128章 D×D DUNAMIS
「いかん!逆さになるぞ、ヤジリウス!」
「な、何っ!?」
迫ってくる宇宙の切れ目に対し、ドラグーンハーライムはわざと逆さになってヤジリウスを落とした。
「お、おおぉぉぉぉ〜っ…!?」
真っ逆さまになって落下するヤジリウスを飛行形態のソルワデスが背に乗せる形でキャッチした。外れた斬撃は電撃を発しながら青空に宇宙の裂け目ができたように残っている。
「さて、祭のフィナーレと行こうじゃないか!ちなみにクロノスフィアアレウリアスの時間切れを待つのは無駄だぜ?リミッター・デストロイは時間切れなしのとっておきのヘッドだからな!」
「おいおい、俺ら全員をまとめて相手にする気かよ?」
深也がデバイスを構えてウェントを睨んだ。
「あぁ、そうさ!来な、道人、愛歌、深也ぁっ!」
「ウェント…!」
実力が未知数のクロノスフィアアレウリアスに対し、警戒してソルワデスたちは道人の近くに着地した。
「上等じゃない!行くよ、トワマリー!」
「トワマリーを援護しろ、ランドレイク!」
リベルテ=イーグルトワマリーは暴走状態となり、クロノスフィアアレウリアスに向かって飛翔した。
「俺にも羽が欲しいぜ、クジラァッ!」
ランドレイクがそう言うと背中にウイングが出現し、空を飛んでリベルテ=イーグルトワマリーを追う。
「…!? 待て、愛歌!深也!迂闊に…!?」
「大丈夫よ、道人!どの道、リベルテ=イーグルトワマリーはもう時間切れが近い…!あいつの手の内くらいは道人たちに見せられるからさ!」
愛歌は電流を辺りに撒き散らし震えるデバイスを抑えながら道人に笑みを浮かべた。
「ランドレイクも同じくだ!仮試練の最後の仕上げを見せてやるぜ!」
「ダーバラ、トワマリーとランドレイクが時間切れになった際のサポートをお願い!あなたはまだ二回ヘッドチェンジできるから!」
「あいよ!」
SWダーバラは愛歌の指示に従い、クロノスフィアアレウリアスとは距離を置いて飛行する。
「道人、私ももう長くはいられない…!私も彼らに加勢するぞ!」
ドラグーンハーライムも空を飛び、竜に変形してクロノスフィアアレウリアスに向かって行った。
「なら、俺はウェントを…!」
「ヒッヒャァッ!」
道人より先にヤジリウスがウェントに向かって突撃した。
「ヤジリウス!?」
「道人、俺が奴の視界共有を妨げる!お前はアレウリアスの野郎への打倒策を考えろ!」
「おやおや、忘れたのか、侍。俺が死んだら豪も死ぬって事を!」
「あぁ、覚えてるぜ!だが、お前はそんな卑怯な手段は取らねぇよなぁっ、リーダーさん!」
「言ってくれる!」
ヤジリウスは拳でウェントに殴り掛かり、ウェントは避けた。そう、ウェントは攻撃を避けようとする。ウェントは正体を明かした時に言っていた。『過去・現在・未来を内包した存在になる』と。つまり、ウェントには現代でやりたい事、生への執着がある。口では豪を盾にすると言っているが、恐らくしないはずだ、と道人は推測した。
「グウゥゥゥゥゥーッ!!」
リベルテ=イーグルトワマリーは両手の鉤爪でクロノスフィアアレウリアスに攻撃しようとする。
「ふん。」
クロノスフィアアレウリアスは周りにシャドールナブーメランを多数展開した。左手にデストラグルランスを持ち、赤い竜巻を発生させる。
「…!? あれは最初に使った…!?さっきの銀河といい…。まさか…あいつ、さっき使ったヘッド全ての能力が使えるのかっ!?」
さっきヤジリウスに放った斬撃もギャラクシーオーバーブレードの能力の延長線上のものだった。クロノスフィアアレウリアスはリベルテ=イーグルトワマリーの近くのシャドールナブーメランを実体化し、背中に当てた。
「ガッ…!?」
「意思を失う代わりに得た力…。確かに強力ではあるが…。私には無力だな。」
「ランドレイク!冷凍ミサイル、ありったけフルバーストだっ!行けぇぇぇぇぇーっ!」
「あいよぉっ!」
深也の指示に従い、ランドレイクは冷凍ミサイルを全弾発射した。
「私も共に!」
ドラグーンハーライムも小型プロペラから緑の竜巻を発射した。
「ふん、ヤケになったか…。」
クロノスフィアアレウリアスは銀河の斬撃で飛んでくる冷凍ミサイルも、緑の竜巻も全て一閃し、斬り落とした。
「行っけぇぇぇぇぇーっ、トワマリー!!」
リベルテ=イーグルトワマリーはランドレイクの援護のおかげで態勢を既に整えており、フェザーグレイブを鞭のようにしてクロノスフィアアレウリアスに向かって投げた。
「あたいも行くよ!」
