155章 突然そいつは現れた
「ほら、立てるか?グゲンダル。」
「…おう。」
先に立ち上がったソルワデスの右手をグゲンダルは掴んで立ち上がった。二人は互いに見つめ合う。道人たちも走ってきてソルワデスの近くに立った。
「…まぁ、何だ。うーん…。」
グゲンダルは悩みながらもとりあえず自分の元の頭を拾って装着し直した。決戦用ヘッドは右手で触れた後、消して回収した。
「おい、兵士共。ちょっと来い。」
「…? は、はい…。」
五人の兵士たちはグゲンダルに呼び出され、近づいて来た。
「話がある。横一例に並べ。」
「わ、わかりました。」
グゲンダルに言われた通り、五人の兵士たちは横一列に並んだ。
「…悪ぃな。」
「へ?」
グゲンダルはそう言うと宙にボルトを五つ出現させ、兵士五人の胸の顔にボルトを刺した。
「グ、グゲンダル…様…!?な、何…を…!?」
その後、グゲンダルは左手のハサミから兵士たちの胸に刺さったボルトを狙ってビームを放ち、五体の兵士を消滅させた。
「グ、グゲンダル?何を…?」
道人たちはグゲンダルが急に部下を消滅させた動機がわからないため、困惑した。
「…奴らはオレの恥ずかしい場面を目の当たりにした。だから消した。」
「え、えぇっ…?そ、そんな理由…?」
「む、報われねぇっ…。」
道人と深也は共にがくっと肩を下ろした。敵ながら兵士たちに少し同情した。
「べ、別にいいだろ。こいつらは分身体だ。殺してもキャルベンの宇宙船の中にある本体には何の影響もねぇし、痛くも痒くもねぇよ。よし、これでオレが負けたって事実を報告する者は誰もいねぇ。」
「ふっ…。まぁ、そういう事にしておこう。」
ソルワデスは腕を組んで嬉しそうにしていた。
「…とりあえず、姉様の言い分はわかったよ。姉様が今まで見せた事のない強さを発揮して、オレは逆に気になっちまったよ。こいつらといて、何が姉様に影響を与えたのか、がな。へっ、たまには姉妹喧嘩も悪くないもんだな…。」
「アトランティスに来てまでやる事か、とは思うがな。」
「へっ、違いねぇや。」
喧嘩をした後だからか、ソルワデスとグゲンダルは何だか爽やかな姉妹仲になっているな、と側から見た道人も感じ取れた。
「しかし、姉様が裏切ったのは規定路線って話…。正直、少し心当たりがあるしな…。イルーダが目覚めてからのキャルベンは何だか居心地が悪いしよ。」
「未来が変わる前の私の裏切りはイルーダ絡みによるもの、か…。確かにその可能性は考えていた事はある。」
「あいつ、本当にイジャネラ様の事を母だと思ってんのか?ってよ。たまに殺気めいたものをイジャネラ様に向けている気がするんだよな。」
「そんなに凶暴な人なんだ、イルーダって人…。」
道人は愛歌たちの報告で話には聞いていたが、イルーダとはまだ面識がなかった。
「あぁ、とんでもねぇじゃじゃ馬娘さんだ。手に負えねぇよ。」
深也も呆れ気味にイルーダへの印象を述べた。
「後、気になるのはイジャネラ様もだ。イジャネラ様は本当にイルーダを娘として愛してるのか?って思う部分もある。」
「確かに…。イジャネラ様が私が裏切った要因の可能性か…。我らにとっては恩人である故、あまり疑いたくはないが…。」
「つっても、キャルベンの幹部クラスって言ったらオレを含めて三人だぜ?姉様が裏切りを決意するとなったらこの二人じゃないのか?」
グゲンダルの読みは意外と合ってるかもしれないと道人は思った。
「だが、対人関係絡みではない可能性もある…。まだ何とも言えないが、グゲンダルの考えも一理ある。この胸に留めておこう。」
「おう、そうしてくれ。さぁて、これからどうするかね…。」
グゲンダルは後ろを向き、アトランティスの空に映る多くの映像を眺めた。
