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ディサイド・デュラハン  作者: 星川レオ
第3部 多元なるアトランティス
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166/竜殺しの章fin 愛しき「人」よ

「…よし、こんな所か。どうだい、ジークヴァル?即興で作ったにしてはなかなかの住処だと思うが?」

「さすがだな、ロード。頼りになる。」

「何、これくらい君たちのためならお安い御用さ。」


 ジークヴァルがリムルトに告白をした後、場面は変わった。今は自分がいつ暴走するかわからないで不安なリムルトのために隠れ家をロードが用意してくれたところだった。


「すまないな、リムルト…。君から許可を得たとはいえ、ロードに協力を得てしまった…。」

「そうだよ、ジークヴァル。これじゃ僕はまるで君たちの仲を妨害する邪魔者みたいじゃないか。」

「…そ、そんな事は…ありません…!ロードさんは、ジークヴァルが信頼なさっている…良い、方ですから…。」


 リムルトはジークヴァルの後ろに隠れるのをやめて目線は合わせないが、ロードの前に立った。


「ははっ、そうかい?ありがとう。何、僕も僕で諦めずに君の能力が安定化できるようになる方法を模索してみせるからさ。だから、ジークヴァルの事よろしくね?」

「は、はい…。」


 リムルトはやはりまだ怖いのか、ロードが求めた握手に対して指を三本出して握手した。


「おぉっ!やったよ、ジークヴァル!指三本の握手の境地まで至れたよ!よし、後二本分の指も握手できるように頑張るぞ!」


 ロードはそう言うと袖を捲ってまだ隠れ家の快適さを求めに行った。


「そうだ、リムルト。ゆっくり、ゆっくりでいいんだ…。そうやって、少しずつ自分の事を好きになれば、きっと自分の能力だって安定するさ。そして、いつか一緒に暮らそう、リムルト…。」

