148章 惑星キャルベンと内包のアトランティス
大神たちがアトランティスの大気を調べている間、道人たちはソルワデスからキャルベンについての話を聞く事になった。道人たちは座席に座り、ソルワデスはコクピットの出入り口がある付近に立つ。船内通信で格納庫のデュラハンたちにも聞こえるようになっている。話を聞くのは全員ではなく、整備班たちは特殊車両のチェックなどを行なっている。
「よし、こちらは大丈夫だ。では、始めてくれ。」
卒間が皆揃っている事を確認し、ソルワデスに話し始めても構わないと伝えた。
「えぇ。我が故郷キャルベンはあなた方で言う所の…水星付近に存在する惑星だ。」
「水星…。我々にとっては遠いが、そこまで離れているという訳でもないな…。だが、何故我々の地球ではキャルベンは観測されていないのだ…?」
卒間は右手を顎に当てて考える。
「我が星の特性で、一種のジャマー能力のような効力を発している。おかげで他惑星から見つかる事もない。」
「なるほど…。だから、バドスン・アータスからは狙われずに済んだのか…。」
「その通りだ、道人。だが、キャルベンは貧しい星だった…。悪天候は当たり前で、食物も育ち難い…。明日生き抜く事も困難で、私とグゲンダル姉妹は早くに両親を亡くしている…。」
ソルワデスはその時の事を思い出したのか、少し寂しそうにしていた。
「それでも私たち姉妹は必死に明日を生きようとした…。そんな時、私たちの生命力の強さに目をつけてくれたのがイジャネラ様だった…。イジャネラ様は科学者で己の技術力でキャルベンを豊かな星にしてみせる、という強い願いの持ち主だった…。私たち姉妹は助けられた恩とイジャネラ様の願いに感銘を受け、姉妹二人で部下になったのだ…。」
「そっか、そんな事情があったんだ…。」
愛歌はソルワデスの話を聞いて下を向いた。
「イジャネラ様は一種のクローン技術を有しており、オリジナルの人物が健在なら分身を多く出現させる事ができる。」
「あぁ、それはもう俺らはご存知だぜ…。」
このメンバーの中ではキャルベンの分身体と初めて戦ったのは深也とランドレイクであり、また戦う機会が多かったのも深也たちだ。
「そうやって人口問題を解決しようとしていたが、それでも厳しいものがあり…。ある日、イジャネラ様は思い至ったのだ…。惑星キャルベンのジャマー能力は他惑星に攻め込むには打ってつけな惑星なのではないか、と…。クローン技術もあれば戦力にも困らない。それでイジャネラ様が目をつけたのが太陽系第三惑星・地球…。」
「なるほどな、地球には生命が溢れている…。キャルベンにとっては絶好の宝物庫に見える訳か…。」
「それで平安時代付近の地球にやって来て、生き物を回収して改造していた訳ですね…。」
卒間と道人は既存の情報を交えて話を整理した。
「でも、海音さんから聞いた話だとキャルベンの宇宙船って長らくコールドスリープしてたんでしょ?今は故郷がどうなってるかわからないの?」
「そうだよな。一度キャルベンに帰って様子を見に行った方が良かったんじゃないか?地球を改めて攻めるんじゃなくてよ。」
「そもそもキャルベンってジャマーが効いて見つかりにくいって言うんなら、宇宙に飛び出したあなたたちもそうだよね?故郷に戻れる手段はあるの?」
愛歌と深也もノリに乗ってきたのかソルワデスにたくさん質問を投げた。
「私もそうは思ったが…。イジャネラ様はアトランティスにかなり拘っておられる…。アトランティスの技術が手に入るまで戻る気はないだろう…。愛歌の疑問に関してだが、宇宙船にはイジャネラ様が作った特殊な…あなた方で言う所の特別なコンパスがある。故郷に通信する事は難しいが、これがあれば帰る事はできる。」
「そっか、なるほどね…。」
愛歌は腕を組んで考え込んだ。
「うーん…。」
「ん?どうしたの、道人?」
「いや、キャルベンが地球の近くにあるのってさ。偶然じゃなくて、最初からそうなるようにしてあるんじゃないか…って思ってさ。」
「何だよ?作為的だ、って言いたいのか?」
「うん、愛歌や深也たちも…あ、そっか。ソルワデスは知らないよね?この世界の秘密。」
「秘密…?」
「…これは自分たちの存在を脅かす程の情報なんだ…。それでも…構わない?」
「…構わない。故郷キャルベンに関する事なら私はどんな事でも知っておきたい。」
