137章Side:ソルワデス 新たなるご当地ヒーロー
飛行形態のソルワデスは道人に通信で教えてもらったワゴン車を追いかけていた。ワゴン車はデパートの駐車場に入ったため、人型形態に戻って近場のビルに着地した。
「建物内に入ったか…。仕方ない、ここで待つとしよう…。」
「いや、あなたも護衛役ならば、中に入るべきでしょう。」
「何奴っ!?」
ソルワデスは急いで声が聞こえた方を振り返ると電信柱の上にデュラハンが腕を組んで立っていた。
「…首無し状態で腕を組んだら前が見えなくないだろうか…?」
「とう!」
漆黒のデュラハンはジャンプし、ソルワデスの前に着地した。
「私の名はフォンフェル。見た通りの忍者です。」
「…それは…そうだろうけれども…。」
ソルワデスはフォンフェルの全身を確認したが確かに忍者の、特にくの一らしい見た目なのは理解した。
「私は途中からコールドスリープしたとは言え、平安の世からこの地球にいるが、忍者とは会った事がないな…。」
「それはそうでしょう。普段忍んでいるのですから。あなたが会った事がないのも無理はない…。」
初対面で何か変な会話をしてしまった。相変わらず人と関わるのが億劫なソルワデスは自己嫌悪に苛まれながらも気を取り直して話を続ける。
「…えっと、それであなたは…?」
「む?さっきフォンフェルと名乗ったでしょう?」
「あ、いえ、あの…名前ではなくて…。あなたは…その、何者なのか、というか…。」
「あぁ、そういう事ですか。私は潤奈のディサイド・デュラハンです。あなたはソルワデスとお見受けしました。以後、お見知りおきを…。」
「あぁっ、こちらこそ、ご丁寧に…。」
フォンフェルがお辞儀をしてきたので、ついソルワデスもお辞儀で返した。
「…あぁっ、いいですね…。」
「き、急にどうしたのだ?」
「いえね…。あなたのような礼儀正しい女性型の、しかも後輩のデュラハンというのはなかなかいなくてですね…。デュエル・デュラハンのルブランやアヤメは三分しか実体化できないので絡みたくてもなかなか絡めませんし…。やっと似た立場の後輩を持てた事がつい嬉しく…!」
まだ正式に仲間になった訳ではないのだが…。ここは訂正した方がいいのだろうか、とソルワデスは思う。
「いや、私はまだ…。」
「時にソルワデス。あなたは私と同じデバイスに戻らないタイプのデュラハンと見ました。」
しまった、突っ込むタイミングを逃した。もう諦めてソルワデスはフォンフェルの話を聞く。
「あなたはランドレイクたちのようにパークで過ごすのではなく、道人の側に常にいて護衛したいと。」
「…まぁ、そうだな、うん…。」
ジークヴァルやハーライム、ヤジリウスは道人と共に過ごしていたと聞く。なら、自分もそうすべきなのだろう、とソルワデスは思う。
「ならば、あなたは私と同じだ。だが、このコンクリートジャングルが当たり前の世の中…。人々から見つからぬように道人を護衛するのは大変でしょう…。不肖、このフォンフェル。僭越ながらあなたにパートナーの護衛術をお教え致しましょう。」
「えっ?あぁっ、それはまぁ…。」
今後も道人を守っていく際、潤奈のディサイド・デュラハンであるフォンフェルとは絡む事が多いかもしれない。ソルワデスはフォンフェルの話に乗る事にした。
「…わかった、教えを請おう。」
「よし、来た。それでは早速、共にデパート内に忍び込みましょう。」
フォンフェルはそう言うと素早い動きで
ビルの屋上を次々と跳ねて下へと降りる。
「あの身のこなし…。さすが忍者といったところか…。人に見つからないように周りを気にしながらも、素早く動いている…。よし、私も…!」
ソルワデスも何とかフォンフェルについて行く。二人は御頭デパートの駐車場に着き、グルーナの車を発見した。ソルワデスは両肩のシールドを一旦消滅させた。
「ルレンデス、ルレンデス。」