SWダーバラも先端がドリルの鞭を投げようとしたが、クバリダスが襲ってきて妨害された。
「ちぃっ、邪魔な馬だねぇっ…!」
SWダーバラは鞭攻撃を諦め、クバリダスから距離を置いた。
「ふん、私に当てられたらそれでいいと思ってないだろうな?」
クロノスフィアアレウリアスはフェザーグレイブをわざとデストラグルランスに巻き付かせ、ドリルのように回転。リベルテ=イーグルトワマリーを引っ張った。
「…!? トワマリー、フェザーグレイブを手放して!」
「もう遅い。力を得る代わりに知性が落ちるのも考えものだな。」
クロノスフィアアレウリアスは巻き取られて近づいてくるリベルテ=イーグルトワマリーに対して右手に持った銀河の剣で斬撃を放とうとする。
「させん!」
ドラグーンハーライムがリベルテ=イーグルトワマリーにわざと体当たりし、フェザーグレイブを放させ、クロノスフィアアレウリアスから強制的に引き離す。
「くっ、みんな…!」
こうしている間にも刻一刻とトワマリーたちのヘッドの時間切れが迫る。
「道人、落ち着いて。この中で引き続き奴と戦う事ができるのは私とあの赤い羽のデュラハンだ。私のデバイスを確認してみてくれないか?私にもあるのだろう?ディサイド・デュラハンとしてのヘッドが。」
「…! ソルワデスのヘッド…。」
確かにまだ確認できてなかった。メタリー・ルナブレードを一旦地面に刺し、左腕のガントレットからデバイスを外して確認する。
「よし、今まで開かなかったけど、ヘッド一覧が見られるようになってる…えっ…?」
「どうした?」
「白紙のヘッドばかりだ…。」
「何…?」
道人は何度も画面をスライドするがソルワデスのヘッドパーツが一つもなかった。ソルワデスも近づいて一緒にデバイスを見た。
「何で…?」
『み、道人…。』
その時、ジークヴァルが念話してきた。
「ジークヴァル!?」
道人はジークヴァルがいるはずの博物館入り口付近を見た。ジークヴァルが左腕と右足がない状態で右手に持ったヴァルムンクを杖のようにしてこちらに向かって来た。
「ジークヴァル、駄目だ!安静にしていないと…!」
『わ、私にはまだヘッドチェンジが一回分残されている…。頼む、戦わせてくれ…!』
「でも…!」
「駄目っ!?もう時間が…!?」
愛歌の叫びが聞こえきた。トワマリーとランドレイクが元の姿に戻り、地上に着地した。ダーバラも元に戻る。愛歌のディサイドビーストデバイスが分離し、愛歌の右肩に乗る。
「くっ、みんな…!?」
「人の心配をしている場合か?」
クロノスフィアアレウリアスは油断していたドラグーンハーライムを赤い竜巻を纏わせたデストラグルランスで腹を貫いた。
「がぁっ…!?」
クロノスフィアアレウリアスはデストラグルランスに横に一閃。ドラグーンハーライムは真っ二つになり、道人のスマホに戻った。
「ハーライム…!?」
「駄目じゃないか、道人。ドラグーンハーライムの温存の仕方を完全に間違えたな。」
蝶の羽を生やしたウェントがクロノスフィアアレウリアスの横に浮く。
「…!? ヤジリウス!?」
道人は急いでヤジリウスの安否を確認した。ヤジリウスは地面にうつ伏せで倒れていた。
「どうした、道人?それに愛歌。そのソルワデスって奴とダーバラ先輩はまだ戦えるだろう?早く掛かって来いよ。」
「くっ…!?」
愛歌は急いでダーバラに何のヘッドをつけるのがいいのか必死で考えていた。
「おい、クジラ!?結局、仮試練はどういう判定なんだっ!?返事をしやがれ!」
深也もデバイスに向かって叫んでいた。
「道人、頼む…!私に奴らと戦わせてくれ…!このままではみんな、全滅して…道人、お前はウェントに取り込まれてしまうんだぞ…!そんなのは…私は嫌だっ!!」
「ジークヴァル…。」
ジークヴァルは念話をやめて口にして話してきた。ソルワデスは自分の胸に手を当てて心配そうに道人を見る。
「そんな未来、私は見たくはない…!だから、私は何としても足掻いて、奴らを打倒してみせる…!私は自分の身体がどうにかなる事よりも、今まで経験してきた何気ない日常を失う事の方が嫌なんだ…!こんな状態の私がヘッドチェンジしても、アレウリアスとウェントには敵わないかもしれない…!だが、私は君との、みんなとのこれまでの奇跡を…『ディサイド』を信じている…!」
「…! ディサイド…。」
道人は仮面の下で見えないが、両目から涙が溜まり始める。
「………。」
「…ウェント…?」
ウェントは何も言わずにただジークヴァルの言葉を聞いていた。クロノスフィアアレウリアスはウェントのその様子を見て不思議そうにしている。
