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ディサイド・デュラハン  作者: 星川レオ
第3部 多元なるアトランティス
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145章 選出!アトランティス突入部隊

「…朝…なんだよな、今…?」


 道人はベッドから起き上がり、外を見た。風景は眠る前に見た時よりも更に悪化していた。紫の空に割れ目がいくつかでき、その割れ目からは宇宙空間が見える。後は相変わらずオーロラとカラフルな雪が降り、雷が鳴り響いている。


「英気を養って休め…って言われてもな…。」


 あれから度々司令たちから連絡があった。司令たちはスランから海音がいなくなった経緯などを詳しく聞いた後、今現在はアトランティスへと向かう準備を行っている。道人たちはそれまで待機し、今の内に睡眠を取っておくようにという指示が為された。


「これじゃ眠れないよなぁっ…。おかげで眠りが浅かった…。」


 このカラフルな雪などの現象が人体に何かしらの悪影響を与える可能性もある。テレビやラジオ、スマホが現在使えなくなっているため、街中では外出禁止の緊急アナウンスが流れている。


「…! 着信…!」


 デバイスから着信があったので道人はすぐに応対した。司令からの連絡だった。


「道人君、すまない!長らく待たせたな!今そちらに特殊車両を向かわせている。君は愛歌君と共にそれに乗ってパークまで来てくれ!尚、外に出る時は制服で移動。なるべく外にはいないようにするんだ。愛歌君にももう伝えてある!」

「わかりました!」


 道人は通信を終え、すぐに私服に着替える。荷物をまとめてリュックに入れた後、下の階に行こうとする。廊下を見るとソルワデスが座っていた。何か考え事をしているようなので今はそっとしておいた。洗面所で顔を洗い、リビングへと向かう。秋子が既に朝ご飯を用意して椅子に座っていた。


「…母さん、あの…。」

「…わかってる。また、世界を救って来る…って言うんでしょ?」

「…! 母さん…。」

「親としてね、息子を危険な地に送り出す事に慣れるのもそれはどうなんだろう?って思うんだけどね…。何だかんだ言って、道人は豪の息子だもんね…。止めたって行くんでしょう?」


 道人は申し訳ない感じはしても強く頷いた。


「…父さんもさ、仕事の度に宇宙に行くって話になったら、いつもこんな気持ちだったのかな…?まさか、この年で宇宙飛行士の父さんの気持ちがわかるとは思わなかったけどさ…。」

「道人…。」

「大丈夫、奥方殿。道人は…私が命に変えても守り抜き、ここに無事に帰還してみせる。」

「…! ソルワデス…!」


 階段から降りてきたソルワデスを道人は振り向いて見た。どうやら悩みを吹っ切れたようだ。


「ソルワデス…。いいの?」

「正直、まだ迷っている…。しかし、道人を守りたいという気持ちに揺るぎはない…!私はそのためにあなたとディサイドした、と思っているから…。」

「安心しな、かーちゃんよ!」


 ヤジリウスも道人の隣に出現する。


「なぁに、俺もついてるんだ。道人が危険な目に遭う事は絶対にないと約束してやるぜ!だから、安心して待ってな!」

「ヤジリウス…。」


 その時、ポケットの中のスマホが振動した。


「…! ハーライム…?」


 道人は急いでポケットからスマホを出して確認した。


「へぇっ!実体化できなくても反応した、ってのか?やるねぇっ、ハー…緑野郎!」

「…わかった。ふふっ、何だか頼もしいわね…。ソルワデスちゃん、ヤジリウスさん、ハーライムさん、道人の事をお願いね?」

「えぇ!」「おう!」


 またスマホが振動した。


「さ、せっかく作った朝食が冷めちゃうわ。一緒に食べましょう?」

「うん!」


 道人と秋子は外の異常気象の事を今だけは忘れて普段通り朝食を一緒に食べた。だが、そのいつもなら日常的なはずの光景は朝食を食べ終えると同時にあっという間に終わりを告げた。食器を洗っている最中にデバイスに着信があった。


