131章 突然のさよなら
クロノスフィアアレウリアスに一刀両断を決めたソルクロー・ジークヴァルスVer.Yは三分が過ぎたため、元のジークヴァルとソルワデス、ヤジリウスに戻り、地面に着地した。
「…おっと!平気か、ジークヴァル?」
「す、すまない、ヤジリウス…。」
左腕と右足がなく、倒れそうになったジークヴァルをヤジリウスは急いで肩を貸した。道人とウェント、エタニティアトワマリーたちも続けて地面に着地する。
「俺たち、アレウリアスを倒したのか…?」
「いや…。」
「何…?」
「…確かに私は奴を斬った…。だが、何だ?この違和感と手応えのなさは…?」
ジークヴァルとヤジリウスはそう会話した後、周りを警戒した。
「あーあ、やるなぁ。クロノスフィアアレウリアスはやられたよ。なぁ、アレウリアス?」
ウェントは右の額に手を当てるとボロボロになったクロノスフィアアレウリアスがヒビ割れた道路の下から浮遊してきた。
「あぁ、危ないところだったがな。」
クロノスフィアアレウリアスはさっき飛ばした懐中時計の残りを誘導し、自分に当てた。ボロボロの身体が瞬時に回復する。
「嘘…でしょ…!?懐中時計の余りで回復とか…!?」
「相手に当てたら動きを遅くし、自分に当てると回復するだと…!?」
「あれだけ追い詰めたのに…!?洒落になんない…!」
愛歌は深也と共にデバイスを構え、エタニティアトワマリー、GPダーバラ、ランドレイクは戦闘態勢に入る。
「回復って言うより、アレウリアスだけ時間を巻き戻した、って感じだけどね。さぁて、道人。まだ奇跡を起こせるか?」
「くっ…!?」
道人はメタリー・ルナブレードを両手で持って構えた。ウェントは新たなカードを実体化させる。
「…そこまでにしておけ、ウェント…。…アレウリアス…。」
「…!? この声は…!?」
ウェントのデバイスから聞こえてきた声はかつて戦島で聞いた声、ヴァエンペラのものだった。
「…ディールマーシャルは破壊された…。…もう戦う理由はない…。…シユーザーももう撤退済みだ…。」
「…! 潤奈とグルーナさんがやってくれたのか…?」
道人はそれを聞いて喜ぼうとしたが、情報の発生源がヴァエンペラなので鵜呑みにはできない。後で司令たちに確認を取った方がいいと道人は思う。
「…お前たちも早く撤退するがいい…。…何、もう次の祭の布石は打ってある…。…
お前たちにも後にここよりも更に決戦に相応しい場所を用意してやる…。…楽しみはそこに取っておけ…。…くっくっくっ…!」
そう言うとヴァエンペラは通信を終えた。
「…やれやれ、これでお開きか…。道人たちの奇跡の足掻きをもうちょっと堪能したかったのになぁ〜っ…!ま、ボスの命令じゃ仕方ないか…。これにて、祭は閉幕!またな、道人!帰るぞ、アレウリアス!」
ウェントとクロノスフィアアレウリアスは空を飛び、この場から去ろうとする。
「野郎、待ちやがれ…!」
「待て、ランドレイク!」
ランドレイクがこの場から去ろうとするウェントとクロノスフィアアレウリアスに攻撃を仕掛けようとしたが、深也が止めに入った。
「あいつらのあの余裕…。悔しいが、ここは気が変わらない内に去らせた方がいいぜ…。」
「ははっ!利口だなぁっ、深也は!ま、その方がいいさ…。道人、次に戦う時までにもっと強くなって自分の価値を上げとけよ!それまで取り込まないでやるからさ!じゃ、またなぁ〜っ!」
そう言うとウェントとクロノスフィアアレウリアスはあっという間に姿を消し、この場からいなくなった。道人とトワマリー、ダーバラ、ランドレイクは元の姿に戻り、クジラが深也とランドレイクの前に姿を現す。
「…ふむ。ま、仮試練は合格という事にしておこう。後はランドレイクの前世を思い出せば試練は合格だ。それじゃ、イギリスで待っているぞ。」
「「イ、イギリス!?」」
深也とランドレイクは同時に驚いた後、クジラは姿を消した。
「お、おい、待て!もう合格って事にしてくれたって言いだろうがぁ〜っ…!」
深也はその場に座り込み、落ち込んだ。
ランドレイクは深也の右肩に手を置く。ヤジリウスはジークヴァルを近くの壁を背に座らせた。
「大丈夫、ジークヴァル…?」
道人とヤジリウス、ソルワデスはジークヴァルを心配そうに見る。
「あぁ、大丈夫だ…。苦労を掛けてすまない…。」
「デバイスの中でしばらく休んでなよ、大変だったもんな…。」