「初めて道人と会った時からずっと、私たちはディサイドでどんな困難も乗り越えて来た…!ガイアフレームが力を貸してくれただけじゃない、今までのディサイドはお前が、みんなが自らの力で勝ち得てきたものなんだ…!」
道人の脳内に水縹星海岸、御頭デパート、戦島、今まで経てきたディサイドの記憶が蘇る。
「だから、今度も…!ディサイドは必ず私たちに応えてくれる…!ディサイドは絶対に私たちを裏切らない!だから…私を信じてくれ、道人っ!!」
「ジークヴァル…。そうだ、俺は…!」
「道人ぉっ、成長したお前の姿を俺に見せてくれぇぇぇぇぇーっ!!」
「…えっ…?」
ウェントが急に道人に激励の言葉を投げてきた。ウェント本人もクロノスフィアアレウリアスも驚いている。
「な、にっ…!?」
ウェントは焦って口を右手で抑えた後、左手でサムズアップした。ウェントは右手で必死に左手を抑えた。
「…父、さん…?」
道人はウェントに父の面影を見た。
「道人、ジークヴァル…。あなたたちのディサイド、不思議だ…。何故だか、すごく…心地が良い…。道人、私も…あなたと…そんな関係に…。」
ソルワデスが感銘を受けたその時だった。ジークヴァルとソルワデス、二人のデバイスから光が溢れ出し、カードが一枚実体化し、道人の目の前で浮いた。
「これって…?『D-DUNAMIS』カード…?」
「…! 道人、それをデバイスに…!」
「…ははっ、確かに起きたみたいだね、新たなるディサイドが!」
仮面の下で見えないが、道人は笑みを浮かべ、カードを手に持った。手に持った瞬間、D-DUNAMISカードがどんなものなのか、情報が流れ込んできた。
「すごい、たくさん効果がある…!?あり過ぎて全部は、把握し切れないけど…!」
道人はその中で適したもののビジョンが脳裏に浮かんだ。
「そう、合体…!まずは新たな合体だぁっ…!行くぞ、ジークヴァル!ソルワデス!」
「おう!」「えぇ!」
「一枚目のD-DUNAMISよ、デバイスを納める器となれ!」
道人がそう言うとD×D DUNAMISカードは一瞬で愛歌、深也、道人の二つのデバイスにカードをスラッシュし、消滅した。
「えっ?何…?何なの?」
「俺たちも…?」
「あぁ、そうだ…!これは俺たちの…今、この場にはいない人たちも、皆で作るディサイドだ!」
道人の左手にディサイドシールドが出現し、道人がそれを持つとデバイス二つがシールドの内側に装着された。道人の鎧が銀から金に変化する。
『D×D DUNAMIS』
「二つのディサイドよ、一つとなれ!」
ジークヴァルを乗せたソルワデスは空高く飛び、バラバラになった。ジークヴァルの右腕左足が外れ、ソルワデスのパーツが変形して合体していく。両肩にキャノンを乗せ、巨大な盾のパーツがついたジークヴァルとなった。
「頭着っ!!」
ジークヴァルは新たに現れたヒレと角のついた頭パーツが待ち切れず、自分で掴んで頭着した。
「ディサイド×キャルベン!友好合体!ソルクロー・ジークヴァルス、ここに邂逅!!」
ソルクロー・ジークヴァルスは宙に浮かび、クロノスフィアアレウリアスと相対した。
「ジークヴァルとソルワデスの新たな合体…。」
「すげぇっ…!」
「ひゅ〜っ…!見せつけてくれるじゃないのさ!」
愛歌と深也、ダーバラは新たなる希望の姿を見て感激した。
「おい、緑野郎はお役御免なのかよっ!?」
起き上がったヤジリウスがハーライムを気遣って思わず道人に突っ込んできた。
「安心しろ、ヤジリウス。この合体はパーツ付け替えによる合体…。ここから更にドラグーンハーライムとの合体も可能なんだ。不必要な存在など、ディサイドにはないっ!!」
「マジかよっ!?」
道人の力強い断言にヤジリウスは思わず驚いた。
「…ははっ!はっはっはっはっはっ…!これだよ、こういうのを待ってたんだ…!これがヴァエンペラたちが恐れたディサイドの無限の可能性か…!やっぱりお前は最高だよ、道人ぉっ!!」
道人は空を飛び、ソルクロー・ジークヴァルスの隣まで移動した。
「ジークヴァル、ソルワデス…。父さんが…父さんが俺のために…。」
「あぁ、道人のために強い意思を示してくれた…。私と道人の想いが、ディサイドが奇跡を起こしたんだ…!」
「父さん…ありがとう…!久々の応援、嬉しかった…!わかったよ、父さん…!見ててくれよ、俺の成長を、俺たちの未来を…!」
道人とソルクロー・ジークヴァルスは今、倒すべき者たちの姿を見て武器を構えた。