「グゲンダル、さっき言ってたよね?今のキャルベンは居心地が悪いって…。イルーダはソルワデスを見捨てて去った事もあるんだし、戻らない方がいいんじゃないか?」
道人はグゲンダルをこのまま帰らせるのは良くないのではないか、と思って話掛ける。ソルワデスが唯一の肉親である妹を失うところは見たくない。
「ダーバラみたいにペットに改造してくる可能性もあるぜ?」
「うへぇっ、嫌だな、そりゃぁっ…。でも、やり兼ねないよなぁっ、あのお嬢様は…。」
グゲンダルは寒気を感じたのか両手で自分を抱きしめた。
「どうだろう?形式的には捕虜って形になるけど、うちに来ない?」
「…まぁ、オレも姉様を変えた場所の事や、姉様が裏切った経緯が気になるしな…。わかったよ、喜んで捕虜になってやる。よろしくな。」
「随分太々しい捕虜だな…。」
深也はグゲンダルに突っ込みながら、スランにお姫様抱っこされているマーシャルも見た。
「よし、決まり!それじゃあ、早速シップに帰ろうか。」
道人がそう言った、その時だった。
「…!? な…に…!?」
何が起こったのかわからない。急に全身に悪寒が走った。場所も風景も変わっていないのにまるで別の場所に移動させられたのではないか、と疑いたくなるような重苦しい空気が急に蔓延した。道人は急に息苦しくなる。
「✳︎@○>: §、✳︎@○>: §、…。」
背後からこの世のものとは思えない言葉のようなものが聞こえてきた。自分だけではない、深也やソルワデスたちも道人と同じような状態となっている。
「道人様っ!」
ユーラが叫ぶ声が聞こえた。この世のものとは思えない声を聞いた後、ユーラの透き通った綺麗な声は癒しだった。ユーラは全身から光を発し、道人たちに当てた。
「…! っ、はぁっ…!?よ、良かった…!か、身体が動く…!」
道人は右手で胸を抑え、呼吸を整えた。
「…どうして、ここに…!?」
驚くユーラが気になり、道人は恐る恐る後ろを振り向いた。そこには驚く程真っ白な首無し騎士がゆっくりとこちらに向かって歩いていた。
「し、白いデュラハン…?」
「…? 何言ってんだ、道人?どう見ても黒だろ?全身真っ黒…。」
「おいおい、船長、何言ってんだ?青にしか見えねぇぞ…?」
「わたしはみどりいろに…。」
道人は困惑した。みんな同じデュラハンを見ているはずなのに見えている色が違うようだった。道人は目を擦ってもう一度見るが白にしか見えなかった。
「皆さん、早くここから離れて…逃げて下さい!あれは、あれこそが…!?」
「まさか、あれがアトランティスのデュラハン…!?」
アトランティスのデュラハンは歩く度に地面から草木が生えたり、卵が急に出現して鳥や犬のような生き物が誕生したり、逆に腐らせたりと短期間で色んな現象を引き起こしていた。
「な、何だ…?何が起こってるんだ…?」
「頭がないから破壊と再生の能力が不安定なんです…!触れられたら何が起こるかわかりません…!全身がオリハルコンでできているのでこちらの攻撃は全て無効…!だから…!」
「わ、わかった…!みんな、全力でこの場から逃げるんだ!」
道人の指示を聞き、みんなは全力でこの場から走り出した。
「道人、私に乗って!」
「う、うん!さぁ、ユーラも…!」
道人はユーラに手を差し伸べ、飛行形態になったソルワデスに共に乗った。
「✳︎@○>: §、✳︎@○>: §、…。」
その時、アトランティスのデュラハンはゆっくりと右手を前に出した。
「がっ…!?」
「や、ばっ…!?ユ、ユーラ!!」
道人は急に頭上から重力を感じた。ソルワデスは飛行に失敗し、地面に落ちる。道人はユーラを抱きしめて地面を転がった。
