163章 クロスオーバー・ディサイド!
「ホホッ、さっきよりも人数は増えたが、妾には何も問題なしじゃ。」
イジャネラは余裕綽々で六つの水鏡を自分の周りに人工衛星のように飛び回らせた。
「…道人、イジャネラ様と戦ってみてわかった事がある…。私たちがイジャネラ様が戦っている所があまり見た事がないのは、それもそのはずだ。イジャネラ様は守りを主にして戦う方なのだ。」
「うん、だろうね…。信じられない事にあの人、戦いが始まってからあの場から一度も動いてないし…。」
イジャネラの近くには未だに椅子が置いてある。イジャネラは道人たちの総掛かり攻撃を受けてもあの場から一歩も動かずに攻撃を防ぎ切って見せたのだ。
「でも、こっちだってまだ本気出してないからさ!だろ?」
道人もソルワデスもイジャネラとの口論で熱が入り、互いに影響を受けたからか既にD-DUNAMISも一枚使用可能になっていた。
道人はD-DUNAMISカードを実体化させてソルワデスに見せる。
「えぇ、その通りだ。私はまだ君たちと出会ってから日は浅い…。だが、君たちから学び得られたものは時の流れを凌駕する程、不思議と大きなものと感じられる…。地球の人たちは根絶やしにしてはならない。地球とキャルベンは共に手を取り合って生きていくべきなのだ。それを私はイジャネラ様に伝えたい…!」
「はい…!その通りです、ソルワデス!一緒に止めますよ、イジャネラを!」
「えぇ!」
「よし、私は一旦消える!後は任せた!」
プロペラブーメランハーライムは時間切れで消える前に両刃の斧と二つのプロペラブーメランをイジャネラに向かって投げた。
その後、ソルワデスと海音、ヤジリウス、スランは一斉にイジャネラに襲い掛かった。
「ホホッ、多勢に無勢は大歓迎じゃ!良かろう、まとめて掛かって来るがよいぞ!」
イジャネラは六つの水鏡のフレーム部分にギザギザの刃を新たにつけて巧みに操り、右手に持った槍も使ってソルワデスたちの猛攻を防いでいく。
「愛歌?トワマリーは戦わないの?」
道人もイジャネラの元に行こうとするが、その前に愛歌に尋ねた。
「うん、トワマリーは外で一回ヘッドチェンジ使っちゃって…。まだイルーダや寄生ヘッドに乗っ取られた門番二人もいて…。それに司令にいざとなったら、クローズゲートで道人たちを逃してって命も受けてるからヘッドは温存しようと思ってさ。」
「そっか、外はそんな事になってたのか…。」
「…そういえば、イルーダたちも宇宙船の中に戻ったんだけどさ、姿を見せないね…。」
愛歌は訓練場の周りをきょろきょろして見渡した。
「…イルーダたちとまだ戦う可能性があるって事は俺もヘッドを温存したいところだけど、そんな事ができる相手じゃないよな…。」
イジャネラは大人数に襲い掛かかられてもまるで舞を踊っているかのように次々とソルワデスたちの攻撃を捌いていく。
「…よし、大丈夫。ヘッドチェンジを使わなくてもトワマリーは戦えるよ。」
「えっ?それってどういう…?」
「こういう!」
道人はデバイスにD-DUNAMISカードをスラッシュした後、投げて愛歌のデバイスにもスラッシュした。
「えっ?これってクロノスフィアアレウリアスの時の…。」
「うん!トワマリーの力を借りるよ、愛歌!ソルワデス、トワマリーと合体だ!」
「何っ!?」「えッ!?私ガ!?」
ソルワデスもトワマリーも共に驚いた。
『D×D DUNAMIS』
「二つのディサイドよ、一つとなれ!」
ソルワデスとトワマリーは共に高く飛び、光の球体に包まれた。
「な、何?フォ、フォームチェンジ?」
トワマリーは動揺しながらピンク色の竜の鎧を纏った新たな姿『クロスオーバートワマリー』となった途端、バラバラになってソルワデスの周りにパーツが散らばった。