「待ってくれ、道人君。ディアスたち元バドスン・アータス組も今、話を聞いている。彼らにも承諾を得てから話そう。」
「そうですね…。わかりました。」
船内通信でダーバラ、ディアスにも聞いてみた。スランは以前、海音と一緒にイーグルやヴィーヴィルの話を通信で聞いているので知っているはずだ。
「この情報は俺たちですら事前にビーストヘッドたちからワンクッション置いた状態で聞かされた話なんだ。だけど、君たちは今からいきなり聞かされる事になる…。だから、心の準備ができた後に聞く、という選択もありだ。どうする?」
「大丈夫だ、私たちも聞こう。構わないな、ダーバラ?」
「あぁ、構わないさね。」
三人から了承を得て、道人たちはソルワデスたちにこの世界、素材構成展界モチーフ・ワールドの事を話した。
「…この世界に、そのような…秘密があったとは…。」
真実を知った後、先にソルワデスが言葉を発した。
「まぁ、驚くよね…。あたしたちも驚いたもん。」
「驚くなんてもんじゃないさね、あたしゃぁっ、たまげただわよ。」
「あぁ、地球そのものがデュラハン、か…。にわかには信じられんが…。」
ソルワデスもディアスもダーバラもやはり真実を聞かされて面食らっている。無理もない。
「聞いた上で理解した。つまり、道人たちはこの世界がデュラハンの人形から構成された段階で、地球とキャルベンは必ず争うように配置されていた…と言いたいのだな?」
「うん。まぁ、結局は神のみぞ知る…。俺の憶測の域は出ないけどさ…。」
「だが、聞いたおかげで私にも新たな考えが生まれた。アトランティスの件だ。話を続けて構わないか?」
道人たちはソルワデスが今から話そうとしているに対して頷きという形で了承した。
「イジャネラ様が地球のアトランティスの事を調べていた際に聞いた事がある…。アトランティスとは様々な世界の要素が集った夢幻世界だと…。」
道人たちは窓からアトランティスの光景を見た。
「モチーフ・ワールドの話を聞かされた上で私は思った。恐らく、このアトランティスは他のモチーフ・ワールドにあるアトランティス…下手したら、モチーフ・ワールドの外の現実世界全てのアトランティスの情報を内包した場所なのではないか、と…。」
「じゃあ、この世界の空に映ってるあの映像たちは…。」
「あたしたち以外の世界のアトランティスを全て映し出してる…って事?」
「すげぇな、そりゃっ…。」
ソルワデスの推論は的を入ている、と道人は思った。
「改めて、とんでもないところに来ちゃったな、俺たち…。」
道人たちは改めて空に映し出されている
映像を見る。
「みんな、お待たせ!大気成分の解析完了したわ!結果問題なし!もう外に出ても大丈夫よ?」
大神からの船内アナウンスが鳴り響いた。
「よし、話は一旦ここまでにしておこう。時間を置けば脳が情報を整理し、また新たな発見もあるかもしれない。直ちに出発準備に入るぞ!」
「「「了解!」」」
卒間たちは席から立ち上がり、各々準備に入った。
「ソルワデス、話してくれてありがとう。おかげでキャルベンの事情がわかったよ。」
「いえ…。」
「難しい事だし、容易い事じゃないかもしれないけどさ…。キャルベンがイジャネラが納得するくらい裕福になれたのなら、別に地球を攻める必要はなくなる訳だろう?それを見つけ出す事ができるかどうかが争いを止められるかの鍵だと思うんだ。」
「えぇ、そうだな…。…私はまだ日は浅いが、あなたとの出会いを通して地球の人々や様々なデュラハンたちと交流する事ができた…。その度に私の胸に不思議な暖かさが宿っていく事を実感できた…。」
「ソルワデス…。」
ソルワデスは自分の胸に両手を当て、まるで今まで得て来た暖かさを改めて実感しているようだった。
「私ももう地球を攻める事に罪悪感を感じるようになった…。ふっ、不思議なものだ…。困難な道のりかもしれないが、私もできれば地球とキャルベンの戦いは避けたい…。あなたとならそれができるかもしれない…。」
「うん!とりあえず、イジャネラからアトランティスを諦めさせ、撤退させる。それが最優先事項だね。」
「えぇ、この地アトランティスで必ず答えを得よう、道人!」
「うん!」
道人とソルワデスも共に歩き、特殊車両のある格納庫へと向かった。