「…呼び出しか。…よし!」


 道人はリュックを肩に背負って一回自室に向かう。


「この和装本の糸、本当に十糸(といと)姫の糸なら…。姫、また力を貸してもらうよ…。」


 道人はその一冊だけリュックに入れた後、ベッドの近くに立て掛けているヴァルムンクを手に取った。


「…俺と一緒に戦ってくれ、ジークヴァル…!」


 道人は忘れ物がないか自室を見渡した後、退室し、玄関に立って制服姿にチェンジした。狭い玄関でソルワデスとヤジリウスと共に心配そうに見る秋子を見た。


「それじゃあ、母さん!また世界を救って来ます!」

「はい、救って来なさい。気をつけるのよ…?」


 今度行くのは得体の知れない場所アトランティスだ。下手したら帰って来られないかもしれない。道人は秋子と抱き合った後、すぐに離れ、玄関の扉を開ける。


「じゃあ、行ってきます!」

「あなたの好物を作って待ってるからね、道人…。」

「そりゃっ、楽しみだ!」


 道人は母に満面の笑みを見せた後、もう家の前に止まっている特殊車両に乗り込んだ。ヤジリウスは歯車の布に戻り、道人はポケットにしまう。特殊車両の中には既に愛歌が座っていた。


「おっす、道人君!よく眠れたかい?」

「眠れる訳ないだろ、こんな状況で!」

「あたしもさ!雷鳴り止め、って何度思った事か!」

「同じく!」


 愛歌と普段通りの小芝居に付き合った後、特殊車両は発車した。今回は大きい車だったのでソルワデスも乗り込めた。


「他のみんなも今頃、特別車両で移動してるのかな?」

「深也と大樹は別の特殊車両で移動中。グルーナさんは制服がないから外に出るのは危険だ、って事でフォンフェルのワープヘッドで移動したって。」

「そっか…。じゃあ、潤奈とグルーナさんはもう既にパークに着いてるんだね。」


 道人はパークに着くまでの間、特にする事もないので愛歌と話をしていた。


「…愛歌はさ、お母さんにちゃんと挨拶できた?」

「…ううん、全然納得のいく感じじゃなかったかなぁ〜っ…!道人は?」

「俺は…まぁ、未練がない…って言ったら嘘になるかな。」

「同じく。あたし、駄目だな…。ただでさえ、パパの事で心配させちゃってるのにさ…。余計悲しませちゃったかな…?」


 愛歌は寂しそうに体育座りをし、目を細めた。


「あたし、駄目な子だ…。ひょっとしたら、もっとうまくできたのかも…。」

「俺はそんな事ない、って思うけどな。愛歌はいつもよくやってるよ。」

「ほんと?」

「ほんと。」

「…本当かなぁ〜っ…?」


 愛歌は下を向いて両膝に顔を沈めた。


「何、納得のいかない別れ方だったんなら、必ず帰って来ればそれでいいじゃないか。そうすれば結果オーライさ。」

「何その単純思考…。でも…嫌いじゃないかな…。」


 愛歌は右手で道人の左手をぎゅっと握り締めてきた。隣にいても愛歌が少し頬を赤らめているのがわかる。


「…必ず帰って来ようね、誰一人欠ける事なくさ…。」

「うん、当然!それに、まだ駄菓子を奢ってもらえてないからな。」

「覚えていたか。」

「覚えていましたとも。」


 道人と愛歌は互いに笑い合い、お互いに少し寂しい気持ちを振り払えた気がした。ソルワデスも気のせいか楽しそうにこちらを見ている気がした。そうこうしている内に特殊車両は会社エリアの駐車場に到着した。道人はヴァルムンクとリュックを持って愛歌とソルワデスと共に司令室を目指す。


「ここが、道人たちの基地の中なのか…。昨日のデパートとやらとそこまで変わらないのだな…。」

「まぁ、ここ会社も兼ねているからね…。一般人や社員もいるんだ。」


 その後もソルワデスは物珍しそうに周りをきょろきょろしながら歩いていた。道人たちは普段通りに一応のボディチェックを受ける。緊急事態で話をもう通してあるのか、ヴァルムンクの持ち込みやソルワデスは気にされなかった。ボディチェックを無事に終え、司令室に来る事ができた。司令室に入るともう全員座っていた。