ソルワデスの両手両足が外れ、クロスオーバートワマリーの両手両足が装置される。ウイングユニットは竜の翼のようになり、ソルワデスの左右の盾は五つの中型リングと共に浮遊する。
新たな竜の顔をした盾が両肩につく。
新たに出現した竜の意匠が施された二本角の頭を装着し、弓矢を右手に持った。
「二つのディサイドを一つに!クロスオーバーソルワデス Ver.トワマリー!」
クロスオーバーソルワデスは着地と同時に弓を構えて、光の矢を作り出す。周りの中型リングもリングの中央部分に光を溜め出す。
「はっはっはっ、ソルワデスってトワマリーとも合体できちゃうのね…。」
「これまで通り、愛歌のデバイスでもリングを操作できるからさ。頼りにしてるよ、愛歌?」
「頼りに…。そ、それはもちろん!もちろんだよ、道人!よぉ〜し、伊達に道人の幼馴染やってない所、見せたげんだから!」
愛歌は頬を染めて意気揚々とデバイスを構えた。
「みんな、一旦イジャネラから離れて!今、射る!」
クロスオーバーソルワデスは光の矢を放ったと同時に中型リングからビームを放ち、ソルワデスが元々つけていた盾からは爪をマシンガンのように飛ばした。
「ヒッヒャァッ!?何つーフルバーストっぷりだよ!?」
「おっかないねぇ〜っ…!」
「はい、とても…。」
ヤジリウスとスラン、海音は急いでイジャネラから距離を取ってクロスオーバーソルワデスのフルバーストを見て驚く。
「ぬ、ぬぅっ…!?何たる…!?」
イジャネラは一番威力の高そうな光の矢を警戒し、水の鏡を自分の前に三枚並べた。残り三枚は中型リングから放たれるビームを防ぎ、槍を回転させて飛んでくる爪を弾いていく。
「だ、駄目じゃ…!?何たる火力…!?ちぃっ…!」
イジャネラは水の鏡の一つを左手に取り、鏡から水の柱を作って跳び、その場から離れて火線から距離を取った。光の矢を防ぎきれない三つの水の鏡は消滅した。
「やりました!イジャネラを初めてあの場から移動させられた!」
「シャアッ!」
ヤジリウスは抜刀し、黒の斬撃をイジャネラに対して飛ばした。
「それは効かぬ!」
イジャネラは黒の斬撃を紫の水で包んで消滅させた。
「はあぁぁぁぁぁーっ!!」
道人はレッグパーツの加速でイジャネラの背後に回り、両手でメタリー・ルナブレードを持って振り下ろそうとする。
「み、道人!?こ奴、いつの間に…!?じゃが、叫んだのが命取りよ!」
イジャネラは道人に向かって紫の水の鞭を伸ばし、水の中に閉じ込めようとする。
「道人!」
愛歌が中型リングの一つをデバイスで操作し、道人の足の近くに即時移動。道人はその中型リングをレッグパーツの力で思いっきり蹴って後ろに跳んだ。
「まだまだぁっ!」
道人はメタリー・ルナブレードをブーメランに変形させ、横に一回転してぶん投げた。
「とらえたよ!」
イジャネラが飛んで来るメタリー・ルナブーメランを警戒している隙にスランが宙に四つのリボンを出現させ、両手足を捕縛した。
「しまっ…!?えぇい、ぬかったわ…!じゃが、これでも水の鏡は操作できる!」
イジャネラはメタリー・ルナブーメランを水の鏡で防いだ後、新たにギザギザ刃の水の鏡を三つ出現させてリボンの切断を試みる。
「シャアッ!」
「参ります!」
ヤジリウスは抜刀し、黒の斬撃を飛ばす。海音は巻き貝の槍に水の竜巻を纏わせて高くジャンプして突きに掛かる。
「こ奴らの連携、侮れんものがある…!がぁっ!」
イジャネラはリボンを引きちぎる事に成功。水の鏡で黒の斬撃を再び無効化し、近づいて来た海音に対しては近くを浮いていた破れたリボンを槍で掬い、海音の顔に当てた。
「うっ…!?視界が…!?」
「まだまだじゃぁっ!」
「みおん!」
イジャネラは回し蹴りを喰らわせ、海音を地面に叩きつけた。
「イジャネラ様、参ります!」
