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ディサイド・デュラハン  作者: 星川レオ
第3部 多元なるアトランティス
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131章Side:イルーダ 誘いのアトランティス

「な〜んか退屈ですわねぇ〜っ…。またお姉様の所にでも行こうかしら?…なんて。」


 イルーダはキャルベンの宇宙船内の自室にいて、青いワンピースを着てベッドで足をゆっくりバタ足しながら寝転がっていた。イルーダの自室は真っ白な部屋で、ベッドと机、三冊の本、ナイフ、紙とペンしか置いてない部屋だった。


「せっかく得たペットもいなくなっちゃいましたし…。新しいペット作らないといけないですわねぇ〜っ…。う〜ん…。」


 イルーダは新しいペットの事を考えていたら同時に不快な事も思い出した。ミオンとの戦いでペットと一緒にソルワデスも失った事をイジャネラに報告した時の事だった。イジャネラは別に責めなかったが、ソルワデスの妹のグゲンダルが言葉にはしなかったものの、憎しみの眼差しを向けてきていた。


「雑魚のあの眼、不愉快でしたわねぇ〜っ…。妹の方もどさくさに紛れて消そうかしら? …ふふっ、なんて♪」


 イルーダはベッドから起き上がり、椅子に座って机に紙を置いて絵を描き始めた。


(わたくし)の新しいペットはぁ〜っ…逞しい機械の身体で…(わたくし)と同じくらいの強さで、海賊っぽい見た目の…それで、隣に目つきの悪い殿方をオプションに…。」


 イルーダは紙に次のペットの理想像を描いていく。


「そう、確かランドレイク様!後、深也。この方が次の(わたくし)のペットに相応しい!決まりですわ!」


 イルーダは意気揚々と壁にランドレイクと深也の絵を貼り付けた。


「ランドレイク様の良いところはやはり(わたくし)と互角だったあの悪魔の出立ちで…。」


 イルーダは鼻歌混じりでランドレイクの絵を見ながら自分の絵を何度も指差して自己採点をやり始めるが、すぐに飽きて自室を出た。


「暇ですから、お母様のご機嫌取りにでも参りましょうか。」


 イルーダは王室を目指して歩き始める。コールドスリープから目覚めてまだ一週間だが、早くも宇宙船の通路は見飽きてきた。


「…誰っ!?」


 イルーダは何者かの気配を感じ、振り返って天井の剥き出しの鉄パイプ付近にナイフを投げる。謎の影はナイフを回転しながら避け、地面に着地した。


「いやぁっ、お見事!よくぞ私の気配を察知できました!出来の良いお人形だ!」


 首無しピエロはイルーダに向かって拍手した。


「死ね。」


 イルーダは問答無用で両手に持ったナイフを首無しピエロに投げた。首無しピエロは狭い通路の壁を蹴って飛び回り、飛んできたナイフを難なく避けてみせた。


「ははっ、なかなかのナイフ捌きですね…。おっと、これは失礼…。お待ち下さい、私は戦いに来たのではありません…。」


 首無しピエロは上半身を前に倒し、お辞儀をした。


「へぇっ、そんなに汚らわしい殺気を放っておいて戦いに来たのではない?」

「はい、私の名はシャクヤス…。バドスン・アータスの手の者です…。本日はイジャネラ様に用があって参った次第で…。」

「ふーん、用ね…。」


 イルーダは戦闘態勢を解き、ナイフを閉まった。


「バドスン・アータス…。確か、私たちキャルベンの後に地球に攻めて来た異星人…でしたわね。あなた、よくこの宇宙船の場所がわかりましたわね。それどころか、侵入までしてみせるとは…。」

「はい…。何せ私、ピエロなもので…。」


 イルーダはピエロと言われてもよくわからなかったのでスルーする。少し考えて良い暇つぶしになるかもしれないと思い至った。


「…わかりましたわ、シャクヤス。お母様の元へご案内致しましょう…。」

「おぉ!何という寛大さ!ありがたき対応に感謝致します!」


 イルーダはわざとらしいシャクヤスの素振りを無視して王室まで歩き始めた。


「いやはや、あなたはイジャネラ様のご息女であられましたか。くくっ、イジャネラ様によく似て美人であられるのでしょうな…。」

「ふふっ、次その下手過ぎる世辞を言ってみなさい。殺しますわよ?」


 鉄の顔と生身の顔が似ている訳がない。イルーダは笑顔でシャクヤスに警告した後、その後は会話がなく、王室にたどり着いた。


「お母様、愛しのイルーダが参りました。」

「む?おぉっ、入るがよい。」


 イルーダは扉を開け、シャクヤスと共に王室に入った。室内には玉座に座ったイジャネラと頭を垂れたグゲンダルの姿があった。


「あら、グゲンダル…じゃなくて、雑魚。愛しのお姉様は見つかりまして?」


 グゲンダルはイルーダの報告を聞いた後、水縹星(みはなだせい)海岸に急ぎに捜しに行っていた。グゲンダルはソルワデスがいなくなった状況をしつこく聞いて来たので鬱陶しかった。


