20章Side:海音 生きていた男
御頭街の南にある水縹星海岸。そこの人里離れた場所にある神殿に住む少女・海音は毎夜の日課である禊に向かっていた。
禊の場所に向かっている途中、友達の鯱たちが何か騒いでいた。
「どうしましたか、鯱さんたち?」
海音の目に飛び込んできたのは砂浜にずぶ濡れで倒れている男と浅瀬の水中に浮かぶボロボロの首無しロボットだった。
男は右手に石を握っている。海音は急いでずぶ濡れの男の元へ駆け寄った。男は呼吸はしていて、脈拍もあるが呼びかけても反応はない。
「大変ね…。早く運び出さないと。」
海音は水縹色のストラップのついたスマホを取り出した。
「出てきて、シーラ。」
スマホから小さな光が出現し、デュエル・デュラハンが実体化した。セーラー服のような鎧を纏った女性型デュラハン。
「何?海音?」
「この人を私の神殿まで運んで欲しいの。」
「わかった、いいよ。」
シーラは男を抱き抱えてステップで駆けた。
「鯱さんたち、そのボロボロのロボットも私の神殿に運んで下さいますか?鯨さんに頼っても構いませんから。」
鯱たちは了承し、ボロボロのロボットを運んだ。
「神よ、人命救助を優先し、禊を疎かにする事をお許し下さい…。」
祈りを捧げた後、海音はシーラを追って神殿に向かった。
神殿に着いた後、海音は急いで乾いたタオルで男の身体を拭き、毛布で身体を包んで寝かした。その後、急いで禊へと向かった。海音が懸命に男を介抱してニ日後、男は目を覚ました。
「…ん?…こ、ここは…?」
「あっ、目を覚まされましたか?良かった…。身体の具合はどうですか?」
男は上半身を起こし、海音を見た。
「俺は確か…そうか、あいつを庇って海に…。あんたが俺を助けてくれたのか?ありがとうな。」
「いえ、私は人として当然の事をしたまでですから…。」
話していると男の腹が鳴った。男は頬を染め、自分の腹を抑えた。
「ふふっ、ちょっと待っていて下さいね。今お粥を作ってきますから。」
海音は神殿にあるキッチンで調理を始めた。男は神殿の天井や壁を見渡す。
「随分広い家だな。あんた、一人で住んでんのか?」
「はい、人里離れたこの神殿で…。一人ではないですけどね。友達がたくさんいますから。」
「ふーん…。なぁ、あんた名前…いや、俺が先に名乗るのが礼儀か。俺は海原深也。あんたは?」
「殼谷海音と申します。お見知り置きを、深也。」
「海音、ね。あんたはここで何を?」
「はい、私はこの神殿の巫女を務めさせて頂いております。」
「巫女?」
「はい、私は人魚騎士の末裔でこの場所を守る義務があります。」
「人魚騎士…。どっかで聞いた事があるような…?」
深也と海音がそうこう会話をしている間にお粥ができ上がり、深也は礼を言って食べた。
「へぇっ、うまいな。良い塩加減だ。具材も綺麗に切ってある。あんた料理うまいよ。」
「お褒めに預かり光栄です、深也。」
深也はお粥を完食し、両手を合わせてご馳走様をした。海音はお粗末様でしたと返す。深也は立ち上がる。
「世話になったな。この恩はいずれ返すぜ。」
深也は乾かしてあった自分の上着を見つけ、着た。
「もう行かれるのですか?もう少し休まれても…。」
「…待たせちゃいけない奴が何人かいてな、俺の無事を知らせねぇといけねぇんだ。所でここはどの辺だ?」
「御頭街の水縹星海岸です。」
「…結構流されたな。まぁ、いい。徒歩で帰るぜ!」
深也は両手をポケットに入れて去ろうとする。
「あっ、お待ち下さい!忘れ物ですよ?後、お連れの方も。」
「あ?連れ?」
海音は深也が握っていた石とポケットに入れていたスマホを渡した。
「スマホはわかるが…何だ、この石?いや、もしかして…まぁ、いいか。」
