157章 仮初めの命なんかじゃない君へ
楽しい昼食のひと時はあっという間に終わった。各々片付けをした後、ユーラからアトランティスの話を聞き、その後に今後の対策をする事になった。
「それではユーラさん。君たちが住むアトランティスに関しての会議、初めても構わないかな?」
「はい、構いません。」
「よし、それじゃあ、みんなも。これより会議を始める。」
道人たちは座席に座り、中央に立つユーラと卒間、大神に注目する。ソルワデスがキャルベンの事を話した時と同じく、格納庫のデュラハンたちにも室内放送されている。
「まずは私から話そう。道人君たちやダーバラ、ディアスの探索を元にして、大神君が簡易マップを制作してくれた。今からモニターに映そう。」
卒間がそう言うと室内が暗くなり、卒間とユーラ、大神の背後に巨大なモニターが出現し、アトランティスの地図が映し出された。
「わぁっ、すごいじゃん…!?」
「短期間でこんな細かいマップを作れるなんて…!?」
愛歌と道人の驚く様を見て、大神はピースサインを見せた。
「ユーラさん、どうだろう?君にこのマップが正しいかを確認したいのだが。」
司令にマップの正確さを求められたユーラはモニターに映るマップをじっと見つめた。
「はい、合ってますよ。すごい、太陽の神殿の位置まで…。」
大神は更に両手でピースした。
「えっと…俺たちが行ったのって、月の神殿でいいんだよね?」
「はい、そうです。太陽の神殿は月の神殿とは少し離れた場所にあります。そこには番人となるデュラハンたちがいます。」
「それはもう道人君たちから報告を聞いた。月の『ヌール・メナリス』と太陽の『ジュア・サン』…だったね?」
「はい。主を失っても尚、未だに守護し続けるデュラハンたちです。」
ユーラは道人を見た後、卒間の方を向いたりと忙しく説明を続ける。
「私たちの目的はあくまでアトランティスのデュラハンの復活の阻止…。だから、私たちは番人と敵対する必要はないな。」
「そうそう、何か勢力図…って言うの?何だか複雑よね。」
愛歌は右手の人差し指を頬に当てて天井を見た。
「そうだな…。俺たちからしたら戦うのは正直、イジャネラたちだけでいいんだよね。」
「あぁ、元凶であるイジャネラたちがアトランティスを諦めて元の世界に帰れば事は済む話だしな。」
道人と深也は互いに情報を整理して愛歌に伝える。
「ユーラの話だと、アトランティスを滅ぼした元凶であるアトランティスのデュラハンは番人たちにとっても敵…。だから、アトランティスのデュラハンに頭を渡す訳にはいかない…。」
「そっか。じゃあ、イジャネラたちの方があたしたちに番人たちって、戦う相手が多い訳ね。」
愛歌は納得し、腕を組んで二回頷いた。
「でも、そのアトランティスのデュラハンは俺たちの前にあっさりと姿を見せた…。遭遇しづらいって訳じゃないから、もしキャルベンの方にも奴が現れたら…。」
「はい、その方々がアトランティスのデュラハンに頭を渡してしまったら、奴は完全体となってしまいます。」
ユーラの話を聞いて、道人たちは決して楽観視できる状況ではない事を再認識しながら気を引き締める。
「短期決戦で行くのなら、やはりイジャネラたちを撃退する方が手っ取り早いな…。」
「えぇ、オリハルコンのデュラハンたちと無理に争う必要はないですしね。」
司令と大神の会話を聞いて道人は腕を組んで考え込んだ。
「どうしたの、道人?」
「いや、深也にはもう話した事なんだけどさ…。アトランティスのデュラハンって自分の頭を取り戻す以外の目的があるんじゃないか、って思って…。」
「スランたち、頭がついてたデュラハンたちを優先して狙ってきたのが気になるって話だろ?」
深也も道人から聞いた話をするために話題に入ってきた。
「うん…。まるで自分につけられる頭だったら何でもいい、みたいな行動を奴が取ったのが気になるんだよな…。」
「でも、ユーラの話だと奴は本調子じゃないからまともに判断できてない、って話だっただろう?」
「そうなんだけどさ…。」