落下するイジャネラに対してクロスオーバーソルワデスは光の矢を放ったと同時に弓をブーメランのように投げ、両手にドラゴンクローを装着。中型リングを足場にして飛び跳ねる。
「随分派手になったものじゃなぁっ、ソルワデス!」
イジャネラは水の鞭を急いで伸ばして天井の柱に巻き付け、何とか光の矢を避けるが、弓のブーメランはまともに喰らった。
「うぐっ…!?何のぉっ…!?」
イジャネラは自分の身体を紫の水で包んでクロスオーバーソルワデスのドラゴンクローの引っ掻きを緩和して地面を転がった。
「ホホッ、惜しかったのぉっ…!」
イジャネラはすぐに立ち上がって何度か跳ねて調子を整えた後、再び水の鏡を六つ展開して防御態勢に入った。
「イジャネラァッ!」
海音は中型リングを足場にしてイジャネラに急接近。巻き貝の槍と槍をぶつけ合わせた後、貝殻の盾でイジャネラを押し飛ばした。
「ぐ、ぐぅっ…!ま、まだじゃぁっ…!妾はまだ倒れん…!例え一人になっても、キャルベンを豊かな星に変えるのじゃ…!」
イジャネラはよろけながらも防御態勢を崩さなかった。
「キャルベンを豊かな星に変える事…。その願い自体は否定はしません。尊きものです。ですが、そのために地球人を亡きものにするという考えが反感を買うのだと、何故お母様はお気づきにならないのですか?」
海音はそう寂しそうに言い、巻き貝の槍をイジャネラに向けた。
「…妾は平安と呼ばれた、その時代に相応しくない年号を名付けられた頃から人の醜さを目の当たりにしてきた…。あ奴らでは地球を持て余す…!絶えず続ける争いで、無駄に流した血でその大地を汚す…!だったら、人を排除し、資源星に変えた方が良いというものじゃ…!」
イジャネラは道人たちを見てまるでどけるような動作で左手を横に強く振った。
「お母様…。私も同じく、平安の頃から今までずっと地球で暮らして来ました…。戦争の歴史も知っています…。しかし、誰もが争いをしたい訳ではないのです…!そこには巻き込まれた人たちもいる…!キャルベンだってそうです…!キャルベンが今行っている事だって誰かを傷つけているのですよ?」
「ホホッ、言いよるわ…!」
「はい、何度だって言います…!」
海音は一歩前に出る。クロスオーバーソルワデスたちも海音の近くに集い始める。
「確かに人の争いは今後も続いていくでしょう…。止まる事はありません…。ですが、道人さんたちにはそれを止められるだけの力を持っています…!お母様だって、そうです!そのキャルベンを復興したいと願う科学力を調和と協調のために使えるはずです!ですから、どうか…誰かを傷つけてまで手にしようとする悲しき真似はやめて下さい…。」
「ぬっ…。」
海音は両目から涙を流し、イジャネラを寂しそうに見る。スランは海音にゆっくり近づき、両肩に手を置いた。
「…妾の知らぬ内に言葉が巧みになったものじゃな、ソルワデス、海音…。」
「…! 初めて、私の名前を…。」
海音とイジャネラは静かに見つめ合う。
「もうお涙頂戴のお話は終わりました事?イジャネラ。」
「なっ…!?」
イジャネラは背後から巻き貝の剣で腹を刺され、地面に倒れた。背後にはイルーダと門番たちが立っていた。
「…!? お母様っ!?」
「イルーダ、貴様…!!」
クロスオーバーソルワデスは中型リングからビームを放つが、オリハルコンボディの門番デュラハンがイルーダの前に立ち、ガードした。
「ふふっ♪さしものイジャネラも油断をつけばこの通り、あっけないものです。」
「…イルーダ、お主…!?」
イジャネラは身体を震わせながら振り返り、イルーダを見る。
「イジャネラ、唐突ですがご報告が…。私…この度、運命の相手と巡り会う事ができたのです…!」
イルーダはこの場にいる者たちに満面の笑みを浮かべて見せた。表向きは普通の笑顔に見えても、初対面の道人でさえもその笑顔は邪悪さを感じさせるものだとわかった。




