159章 オペレーション・スピアブレイカー
「…うーん、やっぱり仮眠は難しいか…。」
道人は目を瞑って何とか眠ろうとしたが無理だった。寝る前に何度か恥ずかしい思いをしたからか、体温が未だに高く感じるのもあって寝付けなかった。道人は周りを見ると愛歌と深也、マーシャルは眠っていた。
「…道人様、寝付けないのですか…?」
ユーラが近寄って来て、小声で話し掛けて来た。寝ている深也を気遣っての事だ。
「うん、駄目みたい…。もう寝るのは諦めてソルワデスたちのとこにでも行こうかな…。」
そう言うと道人は立ち上がり、ユーラと一緒に立った。
「お供します、道人様。」
「そう言えば、ユーラにデュラハンたちの紹介まだしてなかったな…。よし、一緒に行こうか。」
「はい…!」
道人は席から立ち上がり、ユーラと共に格納庫へと向かう。
「そう言えばさ…ずっと気になってたんだけど、俺たちの事は様付けしなくていいよ。何だか堅苦しいし、呼び捨てでいいからさ。」
「えっ、み、道人様を呼び捨てで…?」
ユーラは頬を染めて恥ずかしそうにする。
「大丈夫、D・D FORCEのみんなは俺の事を気軽に、何だったらあだ名で呼んでる人もいるし…。」
道人は脳裏にグルーナの姿が思い浮かんだ。
「そ、それでは…み、道…人…?」
「うん、ユーラ。」
「わぁっ…!では、改めて!よろしくお願いします、道人!」
ユーラは嬉しそうに右手にしがみついて来て、一緒に歩いた。何だか今日一日でユーラとは大分仲良くなって道人は何だか嬉しかった。
「何だったらさ、敬語もやめても…。」
「こ、これは私の気に入った喋り方でして…。」
「そうなんだ。じゃあ、敬語はそのままでいいね。」
道人はユーラと楽しく会話しながら階段を降り、格納庫へと着く。
「あれ?どうしたの、道人?なにかよう?」
スランがコンテナの上に座り、足をぶらぶらしていた。
「いや、なかなか仮眠できなくて…。もう寝るのは諦めてユーラにデュラハンのみんなを紹介しようかな、ってさ…。」
「そっか。いいよ、はなししよ。」
スランは立ち上がり、ユーラの前に立った。
「ソルワデスはいないか…。」
「うん、いまはグゲンダルといっしょにしれいたちのところだよ。」
「そっか、キャルベンの宇宙船の場所を聞いてるところか…。なら、仕方ないね。」
「うん。まだじこしょうかいしてなかったね。あらためまして、わたしはスラン。よろしくね。」
「はい、こちらこそ。」
ユーラとスランは互いに握手した。
「あわわっ…!?」
スランがぶんぶん大きく腕を振りながら握手するため、ユーラは慌てた。
「でね、そこでどくしょしてるのはディアス。」
「よろしく…。」
ディアスはコンテナの上に座って兵法書を読んでいた。
「…あ、ごめんね。いま、ディアスはちょっとふきげんなの。」
「不機嫌?何かあったの?」
「うん、ラクベスにさ…きせいへっどをそうちゃくしたのはグゲンダルだから…。」
「あ、そっか…。」
水縹星海岸で初めてグゲンダルと戦った際、主に交戦していたのはディアスだった。確かにいきなり、形式上は捕虜だけれども、一緒の船に乗る事になり、複雑な面持ちになるのも無理はない。
「…別に彼女だけを責めるつもりはない。ラクベスをシユーザーの好きにさせてしまった私にも責はある…。しかし、それでも…。」
「…そっか、まぁ、時間が必要な事もあるよね…。えっと、スランもグゲンダルの事を…?」
「うーん…。まぁ、わたしもすぐにうけいれろっていうのはむずかしいかも…。でもでも、なんとかわかいしてみせるからっ!うん!」
スランは元気に振る舞っているが、やはりスランもすぐにはグゲンダルを受け入れられないようだった。
「で、あそこでよこになってくつろいでるのがダーバラ。」
「よろしくねぇ。」
「はははっ、かなり馴染んでて何より…。」
ダーバラは横になって宙に浮かせた鉄扇で自分を仰いで楽そうにしていた。ここは格納庫のはずだが、屏風を飾ってダーバラのいる所だけ別空間のようになっていた。
「屏風は一体どこから調達してきたんだ…?」
「お二人とも、初めまして、ユーラです。以後お見知り置きを…。」
ユーラはお辞儀をして挨拶した。
「んで、俺がランドレイクだ。あんたのバリアの張り方、見事なもんだったぜ。」
「あ、ありがとうございます…。」
ランドレイクが近寄って来て、ユーラは右手で握手した。
「トワマリーは愛歌のデバイスの中だから今は起動してなくて…。」
「あら?あの方は…?」
ユーラはトワマリーのボディのとなりにあるジークヴァルのボディの側に近寄った。
「彼はジークヴァル。俺の最初のディサイド・デュラハンで大事な友達なんだ。」
「ジークヴァル…。この方は目覚めてないのですか?」
「うん、前の戦いで無茶して壊れちゃってさ…。今はデュラハン・ハートがないから起動できないんだ…。でも、そんな状態なのにジークヴァルはまるでアトランティスに連れて行って欲しい、って思ってるかのように動き出して…。それで連れて来たんだけど…。」
「ジークヴァル…。」
ユーラがジークヴァルの胸の顔に触れたその時だった。触れた途端、ジークヴァルの身体が緑色に発光した。
「えっ!?な、何をしたの、ユーラ?」
「い、いえ、私はただ触れただけで…。」
スランたちも急に光出したジークヴァルを見て驚いている。ジークヴァルの胸の顔部分が開閉し、デュラハン・ハートが本来収められている部分が顕となった。
