125章Side:潤奈 忍術と撮影の救出劇
地響きを鳴らしながら街中を歩くディールマーシャル。潤奈たちはマーシャルを人質として見せつけられてもめげずに駆け出した。シャドーフォンフェルは進行を阻止するため、刀や巨大手裏剣でディールマーシャルの注意を逸らしていた。
「そろそろ三分!SLDが消える前にやる事がある!でしょ、ルレンデス!」
「うん、グルーナの言う通り!」
SLDルレンデスはディスクシューターについたディスクを裏面に変えて射撃モードにした。
「行けぇっ、ディスクシュート!」
SLDルレンデスは光の刃を纏い、回転したレーザーディスクを打ち出した。
「もう一つ!」
肩に残っていたもう一つのレーザーディスクも裏面でセットして放つ。二つのレーザーディスクはディールマーシャルの両足のふくらはぎに当たり、火花を散らす。ディールマーシャルは一旦立ち止まり、レーザーディスクを取ろうとする。
「取ろうとしても無駄よ!もう消えるし!」
三分が経ち、フォンフェルとルレンデスは元の姿に戻った。二つのレーザーディスクも消えるが、ディールマーシャルのふくらはぎに切れ目を入れる事はできた。
「よし、潤奈!次のヘッドチェンジは?」
「…ダンゾウヘッドで行こうと思います!」
「OK!確か幻想見せる系よね?私も合わせるわ!」
潤奈とグルーナがカードを実体化させた瞬間、ディールマーシャルが両腕を前方に飛ばした。
「急に何っ!?誰に攻撃を…!?」
「う、うわぁっ…!?」
ロケットパンチが向かう先はビルの屋上。首無し兵士四人が博士二人を捕らえていた。ディールマーシャルはその博士二人を掴んだ後、両手を元に戻して博士二人に文字情報を流し込んだ。
「何つー手際の良い受け渡し方法だ事…!」
ディールマーシャルは気絶した二人の博士をポイ捨てした。
「…しかも、雑に扱ってもこっちが助け出すと思って下手に出て…!お願い、アヤメ!」
「キャロルナも行って!」
潤奈はスマホからデュエル・デュラハンのアヤメを実体化させ、キャロルナと共に放り投げられた二人の博士を無事にキャッチした後、近くのビルの壁を背にして座らせた。フォンフェルが一瞬で移動し、二人の博士の顔を確認した後、すぐにディールマーシャルの元へと戻った。
「潤奈、あの二人の顔は私が記憶しました!」
「…ありがとう、フォンフェル!」
今の所、知恵を与えられたのは横島博士を除くと博士二人と女性一人。ディサイド・デュラハンの知恵を与えられてしまった以上、この戦いの後にパークへ連れて行く必要があるため、フォンフェルやルレンデスのメインカメラに顔を記憶してもらう必要があった。
「…これ以上、もう誰にも知恵を植え付けさせてたまるもんか…!」
潤奈とグルーナは共にさっき実体化させたカードをデバイスに読み込ませた。
「ヘッドチェンジ!ダンゾウ!」
『あなたは例えどんなに高い壁にぶつかっても諦めずに飛び越える自信はありますか?』
「…もちろん!」
『承忍。』
「ヘッドチェーンジ!イリュージョンプロジェクター!」
『あなたは撮影の最中にトラブルが起こっても動じませんか?』
「動じるに決まってんでしょ!大事なのはそこからどう立ち直すかよ!」
『承認。』
フォンフェルはダンゾウフォンフェルの姿に変わる。ルレンデスは両肩に二門のプロジェクターをキャノン砲のように乗せ、ダイヤルのついた胸当てとベレー帽のような頭を装着する。潤奈はスマホを操作し、アヤメにローブを着た姿となる頭を装着した。
「さぁ、ルレンデス!私を撮りなさい!」