「あぁ、そうさせてもらおう…。」
道人はそう言うとジークヴァルの意識データをデバイスに戻した。
「道人、あたし司令や潤奈たちに連絡取ってみるね。」
「あ、うん。頼むよ。」
愛歌はそう言うとスマホでまずは潤奈に連絡を入れた。ヴァエンペラの言う通り、潤奈とグルーナはディールマーシャルを倒してマーシャルを救出できたようだった。その後は街中のバドスン・アータスの兵士たちと戦っていたが、途中で撤退していったという。
最終的にディールマーシャルにディサイド・デュラハンの知恵を植え付けられたのは横島博士と他博士二人と一般女性が一人。このまま放置する訳にはいかないため、スタッフがパークに一旦保護する事になった。
「よし、次は司令たち…っと。」
愛歌は次に司令たちに連絡をする。パーク側に攻めて来たシユーザーたちの事、ディアスが司令とディサイドした事を聞かされた。愛歌もヒューマン・デュラハンの正体、ダーバラとディサイドした事や、ソルワデスが増援に来てくれた事を司令に伝えた。電話越しでも大樹の驚いた大声が聞こえた。愛歌は連絡を終え、スマホをポケットに入れた。
「道人、パークに帰ったらまたみんなで情報共有するために会議をするってさ。潤奈たちにもヒューマン・デュラハンの事を知ってもらわないといけないとだし…。」
「うん、今日一日で色んな事があったからな…。」
「そだね…。」
愛歌と一緒に溜め息をついているとデュラハン・パークのトラックが続々とやって来て博物館に入って行った。博士も未だ目を覚まさない横島博士に肩を貸して博物館から出てきた。
「おぉっ、道人君たち!大丈夫じゃったか?博物館の中からでも大きな音が聞こえておったが…。」
道人たちは博士に簡単にこれまでの話を伝えた。
「なるほどのぅ…。全く、ひどい事をする奴らじゃ…!」
「…あ、そうだ。博士、この剣…。」
道人は右手に持ったままだったメタリー・ルナブレードをどうするか聞いてみた。形は大分変わってしまったとはいえ、元々博物館にあった展示品なのでこのまま持ち出す訳にはいかないと思ったからだ。
「ふむ、そんな事が…。どの道、回収してわしが調べないといかんしの…。わかった、わしらが何とか博物館に掛け合ってみよう。今後の貴重な戦力になるかもしれんしの。」
道人はとりあえず一旦、メタリー・ルナブレードをスタッフに預ける形となった。博物館での戦いの事後処理が始まり、ジークヴァルたちをトラックに積み込む事になった。愛歌はトワマリーの意思データをスマホに戻す。
「み…道、人…。」
ジークヴァルがデバイス内から話し掛けてきた。道人はデバイスを見ると画面がひどく乱れていた。
「ど、どうしたの、ジークヴァル!?」
道人の慌てぶりを気に掛け、ヤジリウスとソルワデスも走って来てジークヴァルが映るデバイスを見る。
「道…人…。私は…。」
「は、博士、大変です!?ジークヴァルのボディが…!?」
道人は慌てるスタッフの方を急いで見た。ジークヴァルのボディに亀裂が入り、胸部装甲が外れて胸のデュラハン・ハートが砕け散った。
「えっ…。」
道人たちは何が起こったのか把握できずに砕け散ったデュラハン・ハートを見る。
「道、人…。すま、ない…。私の…意思、データも…破損して、しまっ…たようだ…。」
「な、何言ってんだよ、ジークヴァル!?」
「そうだぜ、ジークヴァル!しっかりしろ!」
道人とヤジリウスは慌ててジークヴァルに話し掛ける。
「…ソルワデス…君ga、現れたのは…私の代わりに…道人no、ディサイド…デュラハンになる、ため…daった、のkaもしれ…ないna…。」
「そんな…!?私は…!?」
ジークヴァルのデバイスにヒビが入り始める。
「…ハーラimu、ヤジリus…ソルwadぇすぅ…。道…to、ヲ…た、のmu…。」
「ジークヴァル!!駄目だ!?死んじゃ駄目だっ!?」
愛歌と深也、ランドレイクが道人の様子の変化に気づき、急いで走って来る。
「道、to…今まde…ありが…to…u…。」
ジークヴァルはその言葉を最後に画面が暗転。同時にデバイスが砕け散った。道人は涙を流しながら必死で砕けたデバイスを両手で持ち、胸に押し付けた。
「ジ…ジークヴァルウゥゥゥゥゥーーーッ!?」
この日、ディサイド・デュラハンへと転生した一人の英雄ジークヴァルは再び土に帰った。




