166章Side:愛歌 ただいま!
深也と海音たちがイルーダと戦っている中、卒間と愛歌は合流し、アトランティスのデュラハンとヌール・メナリス、ジュア・サンたちを相手にしていた。
バニッシュサイズディアスによる死神たちの演舞がアトランティスのデュラハンたちを翻弄していた。スランのアクアアイドルのサポート能力のおかげで能力も向上した状況なので強力だ。
「司令、あいつさ…。」
愛歌は卒間の近くに寄り、アトランティスのデュラハンを見る。
「あぁ、何故だ…?奴は私たちを蹴散らせる程の圧倒的な力を既に手に入れている…。なのに何故、我らをすぐに倒さないんだ…?」
「舐めてんのかな、あたしたちの事…。だったら、あたしたちに舐めて掛かった事を後悔させてやるんだからっ!ダーバラ!」
「あいよ!」
SWダーバラはビームの刃がついた扇状の鉄扇を五つ出現させ、死神たちと共に舞わせた。自身も先端にドリルがついた鞭を振り回しながら死神たちの舞に混ざる。
「まさか、あんたと一緒に舞える日が来るなんてねぇっ、ディアス!」
「あぁ、お互いバドスン・アータスの古株だが、共に戦う事はなかなかなかったからな!」
「今は互いのパートナーのために頑張ろうじゃないか!」
死神たちと鉄扇に鞭、そこに更にトワマリーの五つの小型リングが加わってのオールレンジ攻撃で太陽と月のデュラハンたちは身動きが取れなくなっていた。
ただ、アトランティスのデュラハンだけはオリハルコンボディによる固さで攻撃を物ともしていなかった。
アトランティスのデュラハンは近くの宙に浮かぶモニターに左手を伸ばした。中から黒い爬虫類の頭が姿を現す。
「な、何よ?今度は竜?それとも蛇?」
黒い爬虫類の頭は口を開き、バニッシュサイズディアスたちに向かって電流光線を発射した。
「次々と奇怪な攻撃を…!今度は何を出してくるつもりだっ!?」
電流光線を避けるバニッシュサイズディアスとトワマリーを嘲笑うかのようにアトランティスのデュラハンは右手も近くのモニターに伸ばす。中から黒い巨大な土偶が現れた。
「今度は土偶!?何なのよ、一体!?」
黒い巨大な土偶は両腕を飛ばし、巨大な輪っかを飛ばして来た。
「くっ…!?」「何さぁっ!?」
バニッシュサイズディアスとSWダーバラは声を挙げると同時に攻撃を避けた。
アトランティスのデュラハンは味方諸共吹っ飛ばし、オールレンジ攻撃を今の攻撃だけで中断させる事に成功した。
「無茶苦茶ね、あいつ…!完全体になった方が逆に訳わかんない奴になってんじゃないの!?」
「いや、わかった事もある…。奴が各世界のアトランティスの映像から実体化させたものは一分と実体を保てないようだ…!」
卒間の言う通り、黒い爬虫類の頭と黒い巨大な土偶はもう姿を消していた。
「攻撃手段がランダム過ぎて全く読めないし…!何なのよ、もう…!」
「…ランダム…。まさか、あいつは…?」
「何かわかったのか、塔馬?」
バニッシュサイズディアスが卒間の前に着地した。
「まさか、奴は遊んでいるんじゃないか…?完全体となった自分の力を振るうために…。」
「何…?確かに言われてみれば、奴は私たちなど眼中にないような態度を取っているな気が…。」
「何よ?あたしたちは程の良いサンドバッグって訳?何か腹立つなぁ〜っ…!」
愛歌は倒れている仲間たちを助ける素振りも見せずに佇んでいたアトランティスのデュラハンを睨む。
「だが、奴がもし自分の力を把握して襲い掛かって来たら…。」
アトランティスのデュラハンは急にトワマリーを見た後、トワマリー目掛けて前に跳んだ。
「タイミング悪く、その時が来たようだぞ、塔馬…!」
「ちぃっ…!」
バニッシュサイズディアスは急いで死神たちを連れてアトランティスのデュラハンの元に飛んだ。
「にゃろめ、ヘッドチェンジ切れのトワマリーを狙って…!ダーバラ!」
「わかってるよ、愛歌!」
