。筒が光をチャージし始めた。
「いかん…!? みんな、すぐに退避だぁっ!」
卒間が叫ぶと同時に筒から光線が放たれた。ガイアグレート・ジークヴァルは飛翔して避け、極太のビームが道人たちに向かっていく。
「いかん、私に乗れ!」
「おぉっ…!?」
道人は上着を噛まれ、名無しのドラゴンに咥えられて飛翔した。卒間はディアスに抱えられて空へと退避。
極太のビームは二体の太陽のデュラハンと三体の月のデュラハンをあっという間に蒸発させた。
「な、何て威力なんだ…!?」
「…!? おい、まだだぁっ!?」
ヤジリウスが大声で叫んだ。ビームが向かう先には巨大な鏡のような物体がいつの間にか出現していた。鏡は反射してソルワデスに乗ったヤジリウスの方へと向かっていく。
「おい、ソルワデス!?」
「わかってる!」
ソルワデスは急速にその場から飛び去り、何とか巨大ビームを交わした。が、また巨大な鏡が出現。再び跳ね返して地上にいるニ体の太陽のデュラハンと三体の月のデュラハンを消滅させてやっとビームは消えた。
闘技場は高熱によって抉れたが、アトランティスのデュラハンはすぐに修復させた。
「な、何て破壊力だ…!?増援に来たばかりの太陽と月のデュラハンたちをあっという間に十体も葬るとは…!?」
道人と卒間は地面に着地し、まるでこちらを嘲笑っているようなアトランティスのデュラハンを共に見た。
「っ…!? ジークヴァル!」
「あぁ、わかっている!二度とあれは撃たせない!」
ガイアグレート・ジークヴァルは急下降し、アトランティスのデュラハンの元へと飛ぶ。
アトランティスのデュラハンは首を横に倒した後、剣と槍を出現させてガイアグレート・ジークヴァルと武器の打ち合いを始めた。刃がついた尻尾を出現させて、ガイアグレート・ジークヴァルを突き刺さそうとする。
「尻尾だとっ!?」
ガイアグレート・ジークヴァルは不意打ちめいた攻撃にもすぐに対応し、ヴァルムンクで弾いてみせた。
「我らもジークヴァルに加勢するぞ!」
「おう、わかってらぁっ!」
もうあの光は撃たせてはならない。決死の思いでディアスとソルワデスに乗ったヤジリウスはガイアグレート・ジークヴァルの加勢に向かう。
ヌール・メナリスとジュア・サンも残った四人の部下を連れてアトランティスのデュラハンに立ち向かった。
その時、アトランティスのデュラハンは飛んできた虹のデバイスを右手でキャッチした。
「…!? あれは確かイルーダが持ってた…!?」
アトランティスのデュラハンはデバイスの中からカードを出し、それぞれ武器を持った影を実体化させた。
「あいつ、また深也とランドレイクのヘッドを…!?」
トライデント、ダブルトライデント、パイルバンカー、パイレーツなどのランドレイクのヘッドたちを自分の部下とし、ディアスたちの相手をさせた。
続けて、また草でできた死者たちの魂を兵士として生み出す。今度は先程葬った太陽と月のデュラハン兵士たちも死者として復活させ、部下とした。
「こいつ、いきなりうじゃうじゃと沸かせやがって…!?」
「例え、何度出そうと蹴散らすまでだ!行くぞ、ヤジリウス!」
ディアスはビーム死神を二体出現させ、ビームコウモリもばら撒いて蹴散らしていく。ヤジリウスもソルワデスに乗ったまま抜刀を繰り返し、黒の斬撃を飛ばしまくった。
「道人さん、司令さん!」
「…! 海音さん!」
海音がスランに運ばれて来て、道人と卒間の近くに着地した。
「くっ…!やはり、イルーダのデバイスは奴の手に…!すみません、イルーダはもう戦闘不能にはしたのですが…!私も戦線に加わります!」
「きをつけてね、みおん。もどってきてから、れんせんつづきなんだから…。」
「それは皆さんも同じですよ、スラン?大丈夫、私タフですから!さぁ、もう一踏ん張りです!行きますよ、スラン!」
「わかった!まかせて、みおん!」
海音とスランは共に意気込み、アトランティスのデュラハンたちに挑みに行った。
アトランティスのデュラハンが姿を変えた途端、各々のデュラハンたちが己の武器を振るい合う合戦場と化した。
