125章 失う前に得られた希望
「ちいぃぃぃーっ…!ランドレイクゥッ!」
「おうっ!!」
パイレーツランドレイクは周りに大砲を出現させて上空に一斉掃射。ウェント、ブリザードエンプレスグレリース、チェーンカッタールアンソンが全員大砲を避けた隙を見てトワマリーが道人と愛歌を抱え、深也と一緒にウェントたちから距離を取った。
「道人、しっかりしろ!お前まで愛歌と一緒に戦意喪失したら、俺は…!」
深也は腹を抑えて辛そうにしている。リーダーとしてここで折れる訳にはいかない、と道人の中の責任感が強く疼いた。
「…! わ、わかってるよ、深也…!とりあえず、ウェントたちが死んだら父さんたちも死ぬって言うんなら…デュラハンの方だ!デュラハンの方を倒して一時撤退させるんだ…!」
「あぁ、同感だ…!ただ、それができればいいんだがな…!」
パイレーツランドレイクも距離を取り、深也の前に立った。
「道人、その考えは甘いだろ?それじゃ、ただのその場凌ぎじゃないか。お前たちがその場凌ぎの先延ばしをした結果、生まれたのが俺たちなんだぜ?」
「おかげで私は自由を得られた!ありがとう、深也!私にこの身体を与えてくれて!今までで最高の贈り物だよ!あははっ!」
「くっ、シユーザーの野郎ぉっ…!とんでもなく不快なものを作りやがって…!」
深也と同じく、道人も怒りの感情を禁じ得ない。奴らの厄介な所は本人の記憶を持っている事だ。それを武器にして繰り出される言葉のナイフはかなりこちらの心を抉ってきて効果的だ。
「ぐおっ!?」
「…!? ヤジリウス!?」
ヤジリウスが道人の近くに吹っ飛んできて倒れた。Dアレウリアスがヤジリウスの前に立ち、逆手に持ったデストラグルランスを倒れているヤジリウスに向けた。
「消えろ。」
「させん!」
ジークヴァルクブレードはヴァルムンクを一旦消し、ヴァルクブレードに光の刀身を発生させて伸ばし、デストラグルランスを弾いた。
「しゃぁっ!」
ヤジリウスは倒れたまま何とか鞘から抜刀し、黒の斬撃を飛ばすがDアレウリアスはウェントの近くまで跳び、着地した。
「大丈夫か、ヤジリウス!?」
「あぁ、何とかな…!」
ヤジリウスはジークヴァルクブレードが差し出した左手を掴み、立ち上がった。
「道人、すまない…!アレウリアスの猛攻からなかなか脱する事が出来なかった…!急な事実を押し付けられて辛かっただろう…!」
「ジークヴァル…!」
ジークヴァルの励ましを聞いて道人は何とか心の火を灯す。数はこっちだって負けてない。ウェントが何を言って来ようと今この場は奴らのヘッドチェンジの回数切れか、カウンター・ディサイド・デュラハンを倒す事で撤退させる事が最適な策のはずだと信じ、その場から立ち上がった。
「よし!行くぞ、みんな!奴らを何とかして退けるんだ!」
「あぁ…!行くぜぇっ!」
深也がデバイスを構えると道人、ジークヴァルクブレード、ヤジリウス、パイレーツランドレイクは一斉にDアレウリアスたちに攻撃を仕掛けた。
「頼むぜ、オルカダイバー!」
深也はデバイスに装着したスマホから光の玉を出し、オルカダイバーを実体化させた。スマホを操作し、オルカダイバーにライトニングフィストヘッドを装着させる。
「そ、そうだ…!先延ばしとか言われても知った事か…!今は撤退させる事だけを考えれば…!あたしだってぇっ…!」
「あ、愛歌…。」
愛歌も何とか立ち上がり、デバイスを構える。
「ビ、ビーストヘッド…レディ…!」
愛歌が弱々しく言うとイーグルデバイスは下を向き、悲しそうにしていた。
「うぅっ…。い、今のあたしじゃ駄目だって言うの…?」
リベルテ=イーグルは愛歌とトワマリーの自由を求める心が同調しないといけない。今の愛歌にはそれが欠けてしまっているから駄目なのだろう。愛歌はデバイスを握った手を震わせる。