SWダーバラは小型ブースター付きウイングですぐにトワマリーの近くへと行き、鉄扇を展開。トワマリーも小型リングを展開してアトランティスのデュラハンの行く手を妨害した。
が、アトランティスのデュラハンは宙にストリングスを出現させて後ろに伸ばし、ヌール・メナリスとジュア・サンを無理矢理引っ張って来た。
「何ぃっ!?」
驚くSWダーバラなど気にするはずもなく、ヌール・メナリスは小型ブーメランを、ジュア・サンは小太陽を飛ばして鉄扇と小型リングを蹴散らした。
「こいつは…!?」
アトランティスのデュラハンはSWダーバラにラリアットを喰らわして吹っ飛ばした。
「なぁっ!?」
その勢いでアトランティスのデュラハンはトワマリーの右腕を一瞬でもぎ取った。
「きゃアッ!?わ、私ノ、腕がァッ…!?」
トワマリーは火花が散る右腕を左手で抑えてその場でしゃがんだ。
「トワマリー!くっ、離れろっ!」
バニッシュサイズディアスは死神たち総出でアトランティスのデュラハンに斬り掛かるが、トワマリーの右腕を放り投げて移動。死神たちの鎌は地面に刺さった。
アトランティスのデュラハンは次に散らばった鉄扇や小型リングを足場にしてアクアアイドルスランへと向かう。
「奴め、今度はスランを…!させるかっ!」
バニッシュサイズディアスは急いで死神たちと共にアクアアイドルスランの元へと飛んだ。アトランティスのデュラハンは振り返り、両手でトンファーを持ち、回転させていく。
「いかん!これは釣りだ、ディアス!」
卒間はデバイスを操作し、死神の一体を何とかディアスより先に先行させ、アトランティスのデュラハンの相手をさせた。
死神の一体は二つのトンファーにより、粉々になった。
アトランティスのデュラハンはトンファー二つをバニッシュサイズディアスに向かって投げた後、今度はバズーカを出現させて即座に発射した。
「なっ、にぃっ…!?」
「きゃあっ!?」
バズーカの砲弾はイルーダと戦闘中のパイレーツランドレイクと海音に着弾した。ランドレイクは元の姿に戻り、地面に落下。
海音は咄嗟に貝殻の盾で守るがそれでも吹っ飛んで地面に叩きつけられた。
「ランドレイク!?海音!?」
深也が急いで二人の元に駆け寄った。
「あら、私を助けてくれるなんて…!素敵…!」
イルーダは恍惚な表情でアトランティスのデュラハンを見ていた。
そんなイルーダを気にする事もなく、アトランティスのデュラハンはバニッシュサイズディアスに向かって突進した。
「今度は私か…!?くっ…!」
バニッシュサイズディアスはビームコウモリと死神たちを向かわせるが、アトランティスのデュラハンは向かって来る攻撃を物ともせずに突き進んで来る。
アトランティスのデュラハンはバズーカをぶん投げ、バニッシュサイズディアスにぶつけた後、足を掴んで飛び回っていたアクアアイドルスランに向かって投げた。
「ディアス!?きゃあっ!?」
バニッシュサイズディアスはアクアアイドルスランと激突し、二人揃って落下。二人共元の姿に戻った。
アトランティスのデュラハンは右手を伸ばし、スクリーンから巨大な黒い顔を出現させ、口の中から多数のミサイルを発射させた。
「み、みんな、逃げろぉっ!」
これは残った人間に対しての攻撃と、倒れたデュラハンたちに対する追い討ちのミサイルだった。卒間、深也、愛歌は制服バリアで守るがそれでも吹っ飛んだ。アトランティスのデュラハンはイルーダをお姫様抱っこして着地した。
「…素敵、素敵過ぎますわ…!何という無双っぷり…!まさに圧倒的ですわ…!」
アトランティスのデュラハンはイルーダを地面に下ろし、愛歌の元まで歩いた。
「う、あっ…。」
アトランティスのデュラハンは倒れている愛歌の右足を掴み、持ち上げた。
「うっふふ…。あらまぁっ、スカートが逆さまに…。でも、下着はコーティングされてますわね…。せっかくのサービスですのに…つまらないの。」