「しかし、どういう事なんだ、アトランティスのデュラハンのあの姿は…?」
「はい、あの竜と合体した鎧…。まるでガイアグレート・ジークヴァルを意識したような…。」
『…!? 意識…!?まさか…!?』
道人の頭の中にユーラの念話が聞こえてきた。
「ど、どうしたの、ユーラ?何か気づいた事でもあるの?」
『はい、道人。恐らく、アトランティスのデュラハンはこの戦いで学んでしまったんです、奇跡を…!』
「き、奇跡を…学ぶ…?」
道人の言葉を聞いて卒間も驚いていた。
『以前も話した通り、アトランティスのデュラハンは全知全能を目指した究極のデュラハン…。そんな彼の前に自分を上回る存在、自分の全知全能というアイデンティティを揺るがす存在であるガイアグレート・ジークヴァルが現れてしまった…。』
「…! まさか、あいつはそれで強い感情を得て…!?」
『はい…。アトランティスのデュラハンは無から有を作り出すこの世界の特性やディサイド・デュラハンという存在を学んで実践し、あの姿に…。』
ユーラの解説のおかげで道人はガイアグレート・ジークヴァルを意識したからアトランティスのデュラハンは自分も竜の鎧を纏ったのか、と理解できた。
『このままでは道人たちがまた奇跡を起こしたとしても、負けじとアトランティスのデュラハンも世界の仕組みを利用して奇跡を起こすの繰り返し…。それはまるで終わりのない奇跡です…。』
「永遠に続く奇跡による闘争…。そんなのって…。」
『…アトランティスは他の世界でも高確率で滅びを迎えている場所…。流行り病に関わらず…どの道、我らのアトランティスも人々の想い、奇跡の暴走によって、滅びるべくして滅んだのかもしれませんね…。』
「…ユーラ、そんな事言っちゃ駄目だ!」
『…! 道人…。』
道人は両手を強く握り、震わせながら下を向いた。
「ここが強い想いによって無から有を生み出せる場所なら尚更だ…!アトランティス唯一の生き残りである君がそれを認めてしまったら、本当にアトランティスはそういう場所になってしまう…!ここは君の生まれ故郷なんだ、そんな悲観的な事は言っちゃ駄目だよ…!」
『道人…。』
「そりゃっ、余所者の言う綺麗事かもしれないけどさ…!俺はそんな悲しい言葉を納得してしまうユーラは見たくないよ…!」
『でも、このままでは…。』
念話だけでもユーラが悲しんでいる顔が浮かんできた。道人はアトランティスのデュラハンを止められる策を何とか考え出す。
「わかった、要は奇跡が永遠に続かないようにすればいいんだろう?だったら、簡単だ…!こっちが奇跡をまた起こしたとしたら、その瞬間にアトランティスのデュラハンが対抗して奇跡を起こす前に一撃で倒す!これならどうだっ!?」
「…ふっ、はっはっはっはっはっ…!」
道人とユーラの念話を聞いていたのか、ガイアグレート・ジークヴァルがアトランティスのデュラハンと武器を打ち合っている最中に急に笑い出した。
アトランティスのデュラハンはそれを見て不思議がった。
『道人、簡単に言うがそれができたら今苦労はしていないぞ?いくら何でも脳筋過ぎないか?』
ジークヴァルが念話を飛ばしてきた。
『だが、それを簡単に言い切ってしまうところが道人の良いところだと私は思う。』
ソルワデスにもこちらの声がデバイス越しに聞こえていたのか、念話に参加してきた。
『おっ、言うな、ソルワデス。私がいなかった間に道人と大分仲を深められたようだな。これは不在だった分、私も負けてはいられない…。』
「なっ!」
ガイアグレート・ジークヴァルは胸の球体からガイアブラスターを放ち、アトランティスのデュラハンを下がらせた。
『…不思議です…。道人がそう言うと、何だかできるような気がして来ました…。』
「うん!それでこそ、俺が知っている強い子のユーラだ!大丈夫、俺にはまだ切り札が二つはあるから…!」
道人はスマホを見た後、名無しのドラゴンも見た。名無しのドラゴンも道人を見て頷いた。
「力そのものに善悪はなくて、それは扱う者の意思次第で変わるもの…。だから、証明してみせるよ、ユーラ!アトランティスが、君の故郷は滅びるべくして滅んだ訳じゃないって!」