「な、何だ…?何で急に胸部が開いたんだ…?」
「…この方、呼んでいます、道人を…。」
「えっ?ジークヴァルが、俺を…?」
その時、いつか見たジークヴァルの前世らしき映像が道人の頭の中でフラッシュバックした。名無しのドラゴンの姿も見えた。道人は右手で頭を抱え、フラつく。
「道人っ!?」
ユーラが急いで道人を支えた。
「大丈夫ですか、道人…?」
「あ、ありがとう、ユーラ…。」
道人は頭を左右に振り、ジークヴァルを見る。
「まさか狸が言ってた、試練って…。」
大樹とカサエルがビーストヘッドの試練を受け終わった際に狸が言っていた事を道人は思い出した。ジークヴァルの試練はジークヴァル自身の心の中で行われると。
「ひょっとして、アトランティスで受ける必要があるって言うのか…?」
「みんな、待たせた!作戦の考案が今、完了した!至急、説明に入りたい!一部の整備班以外は客室に集まってくれ!」
卒間の艦内アナウンスが鳴り響いた。その瞬間、ジークヴァルの胸部を閉められた。
「今はまだいい、って事なの?ジークヴァル…。」
道人はジークヴァルの閉じられた胸の顔に触れた。
「…わかった。必ず君の望む通りにするから…!だから、待ってて、ジークヴァル…!さぁ、客室に戻ろう、ユーラ!」
「は、はい!」
「スランたち、また後でね!」
「うん、おたがいがんばろうね。」
道人とユーラはスランたちにそう言った後、急いで客室へと戻る。ユーラはジークヴァルが気になるのか、ジークヴァルが見えなくなるまで振り返って見ていた。客室に戻ってくるともう愛歌と深也、マーシャルは目を覚ましていた。道人とユーラは座席に座る。しばらくすると卒間と大神が客室に入ってきた。
「みんな、待たせた。これより作戦の説明に入る。アトランティスのデュラハンが近くを徘徊している以上、いつキャルベンと遭遇するかわからないのが現状だ。よって、作戦決行は今日だ。」
卒間の言う事に対し、道人たちは頷いた。卒間の言う通り、キャルベンがアトランティスのデュラハンに頭を渡すのは時間の問題だ。急いだ方がいいのはその通りだ。
「まず、キャルベンの宇宙船の場所がわかった。太陽のデュラハンがいる神殿から少し離れた場所…。周りには水玉の森林がある場所だ。」
グゲンダルの話によるとキャルベンは太陽の門番と遭遇したと言っていた。確かに宇宙船があるならその付近だろう、と道人は納得した。
「場所がわかった事を踏まえて我々が考えた結果、愛歌君のアイディアを採用する事にした。まず、単独行動が可能なディアスとスランが先行する形で敵に気付かれないように宇宙船の左右に近づき、周りの水玉の木々を破壊する。そうして、やって来た太陽と月のデュラハンにキャルベンがやったと誤認させて相手をさせる算段だ。」
「いくらもう滅んだアトランティスって言っても自然破壊するのは何だか気が引けるな…。」
「大丈夫ですよ、道人。アトランティスは人がいなくなった後もここまで再生できたのです。木々くらいだったらすぐに直せます。」
確かにアトランティスは滅んだ、という話だったが、あくまでそれは暮らしていた民たちの事を差していて、風景や自然は綺麗なものだった。都市機能はアトランティスのデュラハンが暴れた後も生きている、というのは見て取れた。
「そして、兵士たちが門番の相手をしている間にD・D FORCEは船内か船外かは向こうの出方次第だが、イジャネラとイルーダを説得または交戦し、これを無力化。アトランティスのデュラハンの頭を奪取さえできればこの二人と無理に戦う必要はない。我らは頭を回収して現実世界へと帰って再封印を施す。これが我々が考えた作戦の流れだ。何か質問がある者はいるか?」
「海音はどうすんだ?」
深也が手を上げると同時に質問した。
「もちろん、海音君も何とか捜し出して帰りたい。でないと、そもそも元の世界に帰っても再封印できないからな…。」
次に道人が手を上げた。
「門番たちがこちらの意図通りに動いてくれるかどうか、ってのがランダム性があって不安材料ではありますね…。」
道人の意見を聞いた後、卒間は道人の意見を認めて頷いた。
「多少綱渡りな作戦で申し訳ないが、それは全て私の指揮官としての力量のなさによるものだ…。こんな作戦には手を貸せない、という者は遠慮なく申し出てくれ。」
卒間はそう言うが、みんな座席から立ち上がり、敬礼した。ユーラも慌てた後、道人の真似をして敬礼する。
「へっ、もうアトランティスまで来てんのに今更だぜ、司令。」
「そうよ、自分の命が惜しかったらそもそもここまで付いて来ないしね。」
「アトランティスにやって来た時点で覚悟は決まってますよ、司令。」
「みんな…。」
深也、愛歌、道人の言葉を聞いて卒間は眉を強め、敬礼し返した。
「安心しろ、私も現場で指揮をする…!必ず犠牲者は一人も出さずに作戦を遂行してみせると約束しよう…!キャルベンたちを殲滅するのではなく、彼女らの持つメイン武器である槍を全て折って戦えなくする、という意味を込めてこれより、「オペレーション・スピアブレイカー」と呼称!そして、現時点を以ってこれを決行する!各自、準備に取り掛かるんだ!」
「「「了解!!」」」
道人たち、この場にいるマーシャル以外のメンバーは強く卒間に対して返事を返した。
「D・D FORCEは格納庫の特殊車輌へと向かって、乗り込んでくれ!準備が出来次第、出撃する!」
道人たちは卒間の指示に従い、格納庫へと向かった。