イルーダは愛歌の耳元まで近づき、息を吹きかけた。
「あっ…。」
「愛歌から離れろ、てめぇっ!!」
立ち上がった深也は全力でアトランティスのデュラハン目掛けて走って来た。
「何ですの、死に損ないさん!」
アトランティスのデュラハンは一旦愛歌を地面に捨て、深也の拳を掴み、デバイスを取り上げてから投げ捨てた。
「深也ぁっ!?」
「ぐ…はぁっ!?」
海音の叫びの後、深也は地面に背中を強打した。アトランティスのデュラハンは宙に多くのカードを出現させる。深也のデバイスからヘッドパーツをたくさん出現させた。
「なっ…!?てめぇっ、一体…!?」
深也が持っていたヘッドパーツを全て自分のカードに取り込んでイルーダのデバイスに入れた。深也のデバイスはスマホ毎握り潰され、粉々にされた。
「あらま、すごい数のプレゼント。」
「お、俺の…デバイス…とスマホが…。…くそぉっ、オルカダイバァーッ…!」
深也は歯ぎしりをし、少し涙目になった。デュエル・デュラハンはバックアップすれば復活する事ができる。しかし、その復元されたオルカダイバーには恐らく今日の記憶はないのだ。
「…ひどい…!?」
愛歌は両手で手を塞いで涙を流した。
「ま、まさか…道人が言ってたのって…。」
道人はアトランティスのデュラハンが頭がない状態の時、何故か自分の頭じゃない頭を取ろうとしていたのを気にしていた。道人の言っていた事は正しかった。
こちらのヘッドチェンジの仕組みを学んだアトランティスのデュラハンは自分のカードにコピーするという形で自分の物にしたのだ。
「さぁて、お次は…デバイスを二つも持ってたお嬢さんがいましたっけぇっ?」
「ひっ…!?」
アトランティスのデュラハンがゆっくりと愛歌の方を見て歩いて来た。
「や、やべぇっ…!?愛歌、逃げろ!!」
「あっ…あぁっ…!?」
愛歌は腰が抜けて立ち上がる事が出来なかった。周りのデュラハンたちも立ち上がろうとするが、先程のミサイル攻撃のダメージがまだ残っていた。
「子供たちにぃっ、手を出すなあぁぁぁぁぁーっ!!」
卒間が近くに落ちていたトワマリーの小型リングを持って突撃してきた。アトランティスのデュラハンの背中を小型リングで叩きつける。
「オリハルコンの事を忘れた訳じゃないでしょうに!」
アトランティスのデュラハンは回し蹴りをし、卒間を吹っ飛ばした。
「がっ…!?ま、まだまだぁっ…!指揮官として、誰一人犠牲者を出してなるものかぁっ…!」
卒間は愛歌のためにまた立ち上がろうとする。アトランティスのデュラハンは再び愛歌に手を伸ばす。
その時だった。愛歌の目の前に緑色の光の球体が突然出現した。
「…えっ…?」
「な、何ですの…?」
「愛歌に手を出すなっ!道人に私と同じ思いをさせてなるものかあぁぁぁぁぁーっ!!」
光の中から現れた白いデュラハンはヴァルムンクを振り、アトランティスのデュラハンを吹き飛ばした。ジュア・サンとヌール・メナリスが急いで受け止める。
「…間一髪…だったんでしょうか?」
見慣れないヘッドパーツをつけているのはソルワデスだった。すぐに頭が消え、元の姿に戻った。
「大丈夫でしたか、愛歌さん?」
ユーラもソルワデスのとなりに現れた。
「愛歌の姉さん泣かせるとは良い度胸してんな、あぁん?」
ヤジリウスが実体化し、ユーラが持っていたヤジリウスの頭を手に持って装着した。名無しのドラゴンも突然姿を現した。
「D-DUNAMISカード全部使い切っちゃったけど…。良かった、間に合って…。」
愛歌の耳に聞き慣れた、胸中に安心感を抱く事ができる声が聞こえてきた。
「…ジークヴァル、なの…?」
「あぁ、すまない、愛歌。大分寝坊してしまったな…。」
「…それじゃあ…。」
愛歌はジークヴァルのとなりに立っている男を見た途端、大粒の涙が流れ始めた。
「…み、道人ぉっ…!」
「ごめん!ただいま、愛歌!」
道人は振り返り、愛歌に変わらぬ優しい笑顔を見せた。