「だったら、ブルームウィッチで…!」
愛歌はブルームウィッチのカードを実体化し、デバイスに読み込ませた。
『あなたは魔法を信じますか?』
「信じる…!この状況を打開できる魔法があるなら…!」
『承認。』
トワマリーはブルームウィッチトワマリーへと姿を変え、箒に跨って空を飛んだ。
「良かった、トワマリーをヘッドチェンジできた…!ルブランもお願い!」
愛歌はスマホからルブランを出現させる。愛歌はさっき不発に終わったクローズゲートカードを消した後、改めてルブランにクローズゲートヘッドをつけた。周りに十五もの扉を出現させる。
「あはっ♪いいねぇっ、いい足掻きだねぇっ!けどさ、聞いてなかった?…もっと強力なのがまだある、って…!」
冷たい氷のような帽子やドレスを身に纏ったブリザードエンプレスグレリースは右手に持った雪結晶のついた杖を振ると周りに雪結晶を散らばせる。周囲30mの気温を下げた。
「な、何だ…?急に冷気が…!?」
「目、目が…見えねぇっ…!?」
LFオルカダイバーとパイレーツランドレイクは目が曇って視界を奪われ、動きが鈍った。
「ランドレイク、オルカダイバー!?」
「あははっ!距離は短いけど、相手の視界を奪う優れ物だよ!行くよ、グレリース。」
「はい、エイプリル。」
エイプリルは銃で、ブリザードエンプレスグレリースは右手からレーザーを連射しながらまるで踊るようにパイレーツランドレイクとLFオルカダイバーの周りを回って的確にレーザーを当てていった。
「せぇの!」
エイプリルはパイレーツランドレイクを、ブリザードエンプレスグレリースはLFオルカダイバーを蹴り、無理矢理背中合わせにした。
「破砕しなさい、グレリース!」
ブリザードエンプレスグレリースは両手に強力な冷気を発生させ、LFオルカダイバーとパイレーツランドレイクの頭を掴んだ。どんどん凍り付いていく。
「深也、グレリースが氷を使うっぽい見た目になったからライトニングフィストをオルカダイバーにつけたんだろうけど…残念!安直だったね!潰しちゃえ、グレリース!」
ブリザードエンプレスグレリースは力を込めて凍り付いたランドレイクとオルカダイバーの頭を砕いて粉々にした。
「ランドレイク!?オルカダイバー!?」
「人の心配をしている暇がお有りですか、トワマリィーッ!」
全身にこれでもか、と鎖を巻きつけた鎧を着たチェーンカッタールアンソンは空を飛んでいるブルームウィッチトワマリーの箒に二つのビームチェーンカッターを巻き付けた後、腕を回転させて巻き取り、無理矢理地面に引き摺り下ろそうとする。
「や、やメ…!離しなさイ、ルアンソン!」
ブルームウィッチトワマリーは鞄の中から星形、パンプキン、キャンディーの形をした爆弾を投下してチェーンカッタールアンソンを妨害する。
「はぁっ!」
チェーンカッタールアンソンの隣に移動した扉が開き、CGルブランがローズストームで攻撃する。
「ちぃっ!」
チェーンカッタールアンソンは爆発とローズストームの同時攻撃を喰らい、地面に右膝をついた。
「迂闊だぞ、ルアンソン。」
ハクヤは爆発を気にもせずにチェーンカッタールアンソンの元まで走る。
「トワマリー、ミーに爆弾を投げるのをやめないとハクヤが巻き込まれて死んでしまいますよ?」
「なッ…!?卑怯ナ…!?くッ…!」
ブルームウィッチトワマリーは爆弾を投げるのを止めた。代わりに帽子の中から機械でできた鳩二羽、コウモリ二羽、黒猫二匹を出して、ビームチェーンの切断を試みる。
「判断が遅いな。パートナーがあのザマではデュラハンにも影響が出るようだな。ルアンソン。」
「わかってる、よ!」
