126章Side:愛歌 双翼で包む愛情
「さァッ、全てを思い出す前二成仏なさイ、ルアンソン！」
チェーンカッタールアンソンに向かって飛翔するリベルテ＝イーグルトワマリーは両手の鉤爪で罰の字に引っ掻くが、チェーンカッタールアンソンは断頭剣の刀身部分で受けて防御し、後ろに下がった。
「さぁ、こっちへいらっしゃいな！」
リベルテ＝イーグルトワマリーと共に飛んで来たSWダーバラは小型ブースターで加速し、チェーンカッタールアンソンの背後に回る。SWダーバラは先端に薔薇の形のドリルがついたトゲ付き鞭を振り回した。
「面倒だが…待っていろ、ルアンソン！」
ハクヤはSWダーバラの鞭の範囲に敢えて飛び込んだ。
「何だい、こいつ！？鞭を恐れずに来るなんてさぁっ！」
「ダーバラ、攻撃を止めてハクヤから離れて！」
愛歌の指示に従い、SWダーバラは鞭を振り回すのをやめて上空に飛翔する。
「ごめん、ダーバラ！ハクヤたちはヒューマン・デュラハンって言って、ハクヤが死んだらお父さんも死ぬ事になってるの！言わば、動き回る人質！だから、気をつけて戦って！」
「何だってぇっ？…なるほど、シユーザーの奴の差し金かい。かぁ〜っ…！相変わらず悪趣味な奴だねぇ〜っ、あいつは！」
愛歌の言う事を理解したSWダーバラは一旦、愛歌の前まで飛んで着地した。三分が過ぎたのでルアンソンは元の姿に戻り、ハクヤはデバイスを構えてルアンソンの隣に立ち止まる。
「そうだ、愛歌。例えディサイド・デュラハンが二体になったからと言って我らの人質戦法に変化はない。行くぞ、ルアンソン。」
ハクヤは新たなカードを実体化し、デバイスに読み込ませた。
「ヘッドチェンジ、ジャッジメントバーテンダー。」
ルアンソンはその名の通り、バーテンダーのような見た目になり、肩から紫のローブをかける。宙にコップを三つ浮かせ、右手にカラフルジャムシューターを持つ。
「おやおや、何だい？あたいたちに出会いのカクテルでも作ってくれるのかい？」
「…私ニ対して飲み物とカ…。嫌がらせにも程がなイ、ルアンソン？」
リベルテ＝イーグルトワマリーも愛歌の側に着地した。トワマリーは前世で飲み物でルアンソンに嵌められたため、嫌悪感を示す。
「愛歌、俺がお前に繋がりを断つ別れの一杯をくれてやろう。」
「はいはい、そうですか。絶対にそんな事にはさせないから安心してよ。」
愛歌にもうハクヤの精神攻撃は通用せず、受け流してみせた。
「それではミーのシェイクをお見せしましょう！」
「あたいたち二人を相手に作れるもんなら、作ってみなよ！行くよ、トワマリー！」
「うン、ダーバラ！」
SWダーバラは周りに扇状のビーム刃がついた鉄扇を五つ展開し、その内の一つを手に取ってJBルアンソンに斬り掛かる。
「せっかちなお客さんだ。ハクヤ、頼みます。」
「あぁ。」
JBルアンソンはバックステップを踏みながら一つのコップを手に取ってボタンを複雑に操作しながらカラフルジャムシューターをコップに注ぐ。ハクヤが格闘の構えを取り、SWダーバラの斬撃をその身に受けようとする。
「随分積極的に関わってくる人質だよ、全く！愛歌を悲しませる奴は例え父親でも許せないね！」
SWダーバラは鉄扇を閉じて地面に着地する。しゃがんで持ち前の大きな翼でハクヤの足を引っ掛け、地面に倒した。
「頼んだよ、トワマリー！」
「ありがとウ、ダーバラ！ルアンソン、覚悟ォーッ！」
リベルテ＝イーグルトワマリーは野生を解き放ち、ピンクのオーラを発して咆哮しながらJBルアンソンに向かって飛ぶ。
