164章 完全体となりし王
「な…何を言っておるのじゃ、お主は…?」
イルーダの発した運命の出会いをした旨の発言は道人たちだけでなく、イジャネラにも理解できていなかった。
「ふん、相変わらず鈍いババアです事!」
「うっ…!?」
イルーダは倒れているイジャネラに対し、容赦なく蹴りを入れた。
「イルーダ、どういう事です!?あなたはお母様の寵愛を受けて喜んでいたのではなかったのですかっ!?」
「飽きた。それだけですわ。」
「えっ…?」
イルーダの即答に対し、海音は対応出来なかった。
「最初は嬉しかったんですけどね…。それは事実ですわ、お姉様。でも、手に入ってしまったら…何だかべたべたして来るのが鬱陶しく感じ初めましたの。所詮、私はお姉様の代用品ですし…。こんな鉄面皮に何を価値を感じていたのかしら…?」
「イ、イルーダ、お主…!」
「その名前もお姉様みたいな轍を踏まないように、今度は反逆しないようにと予め名付けたんでしょうけど…。あ、でも、唯一このイルーダって名前は気に入ってるんですの。この名とキャルベンの全指揮権だけはもらってやりますわ。」
イルーダはイジャネラをまた蹴ろうとするが、マーシャルがイジャネラの近くにワープした後、すぐにまたワープして道人たちの近くにイジャネラを寝かせた。
「イジャネラ様…!」
クロスオーバーソルワデスはイジャネラの元に近寄り、抱き抱えた。その瞬間、三分経ってしまったのでソルワデスとトワマリーは分離してしまった。
「…? あなた、何でそいつを助けましたの?あなたにとっては敵でしょうに。」
イルーダはマーシャルの取った行動を不思議がってつい話し掛けて来た。
「…前に似たような光景を経験しましてね。ただ、気に入らなかった。それだけです。」
マーシャルは寂しそうな顔をし、立ち上がった。
「なるほど、お互い気分屋ですわね。」
「君がイルーダ…か。一つ答えて欲しい。君が言う運命の相手というのは誰なんだ?」
「あら、初めまして、大人しそうな色男さん。誰って、決まってますわ。この世界の王となられるアトランティスのデュラハン様ですわ。私、彼のパートナーになりましたの。」
イルーダは右手に持った虹色のデバイスを見せて来た。
「…!? デ、デバイス…!?何で…!?」
「彼の頭を宇宙船の中に入って回収しまして。そしたら出現しましたわ。何て神々しいデバイスなのかしら…。まるで彼の心を表したデバイスのよう…。」
イルーダは両手で持ったデバイスを頬ですりすりして見せた。
「…イルーダ、あなたは生まれてすぐにコールドスリープに入った身…。あなたのその愛だと思っているものは世間知らず故のもの…。言わば、恋に恋をしている状態なのではありませんか?」
「お、お姉様、私のハートをグサグサ刺すような事を平然と言いますわね…。ちょっと意外…。」
イルーダは目を点にして左手を心臓に当てた。
「否定はしませんわ。私、人間で言うところの、生まれて間もない赤ん坊のようなものですし。」
随分太々しい赤ん坊だな、と道人は思ったが口に出したら殺されそうだったので心の中だけで突っ込んだ。
「何よ?随分ふて…。」
「あ、愛歌さぁ〜ん…!?それ、駄目!禁句禁句…!」
道人は大慌てで愛歌の口を手で塞いだ。愛歌は急に道人に口を塞がれたからか頬を染める。
「ですが、同時にそれは今現在でも私は成長の真っ最中であるという証…!この出会いをきっかけに私は新たなるキャルベンの女王として羽ばたいてみせますわ…!」
イルーダは目をキラキラさせて両手で持ったデバイスを胸に当てた。
「…道人、私はわかった気がする…。」
ソルワデスはイジャネラをユーラに任せて、ゆっくりと立ち上がった。
「…私が未来の前借りをする前の世界で、キャルベンを裏切った原因…。それは間違いなく、気分屋である奴だ…!」
ソルワデスは振り返り、イルーダを睨んだ。
「…うん、俺もそう思う…。」
「…? 話が読めませんが、何か私のせいにされるのは不愉快ですわね…。まぁ、いいですわ。」
イルーダは左手を上に上げ、指を鳴らした。門番のデュラハンたちは武器を構えてイルーダの前に立つ。
「これより、キャルベンとアトランティスを統べる新たなる王と王妃の式を行いますわ!さぁ、現れて我が愛しき王よ!」
「えっ…!?」
イルーダの背後から奴は現れた。身体の色が識別できないアトランティスのデュラハンが姿を現した。
「な、何でここに…!?」
「だ、駄目です!?あなた、自分が何をしようとしているのか、わかっているのですかっ!?」
ユーラが血相を変えてイルーダに対して叫んだ。
「もちろん、理解していますわ。この地球は愚か、全宇宙をも統べる偉大なる王と王妃の降誕ですわ。」
イルーダは部下からアトランティスのデュラハンの頭を受け取った。
「このお方は私が戦っている最中に愛歌たちが近くに隠れている事を教えてくれたり、門番のデュラハンたちを私にペットとしてプレゼントしてくれたり、私に求愛してくれましたの…。」
「あたしたちが隠れてるのがバレたのはそいつのせいだったって訳…!」
愛歌はアトランティスのデュラハンを睨んだ。
「みんな、イルーダを止めるんだっ!!」
「えぇ!」「あぁ!」
道人の必死な叫びを上げてソルワデスとヤジリウス、海音、スラン、トワマリー、この場にいる戦える人員で一緒にアトランティスの頭を持つイルーダに向かって駆けた。
「我が強き、愛おしきペットたちよ!捻り潰しておやりなさい!」
ヌール・メナリスとジュア・サンたちは小太陽と小型ブーメランを展開し、部下たちと共に迎え打った。広いキャルベンの訓練場は一瞬にして戦場と化した。
「さぁ、我が王となる愛しき伴侶よ!新しい顔よ!」
「だ、駄目えぇぇぇぇぇーーーーーっ!?」
ユーラの叫びも虚しく、アトランティスのデュラハンは自分の頭が装着され、目を黄色く妖しく光らせた。