チェーンカッタールアンソンは高速で両手を回転させてビーム鎖を巻き付け、ブルームウィッチトワマリーを地面に叩き落とした。
「トワマリー!ルブラン、援…えっ?」
「〜♪」
手が空いたエイプリルとブリザードエンプレスグレリースがまるでウインドウショッピングをしているようにクローズゲートの近くを歩き、凍らせていた。
「ハクヤ、後で何か奢ってよね?」
「全く…。」
「ハハァッ!」
チェーンカッタールアンソンは右手に持った断頭剣で倒れているブルームウィッチトワマリーの頭を切断した。
「トワマリー!?」
「無様だな、愛歌。クローズゲートは凍り付け。文字通りクローズしてしまった訳だ。」
「まだよ…!凍って開かなくたって、ハリセンみたいに使えば…!」
愛歌はデバイスを操作しようとする。
「その場合、俺は扉に向かって特攻しよう。そしたら友也は死ぬな。」
「う…ああぁぁぁぁぁーっ!!」
愛歌は涙を散らしながらデバイスを操作し、クローズゲートを新たに五つ、チェーンカッタールアンソンの上空に出現させる。CGルブランも出現し、両手を上に上げて回転。五つの扉を通過する毎に自らローズストームとなったCGルブランに薔薇がどんどん付着していき、チェーンカッタールアンソン目掛けて突撃した。
「愚かな…。自分を見失う程熱くなった時点でお前の負けだ、愛歌。」
「わざわざユーから来てくれちゃって!」
チェーンカッタールアンソンは大型のカッターを出現させ、ローズストームとなったルブランごとぶった斬った。ルブランは消滅し、愛歌のスマホに戻った。愛歌は地面に膝をついた。
「嘘だろ…!?深也が、愛歌たちが…あっという間に…!?まだ、三分経ってないのに…!?」
愛歌も深也も皆、道人と共に激戦を乗り越えてきた、生き抜いてきた仲間たちだ。それがあっという間に蹴散らされてしまった。
「時間制限なんて関係ない。相手の頭を速攻で取っちまえばその分、俺たちは戦いに余裕ができる…。これが俺たち、カウンター・ディサイド・デュラハンの戦法…って訳さ。」
ウェントがゆっくりと道人の側に近寄って来た。最初のウェントとの戦いの時もアレウリアスはトワマリーの頭をダブルビームピストルで無理矢理外していた事を道人は思い出した。
「さて…アレウリアスの方も時間の問題かな?」
「ぐあっ…!?」
ウェントがそう言った後、ジークヴァルの声と何かが外れるような激しい音が聞こえた。ジークヴァルクブレードの左腕がDアレウリアスの剣で斬られたのだ。ヴァルムンクが握られたままの左腕が地面に落ちた。
「ジークヴァル!ちぃっ…!」
しゃがむジークヴァルクブレードの前にヤジリウスが立ち、Dアレウリアスと向かい合った。
「ま、まだだぁっ…!俺たちはぁっ…!」
深也とランドレイク、オルカダイバー、トワマリーも何とか立ち上がり、ブリザードエンプレスグレリースとチェーンカッタールアンソンと戦いを継続する。
「なぁ、道人…。俺と来いよ…。お前が来れば俺たちは大人しく帰ってやるからさ…。」
ウェントは優しく道人に手を差し伸べた。
「お、俺は…。」
「もう打つ手はない…。今更ドラグーンハーライムを呼んだって無駄だ…。潤奈の治癒能力があったら、深也だって万全に戦えたはずだ…。お前の判断ミスだよ。お前は優しい奴で戦いには向いていない…。」
ウェントは道人に残されている策を連ね、もう希望は残されていない事を提示した。
「…僕は…。」
「お前の自己犠牲が皆を救う結果になるんだ…。悩む必要はないだろう?さぁ、俺と一緒にブーメランで遊ぼう、道人…。昔のように…。」
道人には一瞬、ウェントと豪の姿が重なって見えた。
「…! 父…さん…。」
道人は右手を前に出そうとする。
「その手を取るな、道人おぉぉぉぉぉーっ!!」
「…! ジーク、ヴァル…?」