「…いや、見つかりません…。」

「もう既に息絶えてるかもしれませんわね。」


 イルーダがそう言うとグゲンダルは怒りを抑えてはいるが、イルーダを睨んできた。


「やれやれ…。後、何回雑魚の殺気を当てられるのかしら…?憎むんなら、姉をボコした愛歌とトワマリーとやらを憎みなさいな。」

「…愛歌…トワマリー…。理解…!」


 グゲンダルはイルーダを睨むのをやめ、

下を向いた。


「して、イルーダ。そ奴は何じゃ?」


 イジャネラは早速イルーダの背後にいるシャクヤスを気にしてきた。


「初めまして、イジャネラ様…。私はシャクヤス。バドスン・アータスの新たなシチゴウセンの一人に御座います…。」


 バドスン・アータスの名を聞いたグゲンダルは立ち上がり、イジャネラの前に立って左手のハサミをシャクヤスに向ける。


「ほう?バドスン・アータス…。(わらわ)たちキャルベンの敵がわざわざここまで…。」


 イジャネラはグゲンダルに庇わなくてよいと、首で合図した。グゲンダルはイジャネラの横に立つ。


「して、何用じゃ?まさかたった一人でこの宇宙船に乗り込んで来たのか?」

「はい、私一人に御座います…。」

「ホホッ、なるほど!無謀な馬鹿なのか、それとも持ってきた用事とやらはそれ程の価値があるものなのか…。いいじゃろう、話すがよい。聞いてやる。」


 長話になりそうなのでイルーダは近くの台に座る。シャクヤスは新生バドスン・アータスについて手短に話し始めた。


「ふむ、そもそも(わらわ)たちはダジーラクとやらがリーダーだった頃のバドスン・アータスと言われてもよく知らん。リーダーが変わったところでどうとも思わんな。」


 イジャネラはシャクヤスからさっさと本命を聞き出したいのか、警告する意味も込めて殺気を放ち出した。


「はい、それで我らがヴァエンペラ様はDULLAHAN WARを宣言した身として更なる盛り上がりが必要だと考えまして、こちらをお持ち致しました…。」


 シャクヤスは右手の指を鳴らすと右手にハーモニカが出現した。


「こちら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…。本日はこれをあなた方に…。」


 イジャネラは驚き、玉座から立ち上がった。イルーダとグゲンダルも共に驚く。


「どういう事です!?それを持っているのは我が姉、人魚騎士ミオンのはず!何故あなたがそれを持っているのですかっ!?まさか、あなた、お姉様を…!?」


 自分が姉を敗り去る前にシャクヤスがミオンを倒したのか、とイルーダは怒りの眼差しをシャクヤスに向けた。


「お待ち下さい、人魚騎士ミオンとやらは呑気に日常を過ごしていますよ。これは二つ目のアトランティスに繋がる鍵なのですよ。鍵は一つとは限らないでしょう?スペアキーのようなものです。」


 イルーダは納得がいかない気持ちを抑えてシャクヤスの話の続きを待つ。


「ホホッ、それは面白い話じゃなぁっ!裏切り者の人魚騎士が必死に守っていた鍵には実はスペアキーがあって、そうとも知らずに日夜守り続けていたとは滑稽な話じゃ!じゃが、逆に(わらわ)たちもスペアキーの存在を知らずに躍起になっていた間抜けという事になる…。それはつまらん話じゃ。」


 イジャネラは再び玉座に座った。


「して、そのハーモニカは本当にスペアキーとやらなのじゃろうな?ここまで盛り上げておいて違ったら、お主…只では済まんぞ?」


 イルーダはナイフを、グゲンダルは左手のハサミをシャクヤスに向ける。


「ふふっ、さぁて?私にも本物かどうかは定かではありませんねぇっ…。」

「貴様っ!」


 グゲンダルは左手のハサミからビームを放つ。シャクヤスは縦長い箱を出現させて中に入るが、入った箱は粉々になる。もう一つの箱から姿を現した。


「強いて言うならば、そう…。それは『ユーラ・メーア』から頂戴した物とでも言っておきましょうか…。」


 イルーダは全く聞き覚えのない名前だった。イジャネラもグゲンダルもわからない様子だった。


「ヴァエンペラ様の秘蔵コレクションの一つなのですが、持ってても宝の持ち腐れ…。あなた方に差し上げましょう…。では、私はこれにて…。」

「あ、待て!貴様っ!」


 グゲンダルの静止も聞かず、シャクヤスが指を鳴らすと煙が発生し、姿を消した。


「…くくっ…!…さぁて、しっかりと盛り上げてくれよ…!」


 そう言い残して、床にハーモニカを置いてシャクヤスは去っていった。イジャネラは床にあるハーモニカを拾う。


「…グゲンダル、至急このハーモニカを研究班に持っていき、本物かどうか調べるのじゃ。それから今後の行動を決める…。」

「はっ!理解!」


 グゲンダルは走り去り、退室した。


「…ふふっ!バドスン・アータスの狙いはわからないけど…(わたくし)、ゾクゾクしてきましたわ…!」


 イルーダは自分の身体を力強く抱き締めた。

 

「ホホッ!楽しそうじゃなぁっ、イルーダ。」

「えぇ、お母様!だって、お姉様が今まで守り続けてきたアトランティスへの入り口が最も簡単に封印を解かれてしまうのですよ?その時のお姉様の絶望した顔…!是非とも特等席で見たいですわ…!あぁ〜っ、もう待ち切れない…!どうか、あのハーモニカが本物でありますように!ふふっ…!」


 イルーダはご機嫌になり、王室を退室して自室へと走り去った。

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