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ディサイド・デュラハン  作者: 星川レオ
第3部 多元なるアトランティス
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143章 Dたちと倉庫大捜査

「これが道ちゃんの幼稚園の頃の写真ね。」

「…わぁ〜っ…!道人、ちっちゃくて可愛い…!」

「当たり前だけど、ちゃんと今と面影あるわね。」


 道人たちが玄関から居間に着いた途端、小春は嬉々としてアルバムを取り出して今に至る。大体、家族で祖母の家に来る際は主に母が会話し、道人はたまに会話するくらいで話を聞くだけになる。


「これが運転会の時の写真。道ちゃんの初めての運動会で何と50m走で一位を取って…。」

「…うん、うん…!」


 潤奈が興味津々に幼い道人の写真を見ている。その様子が道人には何だか恥ずかしかった。グルーナもたまに細目で道人の事を見て恥ずかしがってる所を見てにやけていた。


「お、お婆ちゃん、俺、もう倉庫に入っていいかな?晩御飯までには帰らないとだし…。」


 現在時刻は三時過ぎ。五時には帰らないといけないので後二時間で探さないといけない。


「えぇ、いいわよ。鍵とマスクと手袋はそこにあるからね。」

「…道人、私も手伝うよ。」

「あ、いや、潤奈とグルーナさんはお婆ちゃんの会話相手しててよ。倉庫の中は埃っぽいだろうし…。それにお婆ちゃん、潤奈たちと話せて楽しそうだ。潤奈も子供の頃の俺の写真見てて楽しそうだし…。」

「…うん、もっと見たい…!もっと道人の事知りたい…!」


 潤奈は真剣な眼差しでまるで告白してるような言い方をして来たので道人は一気に体温が上がった。普段大人しい子が興奮気味に力強く発言するのでギャップにもやられる。


「あらあら、お熱いのね。愛歌ちゃん以外にこんな可愛い女の子と友達になってたなんて道ちゃんも隅に置けないわね。」

「以外とモテるんですよ、うちらの道とんは。」


 何故かグルーナが得意げに道人を褒める。


(うちの道人は真面目さが売りだからな。)


 ふと、ジークヴァルのジョークを思い出して少ししんみりしたが、気を取り直してマスクを着用し、鍵を持って倉庫へと向かった。倉庫は居間から庭を出た後、目と鼻の先にある場所で数歩でもう辿り着いた。鍵を開け、中に入る。


「うわっ…!?すごい埃だ…!マスクが貫通しそう…!よし、なら…!」


 道人は誰も見てないのを確認し、右肩のエンブレムを軽く叩いて制服姿に変わった。マスクを外して呼吸する。


「さすが博士。制服バリアで埃もへっちゃらだい。さて、どこから探そうか…。」


 一人で探すとは言ったものの、ダンボールや壺は二階までこれでもか、という程たくさんあった。潤奈も制服バリアがあるなら手伝えるとは思うが、小春と楽しそうに会話している邪魔をしたくない気持ちもあった。潤奈たちの楽しそうな声はそれはそれで作業用BGMみたいでいいかもな、と道人は割り切る事にする。


「お困りのようだな、道人。」

「我々も手伝いましょう。」

「ソルワデス、フォンフェル…。」


 軽装状態になったソルワデスとフォンフェルが小春にバレないようにこっそりと入ってきた。道人は一応周りを確認した。


「そ、そりゃ助かるけど…いいの?二人だって戦いの後でお疲れだろう?」

「それはお互い様ですよ、道人。最近は調子が良くて発作もなかなか起きませんし、大丈夫です。潤奈の楽しそうな所を遠くから見ていたい気持ちもありますが…。ここはお手伝いしましょう。」

「…私も道人の小さい頃の写真というのが見てみたいが…。」

「えっ?」


 ソルワデスは道人の疑問の声を聞いた後、少し慌て出した。


「な、何でもない!とにかく、私たちも加勢しよう!」

「では、道人。私たちは二階を探してみます。あなたは一階を。」

「わかった。ありがとう、二人共。」


 そう言うとフォンフェルとソルワデスは二階へと向かった。


「道人、俺も手伝うぜ。暇潰しだ。」


 ヤジリウスが実体化し、道人の近くに出現した。


「助かるよ、ヤジリウス。お婆ちゃんにはバレないようにね?」


 道人は小春にはデュラハン・ガードナーやバドスン・ガードナーなどの話題はなるべく話さない事にした。潤奈とグルーナにもその旨は伝えてある。心臓に悪いだろうから驚かせるような事は避けたい。