「できましたよ、トワマリー！ミーのとっておきのカクテルがね！」
JBルアンソンはシェイクした後、指を鳴らす。出来上がったカクテルが入ったコップを巨大化して四つに増殖し、コップの中から液体が形になってドロドロのドラゴン四体を作り出した。
「ガアァァァァァーッ！！」
リベルテ＝イーグルトワマリーは暴走状態でドロドロドラゴンを鉤爪で引っ掻くが、液体でできたドラゴンのため、攻撃はすり抜けた。
「トワマリー、駄目！意識を取り戻して！」
「遺跡での戦いから何も進歩がないな、愛歌。」
ハクヤは電流を放ち、振動するディサイドビーストデバイスを抑えるのに精一杯な愛歌に攻撃を仕掛けるために走る。
「そうかい？あたいって言う進歩があると思うけどねぇ。」
SWダーバラは小型ブースターで高速飛行し、ハクヤよりも早く愛歌の元に着き、愛歌をお姫様抱っこして飛び上がる。デュラハンであるSWダーバラならデバイスの電流に耐えられる。
「あたいが寄生ヘッドをつけられて戦わされていた時の事、覚えているよ。あのビーストヘッドって奴が暴走状態になると愛歌は身動きが取れなくなるんだろう？ま、今度からはあたいがこうやって愛歌を抱えて飛べば問題ないさね。」
「…！ ありがとう、ダーバラ！」
「ふむ…。しかし、愛歌。髪伸びたねぇ。何？御粧かい？」
「これは制服を着てる時だけのウィッグ！もう！そういうのは後、後！トワマリー！」
愛歌の声がやっと届き、リベルテ＝イーグルトワマリーは正気に戻った。
「うワッ…！？何？このドロドロ！？近寄らないでヨォ〜ッ…！」
リベルテ＝イーグルトワマリーはフェザーグレイブを鞭形態に変えてドロドロドラゴンが近寄れないように振り回すが、ドロドロドラゴンに物理攻撃は効かない。
「苦しんでますねぇっ、トワマリィ〜ッ…！さぁ、次なる裁きもそろそろ出来上がりますよ！」
JBルアンソンは既に新たなカクテルの制作に取り掛かっていた。
「ったく、厄介なヘッドだねぇ〜っ…！三分間だけとは言え、仲間をどんどん増やせるってのかい…！材料の液体の種類がわからない以上、効果は未知数だねぇ〜っ…。」
「とにかく、奴にこれ以上カクテルを作らせない！それだけは単純明快よ！」
「そりゃそうさね！」
SWダーバラは愛歌を一旦地面に着地させ、JBルアンソンに向かって飛ぶ。
「あたいの鉄扇乱舞、受けてみなぁっ！」
SWダーバラは両手にビーム刃の鉄扇を持ち、周りに浮く残り三つの鉄扇と共に舞うようにJBルアンソンに斬撃を与えていく。
「くっ、ミーのジャッジメントシェイクを邪魔するなぁっ！来い、ミーのカクテルドラゴンたち！」
「無駄ヨ、ルアンソン！ソニックブームならァッ！」
リベルテ＝イーグルトワマリーは胸の鳥の顔の口からソニックブームを放ち、ドロドロドラゴンの身体を波打たせ、辺りにドロを撒き散らしながら徐々に水分を散らせていく。
「効果はあるけド…時間掛かるなァッ、この方法…！」
ドロドロドラゴンの一体がとなりのドロドロドラゴンと合体し、一回り大きくなってリベルテ＝イーグルトワマリーのソニックブームに耐えながら前進してきた。
「合体とかもできちゃっテ！」
リベルテ＝イーグルトワマリーはソニックブームを止め、高く飛翔した。JBルアンソンは未だにSWダーバラの斬撃の舞に苦戦していた。断頭剣を手に持っていて刀身で斬撃を防いでいた。
「待っていろ、ルアンソン。」
ハクヤはまた自分の身の事など気にせずにSWダーバラの斬撃の舞の中に飛び込もうとする。