「来たか、道人君、愛歌君。それに…ソルワデスも。」


 ソルワデスは司令に無言で頷いた。モニターには博士やスラン、各デュラハンたちが映っている。


「スラン、大丈夫だった?大変だったよね…。」


 愛歌がモニター越しにスランに話し掛けた。


「うん…。ほんとうはさ、みおんをおいかけて、あとらんてぃすのいりぐちにとびこもうとおもったんだけど…。それだと、みんなにこのことを、つたえられるひとがいなくなっちゃうから…。だから、わたし…。」

「いいんだよ…。ありがとうね、スラン。絶対に海音さんを一緒に助け出そうね…!」

「愛歌…。」


 落ち込んでいたスランは愛歌との会話のおかげで元気が出たようだった。


「まずソルワデスからキャルベンの事を聞き出したいところだが…時は一刻を争う!イジャネラたちがアトランティスのデュラハンをいつ目覚めさせるかわからない状況だ…!いきなりの事で準備に大分掛かってしまった…!すまないが、こちらには聞いている余裕がない…!こうやって、会議を行う時間も惜しいくらいなのだ…!」


 いつも冷静な司令に今回ばかりは余裕がない。恐らく夜通しの準備で寝る暇もなかっただろう。オペレーターたちも疲れでぐったりとしている。モニターに映っている博士も画面越しに見ても疲れているのがわかる。


「早速だが、今からアトランティス突入部隊とパークの防衛部隊を決めたいと思う…!アトランティスは未知の場所で何も情報がない場所だ…!行ったら何が起こるかわからない…!それでも行ってくれる者はいるか…!?」

「俺、行きます!」


 道人が真っ先に名乗り出た。


「俺はソルワデスのパートナーです!これはキャルベンとの最後の戦いになるかもしれない…!だから、俺は彼女のためにも絶対に行きます!」

「道人…。しかし、私は恥ずかしながら未だに同胞と戦う事を迷っている…。」


 ソルワデスは自分の胸に右手を当て、下を向いた。


「それでいい。それでいいんだ、ソルワデス。」

「…! 道人…。」

「俺たちは別にキャルベンを倒しに行くんじゃない、止めに行くんだよ。何、甘い事言ってんだ、って思うかもしれないけどさ。海音さんが言ってたんだ。」

「ミオンが…?」

「以前は争う事でしか解決出来なかったけど、今度は誰も傷つかない解決手段で皆を救いたい、って。俺はそんな海音さんとスランの戦い方を尊重したいと思ってるんだ…!」


 道人はモニターに映っているスランを見る。


「道人のいうとおり!それがわたしとみおんのたたかいだから!」

「…ソルワデスとグゲンダルは姉妹なんだよね?姉妹同士が血で血を洗う関係だなんて、嫌だよね…。」


 潤奈はマーシャルの事を思い浮かべながら話し、少し寂しそうにしていた。


「アトランティスに行ったらさ、君たちの故郷の事を知るために必ず話を聞く機会を作ってみせる…!だから、それでキャルベンの人たちと和解できないかどうか、一緒に考えよう?ね?」


 道人はソルワデスの元へと近づき、右手を伸ばした。


「…正直、甘過ぎる…。そんな事は不可能だ…。だが…。」


 ソルワデスの背後にフォンフェルが出現し、ソルワデスの右肩に手を置いた。互いに頷き合う。


「…不思議だが、やってみる価値はある気がする…。ふっ、この短期間で君たちに毒されたようだ…。」

「ソルワデス…!」


 ソルワデスは道人の右手を掴み、力強く握った。


「私が道人とディサイドした意味、ミオンが守りたいと思ったもの…。その答えがアトランティスにはある気がする…。わかった、共に行こう、道人…!」

「ありがとう、ソルワデス…!」


 道人とソルワデスは共に想いが同調し、互いに見つめ合った。


「さぁて、深也さん。あたしたちはさ、イルーダお嬢様に借りがある訳じゃない?」

「おう、あるねぇ。」

「だったらさ、あたしたちがここでアトランティス行きを名乗り出ないのは嘘でしょ。」

「違いねぇっ!」


 深也は立ち上がり、愛歌と共に道人の側に近寄った。


「この戦いはどれだけ長引くかわからない…。よって、例えヘッドが使えなくなっても戦えるメンバーが優先的に行くべきだと私は思う。だから、ダーバラやヤジリウス、ソルワデス、スランは向いているだろう。」