「よし、作業開始…!」


 道人たちは黙々とダンボールの中の主に書物などを一旦外に出して手に取っては中身を確認し、元に戻すを繰り返す。


「道ちゃん、大丈夫?手伝おうか?」

「だ、大丈夫大丈夫!お婆ちゃんは潤奈とグルーナさんと話してていいからね!」

「わかったわ。でね、これが道ちゃんの三年生の学芸会…。」


 あっちはあっちで未だアルバムで盛り上がっているようだ。小春が倉庫に近づかないようにする役目は潤奈とグルーナに任せて道人は黙々と確認作業をする。


「それでソルワデス、私は潤奈のために料理をしていまして…。」

「ほぉっ、料理。」

「他にも本棚も手作りしていまして…。」

「フォンフェルは芸達者なのだな。さすがは忍者…。」


 何か二階からフォンフェルとソルワデスの会話が聞こえてきた。いつ仲良くなったんだ、あの二人と思いながら作業の手を緩めない。でも、何だか仲良い二人を微笑ましく道人は思っていた。


「おい、見ろよ、道人。この置き物。竜だか蛇だかわかんねぇや。」


 ヤジリウスはもう単純作業に飽き始めている。早いな、おいと道人は思う。


「全く…。…ん…?」


 その時に手に持った古びた和装本を開いた時、気になる絵が描かれていた。蝶の羽が生えた人間の絵だった。ウェントがよく背中に生やす蝶の羽に似ている。


「よし、来た…!ビンゴかな、これ…!文字は読めないけど…。ひょっとして、このダンボール全部…?」


 この和装本が入っていたダンボールからもう一つの和装本を確認すると今度は光の槍を持った男の絵があった。


「おっし…!ヤジリウス、これキープだ!」

「おっ、何か見つかったのか、道人?」

「うん、それっぽい物発見…!」


 道人はヤジリウスに手渡して和装本を見せた。


「確かにそれっぽいが…。俺はこの和装本を止めている糸も気になるな。」

「糸?」


 道人はヤジリウスに言われ、和装本を返してもらう。確かに古い和装本に対して糸は全然古びていない金色の糸だった。


「まさか、十糸(といと)姫の…。」

「…かもな。」

「道人、私たちも発見しました。」


 フォンフェルが鉄の手で戦っている男の絵を二階から見せて来た。


「おっし、でかした!それが入ってたダンボールもキープ!いいぞ、ここに来て良かった…!」


 道人はノリに乗ってきて他のダンボールも探す。すると、写真が一つ床に落ちた。


「…? 写真…?」


 道人は拾って写真を見た。


「これって…!?」


 道人は気になる写真を見つけたが、これは後に回して他のダンボールを確認していく。フォンフェルたちの手伝いのおかげで一時間くらいで作業は終えた。


「ありがとう、ソルワデス、ヤジリウス、フォンフェル…!助かった…!さぁ、もう隠れて…!」


 道人がそう言うとヤジリウスは歯車の布に戻り、フォンフェルとソルワデスも共に素早く倉庫から出た。道人は鍵を閉めて、制服から私服に変わった後、居間へと戻る。


「それでこれが道ちゃんが五年生の…。」


 もうアルバムは二冊目に到達していた。あれから一時間経ったというのに未だにアルバム語りを続けていたのか、この三人はと驚かされた。


「道とん、お帰り。あれ?もう終わったの?」

「えぇ、何とか終わりましたよ。ねぇ、お婆ちゃん。ダンボール三つ分くらい持って帰りたいんだけど…。」


 道人は倉庫の入り口付近に重ねて置いたダンボール三つを指差した。


「えぇ、いいわよ。どうせ埃被ってたものだし、道ちゃんにあげるわ。」

「それはありがたいけど…。大丈夫?お爺ちゃんの許可とかは?」


 道人の祖父は仕事に行っていて夜にならないと帰って来ない。残念だが、祖父とは会えずに帰る事になる。


「お爺ちゃんにも話は通してあるから大丈夫よ。だから、気にしないで。さぁ、道ちゃん。後一時間くらいはいられるんでしょう?疲れただろうし、空気の悪い倉庫にいたんだから、うがいをした後に私たちと一緒に話しましょ。」


 道人は小春の言う通りにし、うがいした後、居間に戻ってきた。


「ねぇ、お婆ちゃん。気になる写真があったんだけど…聞いていい?潤奈にも関係がある事なんだ。」

「…えっ?私に?」


 そう言うと道人は小春にさっき見つけた写真を見せた。


「…!? お母、さん…!?」


 そう、写真には道人の祖父祖母と潤奈の母・アンの姿が映っていた。


「あらまぁっ!?潤奈ちゃんって、杏ちゃんの娘さんだったの!?それはまぁっ…!確かによく見ると似ている気がするわねぇ〜っ…!」


 小春は改めて潤奈の全身を見る。


「お、お婆ちゃんたち、潤奈のお母さんと知り合いだったなんて…。」

「えぇ、『善谷安(ぜんやあん)』ちゃん。確か父親が科学者で安ちゃんはお医者さんでよく家に検診に来てくれてたの。段々と仲良くなって、その時に撮った写真ね、それは。けど、ある日突然来なくなっちゃったのよ…。」