深也は石とスマホをポケットに入れた。
「お連れの方は私がご案内しましょう。こちらへ。」
海音は深也を神殿の地下にある海底洞窟に案内した。そこにはボロボロになったロボットが壁を背にして座らされていた。
「こいつは…!?デトネイトランドレイク…!」
「やはりお知り合いでしたか。」
「…いや、別にこいつとは会ったばかりさ。特に愛着もねぇ。」
深也はデトネイトランドレイクを背に向けて去ろうとする。
「いいのですか?この方は。」
「あぁ、あんたの好きにして構わねぇよ。じゃあな。借りは必ず返す。」
深也はそう言って階段を上がり、神殿から去っていった。
「行ってしまいました…。好きにしろと仰られても…。うーん、せっかく鯱さんたちに運んでもらいましたし、しばらくこのままにしておきましょう。」
海音も階段を上がり、神殿に戻った。今は朝の十一時十五分。残りのお粥を食べた後、外に出て海音のお気に入りの海岸に来た。
「さぁ、今日も遊びましょう!お魚さんたち!」
海音の到着を喜んで魚たちが集まってきた。鯱、イルカ、タコ、イカ、様々な魚たちが水面を跳ねる。海音に撫でてもらいたくて鯱たちが順番に並んだ。
「ふふっ、慌てなくても全員撫でてあげますからね。」
「わぁーっ、すごい。さかな、たくさん。」
海音の目の前に頭と胸にマーメイドの顔、腕と足にはヒレをつけた水色の細身の女性戦士が宙を浮いていた。
「おはようございます。」
「ん?おはよう。」
「珍しいお客様ですね?あなたも人魚なのですか?」
「にんぎょ?わたし、スランだけど。まぁ、にんぎょでいいか。ここでなにしてるの?」
「はい、お友達と遊んでおりました。」
「ともだち?」
「はい、友達。そうだ、良いものをお見せしましょう、人魚さん。」
海音はハーモニカを取り出し、吹いた。
すると、海音のハーモニカに合わせて鯱とイルカが水面を跳ね、タコがスミをリズムよく吐き、魚たちが楽しそうにはしゃぎ出した。
「わぁ〜っ!すごい、すごい!」
スランの後ろで鯨が潮を吹き、虹の橋が架かる。スランは後ろを振り向いた。
「きれい…! 〜♪」
スランも海音のハーモニカに合わせてしばらく踊った。海音がハーモニカを鳴らし終えるとスランは拍手をした。周りの魚たちも嬉しそうに鳴く。
「ちきゅうのうみ、きれい!あなたのおんがく、もっときれい!」
「ふふっ、お褒めに預かり光栄です。」
「こんなところで何をしている、スラン?」
スランの後ろで胸と肩に髑髏をつけた黒騎士が現れた。
「あ、ディアス。なにかよう?」
「あなたの帰りが遅いから迎えに来たのですよ。さぁ、帰りましょう。」
ディアスが前に出した右手をスランは手に取らなかった。
「…わたし、あんまりのりきしない。ちきゅう、きれい。たのしい。」
「全く、あなたはシチゴウセンに選ばれてからまだ一度も手を汚していない…。 …正直、あなたが羨ましいですよ…。」
「ん?なんかいった?」
「いえ、何も…。ところでここで何をしていたのです?」
「にんげんとさかなとあそんでたの。」
ディアスは周りにいる海音と魚を見た。
「人間なんてどこにもいないではありませんか。さぁ、帰りますよ。」
「はーい。 …あ、そうだ。わたし、スラン。あなたは?」
「はい、殼谷海音と申します。」
「みおん…。またきてあそんでいい?」
「はい、喜んで。」
「やった。またね。」
スランとディアスは飛び去っていった。海音も魚たちと戯れた後、町に買い物に行く事にした。
○殼谷海音 16歳
血液型 不明
誕生日 6月30日 双子座
身長158cm 体重48kg
趣味 魚たちと遊ぶ事 ハーモニカ
好きな食べ物 海苔 ワカメ
苦手な食べ物 魚は皆友達なので食べづらいです




