167章 オリハルコン・デュラハン・ハート
「うっ…?こ、ここは…?」
道人は気がついたら青い空間に浮かんでいた。周りを見るとユーラたちも浮いていた。ソルワデスたちは下を向いて悲しそうにしていた。
「…へっ、何だか結局沈んだ気持ちになっちまったな…。」
「仕方ないよ、暗い過去だったし…。ありがとうな、ヤジリウス。」
ヤジリウスは道人に急にお礼を言われで不思議がった。
「あん?何で俺にお礼言うんだよ?」
「擬人化とか、シナリオスキップとか言ってたのって、みんながジークヴァルの暗い過去を見たとしても、落ち込まないように気遣ってくれたんだろう?だって、俺の部屋に擬人化漫画なんてないしな。」
「…何の話だ?あれだよ、あれ。少年誌が次の漫画に移る際の広告。あれで見たんだよ。」
「…ま、そういう話にしておくよ。とにかく、ありがとうな。」
「…へっ。」
ヤジリウスは背を向けて道人から視線を逸らした。多分、恥ずかしがってるのだろう。
「…道人。」
道人の背後から聞き覚えのある声が聞こえた。
「…! ジークヴァル!」
道人たちが振り返ると見慣れたデュラハンの姿のジークヴァルがそこに浮いていた。名無しのドラゴンも共にいる。
「…すまない、ドラゴン。我々は急いでいる。大事な仲間たちが危ないんだ。私はもう、大事な者たちを失いたくない…。」
「…わかった、いいだろう。せっかく前世の記憶が戻ったのに、いざ現代に戻って来たら過去と同じ事が起きた…となるのは洒落にもならないからな。」
ジークヴァルは名無しのドラゴンに対して頷いた後、道人を改めて見る。
「道人、みんな、また会えて嬉しいぞ…!さぁ、行こう!みんなを助けに!」
「でも、戻ってもジークヴァルのデュラハン・ハートは…。」
「大丈夫だ、道人。デュラハン・ハートはもう君の手に…!」
「ジークヴァル…!」
道人とソルワデスは意識を取り戻し、現代に戻って来た。急に目覚めたからか、マーシャルとイジャネラは驚いている。
「…戻って来たのか、俺たち…。マーシャル、あれからどれくらい経ったの?」
「あなた方が眠ってから五分も経ってないと思いますが…。」
やはり他のビーストヘッドと同じく、試練の空間と現実世界では時間の流れが異なっていた。
「そんなに経ってないって言っても、相手はアトランティスのデュラハンにイルーダ…。くそっ、間に合わないかもしれない…!」
『…諦めちゃ駄目!大丈夫だよ、道人!』
「…!? 潤奈!?」
道人は急に潤奈の声が聞こえた気がして驚いた。
『私のワープヘッドなら行けます!』
『安心するんじゃ、道人!お前さんは絶対に間に合う!』
『あっしらのミラクルを信じるさぁっ!』
『だから、早くみんなの元へゴーよ、道とん!』
『永久に心に残る最高のワンシーンを君をお届け!』
「フォンフェル、大樹、カサエル、グルーナさん、ルレンデス…!?」
道人が聞こえたみんなの名前を口にするとソルワデスのデバイスが光り輝き、D-DUNAMISカードが実体化。『ミラクルクリエイトワープヘッド』のカードに変わった。
「これって…? …ははっ、ディサイドってすごいや…!どんなに離れてても、みんなと繋がれてるんだもんな…!」
「道人、私の手にも奇跡が…。」
「ユーラ?」
ユーラの胸元から緑の光が溢れ出した。ユーラが胸に両手を当てると新たなるデュラハン・ハートが出現した。
「それは、デュラハン・ハート…。」
「これはアトランティスの無から有を作り出す力で作り上げた心の結晶…。言わば、『オリハルコン・デュラハン・ハート』…。もう決して壊れはしない、道人とジークヴァルの永遠の友情の形です。どうぞ、道人…。」
「ありがとう、ユーラ!」
道人はユーラからオリハルコン・デュラハン・ハートをもらって走り、ジークヴァルのボディの前に立った。
「ジークヴァル!また俺と…俺たちと一緒に戦おう!目覚めてくれ、俺の戦友!相棒ぉっ!」
道人はジークヴァルの開かれた胸元にオリハルコン・デュラハン・ハートを装着した。ジークヴァルはゆっくりと立ち上がり、開かれた自分の胸を閉め、胸の顔の目を輝かせた。
「あぁ、また共に戦おう、道人!」
「ジークヴァル!」
道人の右手に新たなジークヴァルのデバイス、白銀のオリハルコンディサイドデバイスが出現した。ガントレットとレッグパーツ、ネックレスが装着される。
「ははっ、すごいや!デバイスもガントレットもネックレスも、ひょっとして全部オリハルコンなのっ!?」
道人は自分の身体を見て両腕のガントレットでグーパーして少しジャンプする。
「ソルワデスの方のガントレットまで…!おっと、喜んでる場合じゃなかった!おっし、待ってろよ、愛歌たち!今、行くからな!ソルワデス!」
「いつでもどうぞ、道人!」