「はい、ジークヴァル…。」


 二人は互いの想いを確かめ合って幸せそうに抱き締め合った。

 それからジークヴァルは竜の討伐任務に向かった。


「くっ…!?」


 ジークヴァルはリムルトから竜人の事を聞かされて以来、竜殺しを躊躇うようになってしまった。もう三度もドラゴンを取り逃してしまっていた。

 ドラゴンは元々人間だったと言う事が頭から離れず、レーヴァテインは愚か、ヴァルムンクを使う事には強い抵抗感を感じていた。


「ジークヴァル、危ない!」


 ロードの叫びが響く中、ジークヴァルにドラゴンの牙が迫る。


「貴殿らしくないな、ジークヴァル。」


 そこに現れたのは馬に乗ったアレウリアスだった。アレウリアスはドラゴンを挑発した後、自分に気を向かせ、あっという間にドラゴンを殺してみせた。

 ジークヴァルの目の前でドラゴンの死体が転がる。


「どうした、ジークヴァル?私が来る前にドラゴンが生きているとはな…。」

「アレウリアス…。」


 アレウリアスはゆっくりと馬に乗ったジークヴァルに近づいて来た。


「まさか、私が話したこいつらが元は人間だったと話した事を気にしているのか?」

「それは…。」

「図星の様だな。何、気にする事はない。一度竜になってしまった者はもう人にあらず。躊躇うな、剣を握れ。ただ一閃。それだけだ。」

「そんな事は…ない!彼らだって…人にまだ、戻れる可能性が…!」


 ジークヴァルは悔しさで左拳を震わせる。


「…ふん。まぁ、いい。ネーランドとギリギナとの戦いの時は近いかもしれん。それまでに己の剣の腕と心を磨き直しておけ。貴殿と死合えるのを楽しみにしている…。」


 アレウリアスはそう言うとジークヴァルから離れ、ドラゴンの死体処理作業に入った。

 ヤジリウスはイライラしているが口には出さなかった。


「ジークヴァル、気を落とすな…。」


 ロードは背後からジークヴァルの右肩に手を置いた。


「すまない、ロード…。私は…。」


 ジークヴァルは悲しい表情で城へと帰った。道人はジークヴァルと精神感応し、悲しさが伝わって来たため、右手で胸を抑えた。世界は暗転し、次の場面に切り替わる。


「た、大変です、ジークヴァル様ぁっ!街中に、街中にドラゴンが…!?」


 別の日のドラゴン討伐任務の帰りの途中、城の方向から馬に乗った騎士が血相を変えて走って来た。ジークヴァルの騎士団の人数が減っている事に道人たちは気づいた。


「何っ…!?街中に…?」

「はい、急に現れて…!?」

「ジークヴァル、まさか…!?」


 ロードはジークヴァルと共に顔を合わせた後、頷き合い、急いで城へと馬を走らせる。街には火と煙が上がっているのが遠くからでもわかった。


「何だ、あの巨大なドラゴンは…!?」


 今まで出会った事がない巨大な黒いドラゴンだった。城と同じくらいの大きさはある。


「道人、あれは…!?あれは…。」


 ユーラはドラゴンの正体を悟り、怖くなったのか道人に抱きついて来た。道人はユーラの安心させるために抱き締め返し、巨竜を見た。


「…まさか…リムルト、なのか…!?いや、そんな…!?間に合わなかったとでも言うのか…!?」


 ジークヴァルはリムルトではない可能性を何とか考えたが、あんな巨大なドラゴンは見た事がなかった。あれが特別なドラゴンである事は間違いない。


「ジークヴァル、まだだ!まだ諦めちゃいけない…!」

「あ、あぁ…!そうだ、まだだ…!」


 ジークヴァルはロードや部下たちと共に城へと急ぐ。街に入った後、ジークヴァルたちは逃げ遅れた民たちを救助する。


「早く…!早く、逃げるんだ…!」

「あ、ありがとうございます、騎士様…!」


 ジークヴァルは民が走り去った後、黒い巨竜と対峙した。


「リムルトォッ!!私だ!ジークヴァルだ!こっちを見てくれぇっ!」


 黒い巨竜はジークヴァルを見ても止まらず、炎を吐いて来た。


「来るぞ、散開!!」


 ジークヴァルの叫びが皆に伝わり、誰も死ぬ事なく、炎を避けられた。


「ジークヴァル、僕らで彼女の心に訴え続けよう…!だから…!」

「あぁ、友よ…!すまない、みんな…!私とロードはこれから奇行に走る…!私はお前たちの命を保障できない…!隊長失格だ…!だから…!」

「水臭いですよ、隊長!俺も付き合います!」


 大男が我先にとジークヴァルと行動を共にすると言い出した。道人はその男に見覚えがあった。最初に闇商人たちのテントを襲撃した時にジークヴァルと一緒にいた男だった。


「隊長や守護者殿にも何やら事情があるとお見受けしました!」

「いいじゃないですか、竜殺しがたまには竜を生かしたって!」

「俺らは他の奴らとは違ってあなたたちの側を離れなかった猛者ですよ?こうなったらとことんまで付き合いますよ!」

「お前たち…。すまない、私のために…!無理はしないでくれ、みんな…!」

「「「おう!」」」


 ジークヴァルは部下たちに勇気を貰い、黒い巨竜に立ち向かった。


「リムルトッ!やめてくれ、リムルトォッ!」


 ジークヴァルは右手にヴァルムンク、左手にレーヴァテインを持って馬に乗って駆け、黒い巨竜の注意を自分に向けて部下たちには向かわないようにした。


「ぐっ、このまま長期戦になっては…!?」

『…ジークヴァル…。』

「…!? リムルト…?」


 ヴァルムンクが白く発光し始めたのでジークヴァルはヴァルムンクを見た。リムルトの姿は見えない。声だけが聞こえる。同時にあの巨大なドラゴンがリムルトだと確定してしまった瞬間だった。