 小春はその頃を思い出したのか、少し寂しそうに写真を見た。


「やったね、潤奈!お母さんの手掛かりがやっとわかったよ!」

「…うん、そっか…。お母さんがここに…。あ、でも…せっかく博士に頼んだのに…。」

「博士は多忙の身だしさ、いいじゃん。それに博士は博士で新たな情報を見つけてくれるかもしれないしさ。無駄じゃないよ、潤奈。」


 グルーナは潤奈の左肩に手を置き、微笑み掛けた。


「しかし、杏ちゃんに娘さんがいたなんてねぇ〜っ…。驚いたわ…。帰って来たらお爺ちゃんにも教えてあげないと。」

「…はい。後、私双子の妹もいるんです。マーシャルって言うんですけど…。」

「あらまぁっ!?しかも双子!そっかぁっ…!子に恵まれたのね、安ちゃん…。苗字は父親の姓だから違うのね。」

「…え、えぇ。」


 真野は潤奈が咄嗟に名乗った苗字だが、本名はマノンシアなので対して変わりはない、と道人は思った。


「安ちゃんは元気?」

「…そ、それは…。」


 潤奈は少し言い淀んでしまった。


「…そう。まぁ、来なくなった理由もわかって逆にすっきりしたわ…。ありがとう、潤奈ちゃん…。」


 小春は何も言わなくても察してくれた。道人は少し心配したが、杞憂だったようだ。


「それでお婆ちゃん、その杏さんの父親の『善谷』って人の事は知ってるの?」

「いえ、私とお爺ちゃんも面識はあまりないわ…。今は何をやっておられるのやら…。」


 とりあえず科学者の善谷という人は名前はわかった。明日にでも博士に調べてもらえるように頼んでみようと道人は思った。それから小春は杏との思い出話を語り出した。潤奈はそれを真剣に、笑みを浮かべながら聞いていた。


「さて、そろそろ帰らないと…。」


 時刻は五時前。道人はそろそろ帰って秋子と一緒に夜食の手伝いをしないといけない。


「道ちゃん、もう帰っちゃうのかい?せっかく来てくれたのに寂しいねぇ〜っ…。」


 祖父祖母の家に遊びに来た際、必ずと言っていい程、帰るタイミングになると何だか申し訳ない感が出てしまう。道人はその感覚に襲われる。


「大丈夫、お婆ちゃん。また必ず来るよ。母さんや…父さん、それにマーシャルや…ジークヴァル…。ハーライム、ヤジリウス、ソルワデス…。いつか、婆ちゃんたちに会わせたいな…。」

「あらまぁっ、道ちゃん。グルーナちゃんもそうだけど、交友関係が知らない間にワールドワイドになったのねぇ〜っ…。わかったわ、道ちゃん。いつでも連れていらっしゃいな。」

「うん。ありがとう、お婆ちゃん…。」


 その後、道人はダンボール三つを車に乗せた。道人たちは車に乗り込み、発車した。道人と潤奈、小春は互いに見えなくなるまで手を振って別れた。


「ごめんね、ルレンデス。お待たせ。」

「ううん、感動的な家族の一旦の別れ…。ドラマチックな一面にパシャリさ。」


 ルレンデスは小春に見られたらまずいため、事前に近場に待機してもらっていた。車を止め、ルレンデスも車に乗り込む。


「わわっ!?何だか来た時より荷物増えてんですけど。」

「ご、ごめん、ルレンデス。そのダンボール大事な物だから…。」

「そういう事なら仕方ないね。喜んで狭き思いをしよう。」


 ルレンデスは身体を縮こませて座った。


「まさか潤奈のお母さんの事までわかるとは思わなかったなぁっ…。」

「…うん、来て良かった…!またお婆ちゃんに会いに来ようね、道人!」

「うん!」

「色々あったけど、今日は最高のインスピレーションを得られたわ!グッドよ、グッド!」


 潤奈はスマホで撮った母の写真を眺めていた。母が映った写真は持って来ず、小春に預かってもらう事にしたのだ。

 こうして、道人たちは一旦グルーナのマンションに戻り、グルーナが荷物をまとめた。その後、道人の家まで車を走らせ、道人はそこで降りた。


「じゃあ、潤奈、グルーナさん。また明日。」

「…うん、また明日パークでね。」

「おっしゃぁっ!この後、潤奈とパジャマパーティよぉ〜っ…!」

「あまり羽目を外さないようにして下さいよ?」


 道人は手を振り、グルーナと潤奈、ルレンデスが乗った車は去っていった。明日はパークで借りた車を返しがてら、朝はグルーナと潤奈が迎えに来てくれるという。


「さて、俺は俺でこの資料からわかる事を探すぞぉ〜っ…!」


 道人はヤジリウスとソルワデスに手伝ってもらい、共にダンボールを抱えて家の玄関まで目指した。こうして道人とソルワデスとの、ジークヴァルがいない一日が幕を閉じた。

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