142章 ようやく着いた小春空
「…道人!」
災鐚を倒したため、潤奈たちは道人とライドラグーン・ソルワメデスの側に一旦集まってきた。
「…やった…のかな?」
「…いや…多分…。」
道人の考えていた通り、縦に真っ二つになったはずの災鐚の身体は見る見る内に再生していく。
「ぐっ…あっ…。不、覚…!」
災鐚はかなりの深傷なため、すぐには再生できないようだった。
「自分、今日は引く…。超×超災将軍になっても、勝ち目が薄そう…。お前たちの力、侮ってた…。この借り、必ず…。」
災鐚は地面に倒れたまま沈み始める。
「後、お前のさっきの悪口、本当に、烈鴉が言ったか確かめる…。」
「いや、根に持つのそこかよ。」
ヤジリウスが突っ込みを入れた後、災鐚は姿を消した。
「帰ったっぽいけど、まだ油断はできないな…。結局、あいつの目的はグルーナさんだったのか…?」
災鐚が襲ってきた目的は本当にそうだったのか、道人は気にしたが、災鐚はもう去ったので後の祭りだった。
「とにかく、この場から離れてグルーナさんの家に戻ろう。」
ソルワデスたちは元の姿に戻り、道人たちはグルーナのマンションに戻る事にした。
「全く、私が風景は変わりゆくものって話した途端にこれよ…!やってられないわね…!」
グルーナは災鐚が作成の左で弓矢を作るために壊した自然を見て憤りを感じていた。道人たちは何とかマンションまで戻ってくる事ができた。フォンフェルとソルワデスは再び近くで待機する事になった。
「ソルワデス、ヴァルムンクを預かっててくれるか?持って中に入る訳にはいかないし…。」
「わかった、任せて。」
道人はヴァルムンクを一旦ソルワデスに預け、マンションに入り直し、エレベーターに乗った。
「…道人のお婆さんの家に行く予定だったけど…。どうする?今日はやめとく?」
「いえ、少し休んだら行きましょ。まだ時間あるし…。」
道人はスマホで時間を確認するとまだ二時過ぎだった。グルーナの言う通り、確かにまだ余裕はある。
「そうですね。こう立て続けに事が起きるとなかなか行く機会なんてないし…。予定は変えずに今日行こう。」
道人たちは次の行動を決めた後、グルーナの部屋に戻ってきた。さっきグルーナが作った残りの昼食を食べながら少し休憩する事にした。
「私、せっかく我が家に帰って来れた、と思ったんだけどさ…。私一人で暮らすのは難しいかも…。ルレンデスを護衛にしようにも、ルレンデスがここに住むには狭いし…。」
「確かにグルーナさんも流咲さんと同じで傀魔怪堕に狙われる事になりましたし、寝込みとか襲われたらどうしようもないですからね…。」
「だよねぇ〜っ、やっぱ…。」
グルーナはせっかく我が家に戻って来られたに、と落ち込んで外の風景を見た。
「せっかく買い出しもしたのになぁ〜っ…。あ、でも、パークに住むにはもう場所がないかぁ〜っ…。う〜ん…。」
「…じゃあ、私の家に来る?」
「マジか。」
潤奈の提案を聞いた後、グルーナはその場から素早く立ち上がった。
「なるほど、確かにそれなら…。」
潤奈の暮らす宇宙船は大きいし、敵が襲って来てもフォンフェルとアヤメが戦ったり、ワープヘッドを使って逃げる事もできる。ルレンデスも住めるかもしれない。
「潤奈の家って宇宙船だよね?インスピレーションの宝庫じゃない…!それに潤奈と同居なんて…!?」
「グルーナさん、誤解を生む発言はやめましょう。」
道人はグルーナの考えに即座に突っ込んだ。
「わかってるわよ、道とん。冗談だってば。それじゃあ、潤奈のお言葉に甘えて当分泊めてもらおうかな。」
グルーナはそう決めた後、昼食を終え、食器を片付けた。グルーナはトランクケースに服などを入れるからまだ休んでいていいと言われたため、道人と潤奈はテレビを見ていた。