道人はソルワデスのデバイスにミラクルクリエイトワープヘッドをカードスラッシュした。
ソルワデスに巨大な三度傘のようなヘッドがつく。映写機もついていて、壁に映像を映し出した。倒れている愛歌の姿が映し出される。
「…!? 愛歌っ!?そんな、まさか…!?」
その時、道人の脳裏に一瞬大樹とカサエルの姿が見えた。
「…そうだよな、二人のミラクルなら…!転移場所固定だ、ソルワデス!」
「了解!さぁ、飛びますよ!私に掴まって!」
道人とヤジリウスのヘッドを抱き抱えたユーラ、ジークヴァルがミラクルクリエイトワープソルワデスに近寄った。
「行きます!」
ミラクルクリエイトワープヘッドが起動し、道人たちは時空トンネルを物凄い速度で移動する。正面に見える倒れている愛歌の映像に向かって飛ぶ。
「ミラクルヘッドの力で時間を三分前まで巻き戻せます!はぁっ!」
愛歌が映っている画面の時が巻き戻り、愛歌が地面に座っている画面に変わった。
「よし、これなら…!」
『…道人!』
道人たちの前にまるで霊体みたいな透けた潤奈たちが姿を現した。一人ずつ順番にミラクルクリエイトワープソルワデスの背中を押しては消えていく。
『…愛歌たちを絶対に助けるんだよ、道人!』
「あぁ、わかってる…!絶対に守ってみせるよ、潤奈!」
潤奈は笑みを浮かべ、最後にミラクルクリエイトワープソルワデスの背中を押して消えた。
前の画面を見るとアトランティスのデュラハンが愛歌に手を伸ばそうとしていた。
「…!? 愛歌っ!」
「私に任せろ、道人!」
「ジークヴァル!?」
「肩を借りるぞ、ソルワデス!」
「どうぞっ!」
ジークヴァルはミラクルクリエイトワープソルワデスの右肩を蹴って先に映像へと向かった。
「愛歌に手を出すなっ!道人に私と同じ思いをさせてなるものかあぁぁぁぁぁーっ!!」
現実世界に先に出たジークヴァルはヴァルムンクを出現させてすぐに降り下ろし、アトランティスのデュラハンを吹き飛ばした。ジュア・サンとヌール・メナリスが急いで受け止める。
「…間一髪…だったんでしょうか?」
ミラクルクリエイトワープソルワデスは着地し、元の姿に戻った。
「大丈夫でしたか、愛歌さん?」
ユーラも着地し、後ろの愛歌に振り向いた。
「愛歌の姉さん泣かせるとは良い度胸してんな、あぁん?」
ヤジリウスが実体化し、ユーラが持っていたヤジリウスの頭を手に持って装着した。名無しのドラゴンも突然姿を現した。
「D-DUNAMISカード全部使い切っちゃったけど…。良かった、間に合って…。」
道人は周りを見て皆の無事を確認する。
「…ジークヴァル、なの…?」
「あぁ、すまない、愛歌。大分寝坊してしまったな…。」
「…それじゃあ…。」
愛歌は道人を見た途端、大粒の涙を流し始めた。
「…道人ぉっ…!」
「ごめん!ただいま、愛歌!」
道人は振り返り、笑みを浮かべて愛歌に近寄り、しゃがんだ。
「大分無理させたみたいだな…。ホントにごめんな、愛歌…。」
「道人…。」
道人は愛歌の流れる涙を右手の親指で拭いてあげた。
「…でもさ、もう駄目だぞ?あんな悲しい気持ちを込めたキスなんてさ!何だかされたこっちも悲しくなって来るんだから!」
「それは…。」
道人はそう言うと改めて愛歌と唇を重ねた。
「…あっ…。」
「…必殺・口答え封じ返し…なんてな!もう二度とあんな別れ際の、さよならを込めたキスなんてごめんだからな!わかった?」
「…うん!わかった…!わかったよ、道人…!」
「うん、よろしい!」
道人は愛歌の顔を見ていたら何だか急に恥ずかしさを感じたので立ち上がり、アトランティスのデュラハンの方を見る。
アトランティスのデュラハンやイルーダはジークヴァルから放たれるオーラを警戒してこちらの様子を伺っていた。
「あ、あら?誰かと思ったら、さっき逃げ出した優男さんじゃありませんの。わざわざやられに戻って来ましたの?」
「いや、やられに来たんじゃない。君たちに勝ちに来たんだ。」
堂々と言い切った道人に対してイルーダは少し驚いた。
「道人、ジークヴァルは動力源だけが変わった訳ではありません…。恐らく、姿を変える事も…。私には、何故だかそれがわかります…。」
ユーラは何かを感じるのか自分の胸を両手で抑えた。
「わかったよ、ユーラ。ちょうど試練の答えを名無しのドラゴンに示さないといけないしな…!アトランティスのデュラハン!悪いが、お前には俺たちの新たな力のサンドバッグになってもらうぞ!行くよ、みんなぁっ!」
「あぁ!」「えぇ!」「おう!」
ジークヴァルはヴァルムンクを、道人はメタリー・ルナブレードを、ソルワデスは変形準備をし、ヤジリウスは抜刀の構えを取ってアトランティスのデュラハンとの交戦体制に入った。




