162章 守護女帝イジャネラ
「さぁて、ソルワデス。お仕置きも兼ねてに一つ、稽古でもつけてやろう。何せ、こちらも久々の長期戦闘でのぅ。」
イジャネラはそう言うと首を捻って金属音を訓練室の室内に響かせた。その間、道人はデバイスを確認したが、グゲンダル戦で使ったD-DUNAMISカードはまだ回復していなかった。
「おい、婆さん。なら、俺にも稽古つけてくれよ。」
ヤジリウスが道人の隣に実体化し、道人のリュックから自分のヘッドを取り出して装着し、目を赤く光らせた。
「ふん、別に何人でも束で掛かって来るがよい。そして、妾を婆扱いしたお主、命はないと思え。」
「わかったよ、婆さん!シャアッ!」
ヤジリウスは返事と同時に鞘から刀を抜刀。黒の斬撃をイジャネラに向かって飛ばした。
「ふん。」
イジャネラは宙に浮かせていた三つの水の鏡を自分の前に移動させ、飛んできた斬撃を防御し、次元の刃を紫の水で包んだ。
「な、何だ…?俺の斬撃を…?」
「ふむ…。どうやら、当たってはならぬ技のようじゃな。」
紫の水はどんどん圧縮していき、次元の刃と共に消滅させた。
「ヤ、ヤジリウスの斬撃を無理矢理潰して消した、のか…!?」
「まぁ、そのようなもんじゃな。」
イジャネラは左手を横に振ると三つの水の鏡から紫の水の水流を発射した。
「さ、散開!」
道人がそう叫ぶとソルワデスもヤジリウスもそれぞれ横に移動し、飛んできた水流を避ける。ユーラもバリアを張りながらマーシャルと共に後ろに下がった。
「イジャネラ様、参ります!」
ソルワデスは両肩の盾を両手につけて鉤爪にし、イジャネラに向かって素早く襲い掛かる。
「ほうほう、その肩の盾はクローにもなる訳か。新たな鎧の実力、見せてもらうぞ。最も、妾に近づけたらの話じゃが。」
イジャネラは右手に持った槍と三つの鏡から伸ばした水の槍の四つの槍でソルワデスの連続引っ掻き攻撃を捌いていく。
「ヤジリウス!」
「おう!いいぜ、道人!」
道人はイジャネラの右からメタリー・ルナブーメランを、ヤジリウスは左から抜刀して黒の斬撃を飛ばした。
「ホホッ、無駄じゃ。」
イジャネラは二つの水の鏡から出た水の槍を変化させ、鞭に変えてメタリー・ルナブーメランを弾き飛ばし、また斬撃を水に包んで消した。二つの攻撃を防いだ後、再び水の槍に戻す。
「ソルワデス!」
「えぇ!」
ソルワデスは後ろにジャンプし、右手の鉤爪を肩に戻して弾き飛ばされたメタリー・ルナブーメランを回収して再び投げる。
「続けて、ハーライム!」
「あぁ!」
道人はスマホからハーライムを実体化し、すぐにプロペラブーメランヘッドをつけた。
「何じゃ?どんどん数を増やしおって…。」
「これが彼らの繋がりの強さなのです、イジャネラ様!」
イジャネラはメタリー・ルナブーメランを回転させた槍で弾くが、プロペラで空を飛んでいるハーライムがメタリー・ルナブーメランをキャッチして一回転して再び投げた。
「しつこいブーメランじゃ!」
イジャネラはまた槍でメタリー・ルナブーメランを弾く。
「まだ続くぞ!」
今度は道人が左手で掴んで回収し、メタリー・ルナブーメランを投げる。
「切りがない!」
そう言うとイジャネラは紫の水でメタリー・ルナブーメランを包んだ後、地面に落とした。
「…! あの水、ひょっとして質量がある物は押し潰せないのか…!
