19章Side:ジュンナ 希望の道
ジュンナが父と別れた後、父の用意していた宇宙船で別の惑星に渡り、もう一年が経った。
今いる惑星はラーデルク。歌をこよなく愛する人達の住む紫の惑星。父に託された設計図を任せられる科学者を捜していたが、言葉が伝わらないのもあってなかなか見つからずにいた。
村をいくつか転々としているとバドスン・アータスの兵士が揉め事を起こしていた。
「…バドスン・アータス、もうこんな所にまで調査の手を…。」
ジュンナは透明になれるマントを着て様子を見た。どうやら、村人の一人がラックシルベを持っていて無理矢理奪おうとしているらしい。
兵士が村人からラックシルベを奪った後、槍を持ち上げて殺そうとする。
「…いけない…!」
ジュンナは足元の小石を投げ、兵士の身体にぶつけた。兵士は周りを見るが、透明なジュンナを見つける事はできない。
「…早く逃げて!」
村人は今聞こえた言葉の意味を理解は出来なかったが、その場から逃げた。兵士はジュンナの声がする方へ槍を投げ、ジュンナは避けたが転んだ。
ジュンナの足だけが見える。兵士がジュンナに近寄ろうとしたその時だった。剣で後ろから男が兵士に攻撃をし、転倒させた。
男はジュンナを抱き抱え、ラックシルベを回収してその場から走り去る。
「無茶な事するな、素敵な膝小僧さん!」
その男こそ、道人の父・豪であった。豪はそのままジュンナを隠れ家に連れて行き、身を匿った。豪は言語の違いでジュンナと会話はできなかったが、それでも親切にしてくれた。
「そうだ、隆!お前の持ってる漫画、貸してくれ!」
豪が隆から借りた本、「月刊少女きゃわわ 5月号」。この本でジュンナは少しずつだか、日本語を学ぶ事ができた。
ジュンナは助けてくれた豪にお礼を言いたい一心で漫画を豪たちに音読してもらった。
「男が恋愛漫画の音読ってのも何か恥ずかしいな…。」
ジュンナは少し日本語がわかるようになり、豪たちの事がわかった。豪たちはバドスン・アータスに見つかり、何とか逃げ出したが何人かは捕まってしまった。
逃げ延びたメンバーでレジスタンスを組み、ラーデルクで抵抗運動をしているらしい。
「…ジュンナ、ナマエ、ジュンナ。」
「そうか、君の名前はジュンナっていうのか!」
「…タス、ケ…アリガ、ト…。」
ジュンナがお礼を言えて豪たちは大喜びをし、その日は歌をこよなく愛するラーデルク人と共に宴会を開いてくれた。その後も豪は抵抗運動から帰ってきた後、ジュンナと遊んでくれた。
「ジュンナ、良い物を見せてやる!そらっ!」
豪は勢いよく右手を振ってブーメランを投げた。
「…スゴイ、スゴイ!」
豪の投げたブーメランは力強く風を裂いて進み、素早く手元に戻ってきた。
「はっはっ!道人と同じ喜び方をするな、ジュンナは!」
「…ミチ、ト…。」
豪と一緒にいる時、度々名前を聞くミチトとアキコの名をジュンナは知っていた。寂しそうに家族の写真を見ているのも何度か見ている。
「あぁ、自慢の俺の息子だ!いつか、ジュンナと会わせてやりたいなぁっ…!」
「…ミチト…。ウン、ミチト!アイタイ!」
「あぁ!きっと会えるさ!いつか俺の故郷、地球へ連れてってやろう!」
豪はジュンナをおんぶし、隠れ家へ走った。ジュンナはもう一人のお父さんができたみたいでこんな幸せな時がずっと続くといいのにと願った。だが、また幸せな時間は崩れ去った。
惑星ラーデルクの人々に価値はないと判断したバドスン・アータスは侵攻を開始。抵抗運動を目障りに思っていたダジーラクはレジスタンスにレイドルクを送り込み、殲滅した。
「ジュンナ、逃げろ…!もうレジスタンスはもたない…!」
「…イヤ!ゴウモ、イク!」
「駄目だ!!」
豪の必死な形相にジュンナは怯えて黙った。
「…ごめんな、ジュンナ。怖がらせて。」
豪はジュンナの涙を指で拭った。
「ジュンナ、これをお前に託す。あいつらにこれを一つ足りとも渡す訳にはいかないからな…!」
豪はこの星のラックシルベをジュンナの両手に握らせた。
「ジュンナ、自分の乗ってきた宇宙船まで行け!俺が囮になる!行けぇっ!」
豪は槍を手に取り、走った。ジュンナも涙を散らし、逆方向へ走った。ジュンナはこの日、また父親と別れる事になった。
ジュンナは宇宙船でまた脱出し、月まで辿り着く事ができたが、月の裏側にはバドスン・アータスの宇宙要塞が存在していた。
「…バドスン・アータス、今度は地球を狙うつもりなの…?豪の故郷を…。」
ジュンナはバドスン・アータスに見つからないように危険を承知で調査した所、豪たちが宇宙要塞の牢に閉じ込められている事がわかった。
豪たちの生存に涙したジュンナだったが、喜んではいられない。豪たちがいつ殺されるかわからない。ジュンナは早く設計図を託せる人を見つけるために豪の故郷、地球に降りた。