道人はどうしてもアトランティスのデュラハンの行動が気になってしょうがなかった。本当に奴は偶然あの場に来ただけなのか?と。
「いや、道人君の意見は私も尊重したい。アトランティスのデュラハンは未知なる存在だ。動向を警戒するのは良いと思うよ。」
卒間が道人の考えを汲んでくれたため、道人は少し気持ちが楽になった。
「さて、次はユーラさん、君の存在について教えてもらいたい。本人ではない、コピー体…というのは?」
「あぁ、別に大した存在ではないですよ、私は。そうですね…。私はただの『鏡』です。」
「鏡…?」
尋ねた卒間は自分の事を鏡というユーラを見て呆気に取られた。道人たちも不思議に思う。
「私はあくまでユーラ本人が描かれた絵に過ぎません…。ユーラが髪型を変えたり、服を着替えた際に私を出現させて…そうする事で後ろ姿とかを第三者視点で見て、自分を確認する事ができる…。あははっ、私、あなた方で言うところのただのお洒落アイテムなんですね…!」
ユーラは表情は笑っているがどこか悲しそうに見えた。
「だから、番人のデュラハンたちにも私は女神ユーラ本人とは見られていません…。」
ヌール・メナリスが、女神が目の前に現れたというのに平然と攻撃を続けてきた理由が今になって道人は理解できた。
「他の絵たちはアトランティスが滅んだ際にもうなくなっちゃいましたけど、私は無駄に高価な作りだったので無事だったんですね…。私自身は意思があるのですが、所詮は人形…。仮初めの命なんです。」
「そんな事ないよ!」
道人は寂しそうなユーラを放っておけず、座席から立ち上がってユーラの前に立った。
「道人様…?」
「ユーラは人形なんかじゃない!俺をヌール・メナリスから助けてくれた優しい女の子じゃないか!さっき一緒にご飯を食べた時だって、君は楽しそうにしてた…!あの笑顔は決して偽者なんかじゃなかった!だから、君だって立派な、掛け替えのない、たった一つの命だよ!だから、自分の命を仮初めの命だなんて、軽んじた事を言わないでよ!」
「…! 道人、様…。」
ユーラは思わず涙を流し始めた。
「ユーラ本人とは面識はないけど、俺たちにとっては君がユーラなんだ…!」
「道人様…!」
ユーラは思わず道人を抱きしめた。
「いぃっ!?」
愛歌が頬を染めて声を上げた。何だか今日は愛歌に申し訳ない事ばかりしている、と道人は少し申し訳なく思う。
「ただの鏡の私に、命があると…!私個人を尊重してくれた方はあなたが初めてです…!道人様、何と優しく、尊いお方…!」
ユーラの頬を染め、涙を流しながらの笑顔は道人を恥じらわせるには充分な威力だった。その時、道人のポケットが光で点滅する。取り出すとヤジリウスの歯車の布が光っていた。
「そっか…。ヤジリウスは涙がきっかけで実体化したんだったな、そう言えば…。お前もほっとけないか…。ユーラ、ほら…。」
道人はヤジリウスの歯車付きの布で優しくユーラの涙を拭いてあげた。
「十糸姫って子がいてさ、その子もユーラと似たような経緯の子で本人は死んじゃってるんだ…。俺はその子と君を重ねちゃってる面もあるかもな…。」
「それでも構いません…!私はそんなあなたの、誰をも気に掛ける姿勢に心打たれたのですから…!」
「ユーラ…。」
「…あ〜っ、おほん!み、道人君?話を続けたいのだが…?」
卒間に話し掛けられ、道人は急に事態を把握した。周りの視線を気にしていなかった。整備班たちや深也、大神が道人を見てにやにやしていた。愛歌とマーシャルは不機嫌そうだった。道人は急に体内温度が急上昇し、頭から煙を上げる。
「いいや!かっこ良かったぜ、道人君!豪さんでもあんな情熱的な告白はしてなかったよ!」
豪の宇宙飛行士仲間たちも道人を大絶賛。励ましてくれてるのだろうが、道人は更に体温が上昇する。
「私たちも同じ気持ちよ、ユーラさん!」
「みんなの気持ちは同じだ!代表して代弁してくれてありがとうな、道人君!」
整備班の人たちも道人とユーラを誉めてくれた。道人とユーラは互いに見つめ合った後、思わず笑い合った。