「あ、道とん。私のブラ、取ってくれない?そこの引き出しなんだけど。」
「いや、自分で取って下さいよぉっ!」
グルーナがからかって来たため、道人は頬を染めて腕を組んだ。その様子を見て潤奈は静かに笑っていた。
道人の祖母の家から帰って来る際、またマンションに寄り、それから荷物を持ってグルーナは潤奈の宇宙船へと向かう段取りとなった。道人は途中で車を降りて家に帰る事になる。
休憩を終え、道人たちはグルーナの家を後にし、駐車場へと向かった。
「道とんのお婆ちゃんの家ってここからそんなに離れてないからすぐに着くわね。さ、行きましょ。」
道人は潤奈と共に後部座席に座り、ルレンデスも車内へと入る。グルーナが車にエンジンを掛け、発車した。フェンフェルはソルワデスに乗って車を追いかける。
「ふぅっ、短期決戦だったとはいえ…。ちょっと疲れたな…。」
「…うん、そうだね。」
道人は潤奈と意見が一致すると急にうとうとし始め、そのまま意識が薄れていった。
「ふむ…。これはなかなか良い絵面…。」
「…ん…?」
グルーナの声が聞こえたので道人は意識がはっきりし出した。
「…あっ、ごめんなさい、グルーナさん…。俺、眠っちゃってたか…。」
道人は何かが頭に当たっているのに気づいた。静かな寝息も聞こえてくる。
「…!?」
道人は慌てて密接していた潤奈から離れた。潤奈も眠ってしまっていたようだ。
「道とん、潤奈と頭くっつけて眠ってたのよ?しかも、眠ってる潤奈を相手に大胆に…。」
「いぃっ!?」
道人は赤面し、自分の両手を慌てて見た。
「…? どしたの、道人…?」
潤奈も目を覚まし、目を擦って道人を見た。
「さて、道とんがどんな行為に至ったのか…。それを知るのは私とルレンデスだけなのでしたぁ〜っ…!」
「ちょ、ちょっとぉ〜っ…!?」
グルーナは両手を後頭部に当てて舌を少し出した。潤奈は未だに寝ぼけていて、何故道人が慌てているのかわからずにボーっと見ていた。
「ほら、着いたんだよ、二人共。」
道人と潤奈は共に車から降りた。道人は久しぶりに来たが、間違いなく祖母の家だった。まさに田舎という感じで、ぐるっと石垣に囲まれてぽつんとある一軒家。近くには畑もあり、目的の倉庫も既に見えていた。フォンフェルとソルワデスも近くに立っていた。
「あぁっ、ごめんなさい、グルーナさん…。案内しないといけないのに俺眠っちゃって…。」
「平気、平気!現に目的地にちゃんと着いてるでしょ?優秀なカーナビちゃんのおかげよ!」
グルーナは車の運転席の扉を軽く叩いた。
「さ、早く中に入って用を済ませましょ。」
道人は頷くと先頭を歩き、インターホンを鳴らした。潤奈はヴィーヴィルデバイスをフォンフェルに預けて姿を消してもらった。
「は〜い。」
道人の祖母・小春は玄関の扉からではなく、庭から姿を現した。
「あらあら、道ちゃん!大きくなったわねぇ〜っ…!豪に似てきたんじゃない?会うのはいつぶりかしらねぇ〜っ?」
「お、お婆ちゃん、落ち着いて。去年遊びに来ただろう?」
小春は道人に久々に会えて嬉しいのか、開幕マシンガントークをぶつけて来た。
「あらまぁっ、女の子も連れて来ちゃって!それも二人も!道ちゃんも隅に置けないわねぇ〜っ…!」
「ははっ、お婆ちゃん。その手のからかいはもう道中お腹いっぱいさ…。」
道人は目を細めてがくっと肩を下ろした。
「…あの、初めまして。真野潤奈と申します。」
「グルーナ・フリーベルよ。」
「うんうん、潤奈ちゃんとグルーナちゃんね。覚えたわ。さぁさ、中にお入り。お茶を出すさね。」
「お、お婆ちゃん、庭から客応対したから玄関開いてないよ?鍵、鍵ちょうだいよ!」
道人と小春のやり取りが微笑ましかったのか、潤奈とグルーナは二人で笑い合い、何とか玄関から家へと入れた。




