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ディサイド・デュラハン  作者: 星川レオ
第1部 始まりのディサイド
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18章Side:ジュンナ 終わった日常

「…お父さん、何か手伝う事ない?」

「おぉ、ジュンナ。助かるよ。」


 ジュンナの父・イチは薄暗い研究室で大きなカプセルの中に入った石の事を調べていた。この時、十歳のジュンナは優しい父の事が大好きでよく手伝いをしている。


「…マーシャルも手伝う?」

「…私はいい。」


 双子の妹・マーシャルは難しそうな本を読み、父と目を合わさなかった。近くの椅子に座る。


「じゃあ、机の上の書類をまとめて片付けてくれるかい?」

「…うん、いいよ。」


 ジュンナは書類を片付けながら、カプセルの中の石を見た。


「…お父さん、ずっとこの石の事を研究してるね。」

「あぁ、この石は物凄い力を秘めている気がするんだ。大変興味深いよ。何かの動力源にできそうなんだが、未だにそれが何なのかはわからないんだよなぁ〜っ…!」

「…お父さん、天才だもん。きっと見つけられるよ。」

「おっ!お父さん、褒められたら伸びるタイプだからなぁ〜っ!頑張っちゃうぞぉ〜っ!」


 イチは研究着の袖丈を捲り、張り切って研究を進めた。


「…この石、何度見ても青くて綺麗だよね。」

「あぁ、母さんの故郷のチキュウに似ているな。」

「…! っ…!」


 マーシャルは亡くなった母の名前を聞いた途端、不快に思ったのか、イチに気づかれずに退室した。


「…お父さん、お母さんは何で死んじゃったのかな…。」


 ジュンナは悲しくなって涙目になり、下を向いて話した。


「あぁっ、ごめん!ジュンナ!嫌な事を思い出させてしまったな…。そんなつもりはなかったんだ、ごめんよ…。」


 イチは失言をして焦り、研究を中断してジュンナの側に駆け寄った。


「お母さん、父さんがチキュウに行って出会った時は元気だったんだ。そこから恋をして、リフドーに連れてきたのがまずかった…。この星の気候が合わなかったのか、病気になってしまって…。私の軽率な行動でアンは…。」


 イチはマーシャルがさっきまで座っていた場所を見た。マーシャルがいなくなった事に今気づいたようだった。


「…そんな、お父さんはただ、お母さんを好きになっただけだよ!お父さんは悪くないよ!」


 ジュンナの一生懸命な励ましを聞き、イチは柔らかな笑みを浮かべ、ジュンナの涙を拭った後、抱き締めた。


「ありがとう、ジュンナ…。父さん、そう言ってもらえて嬉しいよ…。」

「…本当?」

「あぁ、本当さ。」


 イチはジュンナの頭を優しく撫でた。


「よし、今日はお父さんが腕に()りをかけてジュンナが大好きなミスパトを作ってやろう!」

「…本当!?やったぁっ!お父さんの作ったミスパト、ミスパト!」

「よし、早速キッチンへ行くぞぅっ!」


 イチはジュンナを肩車し、キッチンへと走った。

 ジュンナは母がいなくとも、父とマーシャルの三人で暮らす生活が気に入っていて、ずっとこんな幸せなひと時が続けばいい、そう思っていた…。が、この三日後、バドスン・アータスがリフドーの侵攻を開始。幸せな生活は終わりを告げた。


 バドスン・アータスはリフドーにあるマイヌーン(ラックシルベ)の調査、リフドーがどの程度の文明・軍事力を持っているかの調査を終え、リフドーを人のいないラックシルベの採掘星にする決断を下した。

 平和で争う力が低いリフドーはヴァエンペラ率いるダジーラクとロクゴウセンたちに劣勢を強いられる事になった。

 ヴァエンペラはラックシルベの研究をしていたイチの事も把握しており、イチの頭脳目当てでジュンナたちは追われる身になり、逃亡生活をする事になった。


「…お父さん!マーシャルが、マーシャルがいないの!」


 逃亡生活を続ける中、突然マーシャルが行方不明になった。マーシャルの行方を逃げながら捜索したが、見つかる事はなかった。


 逃亡生活から二週間後、ジュンナとイチは見つかるのは時間の問題ではあるが、既に滅ぼされた町の地下で暮らしていた。そこでイチは今後も逃げるための道具を作っていた。


「ジュンナ、身を隠せるマントを作る事ができた。今度からこれを使って逃げるんだ。」


 それだけを伝えた後、イチはまた道具作りに向かった。

 ジュンナを守るために必死なイチはこういう絡みがほとんどになり、ろくにジュンナと会話する事はなかった。

 ある日、道具の材料と食料を探していたイチはバドスン・アータスのロクゴウセンの一人、シユーザーに見つかってしまう。 イチはジュンナを連れて逃げるが、シユーザーの躊躇(ちゅうちょ)のない攻撃により、頭を出血し、右足を骨折してしまう。


「何故だっ!?お前たちは私の科学力が欲しいのではなかったのかっ!?」

「あなたの研究はもう私が完全に理解できました。なので、あなたはもう不用です。この子のおかげでしてね。いやぁっ、頭の良い娘さんだ。」


 ジュンナとイチはシユーザーのとなりにいる子供を見て驚愕した。その子供は氷のような冷たい眼差しでジュンナたちを見つめていた。


「…マーシャル、何で…!?」

「ちぃっ!」

 

 イチは煙玉を投げ、ジュンナを連れてその場を逃げた。


「小癪な…!あの足じゃ遠くまでは行けません!追いなさい!」


 シユーザーの言う通り、イチはもう逃げる事は出来なかった。地下水道の通路にジュンナは逃げ、イチを座らせた。


「…ジュンナ、お父さん、どうやらここまでみたいだ…。」

「…何言ってるの!?お父さん、一緒に逃げよう!」

「時間がない!聞くんだ、ジュンナ…!いいね…?」


 もうイチの目は(うつろ)になり、長くはないと悟ったジュンナは涙が溢れ、何度も頷いた。


「…良い子だ、ジュンナ…。この鞄を持っていけ…。見つけて修理しておいた宇宙船と、その場所の地図。今後もジュンナが逃げられるように作った道具…。そして、ある設計図が入っている…。」

「設計図…?」

「奴らも知らない大事な設計図だ…。それを信頼できる人に渡し、私の代わりに造ってもらいたい…。奴らはこの星だけじゃない、他の星も侵略する…!ジュンナがどこへ逃げても奴らはやって来る…!この私の最後の研究を宇宙の平和に役立ててもらいたい…!」

「いたぞ!イチとその娘だ!」


 兵士に見つかってしまい、イチは立ち上がってジュンナの前に立った。


「行きなさい、ジュンナ!」

「…でも!」

「宇宙の命運をお前一人に任せてすまない…!行くんだ!ジュンナ!」

「…お父さん…! っ…!」


 ジュンナは鞄を持って地図を取り出し、宇宙船へと向かった。ジュンナは銃撃が聞こえた瞬間、イチの悲鳴を聞かないために両耳を塞いで走った。耳を塞ぐので精一杯でジュンナの目からは涙が止まらずに背後へ流れた…。

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