ジュンナは地球に着いた後、設計図を託せそうな人を調べ、式地博士という有名な博士の存在を知った。ジュンナは御頭街に向かい、十糸の森に宇宙船を着地させた。
ジュンナは透明になれるマントで博士の研究所に潜入した。
研究所には既にラックシルベが二つ、機能停止した首無し騎士が存在する事がわかった。
博士がどういう人物かはわからないが、もうバドスン・アータスは地球に目をつけている、豪の故郷を滅ぼさせたくないと決意し、ジュンナは博士の研究室に設計図と書き慣れない手紙を置いて去った。
それから一年、ジュンナは色んな捨てられた雑誌で言葉を学びながら博士の動向を探っていた。
博士は人工島を二つ増やし、デュエル・デュラハンというゲームを作った。この人に託してよかったのか、と不安に思うジュンナであったが、信じるしかなかった。
ある日、ジュンナは夢の中で誰かの助けを呼ぶ声が聞こえ始めた。
せっかく命を得たのにまだ死にたくない、という声を。
ジュンナは透明マントを使って再び博士の研究所に向かい、声が強く聞こえる実験エリアの地下へ向かい、0号機と出会った。
「…あなたなの?私を呼んだのは?」
0号機は沈黙したまま何も言わないが、助けを呼ぶ声はジュンナに聞こえてくる。ジュンナは0号機の身体を隅々まで確認した。
「…すごい…。あの博士、お父さんの設計図を見て再現できてる…。」
ジュンナは博士の科学力に感心したが、それどころじゃない、助けないとと思い直した。
「…どうしよう?…あっ、これ…。」
ジュンナは豪に託されたラックシルベを手に取る。
「…設計図の通りなら、胸にこれを…。」
0号機の胸にラックシルベを当てた瞬間に闇が広がり、0号機は姿を変え始めた。ジュンナの手元にデバイスが出現し、0号機が立ち上がった。0号機はジュンナを抱き抱えて飛び上がる。
「私を助けてくれた事を感謝します、我が主。私はフォンフェル。これからはあなたの刃となり、盾となりましょう。」
これがジュンナとフォンフェルの出会いだった。
ジュンナとフォンフェルは共に宇宙船で生活を始めた。ジュンナは近くの駄菓子屋の老夫婦に気に入られ、そこで働いている。フォンフェルは身体の調子が悪いらしく、たまに発作を起こすので休んでもらっていた。
ある日、ジュンナはまた誰かを呼ぶ声が夢の中で何度も聞こえ始めた。
『道…人…。早く…私を…。』
「道人…?確か、豪の…。」
豪の息子の名前を何度も呼んでいる存在にジュンナは気になり、また博士の研究所改め、デュラハン・パークに向かう事にした。
フォンフェルのデバイスには既にシャドー、ワープ、サイバーのヘッドが初めから入っており、ワープヘッドで博士の研究室にすぐに着けた。が、フォンフェルの身体に大きな負担が掛かり、フォンフェルはしばらく動けなくなってしまった。
仕方なく、フォンフェルをその場で待たせた。
フォンフェルを勝手に持ち出した形になってしまったからか、セキュリティが以前より強化されていた。
ジュンナは呼び声の主に何とか出会えたが、フォンフェルの時のように目覚める事はなく、その場を去るしかなかった。
数日経ち、何とか声の主と道人を会わせられないかとジュンナは考えていた時、御頭街に謎の雷が落ち、大停電が起きた。
フェルフェルに調べてもらったところ、雷の正体はバドスン・アータスの獣の闘士の一人という事がわかった。
ジュンナは何かあった時のためにワープヘッドは温存し、フォンフェルに抱えてもらって建物の屋根を飛び跳ねてデュラハン・パークに向かう。向かう最中、ジュンナの視界にブーメランが飛んでいるのを見かけた。
「…あっ…。ブーメラン…。」
懐かしさを感じたジュンナはフォンフェルに足を止めてもらい、ブーメランの持ち主を確認した。
そこに立っていたのは背は伸びているが、豪の持っていた写真の道人に間違いなかった。
「…あの人が、道人…。」
道人をずっと見ていると近くにいた女の子が道人から離れていった。
「主、彼女はディサイド・デュラハンのトワマリーのパートナーです。トワマリーだけではバドスン・アータスと相手するのは難しいのではないでしょうか?」
「…心配なの、フォンフェル?」
「はい…。トワマリーは私の双子の妹のようなものですから、心配で…。」
ジュンナは双子の妹と聞いてマーシャルの事を思い出した。フォンフェルの妹を心配する気持ちは理解できる。
「…そっか。…決めた。フォンフェル、道人を案内しよう。道人を呼んでいるデュラハンの元へ。大勢で立ち向かえば、バドスン・アータスの闘士を倒せるかもしれない。」
「主…!感謝致します!」
「…道人が歩き出したね。先回りして話しかけてみる。場合によってはワープヘッドを使うよ?」
「はい、妹のためなら、その程度の苦しみ耐えてみせます!」
ジュンナとフォンフェルは夕日に向かって駆けた。希望への道を信じて。




