19章 考察
潤奈が語った過去。その内容はあまりにも悲しく、悍ましく、バドスン・アータスの強大さに道人たちは衝撃を受けていた。オペレーターの二人も遺跡の情報を調べていたのだが、キーボードを打つ手を止めて呆然としていた。
「何という事だ…!?」
司令は右手の握り拳で机を叩いて、眉を
顰めた。
「バドスン・アータスの目的が、その惑星の人々を滅ぼした後にラックシルベの採掘星に変える事だったとは…!?」
「バドスン・アータスは今、わしらの地球の文明・軍事力、そしてデュラハン・ハートの調査をしていて、それが終わり次第…採掘星にするために侵攻を開始するという事か…!」
博士も自分の両膝のズボンの布を強く握って眉を顰める。
「…許せないよ…!潤奈の故郷を無茶苦茶にした挙句、潤奈のお父さんにまで手を掛けるなんて…!バドスン・アータス、何て奴らなんだ…!」
「あぁ、私も怒り浸透だ…!」
道人とジークヴァルは意気投合し、共にバドスン・アータスに対して怒る。
「うん、信じられない!潤奈さん、安心して!バドスン・アータスなんてあたし達がコテンパンにしてやるんだから!」
「えェ、やってやるワ!」
愛歌とトワマリーも意思を同じくして潤奈を励ました。
「君がくれたディサイド・デュラハンの設計図には君のお父さんの大事な想いが込められておったんじゃな…。託されたわしは責任重大じゃ。大事にさせてもらうよ。」
「…皆さん…!ありがとう、ありがとう…!」
潤奈はみんなの優しさに触れ、溢れそうになった涙を手で拭った。今までずっと考え込んでいた司令が口を開いた。
「申し訳ない、潤奈さん。バドスン・アータスについてもっと詳しく聞かせてくれるかい?」
「…はい、いいですよ。」
潤奈は気を引き締め直して司令の方を向いた。
「奴らは他の惑星を採掘星にしてまで何故デュラハン・ハートを集めようとしているのだ?」
「…すみません、ヴァエンペラがデュラハン・ハートを集めて何をしようとしているのか、私もわかりません。」
「そうか、ヴァエンペラ…。君の話した過去にも名前が度々出てきていたが、何者なんだい?」
「…ヴァエンペラは惑星ネミケーの過激派武闘組織バドスン・アータスの頭領です。表舞台に出た事が一切なく、その姿を知っているのは側近のダジーラクと、その補佐の…。」
潤奈は一度下を向いた後、また司令を見た。
「…私の妹、マーシャル。マーシャルが何故、私達家族を捨ててバドスン・アータスについたのかはわかりません…。」
「そうか…。次にシチゴウセンについて聞かせてくれるかい?」
「はい。シチゴウセンはダジーラクの率いる闘士達でメンバーは《ライガ》、《ダーバラ》、《ラクベス》、《シユーザー》、《レイドルク》、《ディアス》、《スラン》です。」
「ライガとダーバラはもう知ってるわね。」
「ラクベスも…深也の時と、十糸姫の洞窟でもう会ってる。」
「シユーザーも実験エリアでのライガとの闘いで録れた録音音声でライガが発言した優秀な科学者というのが恐らくそいつじゃろう。」
道人、愛歌、博士はお互いにもう知識を有しているシチゴウセンを確認した。
「…はい、そうです。シユーザーはシチゴウセンの闘士にして科学者でもありますから。他のメンバーに関しては私も詳しくはありません。ただ、スランは最近入ったばかりの闘士みたいです。」
「そうか、わかった。ありがとう。」
司令は顎に右手を当ててまた考え込んだ。
「後、わしが気になったのはデュラハンの存在じゃ。デュラハンはアイルランドの妖精のはずじゃが、君のお父さんは何故かデュラハンの名前を知っていて、設計図にも書いてあるんじゃ。」
「…はい、書いてありました。」
「バドスン・アータスの闘士もデュラハンのようじゃし…。地球、ネミケー、リフドー、それぞれ別の文明を築き上げてきた三つの惑星でデュラハンと似た存在が被るなんて、こんな偶然があり得るのか…?わしは何か関係があるようにしか思えんのじゃ…。」
博士は首に右手を当てて思考を続ける。
「それに道人君と潤奈さんが十糸姫の洞窟で見つけたカラクリのデュラハンも気になる。もし、それがデュラハンだったら江戸時代にもデュラハンが存在していた事になって…う〜む、謎は深まるばかりじゃ…。」
「あたし、潤奈さんのお母さんの事も気になったな。」
博士に続き、愛歌も気になる点を挙げた。
「お母さんは地球人なんでしょ?」
「…はい。名前はアンと言います。」
「潤奈さんは治癒能力を持ってるんだよね?それはあなた自身の能力?」
「…母の遺伝だと聞いています。父が地球に偶然降り立った際に出会ったみたいで。その時に父が怪我をしていて、母の治癒能力で助けてもらったみたいです。」
「そっか。そのお母さんも特別な能力を持っていたんだね。」
「アンという名の治癒能力持ち…。調べたら何者かわかるかもしれないね。」
道人と愛歌は博士の方を見た。博士も二人の視線に気づき、こちらで調べてみようと返事をした。
その後、しばらく沈黙が続き、道人たちが今後の事を考えていると潤奈が口を開いた。
「…皆さん、悩んでいるところ、悪いのですが、まだ私には話す事があります。」
潤奈は横に座っている道人を見つめた。
「…道人、私が君のお父さんに会った事、今から教えるね。」
「…!? 父さんの…?」
司令と博士は今考えても仕方がない事と割り切り、一旦今までの話を忘れ、新しく話される潤奈の話に注目した。
「あれは私がリフドーから別の惑星に逃げてきた時の事…。」