道人は右手を下ろし、ジークヴァルを見た。ジークヴァルは立ち上がり、ヴァルクブレードを右手に持って立ち上がった。
「道人、お前がウェントの元に行く事…!それは今まで得てきたもの、全てを否定する事になる…!お前が得てきた積み重ねは一瞬で無に帰してしまうんだぞっ!?」
ジークヴァルクブレードはヤジリウスと共に道人の元に向かおうとするがDアレウリアスに阻まれる。
「かけがえのないものだったはずだ!皆で切磋琢磨して得てきたもののはずだ!手放していいものなど、何一つなかったはずだ…!」
道人の脳裏にこれまでの戦いの記憶と愛歌や潤奈、深也、大樹たち、今まで関わってきた人たちの楽しいひと時と笑顔が浮かび上がってきた。
「だから、道人!諦めないでくれっ!お前が諦めない限り…私も、ハーライムも、ヤジリウスも…デュラハン・ガードナーのみんなが全員、お前の味方なんだ…!だから…!」
「喋りながら戦う余裕があるのか?」
Dアレウリアスはジークヴァルクブレードの右足を切断した。
「ぐあぁっ!?」
「ジークヴァル!?アレウリアス、てめぇぇぇーっ!!」
ヤジリウスが抜刀の構えを取った瞬間、Dアレウリアスはデストラグルランスを宙に投げた後、ダブルビームピストルを持って一瞬で両手両足を撃ち抜き、バランスを崩した所に回し蹴りを喰らわしてヤジリウスを吹っ飛ばした。
「右足がなくなった今、もう立つ事はできないだろうが…。」
Dアレウリアスはキャッチしたデストラグルランスでしゃがんでいるジークヴァルクブレードに強力な突きを繰り出し、地面に倒した。
「あ、がっ…!?」
「終わりだ。」
Dアレウリアスはデストラグルブレードを逆手に持ち、ジークヴァルクブレードにトドメを刺そうとする。
「や、やめろぉぉぉぉぉーっ!!」
「行かせるかよ、道人!」
ウェントは鉄化した右手を巨大化し、道人を掴んで捕らえた。
「なっ…!?」
「ははっ!これも俺の便利な能力の一つさ!」
「は、離せぇっ…!ジークヴァル、ジークヴァルがぁぁぁぁぁーっ!?」
道人は身動きが取れない自分に対しての怒りを込めて絶叫した。その叫びに深也と愛歌たちも気づいたが、手遅れだった。
「…諦めるな、道人…。」
「ジー…!」
その時だった。道人の右を物凄く素早いものが通り過ぎて行った。
「えっ…?」
「何っ…!?」
Dアレウリアスは危険を察知し、ジークヴァルクブレードからすぐに離れた。
「ありがとうよ!後ろに下がってくれてよ!」
ジークヴァルクブレードの救援に向かっていたヤジリウスは抜刀の構えを取って走っていた。背中がガラ空きのDアレウリアスに向かって黒の斬撃を飛ばす。
「ちぃっ!?」
Dアレウリアスは何とか身体を捻り、デストラグルブレードで黒の斬撃をかき消した。着地した後、ヤジリウスと激しい剣と刀のぶつけ合いを繰り広げる。高速飛行物体は空中で反転し、今度はウェントに向かってビームを放った。
「何だ、こいつ…!?」
「…! よし、今なら…!」
道人はガントレットに力を入れようとしたその時だった。左腕が光り出し、左腕にもガントレットが装着される。
「…!? 何っ…!?でも、これならぁっ…!」
道人は両手のガントレットの力でウェントの巨大な鉄腕から脱出し、ウェントから距離を取り、睨み合った。高速飛行物体が人型になり、道人の前に着地した。
「な、何だ、こいつは…?見た事もない奴だが…?」
「当然だ、道人とは昨日会ったばかりだからな。正直、見ていられなかった…。彼には助けてもらった借りもあったしな…。」
「き、君は…!?」
「私の名は『ソルワデス』!キャルベンの戦士であり、道人のディサイド・デュラハンだ…!」
ソルワデスはハーケンを振り回した後、構えてウェントを睨んだ。