フォンフェルが軽く車の窓をノックした。
「あ、フォンフェル。どうしたの?」
風景の写真集を見ていたルレンデスが車のミラーを下げた。
「潤奈たちは何処に?」
「潤奈ならグルーナと道人と一緒にスーパーに行ったよ?」
「なるほど、わかった。情報提供、感謝する!」
ルレンデスから情報を聞き出したフォンフェルは壁側に行き、素早く駆ける。ソルワデスも共に駆ける。
「ここのスーパーなら前に護衛に来た事がある…。天井裏へと参りましょう!」
そう言うとフォンフェルはソルワデスを道案内しながらも人には見つからぬように忍びながら、スーパーの天井裏に来る事ができた。天井裏には監視カメラやエアコンなどの配線がたくさんある。フォンフェルは覗き穴にできそうな穴を次々と移動しながらスーパーを確認する。
「…見つけました!潤奈たちです!どうやら、お肉のコーナーにいるようだ…。」
ソルワデスも確認したが、確かに道人の姿を確認できた。
「どうやら、グルーナの食品選びに難航しているようだ…。よし…!」
そう言うとフォンフェルはしばらく肉のコーナーを凝視した。
「ソルワデスはここで見ていて下さい。これが主のための護衛術の一つです!」
「何っ!?」
そう言うとフォンフェルは天井裏の開閉口を開け、地面に着地。潤奈に気づかれないように素早く肉の並べ順を変えていく。
「はっ!」
並べ終えた後、フォンフェルは天井裏に戻ってきた。
「あの、あなたは今何を…?」
「肉の賞味期限や鮮度、ドリップを我がデュラハン・ガードナーが誇る偉大なる博士が作った高性能カメラを用いて確認した後、潤奈たちがすぐに手に取りやすいように並べ変えたのです。」
「何ですって…?あなたはそれをさっきの一瞬で…?」
「こうする事でグルーナの審美眼の時間短縮、並びに潤奈がグルーナにお褒めの言葉を頂く…。潤奈が褒められる事…。それ即ち、我が喜びでもあり…。」
フォンフェルは腕を組み、ポーズを決めた。
「…何という忠誠心だ…。キャルベンでもなかなか見られる光景ではない…。フォンフェル、失礼した…!あなたの忠義は本物だ…!」
ソルワデスは急いで立ち上がり、フォンフェルに頭を下げた。
「頭を上げて下さい、ソルワデス…。こんなものはまだ序の口…。護衛は潤奈が自宅に帰るまで続くのです…。」
「帰るまで続く、か…。その姿勢、私も見習わせてもらおう…!」
「うむ、良い覇気です!あなたはきっと伸びます!私が保証しましょう!」
フォンフェルとソルワデスは共に称え合い、握手を交わした。その後、また潤奈たちの様子を確認する。
「むっ…?ソルワデス、あそこを見て下さい!」
「ママァ〜ッ?ママァッ、どこなの〜?」
フォンフェルが見るように指示したのは迷子の女の子だった。
「あの子の両親を捜さねば…!」
「えっ?しかし、あなたは今、潤奈の護衛中なのでは?」
「人は生きているとどこで縁が結ばれるかわかりません…。そう、ソルワデス。あなたとの出会いのように…。あの子も潤奈たちといずれ出会い、影響を与え合うかもしれない…。あるかもしれない未来の種を守るのも我ら、ディサイド・デュラハンの務めなのです…。」
「な、なるほど…。そういうものなの、か…?」
ソルワデスはフォンフェルの言葉を理解しようと泣いている迷子の子を見て思案する。
「…そういえば、昔…グゲンダルにもあんな頃があったな…。」
ソルワデス姉妹が惑星キャルベンで路頭に彷徨っていた頃、お腹を空かせて泣きじゃくるグゲンダルを何とか元気付けていた自分の姿をソルワデスは思い出していた。
「…よし、フォンフェルは引き続き潤奈たちの護衛を!あの子は私が!」
「あっ、ソルワデス!」
ソルワデスは迷子の少女がいる天井辺りに走った後、迷子の少女の目の前に着地した。迷子の少女はソルワデスを見て泣き止み、きょとんとした。
(しまった、私のこの姿は人間には怖く見えるか…?)