グルーナはそう言うとポーズを決める。不思議と周りがキラキラしているように見える。
「別にポーズを取る必要はないんだけどな…。でも、グルーナが被写体なら自然と僕も拘れるっ!」
IPルレンデスはそう言うと両肩の二門のプロジェクターを発光させてグルーナの周りを二周した。
「はい、カット!撮影完了!それ、行け!影のグルーナ軍団!」
IPルレンデスが両手を前に出すと二門のプロジェクターが地面に光を照らす。照らされた光から影でできたたくさんのグルーナがディールマーシャルに向かって走って行く。
「さぁて、私も張り切って描きまくるよぉ〜っ!」
キャロルナもでかい筆で宙に魚のマンタの絵を完成させては実体化させる。ダンゾウフォンフェルはディールマーシャルの眼前まで跳び、手裏剣を投げまくる。
「…!? いけない!〈博士〉、ここから離れて!」
ダンゾウフォンフェルは指を鳴らしながら左手を横に振り、早くその場を離れるように指示した。
「せっかく、さっき逃げられたのに何故戻って来たんですかっ!?」
ターゲットである博士の名前を聞いたディールマーシャルは足元を見渡す。足元には影のグルーナがたくさんうろちょろしている。
「さすが、グルーナ!博士を何とか隠せたね!」
「ふふん♪さぁて、どう?むっつり君?本物の博士を捜し当てられるかしら?」
グルーナの挑発に怒りを感じたのかディールマーシャルは中腰になってまるでヒヨコのオス・メスを見分ける職人のように影のグルーナを掴もうとするが、影なので掴めない。キャロルナがグルーナの側に立ち、無言でサムズアップし合った。
「…!? 潤奈、早まっちゃ駄目よ!」
グルーナの焦りようを見てディールマーシャルは潤奈を捜す。
「早く逃げて、〈博士〉!」
ダンゾウフォンフェルは指を鳴らしながらディールマーシャルの顔に手裏剣を投げまくる。
「…こっちです、早く…!」
潤奈は遠くで博士の手を繋いで走っていた。ディールマーシャルは身体をバラバラにし、潤奈の元まで飛んだ。
「馬鹿ね、掛かったぁっ!」
「保険も掛けとくよ、グルーナ!」
IPルレンデスは宙に浮かせていた二つのフィルムを飛ばした後、グルーナとキャロルナと共に走る。ディールマーシャルのパーツと共にマンタとフィルムを飛ばしていて、合体の際に接合部分にマンタとフィルムが入り込み、合体に失敗した。ディールマーシャルはバランスを崩して地面に崩れ落ちる。
「うまく行きました…!見たか、拙者のディスガイズローブヘッドの変装を!」
アヤメは布を脱ぎ、元の忍者の姿に戻った。アヤメに先程パークに逃げてもらった博士に化けてもらったのだ。スマホの中にいてもこちらの状況がわかるデュエル・デュラハンだからこそできる技だった。
「…箱買いのおかげだね…!」
ディスガイズローブヘッドは大神がくれたデュエル・デュラハンのカードパックBOXに入っていたヘッド。言わば、これはみんながくれた力なのだ。
「…でも、問題はここから…!行くよ、アヤメ!」
「はい!」
DRアヤメは潤奈を抱えて走る。潤奈はスマホを操作し、アヤメの頭をワープヘッドに変えた。ディールマーシャルは頭と胴体、右腕の状態で地面に立っている。キャロルナは先程、レーザーディスクで斬ったふくらはぎを実体化させたソードフィッシュ二体で執拗に攻撃し、破壊していく。
「ルレンデス、今です!〈キャノン〉を放ちなさい!」
ダンゾウフォンフェルは指を鳴らしながら左手を横に振った。IPルレンデスはディールマーシャルの前に立ち、両肩のプロジェクターを向ける。
「喰らえっ!」