「ソルワデス姉様たち!野郎…!」
グゲンダルはアトランティスのデュラハンに向かって左手のハサミからビームを放つが、ビームは一瞬でカエルに変えられた。
「な、何じゃ、そりゃぁっ…!?」
アトランティスのデュラハンは右手の指から糸を出現させてソルワデス、グゲンダル、スラン、ヤジリウスの足を縛ってきた。
「な、なにこれっ!?はずれ、ない…!?」
スランは今までお姫様抱っこしていたマーシャルを一旦下ろして薙刀を出現させ、糸を切ろうとするが全く切れない。
「まさか、あの糸は…!?」
「はい、オリハルコンでできています…!」
「くっ…!戻って、ヤジリウス!」
ヤジリウスは歯車の布に戻り、道人のポケットに戻った。博士が作ったヤジリウスの頭は変形して四つ足になり、地面を走る。その時だった。アトランティスのデュラハンはそのヘッドに向かって左手から布を出し、捕獲しようとする。
「あぶない!」
スランは宙に赤い布を出現させ、ヤジリウスのヘッドパーツを巻いて引き寄せ、キャッチした。
「あいつ…。」
道人はある事に気づいた。今、アトランティスのデュラハンに糸を巻きつけられているのは頭があるデュラハンだ。頭がないランドレイクは現に無視されている。
「やっぱりそうだ…!あいつ、頭があるデュラハンを狙ってる…!自分の頭じゃないのに…!ソルワデス、グゲンダル、スラン、一旦自分の頭を片づけるんだ!」
道人の指示を聞き、スランとソルワデス、グゲンダルは急いで頭を外し、一旦消した。スランは手に持っていたヤジリウスのヘッドパーツを手放す。すると、アトランティスのデュラハンは興味を失くしたのか、ソルワデスたちから糸を外した。
「やっぱり、合ってた…!でも、あいつ…別にソルワデスたちが頭を紛失した訳でもないのに解放するのか…!」
「彼はヘッドパーツがないから不完全なんです…!ソルワデスさんたちのヘッドパーツに関しての知識がわからないんでしょう…!」
「それは良い事と捉えるべきなのか、悪い事と捉えるべきなのか、悩ましいところだね…!後は…!」
道人の思った通り、アトランティスのデュラハンは残ったヤジリウスのヘッドパーツを狙って、糸を伸ばした。
「ヤジリウスの頭は全部で三つあるから一つくらい犠牲に…と思ったけど、あれはワームホールの制御装置…!何か与えたら嫌な予感がする…!」
「同感だ!」
道人の考えを聞いたソルワデスは急いでヤジリウスの頭パーツを掴み、宙に投げた。
「すまない、ヤジリウス!はぁっ!」
ソルワデスはウイングユニットのビームを放ち、ヤジリウスのヘッドパーツを空中で粉々にした。すると、途端にアトランティスのデュラハンは大人しくなり、道人たちを無視して歩き出した。
「よ、良かった…!興味失くしてくれたみたい…。」
「でもよ、道人。こいつ、このまま進んだら…!」
深也の危惧している事は言わなくてもわかった。アトランティスのデュラハンはデュラハン・シップに向かっている。
「早く知らせないと…!マーシャル、ユーラを連れてワープして先に帰ってくれ!そして、司令たちにこの事を伝えてくれないか?」
「わかりました、いいでしょう。さぁ、ユーラ嬢。お手を…。」
「道人様…。」
「大丈夫、必ず帰るからさ。」
「はい…。」
ユーラはマーシャルの肩に手を置くとマーシャルとユーラは瞬時に姿を消した。
「よし!みんな、アトランティスのデュラハンから距離を取ってデュラハン・シップへ急いで帰ろう!」
道人の指示に従い、深也たちは走り出す。道人は一応、後ろを確認したが、アトランティスのデュラハンは追ってくる気配はなく、ゆっくりと歩いていた。道人の目にはそれが逆に不気味に思えた。