地面に落ちたメタリー・ルナブーメランは消えた後、道人の左手に出現し直した。
「まだだ、俺たちのブーメランは途切れない!」
道人は再びメタリー・ルナブーメランを投げた後、左手にヴァルムンクを出現させてイジャネラに斬り掛かった。
「ブーメランを追加だ!」
プロペラブーメランハーライムは地面に着地し、両肩のプロペラブーメランを投げた後、両刃の斧を出現させて斬り掛かる。
「ふん、さすがに鏡を増やすか。」
イジャネラはそう言うと水の鏡を三つから六つに増やして紫の水竜をニ体作り出し、自分を包むようにして竜を戸愚呂を巻かせて防御態勢を取った。
「なっ、このババァッ!」
道人はみんなでイジャネラに斬り掛かったのだが、戸愚呂を巻いた水の竜のカーテンでイジャネラまで斬撃が通らなかった。
道人たちは一旦離れて距離を取る。
プロペラブーメランハーライムは両肩にプロペラブーメランを装備し直して飛んだ。
イジャネラは水の竜を鏡に戻し、姿を見せた。
「隙ありです!」
「ぬっ!?」
「み、海音さん!?」
訓練室の入口から巻き貝の槍を前に突き出した海音が突進して来た。先程、マーシャルがワープで飛ばした兵士二人も吹っ飛びながら入って来て消滅した。
不意打ちでもイジャネラは対応し、二つの水の鏡を合体させて盾にして防ぐ。
水の鞭で海音を攻撃するが、海音は攻撃がもう通らないと諦め、後ろに跳んでユーラとマーシャルの近くに着地した。
「海音さん、無事だったんですね…!?」
「はい、この通り!ご心配お掛けしました、道人さん!」
「やっほーっ、道人!愛歌と愉快な仲間たち、ここに合流…ってね!」
愛歌とトワマリー、スランも海音の近くまで走ってきた。愛歌は道人に向かって右目でウインクした。
「ふん…。やはり生きておったか、お主。」
「はい、キャルベンの暴走を止めるまで私は死ぬ訳にはいきませんからね。」
そう言うと海音は巻き貝の槍をイジャネラに向けた。
「イジャネラ様、これが道人たちの…彼らの固い繋がりの力なのです!彼らは敵に人質を取られようと懸命に諦めず、手を差し伸べる…!彼らの思いやりの力ならば、キャルベンと地球とだって、手を取り合っていけるはずです!」
「たわけ。お主が見てきたのは地球の良い一面だけじゃ。地球人全員が良い人という訳じゃないだろうに。」
「…確かに地球に住む人たちが全員良い人な訳じゃない…。ディサイド・デュラハンの技術を盗もうとする者もいれば、傀魔怪堕のような誘拐まがいのような事をする連中もいる…。」
道人は寂しそうな顔をして自分の右平手を見る。
「でも、それは決して諦める理由にはならないから…!」
道人は右手で強く握り拳を作る。
「人間はみんな、良くも悪くも自由だ。だから、中には道を踏み外してしまう人もいる…。それは生きている以上、仕方のない事だと思う。でも、俺たちにはデュラハンたちと一緒に行動を共にする事でその悪い人たちを止められるだけの力を持っている…!『ディサイド』にはそれだけの力があるって、俺たちは信じてる…!可能性が潰えたとしても、俺たちは決して歩みを止めない!」
道人は右手の拳を解いて胸に当て、真拳な眼光でイジャネラを見た。イジャネラも道人の目を見る。
「…道人、すごい…。怖気付かずに、あんなに堂々と…。他の惑星の女王と面と向かって口論できるなんて…。」
ユーラはイジャネラと対峙する道人の姿を見て目を潤ませていた。
「…お主、道人とか言ったな。その名、覚えておいてやろう。お主のその覚悟、偽りではない事を妾に示してみせよ!」
そう言うとイジャネラは道人に向かって槍を向けた。
「ソルワデス、驚きました…!道人さんとディサイドしたとは聞きましたが、変わりましたね…。」
「…! ミオン…!」
海音はソルワデスの隣まで移動した。
「私、嬉しいですよ。同じキャルベンにいた者同士で理解者が…友達ができるなんて…。」
「…! 私が、ミオンと…友達…?」
「あ、ちょっと、みおん。わたしも、わたしも!わたしもソルワデスとともだちなんだよ?」
スランも海音の近くまで浮遊してきた。
「ふふっ、私の知らない間にスランとも…。改めてよろしくお願いしますね、ソルワデス?」
「…そうか。…海音、どうやら私は知らない内に君がキャルベンを出て行った時の気持ちが理解できていたようだ…。友情とはいいものだな…。」
「はい!友情があれば、勇気も一緒に増し増しですから!」
海音とソルワデスは右手でハイタッチした後、互いに頷いてイジャネラを見た。