「パパァッ！あたしは誰っ！？悪戯好きのお狸さんか、お狐さんかぁっ！？」
愛歌はハクヤに向かって走り、友也との思い出のやり取りを咄嗟に投げかけた。
「…私にこんな事が、できる人は…。」
「そう、この世でただ一人ぃっ！」
「…！？ な、に…？」
愛歌はハクヤが父との思い出のやり取りを覚えていた事に笑みを浮かべ、タックルを喰らわした。
「お前…！？」
「今よ、トワマリー！」
愛歌はこのタイミングでリベルテ＝イーグルトワマリーを暴走させ、ディサイドビーストデバイスから電流を放ってハクヤを吹っ飛ばした。
「ハアァァァァァーッ！！」
リベルテ＝イーグルトワマリーは野生化し、ドロドロドラゴンを無視してJBルアンソンの元へと飛ぶ。
「あたいを間違えて攻撃すんじゃないよ、トワマリー！」
「ガァァァァァーッ！！」
リベルテ＝イーグルトワマリーはJBルアンソンを右鉤爪でアッパー攻撃を喰らわした。
「がはっ！？」
「よしよし！魅せつけるよ、あたいら二人の美しさを！」
SWダーバラはJBルアンソンの周りを回転しながら、リベルテ＝イーグルトワマリーに攻撃が当たらないように的確にビーム刃の鉄扇と鞭をJBルアンソンにのみ当てていく。
「さ、裁き…捌き切れないぃ〜っ…！？」
リベルテ＝イーグルトワマリーは鉤爪で何度もJBルアンソンを殴りまくる。
「ルアンソン！ちぃっ、面倒くせぇ…っ！」
ハクヤは立ち上がり、近くにいる愛歌に襲い掛かる。
「大丈夫…！掛かって来ても、制服バリアなら少しの間は耐えられるんだからっ！」
愛歌の言う通り、ハクヤはディサイドビーストデバイスから発する電流と制服バリアで愛歌には容易く近寄れない。
「調子に乗るなよぉっ、女王陛下ぁぁぁぁぁーっ！！」
JBルアンソンは猛攻を喰らいながらもカクテルを完成させ、指を鳴らす。増えたコップから液体が広がり、JBルアンソンは全身を球体ゼリーに包んだ。
「何だい、こりゃあっ！？攻撃してもまるで手応えがない…！ちぃっ…！」
SWダーバラはJBルアンソンへの攻撃を諦める。リベルテ＝イーグルトワマリーが正気に戻る事を見越して愛歌の元へ飛ぶ。愛歌をお姫様抱っこして飛翔した。
「ガァッ…っテ！打撃の手応えが全くなイ！？」
正気に持ったリベルテ＝イーグルトワマリーはゼリーに包まれたJBルアンソンに不気味さを感じ、距離を取った。
「…ふぅっ、危なかったぁっ…！危うく死ぬところでしたよ…。」
JBルアンソンは地面に着地し、全身を包んでいたゼリーはドラゴンの形になって分離する。ハクヤはルアンソンとドロドロドラゴンたちと合流。愛歌たちもリベルテ＝イーグルトワマリーと一旦合流し、睨み合いを始めた。
「…愛歌、俺は正直驚いている…。信じられない…。さっきまでの腑抜けていた奴と同一人物とは思えない…。」
「当たり前じゃない！今まであたしたちが積み重ねてきたものが、仲間たちが、人との繋がりがあたしに無限の勇気を与えてくれる、支えてくれる…！もう絶対に折れたりなんかしないんだからっ！」
愛歌は左手でハクヤを指差した。
「ハクヤ、あたし確信したよ！あたしのパパとの思い出のやり取りがあなたには通じて、反応を返した！あたしの言葉は、想いは、どこかにいるパパに絶対に通じてる…！だから、あたしはもうあなたの煽りには乗らない！本物を知ったから、本物の繋がりを確認できたから…！」
愛歌の言葉をハクヤは無表情で聞いている。
「だから…！待っててね、パパ…！絶対に元に戻してあげるから…！絶対に…！」