「…お姉ちゃん、誰?何だかかっこいいね…!オカシラマンとか、ジャスティスクローみたいなご当地ヒーローさんなの?」
迷子の少女が話している内容がソルワデスにはよくわからなかったが、泣き止んでくれたので話に乗っかった方がいいとソルワデスは判断した。それと同時にソルワデスはディサイド化して変わってしまった自分の容姿を少し好きになれた気がした。
「…そ、そうだ。私はご当地ヒーロー…名をソルワデス。」
「ソルワデス…!あのね、お願い!ソルワデス!私、お母さんとはぐれちゃったの…。それで…。」
ソルワデスは早速、フォンフェルから学んだ事を実践するため、まずは情報を得る事にした。
「私にお母さんの特徴を教えて。後、さっきまで何をしていたのだとか、はぐれる前にいた場所とか…。」
ソルワデスは何とか迷子の少女から情報を聞き出し、少女を抱っこしながら店内を歩いた。少女は何故だか抱っこされて喜んでいる。
「恵ちゃん!」
「あっ、ママ!」
どうやら母親が見つかったようだ。ソルワデスは少女を下ろし、少女は母の元へ走って抱きついた。母親は少女の頭を優しく撫でた。
「もぉ〜っ、まだ一人でお菓子のコーナー行けないんだったら一人で行くんじゃありません!」
「ごめんなさい…。あのね、ありがとうね、ソルワデス!」
「いえ…。」
少女は笑みを浮かべて振り返り、ソルワデスを見た。
「お母さん、ソルワデス!新しいご当地ヒーローなんだって!」
「すいません、わざわざ…。ご迷惑をお掛けしました…。」
「いえ…。」
ソルワデスはしゃがんで先程母親がしていた撫で方を真似て、少女の頭を撫でた。
「もう迷子になったら駄目だ…ぞ?」
「うん!私、ソルワデス、大好き!またね!ヒーローショー、見に行くね!」
母親と少女は手を振って去っていくのでソルワデスも右平手を見た後、真似て振り返した。少女の姿が見えなくなった後、周りの目を気にしてすぐに天井裏に戻ったが、フォンフェルの姿はなかった。
「フォンフェル?どこに…?」
さっきまでフォンフェルがいた場所に書き置きが置いてあった。ソルワデスは手に持って読む。
「…潤奈たちは買い出しを終えて移動を開始した。駐車場へと戻るべし…か。よし!」
ソルワデスはさっき来たルートを逆走し、駐車場へと向かう。
「…? あれは…?」
駐車場に向かっている最中に道人たちを見つけた。グルーナが頭を下げていて何かを渡していた。
「…? せっかく渡したのに受け取らないのか…?」
少しするとグルーナの差し出した物は受け取られ、受け取った側は喜んでいた。
「…ふむ、私にはよくわからない状況だ…。だが…。」
道人たちや潤奈、グルーナは笑みを浮かべて楽しそうにしていた。
「…きっと、道人たちに良い事が起こったのだろうな…。何だか、道人たちの笑顔を見ると不思議と胸が温かいな…。」
ソルワデスは自分でもわからない温もりを胸に抱きつつも、駐車場に向かう道人たちに合わせて自分も駐車場に向かった。グルーナが運転席に座り、車を発車させる。車が去った後、フォンフェルが姿を見せた。
「フォンフェル、すまない。迷子は無事に母親と合流できた。」
「おぉっ、それは良かったですね。」
「えぇ、おかげで私はご当地ヒーローになれた。礼を言う。」
ソルワデスの言った意味がフォンフェルにはよくわからなかったようで不思議がっていた。
「ちょっとした礼だ。飛行形態になった私に乗るか?」
「えっ?いいのですか?」
「構わない。さぁ、急いで。このままじゃ今度は私たちが迷子だ。」
「ふっ、違いありませんね…。」
ソルワデスは飛行形態に変形し、フォンフェルを乗せて飛んだ。何とか上空でグルーナの車を発見し、追いつく事ができた。
「私にはトワマリーという妹がいまして…。」
「あぁ、私をぶっ飛ばした奴か…。」
「それは申し訳ない事をした…。トワマリーはお転婆な所がありまして、手を焼いているのです。」
「わかる。私にも乱暴な妹がいるからな…。」
「おぉっ、そうでありましたか…!ならば、潤奈たちが目的地に辿り着く前に姉同士で妹談義とでも参りましょうか!」
ソルワデスとフォンフェルは互いに妹の面倒を見る大変さを語り合い、会話が弾んだ。この日、人と話すのが億劫なソルワデスに友達ができた。対等な立場で話せる友達ができたソルワデスは表には出さないが、温かい気持ちに包まれていた。