『…ごめんなさい、ジークヴァル…。私、駄目でした…。あなたは、あんなに私の事を信じてくれたのに…。』

「リムルト、まだ諦めるな…!私が必ず、必ず…!」

『…私、たくさん人を殺してしまいました…。もう、許されないから…。』

「私だってそうだ…!私も君の同胞たちをこの手で…!この手で…!」


 その時、ヴァルムンクから長い光の刀身が伸びた。


『ジークヴァル、お願い…。私は自分じゃ死ねない身体…。でも、ヴァルムンクなら私を殺す事ができる…。これ以上、私に人を…ロード様たちを殺させないで…。あなたに殺されるのは私の願いだったから…。』

「…リムルト…!」

『…大好きです、ジークヴァル…!』


 ジークヴァルは涙を流しながら決心し、レーヴァテインを一旦消し、両手でヴァルムンクを持って上に上げた。


「はあぁぁぁぁぁーっ!!」

『…ありがとう…。』


 黒き竜は真っ二つになり、白き竜に姿を変え、血と光の粒子を飛び散らせた。血はジークヴァルにかかり、光の粒子はヴァルムンクに吸収された。

 ジークヴァルが初めて返り血を浴びた瞬間は道人たちの心を抉る。


「…!? リムルト…!?」


 全身から光を放つリムルトが地面に倒れていた。ジークヴァルは急いで駆け寄り、リムルトを抱えた。


「…ふふっ、最後の最後に…竜の私と分離できたみたいです…。私の、最期に…ジークヴァルが奇跡を起こせたのかな…?私、いけない…子だ…。罪を犯したのに…大好きな人の腕の中で、命を尽きようとしている…。」

「…リムルト…。」

「…でも、不思議…。私…また、ジークヴァルと…会える気がする…。だから…またね、ジークヴァル…。」


 リムルトはジークヴァルに笑顔を見せた後、力尽きた。


「…リムルト…?リムルト…!」


 ジークヴァルはリムルトを抱えて立ち上がり、身体を揺らす。


「リムルトォォォォォーッ!!」


 燃え盛る炎の中、ジークヴァルはリムルトを抱えて叫んだ。リムルトの身体は霧散し、ヴァルムンクに吸収された。

 しばらく放心するジークヴァルの元に騎士団がやって来た。ギリギナの騎士たちだった。


「はっはっはっ、こいつは良い!報を聞いて飛んできたが、ネーランドの奴ら、勝手に崩壊したぞ!よぉし、このまま我がギリギナの領土に変えてやれぇい!」

「…貴様ら…。」

「あん?まだ死に損ないがいたか。」

「貴様らぁぁぁぁぁーっ!!」


 ジークヴァルは怒りに身を任せてギリギナの騎士団に立ち向かったが、人を殺す事に躊躇(ためら)いがあったジークヴァルはそこを突かれ、死亡した。


「…これが、ジークヴァルの最期なのか…。」

「何と…悲惨な…。」


 道人とソルワデスがそう言葉にした後、道人たちはしばらく沈黙した。

 しばらくするとガイアフレームが姿を現した。


「…! ガイアフレーム…。」

『高貴なる』『魂』『惜しい』『君』『ディサイド・デュラハン』『転生』『地球』『記憶』『保管』


 ガイアフレームは右手を伸ばし、ジークヴァルの死体は青い光の粒になってガイアフレームの身体に吸い込まれた。


『もう一人』『守護者』『まだ生きてる』『しばらく』『様子見る』

「…? もう一人…?」


 ガイアフレームはそう文字を示すと空を飛んでいった。


『君』『先祖』『ロード』


 別のガイアフレームが道人とユーラの背後に現れたので道人たちは驚いた。


「ガ、ガイアフレーム…!? っていうか、やっぱりロードって…俺の…。」

『君たち』『合格』『アトランティス』『危険』『仕上げ』『急げ』

「ま、待って…!いや、話してる暇…おわぁっ!?」


 世界は暗転し、物凄い勢いでガイアフレームが遠ざかっていった。道人たちは背後にある光へと吸い込まれていった。

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