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ディサイド・デュラハン  作者: 星川レオ
第1部 始まりのディサイド
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17章 ライムの葉が舞う、霧幻の刃

「潤奈さん、道人を頼む。」


 ハーライムは潤奈の近くに寄り、抱えていた道人を地面に下ろして寝かせた。


「…道人、待ってて。今、治癒を…。」


 潤奈は発光した両手を道人の出血した頭部に当てた。すぐに傷が塞がっていく。ハーライムは道人に背中を向け、ラクベスを見る。


「ハーライムが、現実に…?」

「道人、君とこうやって現実で会えて嬉しいが、話は後だ。私が実体化できる時間は限られているようだからな。」


 潤奈は道人の頭を治し終え、次は右手に光を当てた。


「ハーライム先輩…!」

「ジークヴァル、画面越しでも思ったが、先輩呼びはよしてくれ。呼び捨てで構わない。」

「わかった、ハーライム!頼む…!道人たちを守ってくれ…!」

「当然だ、友よ!」


 ハーライムは両刃の斧を出現させ、ラクベスに斬り掛かった。ラクベスは左腕で斧を受け止める。


「ナンダオマエ!?イトニモドレ!」


 ラクベスは力強く右拳をハーライムに叩き込むが、ハーライムは軽くジャンプし、ラクベスの右拳を右足でタイミングよく蹴り、着地した。


「お前こそ、幼虫に戻ったらどうだ?」


 ラクベスが自分の足元の地面を拳で抉り、水晶の破片をハーライムに飛ばす。ハーライムは両刃の斧をプロペラ回転させてそれを弾く。


「よくも我が主君を(はず)かしめてくれたな!それに怪我まで負わすとは許さん!」


 ハーライムは突撃し、両刃の斧を振り回してラクベスを何度も斬った。両腕を交差して防御するラクベス。


「コイツ、イガイトヤル!」


 潤奈は道人の左手も治し、道人は怪我を完治した。潤奈は額の汗を右手で拭った。


「…良かった、道人。もう大丈夫だよ。」

「ありがとう、潤奈。」


 道人は立ち上がり、緑のストラップのついたスマホを確認し、操作した。


「どうだ、道人?」

「…どうやら、ハーライムをヘッドチェンジさせる事はできるみたいだ!よし、行くよ、ハーライム!」

「OK!いつもの感じで行こう、道人!」


 ハーライムは連続斬りを止め、両刃の斧をブーメランのように投げた。ラクベスの腹に激突し、よろける。


「ヘッドチェンジ!ダブルブーメラン!」


 ハーライムにV字マークのついた頭がつき、両手に両刃のブーメランを持った、ゲームの時と同じ姿になった。右手に持ったブーメランを即座に投げたが、ラクベスは左手で振り払った。


「キカナイ、キカナイ!」


 ラクベスは両拳同士をニ回ぶつけて、突進の体勢を取るが、前にハーライムの姿にはなかった。


「ン?ドコイッタ?」

「上だぁぁぁーっ!」


 ハーライムは最初のブーメランを投げた後、すぐに高く跳躍し、斬り下ろす体勢を取って落下。もう片方のブーメランでラクベスの胸を右斜めに斬った。ニ日前の大樹との対戦の時と同じ戦法だ。


「グオォッ!?」

「まだまだぁっ!」


 ハーライムは近くの地面に刺さっていた自分の両刃の斧を拾って今度は左斜めに斬った。ラクベスの胸から煙が出て、右手で胸の顔を抑えた。


「モウオコッタ!コレ、ツカウ!」


 ラクベスは頭を新たに出現させ、今つけている頭を外して装着した。クワガタのようなニ本の角を生やした頭になり、両手に双剣を持った。


「クラエッ!」


 ラクベスは力強く罰の字に双剣を振り、罰の字の斬撃がハーライム目掛けて飛んでいく。ハーライムは何とか横に側転してかわす。

 壁に罰の字の傷がつき、水晶の破片が舞った。


「おっと、これは…まずいな…!」


 ハーライムの右腕が消えかかっている。消滅の時は近い。


「ハーライム!くそっ、早いとこ、あのカブトクワガタを何とか倒さないと…!」

『あ、主…。』

「…!? フォンフェル?」


 目を覚ましたフォンフェルは潤奈に念話をしてきた。道人も潤奈の方を見た。


「…フォンフェル、もう大丈夫なの?」

『はい、もう発作は(おさ)まりました。行けます…!』


 フォンフェルは立ち上がり、一瞬で潤奈の所まで来た。


「主、指示をお願いします。今ラクベスと戦っている彼が何者なのかは私は知りませんが、彼はやられた私に代わって主たちを守ってくれた…!加勢して恩を返したい!」

「…フォンフェル…。うん、そうだね!」


 潤奈はフォンフェルの気持ちを理解し、デバイスを構えて道人を見た。


「…ねぇ、道人。さっきは私を助けてくれてありがとう。ラクベスから必死で私を助けようとしてくれた道人は勇敢でかっこよかったよ。」

「う、うん…!」


 道人は頬を染め、照れ臭くて左手の指で頬を掻いた。


「…道人も、ジークヴァルも、フォンフェルも、ハーライムも諦めずに困難に立ち向かう姿は私にも勇気をくれる…!私もああなりたい!道人は私を悲しませない、守るって言ってくれたけど、私もそう!私も道人を守る!みんな、みんな守りたい!もうバドスン・アータスから何も奪わさせてたまるもんかっ!」