ディールマーシャルは焦り出し、咄嗟に胸を開いて囚われたマーシャルを見せつけた。電子ケーブルの先に光を溜め始める。
「…あなたなら、保身のためにマーシャルを見せつけると思ってた…!」
「わざと右手だけは合体させたのよ!さぁ!行って、潤奈!」
潤奈はワープヘッドアヤメと共にディールマーシャルの片方だけ開けられた胸元に飛び込んだ。
「…マーシャル…!」
潤奈はマーシャルを思いっ切り抱き締めた。
「…今だよ、アヤメ!」
「参ります!」
アヤメはワープヘッドを発動し、グルーナの近くまでワープした。
「さて、これでもう人質はいない!いざっ!」
ダンゾウフォンフェルは一瞬でディールマーシャルの胸元に入り、一本の槍を二本の槍に変え、内部機械を斬り刻む。ディールマーシャルは片腕で急いで体内のダンゾウフォンフェルを取り出そうとするが、IPルレンデスがフィルムテープを巻き付けて妨害した。
「ディールマーシャルの足はもう使えなくしました!後はお願い!」
キャロルナは時間切れでグルーナのスマホへと帰った。
「…消える前の最後の大仕事だよ、アヤメ!」
「任せて下さい、潤奈!」
潤奈はアヤメが時間切れで消える前にスマホを操作し、サスケヘッドに変えた。炎を纏った刀を持ち、突撃する。ダンゾウフォンフェルは半開きだったディールマーシャルの胸元を全開にし、離れる。ディールマーシャルはチャージできた無数のレーザーを放つが時既に遅し。サスケアヤメは強力な突きを放ち、ディールマーシャルの胸を貫いて背後に着地した。
「…マーシャルは返してもらった…!化かされたあなたの敗北だよ…!」
潤奈の言葉を聞いたディールマーシャルは電子音をバグらせた後、無数のレーザーを辺りに撒き散らせて機能を停止した。
「よっしゃあっ!見たか、私たちのビューティフルコンビネーション!」
「…結構綱渡りでしたけどね…!」
「ははっ!結果オーライ、ってね!」
「…ありがとね、アヤメ…。」
アヤメは頷いた後、時間切れとなってスマホの中へと帰っていった。
「うっ…?ね…姉、さん…?私、は…?」
潤奈は笑みを浮かべ、マーシャルの右頬に優しく手を当てた。
「…マーシャル、話したい事はいっぱいあるけど…。疲れたでしょ?今はゆっくりお休み…。」
「…姉、さん…。」
マーシャルは安心したのか、気を失った。フォンフェルとルレンデスは元の姿に戻る。
「潤奈、まだ終わりではありません…。街中を徘徊するバドスン・アータスの兵士を一掃せねば…!」
「…そうだね、まだ終わりじゃない。」
潤奈はマーシャルをおんぶし、立ち上がる。
「潤奈、マーシャルなら私が…。」
「…ううん、私がおぶりたいの…。私の…大切な妹だから…。」
「…そっか。良いお姉ちゃんだね、潤奈はさ!」
潤奈は笑みを浮かべ、グルーナと共に微笑み合った。
「これ、使える。優良人種、量産できる。愉快。」
「…!? 誰っ!?」
潤奈とグルーナたちは急いで後ろを振り返った。傀魔怪堕の首無し兵士たちがバラバラになったディールマーシャルを回収し、地面へと沈んでいった。
「…っ! 傀魔怪堕…!」
「えっ?こいつらが…!?」
「棚ぼた、幸運。愉快。さよなら。」
そう言い残し、傀魔怪堕たちはディールマーシャルを持ち去り、この場から消えた。
「あっ…もう!人の苦労を嘲笑うように…!最低ねっ!」
「…彼らが何を企んでいようと何度でも打ち砕くまでです…!今は目の前の事を…!」
「そうね、その意気で行かないと!行くわよ、潤奈!」
「…はい!」
潤奈はマーシャルをおぶりながら確実に一歩を踏み出し、次やるべき事を見据えてグルーナと共に駆けた。