 司令は後ろを振り返り、モニターに映っているディアスを見た。


「よって、私も現場に行き、直接指揮を取ろうと思っている。」


 司令のまさかの発言に皆、驚いた。


「えっ!?司令自らがっ!?」

「卒間、君は…。」

「ディアス、無理しなくていい。君はスランの手助けをしたいのだろう?なら、私も友の願いに付き合いたい。それだけだ。ふっ、司令官としては失格かもしれないがな…。」

「卒間…。ありがとう…。」


 司令はモニター越しにディアスに頷くと胸の司令のバッチを外した。


「虎城君、すまない!私の留守中、君に臨時司令官を任せたい!」

「えっ!?わ、私ですかっ!?」

「大神君はオペレーターとしてアトランティスに行く事になっている。任せられるのは君しかいない。頼んだぞ!」


 司令は虎城に向かって司令官のバッチを軽く投げ渡した。虎城は驚いた表情でキャッチした司令官バッチを見た。


「ふふっ!大役授かっちゃいましたね、虎城先輩!大丈夫!この不祥流咲、虎城先輩の右腕として大活躍して見せましょう!」

「何か頼りなさそ…。」

「大神先ぱぁい、せっかくカッコつけたのにぃ〜っ…!」


 虎城は二人のやり取りを見て思わず笑ってしまった。緊張感が取れたのか、虎城は胸に司令官バッチをつけ、その場から立ち上がり、卒間に敬礼した。


「わかりました!卒間さん、臨時司令官の務め、必ず私が果たしてみせます!」

「君にならできる!頼んだぞ!」

「はい!」


 流咲と大神は虎城に向かって拍手を送った。


「…な〜んか、私たち乗り遅れちゃったね、潤奈、大樹ん。」

「…ふふっ、そうですね。」

「安心せい、道人、愛歌ちゃん、深也!パークはこの守護神たる大樹とカサエルが守ってみせるわい!」

「正直、芸術家としてアトランティスには行ってみたいけれどもぉ〜っ…!世界の危機にそんな事も言っていられないわね…!」

「…気をつけて…!必ず無事に帰って来てね、みんな…!」


 道人たちは大樹とグルーナ、潤奈の気持ちに応え、強く頷いた。


「潤奈君の言う通りだ…。この戦いは無事に帰って来られる保証はない危険な任務だ…。今からでも遅くない、辞退しても…。」

「今更言いっこなしだぜ、元司令!」


 深也が真っ先に返事をした。しかも早速元司令呼ばわりである。


「俺たちにはまだヒューマン・デュラハンたちから芽依たちを救出しなきゃならねぇっていう使命があるんだ!絶対に戻って来てみせるぜ!」

「深也の言う通りよ!まだあたしたちにはやりたい事が残ってる…!必ず帰って来てみせるんだからっ!」

「大丈夫よ、道人君たち!私と司令がついていく以上、全力であなたたちをサポートしてみせるから!」

「何の根拠もない自信かもしれないけど…。俺たちの決心は固いですよ、司令…!」


 深也、愛歌、大神、道人の真剣な眼差しを見て、司令も決心を決めて強く頷いた。


「…よし、わかった!決まりだ!アトランティス突入部隊は道人君、愛歌君、深也君、そして私だ!スランと大神君、そして博士と一部整備班、このメンバーでデュラハン・シップに…。」

「…あの、待って下さい!」

「じゅ、潤奈?」


 珍しく潤奈が卒間に対して待ったを掛けたので一同驚いていた。


「…あの、博士じゃなくて、代わりに連れて行ってもらいたい人がいるんです…。」

「な、何じゃと…?」

「だ、誰だね…?それは…?」

「…難しいかもしれないけど…。妹を…マーシャルを連れて行って欲しいんです…!」


 潤奈のまさかの提案に道人たちは全員驚いた。

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