 その時、潤奈の決意にデバイスが反応し、画面が光り始めた。生き生きとした、力強い輝きを。


「…これって…。」


 デバイスに新たなヘッドパーツが表示され、カードが実体化する。


「潤奈、やった!ディサイド・ヘッドだよ!」

霧幻(むげん)…。うん!やった!フォンフェル!」

「準備はできております、主!」


 潤奈はカードをデバイスに読み込ませる。


『ディサイドヘッド、承認。この承認に問いかけは必要ありません。』


 フォンフェルに新たな白い忍者の頭がつき、黒いマフラーが巻かれる。大きな手裏剣がニつ付いた肩パーツが装着され、腰には四つの巻き物がつき、ビームカタナを両手に持った姿になった。


「フォンフェル【霧幻】、推参!」


 フォンフェル【霧幻】はハーライムとラクベスが鍔迫り合いをしている最中に乱入し、ラクベスに飛び蹴りを喰らわせた。


「横槍!」

「グオォッ!?」

「助太刀致す!」

「感謝する、くの一殿!こちらももう時間がない!一気に蹴りをつけよう!」

「御意!」


 フォンフェルは両肩の巨大手裏剣を肩から外し、ラクベスの元へ飛ばした。ラクベスの周りを巨大手裏剣が舞う。


「ムダダ!オレノソウコウニ、キズヲツケルノハフカノウ!」

「それはどうでしょう…?もうあなたの弱所(じゃくしょ)は把握済み…。あなたのプライドも傷つけましょう!主、手裏剣は任せます!」


 潤奈はデバイスで巨大手裏剣を操作し、ラクベスをその場で動けなくし、フェルフェル【霧幻】はビームカタナを収納し、腰の巻き物を開き、宙に浮かせて両手で印を結ぶ。


「旋・烈・疾・神・銀・雷・河・風!はっ!」


 フォンフェル【霧幻】が両手を前に出し、ラクベスを竜巻の中に閉じ込める。


「あなたはもう、刃のミキサーから逃れられない!」

「なるほど、そういう事か!ダブルブーメランもおまけだ!」


 フォンフェル【霧幻】の意図を理解したハーライムはダブルブーメランも竜巻の中に投げた。ラクベスは竜巻の中で手裏剣とブーメランで何度も斬り刻まれた。


「グオォォォォォ〜ッ!?」

「よし、とどめだ!くの一殿!」

「御意に!」


 竜巻が消え、ハーライムは斧で、フォンフェル【霧幻】はビームカタナ二本で、潤奈は手裏剣二つを操作してラクベスを斬撃。ラクベスの頭の角二本、胸のカブトムシの顔の角がへし折れ、全身擦り傷だらけで倒れた。


「グアァッ…!?ツヨイ…。」


 フォンフェル【霧幻】とハーライムは地面に己の武器を刺した後、ハイタッチをした。


「…やった…。」


 道人と潤奈は笑みを浮かべ、互いに見つめ合った。


「や、やったぁーっ!勝った、勝ったぁっ!はっはっはっ!」

「…うん!やったね!」


 道人はあまりの嬉しさに潤奈の腰を両手で持って持ち上げ、その場で何回かゆっくり回転した。


「見事なコンビネーションだったぞ、フォンフェル!ハーライム!」

「ありがとう、ジークヴァル。」


 そう言うとハーライムは消え始める。


「…ここまでのようだ。また会おう、道人。ジークヴァル。くの一殿も、また…。」


 ハーライムは小さな光になり、道人のスマホに戻った。


「ありがとう、ハーライム…。」


 抱えていた潤奈を下ろし、道人はデュエル・デュラハンのホーム画面のハーライムを見た。フォンフェル【霧幻】は手裏剣を投げ、瓦礫で塞がっていた出口に穴を開けた。


後顧(こうこ)(うれ)いは絶っておきましょう。ラクベスにとどめを。」


 【霧幻】が時間切れになる前にラクベスにフォンフェル【霧幻】は近づこうとするが、いきなり光弾が飛んできた。


「何奴!?」


 マーシャルがラクベスの近くに急に現れた。


「ラックシルベの反応があったので来てみたら…。ラクベス様、大丈夫ですか?」

「ウッ、マーシャル…。」

「ラクベス様をここまで傷つけるとはやりますね、道人。 …!?」


 マーシャルは潤奈を見た途端驚愕した。潤奈もマーシャルを見て驚いている。


「…生きていたんですね、()()()…。」

「…マーシャル…。」

「えっ?ね、姉さん?」


 道人は潤奈とマーシャルを何度も見た。マーシャルはその後、言葉は発さずにラクベスと共に消えた。


「潤奈とマーシャルが、姉妹…?潤奈、君は…?」

「…道人、決めた。少し休憩したら、博士たちに会いにいく。だから、マーシャルとの関係はそこで話させて、道人…。」


 潤奈の決意に満ちた表情を見て、道人は笑みを浮かべ、頷いた。


「…わかった。僕は潤奈を信じる。だから、今は何も聞かない。それでいいよね、ジークヴァル?」

「あぁ、道人の意思を尊重しよう。」

「…ありがとう、道人。ジークヴァル。」


 道人と潤奈はその場で座り、やっと静かになった洞窟で気を休めた。

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